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悪役令嬢と図書館の修羅場

…………………


 ──悪役令嬢と図書館の修羅場



 放課後が来てしまった……。


 放課後はエルザ君とミーネ君と共に図書館で勉強することになっている。


 どう考えても不味いことが起きる予感しかしない。


「はあ……」


「どうした、アストリッド嬢。ため息すると幸せが逃げるぞ」


 私がため息をついていると、背後から見知った声が。


「ああ。ベルンハルト先生。従妹と同じこと言いますね」


「昔からよく言う話だからな」


 背後から姿を見せたのはベルンハルト先生であった。


「で、何でこんなところでため息ついてるんだ? 景気悪そうな顔して」


「聞いてくださいよ。どういう流れかエルザ君と一緒に放課後に図書館で勉強することになっちゃったんですよ。どうしてこうなっちゃうんでしょうね!」


 全く! どういうわけだい!


「いいことじゃないか。早速エルザ嬢の面倒を見てくれてるんだな。助かる」


「た、助かるって……。私は他の貴族ににらまれそうで怖いんですけど! というか、級友のミーネが既に彼女に目を付けてて、もの凄く嫌ってるんですよ! 今日なんてフリードリヒ殿下と一緒に登校してきて、周囲から嫉妬のオーラが出てましたしっ!」


 そうだよ! ろくなことがないよ! 私は地雷原の真っただ中だよ!


「あー……。お前のメンタルなら結構いけると思ったんだが、無理そうか?」


「お腹痛いです……」


 今日の授業はずっと放課後のことを考えてお腹痛かったよ。


「そりゃ悪かった。お前なら任せられると思ったんだが。尻拭いはできるだけしてやるから、厄介なのに目を付けられないうちに逃げとけ」


「いえ、そういうわけにもいかないんですよ……。私の個人的な事情でエルザ君を手伝わなきゃいけなくて……。うう、これは辛い……」


 そうなのだ。別に今回の件はベルンハルト先生に頼まれたからではないのだ。私が自発的に……というか、流れでそうなったのだ。


 そう、エルザ君の学問への不安を払拭して、恋愛に集中して貰うために!


 なのだが、墓穴を掘った感がある……。


「はあ……。エルザ君も私に懐いてますし、今更突き放すのも無理なんですよね」


「責任感があるんだな。その歳にしてはいいことだ。まあ、こっちでもサポートするから頑張ってくれ。他の連中から何かされたら言うんだぞ。相手は貴族だが、まだ餓鬼だ。教師の方が立場は上だからな」


「助かります、ベルンハルト先生!」


 そうそうこういう人がいて欲しかったんだよ。私の好みだし、無茶振りしながらもサポートはしてくれるし。いや、無茶振りはいらないな。


「それじゃあ、上手い具合にやってくれ。だが、無茶はするなよ。ストレスがたまると胃に穴が開くそうだぞ」


「はい。なるべく頑張ります」


 胃潰瘍はブラッドマジックで治せるとしてもミーネ君たちのエルザ君への不信感はそう簡単には治療できないだろうなー……。


 ああ。お腹が痛い……。


…………………


…………………


 というわけで、やって参りました図書館。


「ああ。アストリッド様! 待ってました!」


「やっほ、エルザ君」


 図書館では先にエルザ君が待っていた。ミーネ君はまだだ。


「さて、ミーネが来る前にどこら辺に不安を感じているか聞いておこうかな?」


「そうですね。エレメンタルマジックの基礎的な知識が不足してると思います。私の先生はブラッドマジックが得意だったのですが、エレメンタルマジックはあまり得意じゃなかったもので……」


「なるほど。じゃあ、ざっと初等部の課程からおさらいしてみようか」


 私は初等部の学生向きのエレメンタルマジックの本と中等部の学生向けのエレメンタルマジックの本を持ってくる。


「それにしても凄い本の数ですよね……。こんなに本がならんでるの初めて見ました」


「この図書館は初等部から高等部まで共有だからね。蔵書は一通り把握してるから、分からないことがあったら遠慮なく聞いてね!」


 待って、待って! あんまり深入りすると危険だって!


「助かります、アストリッド様。どうお礼をしたらいいものか」


「まあ、今度君のお店のパンでも奢ってくれたまえよ。それでいいから」


 この間の菓子パン美味しかったなー。


「アストリッド様!」


「ミーネ。こっちこっち」


 遅れてミーネ君が登場。


「すみません、遅くなって。ちょっとトラブルがありまして……」


「トラブル?」


 なんだろう。お猿のピンク君が脱走したのかな。


「それが、その……。あの方が……」


「やあ、アストリッド。それに、確かエルザ嬢だったね」


 げーっ! なんでフリードリヒがここにいるのっ!?


「ミ、ミーネ。どうしてこうなったか3行で!」


「3、3行ですか。それが、先ほど私が廊下で急いでいたところ、円卓から出てきたフリードリヒ様と出会ってアストリッド様がどこにいるのか尋ねられたため、それでこうなりました……」


 フリードリヒー! お前は私のストーカーかっ!


「アストリッドはエルザ嬢と一緒に勉強を?」


「え、ええ。転入生なので学園の初等部、中等部で習うものに不安があるそうなので」


 はっ! ここはフリードリヒにエルザ君の勉強を手伝わせればいいのでは?


「フ、フリードリヒ殿下? よければ一緒に勉強しませんか?」


「ええ。いいですよ」


 よしよし。乗ってきたぞ。後は誘導するだけだ。


「エルザ君はエレメンタルマジックに不安があるそうですよ、殿下。私がとりあえず本を持ってきたのでそれを使って勉強していきたいと思います」


「ふむ。確かに転入生ではいろいろと学園式の魔術に慣れていないでしょうから、この基礎的な本はいいですね」


 まあ、褒めたたえたまえよ。


「では、エルザ嬢。まずは水のエレメンタルから」


「はい!」


 いいぞ! フリードリヒ! 男を見せろ!


「アストリッド様。フリードリヒ殿下のお時間を初等部の学生ですら簡単に分かる勉強に費やすのは時間の無駄ですわ」


「いやいや。ミーネ、おふたりとも真剣にやってるからそういうのはなしだよ?」


 ミーネ君! あの核地雷を命がけで解体するエルザ君の身にもなりたまえよ!


「アストリッド。火のエレメンタルについてはあなたが詳しかったですね」


「え? そ、そうですけど……」


「私ではちょっと説明が難しいのでお願いできますか?」


 男を見せろって言っただろう、フリードリヒッ! 私に投げるな!


「ええっとね。火のエレメンタルの何が分からないかな?」


「魔術札に火のエレメンタルマジックを付与する際なんですが──」


 エルザ君の質問のメインは魔術札絡みだった。


 まあ、魔術札もただじゃないし、収入が限られる平民では実践するのは難しかったか。私は戦闘のために1万枚単位で大人買いしてるけどね。


 というわけなので、エルザ君の悩みのほとんどは私の知識で解決である。


 って、おい! 私が解決しちまったら何の意味もないだろう! フリードリヒがやらなきゃだめだろ! 意味ないじゃないか!


「フリードリヒ殿下。私じゃ、ちょっと風のエレメンタルは難しいので殿下にお願いできませんか?」


「風のエレメンタルですか。分かりました」


 そうだよ! そうやってエルザ君と良い仲になりなよ!


「アストリッド様。これはいけませんわ……」


「え? 何が?」


 ミーネ君が声を落として告げるのに、私が首を傾げる。


「ただの平民の娘相手に、皇族と公爵家のご令嬢がおふたりで勉強を教えるなど……」


「い、いいんじゃないかな? 私は構わないけど」


「周囲の方々が構いますわ。私とか構ってますわ」


 た、確かに、ちょっと不味い感じだ。絶対権力者の皇族はともかくとして、私がいるのはちょっと不味い気がしなくもない。面倒ごとに巻き込まれそうである。


 だが、私が勉強に誘ったのに、ここでそそくさと逃げるのはなー……。


「ミーネ! 私たちも勉強しよう! 4人でやれば怖くない!」


「何がですの!?」


 こうなったらミーネ君も巻き込んで、それっぽい仲良しグループですよとアピールするしかない。皇族と公爵家子女からちやほやされるエルザ君は途方もない危険物だが、ミーネ君を混ぜることによって中和するのだ。


 ……中和できるんだろうか。そこはかとなく疑問だ。


「ミーネは最近苦手な分野ある?」


「魔術工学がちょっと苦手ですわ。数字を扱うのが……」


「……アハハ……。私と一緒だ……」


 魔術工学はローラ先輩曰く公式を覚えておけば楽勝のはずだったのだが、その公式を応用して計算するのが酷く大変なのだ……。魔術札に封じ込められる魔力の容量計算とか血眼になって勉強したよ。


「じゃあ、頑張って公式覚えよう」


「そうしましょう」


 エルザ君にエレメンタルマジックを教えるフリードリヒを前に私たちはひたすらにカリカリと公式をノートに写し続けた。


 いや、これは本当に仲良しグループに見えているのか? なんか奇妙な距離感だけが発生してしまったぞ。


「ああ。アストリッドたちは魔術工学の勉強ですか。そこの公式は間違っていますよ」


「え? ああ、すいません……」


 畜生。こいつ理系の科目もできるんだよな。悔しい!


「ミーネ。その問題はこの公式だよっ!」


「は、はい、アストリッド様!」


 私も負けてはいられないぞ! フリードリヒ風情に負けてたまるか!


「皆さんで勉強すると勉学にもやる気がでますね。これからも定期的に勉強会を開きませんか?」


「そ、それは遠慮しますが……」


 地雷原を増やすんじゃない。


「ですが、エルザ君に殿下が魔術を教えられるのはいいと思います! 是非とも続けるべきかと!」


「ア、アストリッド様!?」


 すまないな、ミーネ君。これには我が家の未来がかかっているのだ。


「そうですね。エルザ嬢には少し迷惑をかけてしまいましたし、そのお詫びも兼ねて。どうですか?」


「ありがとうございます、殿下!」


 よーしっ! いいぞ! その調子でくっついちまいな!


「アストリッドもいてくれると心強いのですが」


「は、はい。分かりました……」


 お、おのれ、フリードリヒ……。さりげなく私を巻き込みやがって……。この恨みはいつか晴らす……!


「とりあえず今日はこの辺で。では、またエルザ嬢」


「はい」


 うん。でも、エルザ君がフリードリヒに好感を持ったっぽいからいいか。


「アストリッド様もお世話になりました。これからもよろしくお願いします」


「よ、よろしくね、エルザ君」


 はあ。でも、私の方も接近阻止戦略がまさか7日で破綻するとは予想外だったよ……。


「アストリッド様。そういうことでしたのね」


「へ? 何が?」


 ミーネ君が何か思いついたという顔をしている。多分、碌なことじゃないぞ。


「殿下と直接会われるのが恥ずかしいので、あの平民の女子を使って図書館でこうして会われるおつもりだったのでしょう? 言われなくとも分かっていますわ。これからは私はお邪魔になりますので、遠慮させていただきますね」


「どーしてそうなるかな……」


 ミーネ君が相変わらず隙あらば私の足元に地雷を設置しようとする……。


 だが、ここでフリードリヒへの好意を否定すると、じゃあどうしてエルザ君の勉強見てるの? って話になるし、フリードリヒ嫌いって公言したらしたでそれは問題になりそうだし……。


 八方塞がりだ。とほほ。


 もっとエルザ君には冷たくした方がいいな。突き放すとまではいかなくとも、よそよそしくしておこう。心を鬼にして。


「あっ! アストリッド様! 予習しておきたいんですけど、いい本はないですか?」


「それならね。この本がお勧めかな」


 ……心を鬼にして……。


…………………

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