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悪役令嬢と修道院

…………………


 ──悪役令嬢と修道院



 この世界にも宗教はある。


 基本的に結婚式のときぐらいにしか出番はなく、また日本のゲーム開発スタッフが西洋を意識して作ったものなので、いわゆるキリスト教もどきだが、どうやら実体化するにあたって具体的になったようだ。


 食事の前のお祈りやら、葬儀やら、様々な場面で登場している。もうこればかりはゲーム開発スタッフの手を離れたのかもしれない。


 私も儀礼的に宗教的イベントに参加することはあるが、あんまり神を信じようと思ったことはない。神がいるなら、私を悪役令嬢に転生させたことについて砲口を突き付けた状態で小一時間お話ししたい。出てこい、オラッ!


 まあ、そんなことを言ってもしょうがない。


「到着だ」


 そんなこんなしている間に私たちは問題の修道院に到着した。


 こじんまりとした感じの修道院で、建物裏には住居らしきものが見える。そして、よく管理されている畑もあった。家畜も鶏が何羽か放し飼いにしてあるのが目につく。卵でも取っているのだろうか?


「へー。ここがゲルトルートさんたちの育った場所なんですね」


「ああ。ここには随分と世話になった。今の私たちがあるのはここのおかげだ」


 そんなゲルトルートさんたちの恩人のいる場所なら徹底的に掃除しないとね!


「失礼する」


 ゲルトルートさんは修道院の扉を叩き、中に入った。


「あら。ゲルトルートではありませんか」


 修道院の中は綺麗に掃除されており、ひとりの女性がいた。


「お久しぶりです、ランゲルト修道院長。今回は冒険者ギルドの件で来ました」


「ああ! あのクエストを受けてくれるのですね! 助かります!」


 ランゲルトと呼ばれた女性の年齢は40代ほど。この世界の宗教である聖光教会の赤白の祭服を纏っている。化粧などはしている様子がない。


「よっ。ランゲルト修道院長。久しぶり」


「お久しぶりですー」


 ペトラさんたちもゲルトルートさんたちの後ろから顔を見せる。


「ペトラやエルネスタも、久しぶりですね。あなた方が来てくれて嬉しく思います。ですが、その後ろの少女は……?」


 と、ここでランゲルトさんの視線が私の方に向けられる。


「彼女は私たちのパーティーの手伝い魔術師です。名はアストリッドと言います」


「アストリッドです。ゲルトルートさんたちには日ごろからお世話になっています」


 私はペコリとランゲルトさんに頭を下げた。


「まあ、ゲルトルートのパーティーの手伝い魔術師というとゲルトルートがこの間話していた炎竜をひとりで討伐した子ですか?」


「い、いや。あれはひとりじゃなくてみんなでやったんですよ?」


 こうやって噂は拡散していくのかー……。


「しかし、本当に助かります。正直なところ、あまり報酬は出せず、あのクエストは受けて貰えないものだと思っていましたから。ゲルトルートたちが来てくれて本当に嬉しく思います」


「あなたにはご恩がありますから」


 ランゲルトさんが祈りの仕草をするのに、ゲルトルートさんが微笑む。


「では、ゴブリンの確認された場所を教えていただけますか?」


「ええ。こちらに来てください」


 ゲルトルートさんが尋ねるのに、ランゲルトさんが先に進む。


「この畑を荒らしているのを目撃したのが最初でした。ここら辺にゴブリンが出るようなことはなかったはずなのですが、いつの間にか近くに住み着いたようで。危険ですから子供たちも外に出せず、困っています」


「ふむ。畑荒らしか」


 ゴブリンは畑を荒らすのか。悪いお猿さんみたいだな。


「足跡は残っているか、ペトラ?」


「ああ。ばっちりだ。こいつらも炎竜騒ぎで移動してきた連中だろう」


 炎竜君は方々に迷惑をかけているな。悪い奴め。もう死んでるけど。


「足跡を追って住処を突き止めよう。今日中には終わりますよ、ランゲルト修道院長」


「そうですか。あなた方に神のご加護があることを祈っています」


 ゲルトルートさんが告げるのに、ランゲルトさんが頷いて見せた。


「では、ゴブリン退治と行きますか」


 私たちはペトラさんの誘導で修道院から出て、近くにある森の中を進む。


 今回の陣形はペトラさんが先行して誘導し、ゲルトルートさんとエルネスタさんがそれを援護する形。私は後衛で背後を守っておく。


 今回の武器はゴブリン退治ということもあって、自動小銃をセレクト。機関銃でもよかったけれど、ゴブリン相手には無駄弾が多くなりそうだし、小柄でひょろりとしたゴブリンが相手ならば小口径弾でも通じるはずだ。


 予備のマガジンと手榴弾は珍しく女子力を発揮して縫い縫いしたタクティカルベストに収められている。頑丈な布地を使っているからそう簡単には破れたりはしないはずだ。


 流石のエレメンタルマジックでも、布とかは作れないので防弾ベストを作るのも難しそうだけれど、その代わり今の私には障壁を発生させるジャバウォックの素材で作った指輪があるっ!


「近いぞ。足跡が密集している。臭いもするしな」


「そのようだ」


 ペトラさんは警察犬かというぐらい、観察眼と嗅覚に優れているな。私にはさっぱり分からないのに、ペトラさんはいつも的確に魔獣の位置を割り出す。これも経験の差というものだろうか?


「いたぞ。わらわらいるな。数にして60匹かそこら。中規模の群れだ。最近できたものじゃないな。やっぱり炎竜に追われて移動した連中だ」


 ペトラさんの言う通り、森の中にゴブリンたちの住処があった。


 緑色をした醜悪な小人が60匹ほど。尖らせた木の棒や人間から奪ったような手斧などで武装している。武装がいささか原始的な分、攻撃を受けたら痛いだろうなーという感想が出て来る。


「ペトラとアストリッドは高台へ。私たちは下からしかける」


「あいよ」


 遠距離火力は周囲が見渡せる高台から。近接攻撃は相手が制限できる地上から。いつものセオリーである。相手が銃火器などの遠距離火力で武装してないだけあって、この戦法は大抵成功するのだ。


「しかし、ここはあんまり高い場所はないな。あそこら辺が限界か?」


「みたいですねー」


 私たちは高台と呼べるかどうか微妙な高さの起伏の茂みで配置についた。


「さて、ゲルトルートたちが仕掛けたらやるぞ。準備はいいか?」


「いつでもどうぞ!」


 私は自動小銃を構えて地面に伏せる。


 自動小銃はあまり使ったことがないが、安心と信頼、そして実績ある地球の武器を参考にしているので、故障などのアクシデントはないはずだ。


「それにしても今回はまた違った武器だな?」


「威力は保証しますよ」


 ペトラさんが小さく笑うのに、私もニッと笑った。


「よし。ゲルトルートたちが森から出た。やるぞ」


「了解!」


 ペトラさんの合図で戦闘開始だっ!


「行くぜー!」


 私は自動小銃を単発に設定し、ゴブリンの頭部を狙って銃弾を叩き込む。


 ヘッドショット成功! ゴブリンは脳漿をまき散らして、地面に倒れ込む。


 うんうん。銃の精度は抜群だな。そのうちマークスマンライフル辺りも作成しておきたいところだ。こういう場面では中距離精密火力は役に立つだろう。本格的な狙撃銃は対物ライフルがあるから当面はいいかな。


 さて、ばんばん行くぜー!


 第2戦闘適合化措置実行!


 緩やかな体感時間の中で、私はゴブリンたちの頭部と胸部を狙って銃撃を続ける。ゴブリンたちは血をまき散らして次々に地面に倒れていく。


「ひゅー。私の出る幕はなさそうだな」


 ペトラさんもそんなことを言いながらも、的確に矢でゴブリンたちを射抜いていく。使っているのは取り回しやすい短弓で、速射性に優れている。自動小銃なんてものを使っている私には追い付けないけど、それなり以上の速度だ。


 私たちが軽快にゴブリンたちを屠っている間に、ゲルトルートさんとエルネスタさんも突撃していった。ゲルトルートさんはクレイモアを振り回して、ゴブリンを叩き切り、敵の攻撃は的確に回避する。


 このままならこのクエストは簡単に達成できるな。


 と、私が思っていたとき、突如として炎が吹き荒れた。


「ゴブリンシャーマンか!?」


「ゴブリンシャーマン?」


「ああ。ゴブリンシャーマンだ。ゴブリンの中でも知能に優れ、魔術を使う面倒な野郎だよ。中規模の群れの中にこんなのが混じっているなんて、相当面倒くさいことになっているな」


 ゴブリンシャーマンかー。実に面倒なことをする奴がいるんだなんて。


「気をつけろ。この距離なら敵の魔術の攻撃圏内だ」


 ゴブリンシャーマンは私たちの傍にいる。今は高台から見下ろしているところだが、いつ攻撃の矛先がこちらに向かってくるかは分からない。


「来るぞっ!」


 ペトラさんが叫んだとき、ゴブリンシャーマンが私たちに向けて火球を放ってきた。私は回避できるが、ペトラさんが危うい!


 ここは──!


「障壁っ!」


 私は指輪に力を注ぎ、障壁を発生させる。


「な、なんだ……?」


 障壁はゴブリンシャーマンの攻撃を防ぎ、火球は障壁に衝突して消滅した。


「お、おい。今のいったい……?」


「か、風のエレメンタルマジックを使った防御ですよ。それ以外のことではありませんので。よしなに」


「あ、ああ」


 ふう。危ないところだった。障壁のことがばれるとロストマジックを使っていることがばれてしまうのだ。それなのに普通に使うとか私は馬鹿じゃなかろうか。


「じゃ、リベンジと行きますか」


「行きましょう!」


 ペトラさんが告げるのに、私は自動小銃でゴブリンシャーマンたちを狙う。


 ヘッドショット! ヘッドショット! ヘッドショット!


 うむ。体に連動させているだけあって、銃撃は完璧だ。ペトラさんと一緒に瞬く間にゴブリンシャーマンの群れを退治した。


「ゲルトルート! そっちは終わったか!」


「ああ! 終わりだ! 残党もいない!」


 ペトラさんが尋ねるのに、ゲルトルートさんが手を振った。


「ふう。これで仕事は終わりだな。帰ってランゲルト修道院長に報告しておくか」


 うむ。いいことをすると気分がいい。


 さて、報酬の5000マルクは全部私に渡された。私情を挟んだクエストに参加してくれたお礼だそうだ。それからゴブリン討伐で国からでる報奨金5万マルクは4人で山分けすることにした。


 貯金はあまり増えなかったけど、人の役に立つことをしたなと思えて満足です。


 さあ、次のクエストでは大儲けするぞ!


…………………

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