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悪役令嬢と最初のイベント

…………………


 ──悪役令嬢と最初のイベント



 エルザ君の入学から7日が経った。


 ついにフリードリヒとコンタクトするイベントが発生するはずであるが、一体どうなっているだろうか? ちゃんとイベントは発生しただろうか?


「ゲルプ、報告!」


『対象Eはマスターのおっしゃるように馬車から泥を浴びました!』


 念のためにゲルプをエルザ君の監視任務につけておいたのだ。


 エルザ君は妖精が見えちゃう人なので、迂闊なことはできないが遠くからストーキングする分には大丈夫だ。ゲルプはエルザ君の視界に入らないように気をつけながら、しっかりとストーキングしている。その映像は私も監視中だ。


「よしよし。イベントは順調に進行中だな。そのまま監視を継続だ、ゲルプ!」


『了解!』


 このままフリードリヒの馬車に乗せられて、代わりの制服を準備して貰うはずだけれど、さてはてどうなるだろうか。あのフリードリヒがエルザ君を見捨てるとも思えない。ちゃんと着替えさせるはずだ。


「アストリッド様?」


「ど、どうしたのかな、ミーネ?」


 私は突然背後からミーネ君が声をかけてきたのにビビった。


「この間ですね。冒険者ギルドの方にオーガの駆除を依頼したのですが、そのことはご存じないですか?」


「いやあ。知らないなー。今、初めて聞いたよー」


 知らない。知らない。私は何も知らない。


「その時アストリッド様によく似た方を見かけたのですが……。実は双子の姉妹とかいらっしゃいませんか? 隠し子とか? でも、学園の制服を着ていられましたから、この学園の生徒だとは思うのですが……」


「誰だろうねー。私もそんなに似ているなら会ってみたいなー」


 貴族の隠し子はエルザ君だよ! そっちに気付いて!


「じーっ……」


「ミ、ミーネ? そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど……?」


「すいません。ですが、どうしてもあれはアストリッド様にしか……。アストリッド様、ちょっと御髪をポニーテイルにしてみてくださいませんか?」


「いやいや。私の髪の毛って傷みやすいからそういうことはできないんだ。ごめんね」


 滅茶苦茶疑われている! これはエルザ君を監視するどころの騒ぎではない!


「そうですか。ですが、その真っ赤な赤毛は……」


 誰かー! 誰か助けてー!


「赤毛の子なんだね! 私も探してみるから! 見つけたら教えるよ!」


「え? そ、そうですか。分かりました?」


 何故疑問形なんだ、ミーネ君。


 学園にも赤毛の生徒は何名かいるはずだ。それを身代わりにしよう。


 って、エルザ君はどうなってるんだ! ゲルプの視界を共有!


 おっ? エルザ君がフリードリヒと共に馬車から降りてきたぞ。制服はそこまで汚れてないけど、確かに泥が付いてる。


 フリードリヒが何事かを告げるのに、エルザ君の腰が引けてる。皇族に制服の代わりを調達して貰うのは恐れ多いってところかな。


 うんうん。最初のイベントは実に順調に進んでいるぞ。


「アストリッド様? 何かいいことでもありましたか?」


「い、いや。別にそんなことはないよ?」


 ミーネ君が先ほどから私の方を見ていて、いろいろとやりずらい。


「しかし、それほど美しい赤毛となると、やはりアストリッド様しか……」


「いやいや。赤毛の子は学園にもいっぱいいるからね。ミーネが気付いてないだけかもしれないよ!」


 ミーネ君! 今は重要なときだから勘弁して!


「そうでしょうか……。高等部の学生だったと思うのでちょっと探してみますね」


「そうそう。きっと別の子だよ」


 ミーネ君がようやく去ってくれた。さて、状況は……。


 はっ! エルザ君がもう着替えている!


 これはちゃんとフリードリヒに調達して貰ったのだろうか。それもとも自力でどうにかしちゃったのだろうか。後者ならフリードリヒとの間にフラグが立たないんだが!


 後でエルザ君に直接聞く……ってのは無理だな。私はずっと教室にいて、エルザ君が泥を浴びるシーンも着替えるシーンもみてないことになってるから。


 しかし、フリードリヒの姿が見えない。あいつ、どこいった?


 うーん。ちゃんと重要な最初のイベントが達成できたか不明なままだ。


 フリードリヒとエルザ君の間にフラグが立たないと私が非常に困るのだが、どうしたらいいものだろうか……。


…………………


…………………


「おはようございます、アストリッド様」


 暫くしてエルザ君が姿を見せた。


 エルザ君は入学当初に私に案内して貰ったことに恩を感じているのか、よくよく私に挨拶してくれる。その気持ちは嬉しくはあるけれど、接近阻止戦略が成り立たなくなるから困るのだ。


 そして、今日は──。


「おはようございます、アストリッド。昨日は酷い雨でしたね」


「え、ええ。酷い雨でした」


 今日はフリードリヒと一緒だ。


 気付いていないんだろうか。周囲から突き刺さるような嫉妬の眼差しに。


 なんで平民がフリードリヒと一緒なのかって嫉妬の視線が。私に話しかけているだけでも、公爵家令嬢に平民風情が話しかけているだなんてって嫉妬の渦が渦巻いているというのに。


「エルザ君。ちょっと周囲に気をつけた方がいいよ……」


「え? なんでですか?」


 ひょっとしてこの子、天然?


「フリードリヒ殿下に会われるなら、人気のないところでね。フリードリヒ殿下を慕っている子は多いから。そういう子たちから嫉妬されちゃうぞ」


「え、ええっと。今日フリードリヒ殿下と一緒だったのは偶然というか……」


 知ってる。知ってる。フリードリヒの馬鹿のおかげでフラグが立った……んだよね?


「まあ、フリードリヒ殿下は庶民派だから、エルザ君にも優しくしてくれると思うよ! 頑張っていこう! ファイトー!」


「ファ、ファイト―?」


 エルザ君。君の未来が賭かっている話なんだ。気合を入れてくれ。


「ところでフリードリヒ殿下の印象ってどう?」


「優しい方だと思いますよ」


 う、うーん。このいまいちなリアクション。


「エルザ君の好みの男の子ってどんな感じ?」


「え? そういうことは考えたことがなくて……」


 考えて。今すぐ考えて。


「今は勉強が大事ですからね。私、基礎的なことは学園じゃなくて、元宮廷魔術師長のおじいちゃんに教えて貰っただけですから。これから追いつくには一生懸命勉強しないといけないと思うんです!」


「そ、そだねー」


 うわーっ! 言っていることが本当に正論だから何も言えないー!


「じゃあ、勉強頑張ろうね。でも、恋をしたっていいんだよ?」


「いえ。今は勉強を頑張ります! 恋は二の次です!」


 ……流石は主人公だぜ。自分磨きに隙が無い。


 だけれど、それじゃ困るんだよ! 君がフリードリヒとくっ付いてくれないと!


 はっ! そう言えば4日後にはアドルフとの初期イベント、その次の日にはシルヴィオとの初期イベントが始まるんだ。ま、まさか、エルザ君はアドルフやシルヴィオの方がいいというのか……?


 ダメだぞ、エルザ君! アドルフたちにはもうお相手がいるんだ! 人の獲物を奪うようなことをしたら、学園で滅茶苦茶苛められるぞ!


「じゃあ、その勉強を私が手伝っちゃおうかなー、なんて」


「えっ!? いいんですか!?」


 う、うん。いいんだけど周囲の視線がだんだん怖くなってきた。


 エルザ君はこの嫉妬ストームの中で何も感じないの? 天然なの?


「じゃ、じゃあ、放課後に図書館でね。分からないことがあったら教えるよ」


「お願いします、アストリッド様!」


 ……接近阻止戦略が早速機能してないんだが。私は阿呆じゃなかろうか。


 だけど、これでエルザ君が勉強に自信を持ってくれれば、フリードリヒにアプローチしてくれるかもしれないぞ!


「アストリッド様。平民などとあまり付き合われては……」


「いやあ。私ってどうにも世話焼きな性格みたいで、困っている子がいると放っておけないんだよねー」


 エルザ君が去るとミーネ君がやってきて、渋い表情を浮かべる。


「ですが、相手は平民ですよ。公爵家の長女であられるアストリッド様が何も……」


「一緒に勉強するだけだからさ! それ以上のことはないからさ! そこまで心配することじゃないよ! 何ならミーネも来るかい!?」


 畜生。案の定、このままでは私にまで火の粉が降りかかりそうだ。


「でしたら、私も。あの平民がアストリッド様に失礼な振る舞いをしないか、しっかりと監視しておきますわ。級友とは言え、アストリッド様と平民の間にはちゃんと違いがあるのだということを教えておかなければなりませんから」


 わ、わーい。ミーネ君が変なベクトルにやる気を出しているぞ。


「それじゃあ、ミーネも放課後にね。待ってるから」


「はい。行かせていただきます」


 ということで、放課後はエルザ君、ミーネ君と共に図書館で勉強することになった。というか、なってしまった。


 私の接近阻止戦略は早々にして破綻の兆候を見せ始めているのであった……。


 このまま他の貴族ににらまれたりしないといいけどなー……。


…………………

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