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悪役令嬢もついに高等部へ

…………………


 ──悪役令嬢もついに高等部へ



 恐れていた日が近づいている。


 そう、高等部への進級である。


 ついに高等部に進級する日が訪れようとしているのだ。


 ああ。ついにエルザ君が入学してくる。これからが本当の地獄の始まりだぜ、って感じである。笑えない。実に笑えない。


 今年も円卓の卒業生を見送って、そのまま卒業生たちは卒業パーティーとなった。今年の円卓はヴァルトルート先輩ほど個性的な面子ではなかったので、特にサプライズもなく、平穏無事に卒業式は終わった。


 だが、この卒業式が終わると高等部の始業式&入学式が間髪なく始まる。そうすると破滅フラグがビンビンと立つのである。本当に勘弁して貰いたい。


 だが、今の私は武装を着々と増強し、内戦に備えている。この間は水のエレメンタルマジックで作られたものの温度を操作できるという技を使って、燃料気化爆弾の実験をしたばかりだ。


 空を飛ぶ&爆撃でフリードリヒの型遅れの軍隊など一撃で葬り去ってやる。


 とまあ、そこまで上手く行くとは思えませんけれどね……。


 さて、エルザ君が入学してくる中、私はエルザ君の受け入れ準備を始めている。


 フリードリヒには何度も、何度も庶民でも可愛くて、献身的な子がいますよと吹き込んでいき、ミーネ君たちもエルザ君の素晴らしさを語っておいた。だが、フリードリヒは興味を示さないし、ミーネ君たちは相変わらず平民には厳しい。


「はてさて。どうしたものだろうか……」


 私はこの難しい問題を前にして考え込む。


 エルザ君を庇うと貴族たちから睨まれ、エルザ君を無視すると他が暴走する恐れがあり、まさに後にも先にも進めない状態なのである。


「お姉様。考え事ですか?」


「うん。ちょっとね」


 イリスも庶民は怖がっているし、どーしたらいいんだい。


 悪役令嬢が悪役令嬢じゃなくなるにはどうするべきだろうか。私は考えを巡らせたが、まるでいいアイディアが思い浮かばなかった。


 恋のキューピッド計画も肝心のフリードリヒが興味を示していない段階では、無駄に等しい。ふたりをいい感じにするために、惚れ薬でも盛るしかないのだろうか。だが、皇族にブラッドマジックを盛ると、それこそお家取り潰しに!


「はあ。全然いいアイディアが思い浮かばないや」


 行けども行けども、地雷原。


 ミーネ君がアドルフを、ロッテ君がシルヴィオを攻略しているが完全には落とせていない。そのためアドルフとシルヴィオがエルザ君に浮気する可能性もあるのだ。そうなったら血塗れの惨事ですよ。


「何をお考えなのですか、お姉様。私でよければ相談に乗りますよ?」


「いや。些細なことだから、そこまでして貰わなくても大丈夫だよ」


 イリスはゲームには登場しなかったキャラクターだが、この先この子もどうなるのだろうか。婚約者のヴェルナー君とは仲良くやっていけるのだろうか。


「イリス。最近ヴェルナー君とはどんな感じ?」


 仲良くなってるかな?


「この間はふたりでデートということをしました。美術館に行って新鋭の芸術家たちの作品展を見学しましたよ。面白くて、美しい絵がたくさんあってとてもよかったです。お姉様もお暇があれば行かれてみてはどうですか?」


「おお……。デート……」


 イリスが眩しい! 眩しすぎる!


 イリスがリア充すぎるよ! 仲がいいのはいいけれど、私が耐えられない!


 私なんてボッチだよ! 恋人いないよ! ひとりで美術館に行っても虚しいよ!


「お姉様。私と一緒に行きますか?」


「そうだねー。イリスと一緒ならいいかなー?」


 お姉ちゃんを憐れんでくれてるのは嬉しいよ。


「ヴェルナー様とディートリヒ様も誘いましょう」


「え? なんで?」


 なんで? ヴェルナー君はともかくディートリヒ君は分からないよ?


「その、ディートリヒ様からお姉様と一緒になれる機会はないかと頼まれていまして。私としてもお姉様とディートリヒ様が結ばれればいいなと思っているのです」


「え、ええ? それってどういうことなの?」


 何故か従妹が4歳年下の男子と私を結ばせようとしてくる。


「ディートリヒ様とお姉様が結ばれたらお姉様がフリードリヒ殿下と結ばれることはないと思うからです。お姉様がフリードリヒ殿下と結ばれてしまうと、皇妃になられ、もう友達ではいられないような気がして……」


 ああ。そうだった。イリスは私とフリードリヒが結ばれると距離感が生じると考えていて、最初からフリードリヒと結ばれることには反対だったんだ。


 だからと言ってディートリヒ君はちょっとなー。可愛いけど、頼りなさそうな感じもあるし、ちょっと年下だしね。身長もまだまだ私の方が高いしな。


 だが、フリードリヒと結ばれるくらいならマシかもしれない……。


 いやいや。私がフリードリヒと結ばれると決まったわけではない。フリードリヒはエルザ君と結ばれるようにするのだ。私は安全地帯からそれを眺めておくのである。だから、今は恋人はいいんだよ!


「お姉様はディートリヒ様はお嫌いですか?」


「嫌いじゃないけれど、恋人にするのとはタイプが違うんだよね……」


 私は年上で余裕のあって、身長の高いイケメンが好きなのだ。


 ディートリヒ君はイケメンではあるけど、年上の余裕があるかと聞かれたら答えはなー。それに身長もまだそこまで高くはない。だって小学生だもの。


「うーん。でも、無碍にするのもディートリヒ君には悪いしな……」


 もしかすると、将来は年下ながら年上の余裕を持った私より身長の高い男子に育つかもしれない。だが、その頃にはディートリヒ君は私なんかより優良物件を見つけているのではなかろうか……。


 まあ、初恋の相手だというなら甘酸っぱい思い出作りに協力してあげましょうか!


「いいよ。ディートリヒ君も呼んで美術館に行こうか。それとも別の場所にする?」


「そうですね。今、帝国博物館で太古の魔獣展という面白そうなイベントを開催しているので、それを見に行きますか? なんでもとても大きな魔獣の頭蓋骨が展示されているそうです」


 おっ? 本当に面白そうなイベントをやってるんだな。興味あるな。


「それにしよう! レッツゴー!」


「はい!」


 というわけで、私はエルザ君というとびきりの破滅フラグが急速に接近する中、暢気に博物館にダブルデートしにいくことになった。


 何やってんだ、私は! 馬鹿か!


…………………


…………………


 というわけで、私たちは帝国博物館にやってきた。


 いろいろと他にしなければいけないことがあるような気がするのだが、こういう息抜きも必要だと思うんだ。うん。


「やっほ! ヴェルナー君、ディートリヒ君! お待たせ!」


 待ち合わせ場所は帝国博物館の正面玄関。そこで先に待っていたヴェルナー君とディートリヒ君に声をかける。ふたりとも気合が入った服装をしている。まだふたりとも9歳なのに紳士な感じだよ。


 うーん。常識的に考えて9歳に手を出すのは犯罪では……?


 まあ、いいか。何かするわけじゃないし。


「待った?」


「いいえ。今来たところですから」


 流石はディートリヒ君。この流れがスムーズにでるとは。


「じゃあ、見て回ろっか! 古代の魔獣って興味あるよね!」


「そうですね。古代の魔獣はどのような生き物だったのでしょうか?」


 私たちはそんなことを話しながら、チケットを買った。


「子供4枚で!」


「え?」


 私が告げるのに博物館の受付の人が驚いたような顔をする。何故だ。


「あの、学生証か何かお持ちでしょうか?」


「どうぞ」


 何故か学生証の提示を求められた。


「ああ。いや、失礼しました。子供4枚ですね」


 ……もしかして、私って子供に見えなかった……? ちょっと泣くぞ。


 ちなみにこの国の成人年齢は16歳です。なので学園卒業と同時に成人なのである。


 学生証がある限りは子供料金で公共機関を利用できるぞ!


 将来の破滅に備えて貯蓄が必要だからね。お小遣いもなるべくセーブして、せっせと蓄えないとね。一応は大貴族だけど今の私の心は庶民のそれなのである。まあ、この場は年長者として支払いは私が担当しますが。


「じゃあ、行こうか!」


「はい。お姉様」


 イリスがとことこと私の後ろを付いてくる。


「イリス先輩。お手をどうぞ」


「は、はい」


 と思ったら、ヴェルナー君が手を握ったぞ。リードしてるなー。


「ディートリヒ君」


「は、はい。なんでしょうか、アストリッド先輩?」


「私たちも手を握っておこうか?」


 本当はこういうのはディートリヒ君の方から言い出して欲しいんだけどなー。


「ええ。では、お手を」


 ディートリヒ君の手は小学生にしては結構荒れてるなー。やっぱり、次期騎士団長の座を虎視眈々と狙って剣術の稽古をしているのだろうか。そういう頑張り屋なところはお姉さん嫌いじゃないよっ!


「ここが古代魔獣展の会場だね」


 そんなこんなをしながら、私たちは博物館の特別展示場にやってきた。一般の展示は初等部3年生の時に見に行ったから知っている。特に用はない。


「これが古代の魔獣の骨格標本ですか」


 ヴェルナー君が展示場の中央に設置された骨格標本を見上げる。


「凄く大きいですね……」


「ちょっと怖いです……」


 ヴェルナー君にイリスがさりげなく接近している。


 ……だが、これはどうみてもティラノサウルスの骨格では……?


「なんて名前なんだろう」


「プルーセン・ベヒモスだそうです」


 ティラノサウルスは異世界に転移するとベヒモスなんて格好いい名前が貰えるのか。異世界で得しているな、君は。まあ、異世界でも君は絶滅しちゃってるわけだが。


「こちらには小さな魔獣の模型がありますよ」


「どれどれ」


 ……始祖鳥だ、これ……。


 というか、ここだけファンタジー感皆無だよ! 普通の恐竜展示会だよ! 恐竜展示会は前世でも見に行ったよ!


「この模型に興味がおありですか?」


「ええ。これに似たものを以前見たことがありまして」


 そんなことを考えていたら博物館のスタッフらしき人が声をかけてきた。


「これは1億年以上前に生息していた鳥の魔獣たちの祖先と思われる生き物の化石です。ここから分岐が始まり、今のグリフォンやコカトリスになったと考えられています」


 異世界では始祖鳥からグリフォンが生まれるのか。エクストリーム進化だな。どうしてそうなった。


「ところでおふたりはご兄弟で?」


「い、いえ。学園の先輩後輩ですよ」


 おいおい。スタッフさん。ディートリヒ君は凄く悔しそうな顔をしてるから、やめてあげて。本人はデート気分でうきうきしてたのに弟扱いとか可哀想すぎるでしょう。


「ディ、ディートリヒ君。あそこに面白そうなものがあるよ。今のゴブリンやオークたちの祖先だって!」


 あんまり人間と変わりない不気味な骨格標本を指さして、私がディートリヒ君の興味を惹こうとする。ファイトだ、少年。


「あんまり人間の骨と変わらなくて不気味だねー。ちょっと怖いかも」


 と、さっきイリスがやっていたようにさりげなくディートリヒ君に接近してみる。これで少しは元気出してくれるかな?


「大丈夫ですよ、アストリッド先輩。ゴブリンやオークなんて敵じゃありませんから」


 ディートリヒ君はそう告げて小さく笑った。


「ところで、アストリッド先輩は自分のことをどう思われますか?」


 げっ。難しい質問が飛んできたぞ。


 正直なところ、可愛いちびっ子という印象しかないのだが、それを馬鹿正直に告げてしまうとディートリヒ君はがっくりするだろう。


「そうだね。成長の余地あり、かな?」


「成長の余地ですか?」


「そうそう。きっと後数年経ったら身長も伸びて、大人びた様相になるかなって。ディートリヒ君は今でも格好いいから、大人になったらもっと格好良くなるよ。そうなったら女の子が放っておかないよ!」


 その通り! ディートリヒは今でもイケメンだし、大人になったらもっと格好いい男子になれると思うよ! そうしたらモテモテだね! 私よりももっといい女の子に振り返って貰えると思うよ!


「そ、そうですか。そうなったら先輩も……」


 いやいや。私よりいい子が見つかるってば!


「そ、そうだね。ディートリヒ君が大人になったら、気になっちゃうかもな。けど、きっと私よりいい子が振り向いてくれると思うよ!」


「そんなことはないですよ!」


 あるんだよ!


「ディートリヒ君は正直なところ私のことどう思ってる?」


「その、大変お慕いしています」


「そ、そっかー」


 率直にそう言われたら困るな。


「でも、今はダメだよ。私が好きなのは年上の余裕がある身長の高い人だからね」


「はい。先輩の理想とする男になれるよう頑張ります!」


 う、うーん。ディートリヒ君にはもっといい女の子を見つけて欲しいのだが……。


 そんなこんなで私たちは太古の魔獣展示展を見て回った。


 始祖鳥がグリフォンに進化する過程の骨格を見たが、なんだか納得できなかった。


…………………

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