悪役令嬢と海水浴
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──悪役令嬢と海水浴
夏と言えば海!
この間、イリスと共に山に登ったばかりの私は今度は海にやって来ましたよ。まさに夏を満喫しているって感じですね。
この間、水着も新調したので、ミーネ君たちと海にやってきましたよ。
ミーネ君たちには自由に友達をお呼び! と言っておいたので、誰か来るだろう。
まあ、とりあえずは待ち合わせ場所であるドラッヘクヴェル島へ向かう船がでる船着き場でミーネ君たちを待つ。さて、ミーネ君たちは誰を連れてくるだろうか。ちなみに私は誰も連れてきていません。誘う男子なんていませんもの。
イリスを誘おうかと思ったけど、イリスはヴェルナー君の家にお呼ばれしててこれないのだ。まあ、ヴェルナー君の家なら安全か。問題はヴェラとやらの別荘にいくときである。その時は妖精たちを総動員して監視しなければ。
「アストリッド様。遅くなりました」
ミーネ君がまず到着。しかし、この馬車はミーネ君の家のものではないな。
「アストリッド嬢。場違いかもしれないが、今日はよろしく頼む」
おおっと。ここでアドルフの登場ですよ。やりおるな、ミーネ君。
「いえいえ。こちらこそよろしくお願いします」
アドルフは最近ミーネ君と良い感じなので地雷という感じがしない。君はいい子に育ったな。私の手を煩わせない奴はいい奴だ。
相変わらずブラッドマジックの方はいまいちと聞いているが、ミーネ君経由で私がアドバイスしているので、そのうち改善するはずである。多分。恐らく。メイビー。
というか、高等部に入るとブラッドマジックの実習が本格化してくるから、早くしないと落ちこぼれになってしまうぞ。ゲームでは高等部まで悩みを引き摺るみたいだけど、弟のディートリヒ君も虎視眈々と次期騎士団長の地位を狙っているし。急げ、アドルフ!
「アストリッド様! ごきげんよう」
「ごきげんよう、ロッテ」
で、ロッテ君の登場だ。だが、シルヴィオは連れていないな……。
「ロッテはひとり?」
「シルヴィオ様もお誘いしたのですが……」
あのプチ反抗期め。
「後から別の馬車で来られるということで……」
「ありゃ。そうだったの」
一応は来るのか。よしよし。ロッテ君が購入したあの水着で落としちまいなー!
「ああ。来られたようです」
なぬ? もう来たの? そんなに同時に来るなら一緒に来ればよかったのに。
「こんにちは、アストリッド嬢。今日はお招きいただきありがとうございます」
シルヴィオ登場。いつもの学生服姿とは違って、カジュアルな私服だ。いつもは陰鬱とした堅物でプチ反抗期ってイメージだったけれど、こうみると意外に爽やかな野郎だな。地雷を押し付けてロッテ君には申し訳ないと思ったがこれならいいだろう。
「サンドラ、ブリギッテ! こっちこっち!」
で、幾分かしてサンドラ君とブリギッテ君が到着した。
ブリギッテ君の隣にいるのが件のゾルタン様かな。てっきり同級生だと思ってたら先輩っぽいよ。身長かなり高いし、同学年じゃ見かけない顔だし、雰囲気も成熟されている感じである。
で、サンドラ君はひとりか。流石にラインヒルデ君を誘うのは無理だったようだ。
「遅れてすみません、アストリッド様。ゾルタン様、こちらが私の敬愛するオルデンブルク公爵家のアストリッド様です」
「初めまして、アストリッド嬢。ゾルタン・フォン・ツィンツェンドルフです」
おおっ。なんと爽やかな好青年。悪くない相手をゲットしたな、ブリギッテ君!
「初めまして、ゾルタン様。ところで、ゾルタン様は高等部の?」
「ええ。高等部の2年になります」
2歳上の恋人をゲットとは。やりおるな、ブリギッテ君!
「では、皆さん揃ったようですし、行きましょうか!」
フリードリヒはぶり成功! いえーい!
「確かドラッヘクヴェル島だったか? 誰か知り合いがいるのか?」
「ロッテの家の別荘があるんですよ。いい海岸に面しているとかで。ね?」
今回の目的地はドラッヘクヴェル島だ。ロッテ君の家の別荘があるそうなので、そこをセレクト。ちなみに、私の家は海に面する場所に別荘は持っていないのです。我が家は代々山派らしいので。
「では、出発!」
というわけで、私たちは定期船に乗ってドラッヘクヴェル島へ!
……ドラッヘって名前が付いてるけど、流石にもうドラゴンはでないよね?
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ドラッヘクヴェル島。
島というが結構広い島である。
ロッテ君の別荘は本土から反対側の海岸にあり、その他の貴族や豪商の皆さんの別荘と共にのどかな海岸が広がっていた。
「ロッテ。ここに荷物おいていい?」
「はい、アストリッド様。自由にお使いください」
ロッテの別荘も伯爵家なだけあってなかなかのものである。私たちは男女で別れて部屋を取り、荷物を置いて着替えることにした。
「へへへ。ロッテたちも張り切っちゃったね」
「そ、そうでしょうか?」
ロッテ君たちは大胆にも露出の高いビキニに挑戦だ。私とミーネ君はタンキニもどきだが、ロッテ君たちは冒険しているぞ。ミーネ君もアドルフを誘うならば冒険すればよかったのに。
私? 相手もいないのに冒険してどーするんだい!
「ブリギッテ。あのゾルタン先輩とはいい感じなの?」
「はい。既に家同士の付き合いも始まっていて、この間はゾルタン様のお父様の誕生日を祝う晩餐会に招かれましたわ」
「おおっ! ちなみに、どこで知り合ったの?」
「ゾルタン様はアーチェリー部の方で、以前アストリッド様がアーチェリー部に乱入された際に心配していただいて……」
「ああ……」
そういう事件もあったね。でも、これが怪我の功名って奴なんだろう!
「さあ、ミーネ、ロッテ、ブリギッテ! 君たちは恋を謳歌してきなさい! 私とサンドラはそれを応援するぞ! ね?」
「は、はい!」
お相手のいない私とサンドラ君はタッグを組んで3人の恋を応援しちゃうぞ!
「アストリッド様もフリードリヒ殿下をお誘いすればよかったのに……」
「それは普通に嫌だよ、ミーネ……」
ミーネ君! いい加減にしたまえ! 私はあの核地雷を踏む気はないぞ!
「では、着替えも終わったし早速出発しようっ! レッツゴー!」
私はミーネ君がこれ以上おぞましい発想をする前に、海辺に繰り出すのだ! 海岸に乗り込めー!
「おや。これは……」
玄関ではすでに着替え終えた男性陣が待っていた。
シルヴィオもゾルタン先輩も恋人が結構露出度の高い服装をしているのに、驚いているようだ。だが、これは悪い反応じゃないぞ。あの男たちの色欲に塗れた視線を見るのだっ! 視線は君たちに釘付けだぞ、ロッテ君たち!
「あ、あの、やっぱりこれは破廉恥でしょうか?」
「いや。そんなことはないよ、ブリギッテ。最近の流行なんだろう?」
おー。流石はゾルタン先輩。余裕ある大人の対応ですな。
「シルヴィオ様! 今日は思う存分遊びましょう! お疲れのようですので、日光を思う存分浴びてリフレッシュなさってください!」
「え、ええ。そ、それがいいですね」
シルヴィオはロッテ君が手を握るのにどぎまぎしてるぞ。余裕ないな、こいつは。
「アドルフ様、私たちも参りましょう。せっかくの海を前にしてここにいてはもったいないですわ」
「そうだな。海って言うのはいいものだ」
アドルフが余裕なのはミーネ君の露出が少ないからだと考察します。
「サンドラ、私たちも行こっ! 海を満喫しよう!」
「はい、アストリッド様!」
サンドラ君は完全にラインヒルデ君見守り隊になってるから、暫しお相手はいないだろう。だから、当面同じくボッチの私の相手をしていて貰いたい。
私には唯一ディートリヒ君が好意らしきものを向けていてくれるけど、子供はきまぐれだからね。同年代の別の子にすぐに夢中になっちゃうさ。
ベルンハルト先生は……。今は厳しい……。
それにしてもさりげなく年上男子をゲットしてるブリギッテ君は抜け目ないな。今度、年上の落とし方を聞こうか。私の惚れ薬だけであそこまで信頼関係が築けるとは思えないんだよね。
アドルフはミーネ君と良い感じに喋りながら波打ち際を散歩している。ここまで親しくなったなら、もう地雷の心配はないだろう。あのエルザ君が既に彼女のいる男を攻略しようとはしないはずだ。
シルヴィオは……。挙動不審だな。あいつ、情けないな。さっきからずっとロッテ君がリードしてるじゃないか。そりゃあ、ロッテ君もなかなかのスタイルで、それはもう色っぽいビキニ姿ですが、反応が童貞臭い。
「お三方とも親し気でよさそうですね……」
「いいよね。このまま恋が成就するともっといいね!」
サンドラ君が眩しいものを見るような目でロッテ君たちを見るのに、私がコクコクと頷く。このままアドルフとシルヴィオという地雷が除去されたら、残るはフリードリヒをエルザ君に除去して貰えばいい。それで私の家は安泰だ。
……そこまで上手く行くだろうか。どうにも私は心配でならない。
「サンドラ。フリードリヒ殿下にはどんな子が似合うと思う?」
「皇族の方ですのでアストリッド様のような公爵家の方か、海外の王室、皇室の方々と結婚なさると思います。学園で相手を決めるのは、正直なところまだ早いと思うところです。これからオストライヒやメリャリアとも外交関係が変化するでしょうから」
「おおっ! 考えてるね、サンドラ!」
そうとも! 皇族の結婚を二十歳にもならないうちから決めるなんて早すぎるぜ! 政略結婚とかそういう材料にされるのがお似合いなんだよ!
……いや。待て待て。それだとエルザ君はどうなる。エルザ君はゲームの設定どおりならフリードリヒたちを攻略するはずだぞ。そこでフリードリヒに手を出したら、皇族の結婚を政治だと考えているサンドラ君まで敵に回すことになる……。
「わ、私はフランケン公爵家とかがお似合いだと思うな―!」
「あら。アストリッド様。フランケン公爵家は確かに大貴族ですが、息子さんがふたりいらっしゃるだけで、娘さんはいらっしゃいませんよ」
もうここでエルザ君がフランケン公爵家の隠し子だってばらしたい! ばらしてしまいたい! けど、ばらすと各方面から恨まれることになるし、そもそも証拠がない!
ち、畜生……。どうにもならんぞ、これは……。
「はあ……。このまま入水自殺してしまいたい」
「ア、アストリッド様? 何をそこまで落ち込んでいられるのですか。アストリッド様ーっ!?」
私は海岸にぽとぽとと歩いていき、入水自殺──するわけないでしょう。普通にひと泳ぎしてきただけです。
泳ぐと心が晴れるかなーと思ったけれど、そういうことはなかった。
「サンドラ。みんなが眩しいね……」
「ええ。眩しいですわ……」
みんなは私の分まで幸せになってね……。
私は私対プルーセン帝国という帝国内戦をどうにか勝ち抜いて、フリードリヒを断頭台の露として消しさるからね……。
恋では負けようとも、戦争になれば負けないぞ!
ああ。これは女子力皆無ですわ。
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