表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/181

悪役令嬢と恋する乙女

…………………


 ──悪役令嬢と恋する乙女



「それでですね。アドルフ様がそのときそっと肩を支えてくださって、大丈夫かと武骨ながら優しく告げられて、思わずきゅんとしてしまったのですよ。これが恋というものなのでしょうね」


「その話はもう5回は聞いたよ、ミーネ」


 惚れ薬作戦実行の後からミーネ君は半端なく惚気てる。


 アドルフとは相当深い関係になったようで、ミーネ君と会うたびに新しいことが起きており、その話を最低3回は聞かされる。ホクホクの笑顔で。


 まあ、地雷のひとつであるアドルフを無事に処理してくれたのだから、ここは喜ぶべきだろうな。同じ話を聞かされる方が、お家取り潰しになるより遥かにマシであることは言うまでもない。


「ブリギッテはどんな感じ?」


「はい。とてもいい感じですわ。あれからゾルタン様も私のことを意識してくださるようになったようで……。ゾルタン様と一緒にデートにもいくようになりまして……。この間は美術館で……」


 おおっ。こっちもいい感じなのか。羨ましいなー。


「サンドラは? 君のお相手はまだ聞いてないけど」


「それが……。あまり効果がなかったようで……。少しは関心を持っては貰えたのですが、それだけでした……。残念です……」


「ううむ。結構、効果があるはずなんだけどな。ひょっとしてお相手は高等部の先輩方だったりする?」


 高等部の先輩方だとブラッドマジックへの防壁を持っている可能性が高いから、効果がないのかもしれない。私の惚れ薬に防壁破りを仕込んでいたけれど、サンドラ君たちに教えたのはそういう物騒なのは仕込んでないからなー。


「いえ。同じ中等部の方です」


 ううん? おかしいな……。中等部ではまだ防壁については教わっていないはずだが。先に予習している子か、ガードが相当硬い子にチャレンジしちゃったのかな?


「その方は魔術に優れている?」


「私と同じくらいです」


 となると、最近サンドラ君たちが目標としていた魔術の成績10位内に近づいているから、それなりの魔術師だろう。だけれど、サンドラ君たちでもまだ防壁については全く知識はないはずだぞ。


「うーん。後原因として考えられるのは……」


「私に魅力がなかったということでしょうか……」


 防壁なければ何が原因でサンドラ君の惚れ薬は作用しなかったんだろう。


「ひょっとしてサンドラのお相手って女の子だったり?」


 まあ、ありえないけど相手が女の子だと男の子向けに調整した惚れ薬は効果がないんだよね。ちょっと心臓がばくばくするのを恋心だと誤認してくれるかどうかに賭けるしかなくなるから。


「そ、その……」


「え?」


 な、なんだい、サンドラ君。その反応は……。


「い、いえ! なんでもありません!」


「わ、分かったよ。そういうなら追及はしないよ」


 なんだろうか。イリスの件といい、この学園は百合の花がよく咲くのだろうか。


「それでロッテはどうだった?」


「それが……」


 私が尋ねるのに、ロッテ君は険しい表情を浮かべる。


 おいおい。君は成功してただろう?


「シルヴィオ様との距離は縮まったと思うのですが、やはりまだ壁を感じるのです。何か悩まれているようなのですが、私には決して相談してくださらなくて。どうしたらいいでしょうか、アストリッド様?」


 はあー……。あの野郎、まだプチ反抗期なのかよ。こんな素敵な彼女ができたんだからいつまでもいじけてるよな。男だろう。全く。


「きっと父親のことで悩んでるんだよ。シュテファン閣下は偉大な宰相として讃えられている人物だから、その息子として思うところがあるんだろうね。宰相閣下の役割などについてね。そんな感じだよ」


 一度はエルザ君としてシルヴィオを攻略した身としては、シルヴィオの攻略方法は一応知っていると言っていい私である。


 まあ、シルヴィオは親父さんが皇帝陛下のイエスマンだと思ってるから、宰相としてそれはいけないと思っているわけだよ。実際はイエスマンではなく、よき相談役なんだけどそれを理解してない。


 そして、ヒロインのエルザ君はフリードリヒとシルヴィオの間の友情を例にとって、皇帝陛下と宰相閣下の間で意見が一致し、友情が芽生えることもあると説く。それでシルヴィオは変に宰相について意識していたと反省して、未来の皇帝であるフリードリヒを支えていくと告げるのだ。ヒロインのエルザ君と共に、と。


 この場合はロッテ君に攻略して貰うわけだから、ロッテ君は好感度を上げて、シルヴィオが宰相についての悩みを打ち明けるまで行かなければならないんだけど……。


「そうなのですね。私、失念しておりました。シルヴィオ様も宰相閣下の子息としての大変な重責があられるのだと。私などにそのような重荷を共に背負うことができるでしょうか……」


「ロッテなら大丈夫。きっとこのまま進めば向こうから悩みを打ち明けてくれるよ」


 少なくともエルザ君の時はそうだった。


「ところで、アストリッド様は誰に渡されたのですか?」


「い、いやあ。実は渡す相手が見当たらなくて、結局渡せなかったんだよね。アハハ」


 ミーネ君、追及してくれるな。ベルンハルト先生に渡したことは内緒なのだから。


「やはりフリードリヒ殿下に?」


「ま、まさかー。皇族にブラッドマジック盛ったら死罪だよ?」


 ミーネ君! いい加減にしたまえ! 私とあのフリードリヒを結びつけるようなおぞましい発想は!


「ですが、殿下にはやはりアストリッド様のような方がお似合いだと思いますわ。おふたりが結ばれたら、きっと帝国はより繁栄するものと思いますもの」


「そうですわ。殿下とアストリッド様がご一緒になられたら、この国の魔術も大きく発展して、フリードリヒ殿下の名声も高まりますわ。もちろん、帝国臣民もアストリッド様のことを尊敬するでしょう!」


 うわー! ロッテ君まで乱入してきた!


 私とフリードリヒが結ばれても帝国は全く繁栄しないよ! 私の家が没落するだけだよ! それが原因になって内戦が勃発するかもしれないぞ!


「そ、それはないかなー。私、フリードリヒ殿下には庶民の暮らしをよく知ってる子が似合うと思うんだよね。フリードリヒ殿下は慈悲深い方だから、庶民のことをよく考えられると思うんだ。だからね、庶民的な子がいいよね?」


「アストリッド様も庶民のことをよくお知りだと思いますけれど」


 だーっ! 確かに私は元庶民でそれが素で出ることもあるけど、この世界では立派な公爵家令嬢なのっ! 全然庶民派じゃないのっ!


 く、くそう。これだと、無事にエルザ君にフリードリヒを押し付け──もとい、エルザ君とフリードリヒの恋を芽生えさせることができるか心配になってくるよ。


「ねえ。これはただの仮説として聞きたいけど、この学園に高等部から庶民の女の子が入ってきたらどう思う?」


「それは、その……」


「あまり歓迎はできませんわね……。私たちは曲りなりにも初等部からの積み重ねがありますが、庶民の方はそういうものはありませんでしょうし……」


 フリードリヒは庶民派とアピールした後でもこの反応か。


 実際にエルザ君が入学してきたら地獄だぜ。


 まあ、地獄になるのは最後に報われるエルザ君じゃなくて、私なんですけどね!


 畜生! 笑えないよ! 全く笑えないよ!


 どうにかしてエルザ君を学園にスムーズに馴染ませないと、ミーネ君たちが問題を起こしたら私にまでお鉢が回ってくる。そして私はお家取り潰し&帝国内戦へ!


 これは由々しき問題です、閣下。


 全くエルザ君も罪な女だ……。今頃くしゃみしてるだろうな。


「私は庶民の子には優しくしてあげたいかな。きっと貴族ばっかりで委縮しちゃってるだろうから。私の従妹のイリスも学園に馴染むのには苦労したし、そういうのを思い出しちゃうんだよね」


 ここでミーネ君たちをあらかじめ牽制しておく。


 いいか。みんな、変な意地悪するんじゃないぞ?


「まあ、アストリッド様はお優しい方ですわ。庶民のことをそこまで思われているだなんて。やっぱり慈悲深いフリードリヒ殿下のお相手はアストリッド様ですわね!」


「そうですわ。きっとお似合いのおふたりになられて、帝国も幸せに満ちますわ」


 ダメだこりゃ……。


 これはもう間違いなくエルザ君が入学してフリードリヒと接近しようものなら、フリードリヒは私のものでもないのに泥棒猫扱いですよ。


 どうしたらいいの! 教えて開発した人!


 私は心の中でそう叫んだが、相変わらずスタッフさんからの返答はありません。


 ミーネ君たちは恋に花咲かせて幸せ満点だというのに私と来たら地獄の淵に立って、紐なしバンジージャンプを強いられてますよ。


 ああ。私ってなんで悪役令嬢に生まれちゃったんだろー……。


…………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「西海岸の犬ども ~テンプレ失敗から始まるマフィアとの生活~」 応援よろしくおねがいします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ