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悪役令嬢は静かに冒険したい

…………………


 ──悪役令嬢は静かに冒険したい



 さて、私は今冒険者ギルドにいます。


「お姉ちゃんが例の竜殺しの魔女だって!? 100年越えの炎竜をひとりでぶち殺したんだろう! すげえな! いったいどんな魔術を使ったら、炎竜を赤子の手をひねるように殺せたんだ!?」


「凄いですね! やはり学園の学生さんの魔術は洗練されているのでしょう!? ちょっとでいいですからコツとか教えて貰えませんか!?」


 最近、どうにも竜殺しの魔女の異名が広がりすぎて、他の冒険者ギルドの支部を使ってた人まではるばるハーフェルにおいでやすしてる状態なのだ。情報伝達速度が遅い世界なのは知ってたけど、こうも時間差で攻撃を仕掛けられるとは予想外だった。


「いやあ。基本的なエレメンタルマジックを使っただけですよ。それに実際のところ本当に私ひとりで戦ったわけじゃないですし?」


「いや。あの時はアストリッドひとり──」


「みんなで倒したんですよ! みんなで!」


 ペトラさん! 余計なこと言わないで!


「俺たちも負けてられないな。これまでいろんな化け物を相手にしてきたが、炎竜をひとりで相手にするなんて不可能だった。だが、お嬢ちゃんがやれたんだから、俺たちだってやれるだろう!」


 やめてー! エクストリーム自殺になるからやめて!


「本当に炎竜をひとりで討伐したのか?」


「ですから、ひとりではないと……」


 いかにも冒険者風のお兄さんが話しかけてくるのに、私はため息交じりにそう返す。


「だが、そういう噂が流れているってことは全くのでたらめではないんだろう。炎竜とそれなりにはやりあえたってことなんじゃないか?」


 まあ、最初の炎竜の時は冒険者の皆さんと協力して、使い捨て榴弾砲の火力で圧殺したわけだが。もう一体の炎竜の方はかなり苦戦した。飛び回る炎竜を相手に戦うのは本当に苦労したものである。


「気になるな。お前の実力というものが。どうだ、決闘をしないか?」


「け、決闘……?」


 冒険者の口から予想外の言葉が飛び出るのに私の脳の処理能力が追い付かない。


「決闘は決闘だ。互いの名誉と誇りを賭けて一対一で戦うんだよ。まさか、炎竜の相手はできても人間の相手はできないわけはないだろう?」


 むっ。引っかかるものいいだな。


「いいでしょう。お相手しましょう」


「お、おい。アストリッド。あんなチンピラ冒険者の言うことなんて気にしなくていいんだぞ?」


「名誉と誇りがかかっているなら負けられないですよ」


 この図に乗った冒険者に現実というものを受け入れさせてやろうじゃないか。


「では、冒険者ギルドの外に出な。中では迷惑になる」


 決闘の時点で迷惑なんだけど、まあここは従っておこう。


 そして、私たちは冒険者ギルドの外にある通りへ。通りでは冒険者ギルドで決闘が行われることになると聞いて、多くの野次馬が集まっている。


 ……目立ちたくないのに、こんなことをしてる私は馬鹿じゃなかろうか。


「ルールは簡単。相手を再起不能にするか、降参させるかだ。準備はいいか?」


「どうぞ!」


 いかにもな冒険者ルックの冒険者が告げるのに私がニタリと笑う。


 相手の武装は長剣と盾のみ。対する私は──。


「行くぞ!」


 私に因縁をつけてきた冒険者が剣を抜くと同時に、私の体は第3種戦闘最適化措置を受けて活性化した。


 長剣を振りかざす冒険者の動きはゆっくりとしたものとして映り、私は落ち着いた様子でこの場を丸く収める武器を取り出した。


「ていっ!」


 ゴム弾を装填したショットガンである。


 それを冒険者鎧で守られていない下半身──というか、股間にシュー!


「おうふっ!」


 この一撃を食らって無事で済む奴はいない。だが、安心したまえ。これは威力を押さえたタイプだ。こういう喧嘩を収めるために作っておいた代物だから、性別が変わっちゃうてことはない。


「まだやります?」


「降参します……」


 冒険者は股間を押さえたまま降参の意志を示す。まあ、性別は変わらずとも数時間は痛みで立ち上がれまい。悪く思うなよ。喧嘩を売ってきたのは君の方なんだからな。


 これで私の名誉と誇りは守られた!


「すげえな、嬢ちゃん! それなんなんだ!?」


「それを使って炎竜を倒したんですか!?」


 ……まあ、こうなるとは思っていましたがね。


 私は並みいる野次馬を押しのけてペトラさんたちのところに戻る。


「おっ? 終わったか?」


「終わりましたよ」


「よしよし。ミンチにしてやったか?」


「そんな物騒なことしませんよ……」


 私はなんだと思われているのだろうか。


「ところで、何でもいいからクエスト行きません? ここはもう野次馬だらけですし。それに私は名声よりお金が欲しいんですっ!」


「今、ゲルトルートが選んでる。冒険者の大半が野次馬に行ったから自由に選べる」


 おっ? そうか。いつもは人でいっぱいのクエスト依頼書が貼られた掲示板も私が決闘騒ぎを起こしたおかげで人が少なくなり、ゲルトルートさんも自由にクエストが受けれるようになっているわけか。


「ああ。ゲルトルートが戻って来たよー」


「さて、ゲルトルートさんはどんなクエストを持ってきてくれたのでしょうか?」


 私はワクワクしながらゲルトルートの到着を待つ。


「ああ。アストリッド。あまり騒ぎは起こさない方がいいぞ。お忍びなのだろう?」


「えへへ……」


 そうなのです。私は貴族の身分を隠して、お忍びで冒険者ギルドに来ているのです。それなのに決闘騒ぎとか起こしていったい何がしたいんだろうね、このお馬鹿さんは!


「で、クエストは何を選んだんだ? いいのあったか?」


「ああ。やれそうなクエストはふたつある。ひとつは私の私情が入り込んだものなので、お勧めしがたいのだが……」


 そう告げてゲルトルートさんは2枚のクエスト受注書をテーブルに並べた。


「ふむふむ。オーク討伐依頼。炎竜の活性化に伴い森林部から農村部に進出してきたオークを可能な限り討伐してください。基本報酬6万マルク、オーク一体に就き追加報酬5000マルクと」


「こりゃ美味そうな依頼だな。オークは小さい群れでも20体はいる。追加報酬10万マルクに加えて、国からの褒賞金が8万マルク。大儲けじゃねーか。よかったな、こんな美味いクエスト残ってて!」


 基本報酬6万。追加報酬最低10万。オーク絶滅命令による国から報奨金8万。合計で24万マルクッ! こいつは凄いや! いつも通り私の取り分が20%だったとしても大金が手に入るぜ!


「で、もう一枚の方は……」


「修道院付近でのゴブリンの駆除。報酬5000マルク。これはしょっぱいよー」


 えらく報酬が対照的な依頼だな……。ゲルトルートさんは何を思ってこれを選んできたんだろう。これじゃちょびっとしか報酬貰えないよ。


「ああ。この修道院か。まあ、確かにお前がこれを選ぶはずだよ」


「アストリッドには私情が入ってすまないが、これも検討して貰えないだろうか」


 ん? この修道院って何かあるの?


「あーっ! ここってランゲルトさんのところの修道院だーっ!」


「そうなんだ。恐らく報酬もなけなしの貯蓄を切り崩してのものだと思われる」


 ランゲルトさん? 誰?


「アストリッド。この修道院には孤児院があって、かつて私たちはそこで育てられていた。読み書きを教えて貰い、こうして冒険者になるための教育をしてくれたのは、この修道院の修道院長であるランゲルトという人物なんだ」


「なるほど」


 ああ。そういえばゲルトルートさんたちは孤児院育ちだったんだっけ。炎竜討伐の報酬も孤児院に寄付しちゃったって言ってたもんな。


「よし! なら、これを受けましょう!」


「いいのか、アストリッド? お前にはちっとも関係ない話だぞ?」


「関係ありますよ。こうしてゲルトルートさんたちのパーティーにお世話になっているわけですから。ゲルトルートさんたちの恩人は私の恩人のようなものです」


 オーク討伐のクエストにも惹かれるけど、ここは人として修道院の依頼の方を受けるべきである。お金は欲しいとはいっても、人間として大切な縁を失ってしまってはならないのである。


「助かる、アストリッド。では、このクエストでいいだろうか?」


「異存なーし」


「好きにするといいさ」


 というわけで、満場一致で私たちが受けるクエストが決定した。


 件の修道院というのはハーフェルの傍なので時間に問題もなし。


 では、ゲルトルートさんたちの育った場所へレッツゴー!


…………………

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