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悪役令嬢は山賊を退治する

…………………


 ──悪役令嬢は山賊を退治する



 山賊退治が始まった。


 A班は砦の北東の門から攻撃を仕掛ける。私の配置図によれば北東の門には1個分隊程度の戦力が配置されている。その1個分隊をA班の皆さんが吹っ飛ばして、残りの山賊の戦力を呼び寄せる。


 そして、上手い具合に敵が北東の門に集結している間に、私たちは北西の崩れた城壁から一気に砦の内部に突入し、山賊たちの背後を突く──という作戦である。


 私たちは集団戦闘を訓練された傭兵ではないので、そこまで難しい作戦はできない。間に合わせのパーティーでやることは、単純な方が失敗しづらい。そう、ゲルトルートさんは語っていた。


「ペトラ、アストリッド。君たちは友軍誤射を避けるために、A班を見下ろせる城壁の上から援護してくれ。ペトラもアストリッドも城壁の上に上るのは問題ないだろう?」


「了解です」


「あいよ」


 私とペトラさんの遠距離攻撃部隊は友軍誤射を避けるために城壁をよじ登って、その上から銃撃と矢を浴びせることになった。


「さあ、そろそろ始まるぞ……」


 B班のリーダーはゲルトルートさんだ。今は茂みに身を潜めて、A班が攻撃を開始するのを待っている。私はブラウで上空から戦況を監視しているが、A班の前衛部隊が北東の城門に接近するのが確認できた。


 そして──。


「敵襲! 敵襲だ! 敵襲──」


 山賊のひとりが叫ぶのに、それがA班の後衛部隊が放った矢によって掻き消された。


「始まったな」


「合図はまだか」


 A班は自分たちに敵を引き寄せられたと判断したら、魔術師が火球を打ち上げることになっていた。


 そのタイミングを茂みに隠れるゲルトルートさんたちは今か今かと待つ。


「上がった!」


 そして、ついにA班の方で空に火球が打ち上げられた!


「行くぞ、諸君!」


「おうっ!」


 ゲルトルートさんたち前衛部隊が一気に崩れた城壁を乗り越えて砦に踏み込み、私たち後衛部隊は城壁の上によじ登る。私の場合はよじ登るというより、ブラッドマジックで駆け登ると言った方がいいが。


「さて、第3種戦闘最適化措置の威力を見せて貰おうか」


 私は第3種戦闘最適化措置を実行し、同時に今回の獲物である機関銃を構える。流石に口径120ミリライフル砲は友軍誤射どころの騒ぎではないので自重する。


「さて、パーティータイムだ」


 私は感覚器をブラッドマジックで連動させて、光学照準器のレティクルを山賊の後衛部隊に向けて狙いを定める。


「てーっ!」


 そして、引き金を絞る。


 今回はブラウは偵察任務に回しており、消音はなしだ。タタタタッと景気のいい機関銃の銃声がこだまする。この反動も、銃声も、実に心地いい。アドレナリンの分泌で加速する私の体感時間の中で、快楽が湧き起こってくる。


 だが、私は今人殺しをしているのだぞ?


 うむ。罪悪感や忌避感は一切感じない。機関銃のレティクルの中で銃弾に撃たれて人がバタバタと倒れていくのを見ても、私の心はフラットなままだ。


 完璧だな。大成功だ。


 第3種戦闘最適化措置は完成した。今や私はストレスを感じることなく、敵である人間を仕留めていっている。


「景気よくやってるな、アストリッド」


 ペトラさんも私の隣に来て、弓矢で山賊たちを射抜いていく。


「ペトラさんは平気です?」


「何がだ?」


 ペトラさんは平然と山賊を射抜く。そこにためらいなどは存在しない。


 ふむ。人は人殺しを忌避すると聞いたが、これは相手を非人間化しているパターンだろうか。山賊なんてならず者は人間じゃないと。


 それだと私の第3種戦闘最適化措置も疑問に感じてくるな……。


「もちろん人殺しってのはやな仕事だぜ。相手が山賊でもな。魔獣を相手にしている方がよっぽどいい。魔獣は山賊みたいに命乞いしたり、泣きわめいたりしないからなっ!」


 そう告げてペトラさんは矢を放つ。


「そういうものなんですね」


「そういうものだ。そろそろゲルトルートたちが接触する。攻撃中止だ」


 私たちがそんな会話を交わしていた間に、ゲルトルートさんたちが山賊を背後から襲った。A班の攻撃に注意をひかれていた山賊たちは挟み撃ちにされたことに混乱し、逃げ場を求めて逃げまどう。


「はあっ!」


「やあっ!」


 ゲルトルートさんとエルネスタさんも平然と山賊を切り殺しているけど、内心では忌避感を持っているのだろうか?


「南の方に何人か逃げたぞ! 追え!」


「城塞の中も捜索しろ!」


 南に何名か逃げたけど大丈夫です。逃げまどう山賊たちがフェンリルに食い殺されるライブ映像が私の目には見えていますから。


「フェンリル。冒険者の人に見つからないようにね」


『ふん。退屈だな』


 フェンリルは不満そうだが、フェンリルの姿が見つかると面倒なことになるからね。


「集結!」


 指揮官のおじさんが叫ぶのに、私たちはおじさんの下に集まる。


「よくやってくれた。これで仕事は完璧だ。南に逃げた連中は獣の類にやられたらしくて、生き残りはひとりもいない。完璧な仕事だ」


「おうっ!」


 指揮官のおじさんが称賛するのに冒険者の皆さんが勢いよく手を上げる。私も万歳と両手を上げて喜んだ。ばんざーい!


「砦の内部の敵も片付いた。後は略奪品を回収するだけだ。酒以外は懐に入れるなよ。冒険者ギルドの資格を失うことになるからな」


「やった!」


 指揮官のおじさんがそう告げるのに、冒険者の皆さんが砦の中に勢いよく突入していった。猫まっしぐらならぬ、冒険者まっしぐら状態だ。


「アストリッド! 偵察の時、酒はどこにあった!?」


「ええっと。1階の物置の中に何本かみかけましたけど?」


「よくやった!」


 ペトラさんは私とハイタッチすると他の冒険者と同じように砦に入っていった。


「え? ひょっとしてこれってみんなお酒目当て?」


「ああ。そんなところだ」


 私が首を傾げているのにゲルトルートさんがやってきた。


「山賊討伐の特別報酬みたいなものでな。略奪品の財宝は奪ってはいけないが、酒だけは現地で消費してもよろしいって暗黙の了解があるんだ。この現地で、ってのが厄介なところでな……」


 ゲルトルートさんは困ったような表情を浮かべる。


「現地で、て。まさか……」


「まあ、そういうことだ……」


 私が嫌な予感がして眉を歪めるのに、ゲルトルートさんがため息吐く。


「いえーい! 酒ゲット!」


 ペトラさんが酒瓶を3本ほど抱えて砦から飛び出してきた。


「ささ、飲もうぜ、飲もうぜ。今日は無礼講だ!」


「いつも無礼講のようなものだろうが」


 ペトラさんの言葉にゲルトルートさんがまたため息を吐く。


「なんだよ。酒、いらないのか?」


「付き合い程度になら飲むが、それだけだ。私が酔うと面倒くさいのはお前も知っているだろう?」


「……ああ。無駄に絡むんだよな……」


 ゲルトルートさんは絡み酒、と。


「アストリッド、飲むか?」


「い、いえ、私はまだ学生の身ですので」


 タプタプとお酒の瓶を振って、私の肩を掴むペトラさん。この人も酔うと実に面倒くさそうだな……。


「じゃあ、エルネスタ。一緒に飲もうぜ!」


「やったー!」


 ペトラさんとエルネスタさんは飲む気満々だ。


「というわけで、始まっちゃいましたね、酒盛り」


「始まってしまったな、酒盛り」


 ペトラさんも、エルネスタさんも飲む飲む。


「うへへ。山賊退治はこれだからやめられないぜ」


「最高だよー!」


 ペトラさんもエルネスタさんも赤ら顔でいい調子に飲んでいらっしゃる。


「せっかくだからお前も飲めよ、アストリッド!」


「い、いえ。ですから、私は学生なので……」


「なんだよ。竜殺しの魔女が酒も飲めないのか」


 ペトラさん相当酔ってるな。


「ふうっ! 飲んだ、飲んだ……」


「もう飲めないよー」


 あっという間にペトラさんたちが抱えてきた酒瓶はすっからかんに。


「さあ、かえるじょー」


「きゃえろー」


 ああ、もう呂律まで回ってない。


「エルネスタは私が抱えて帰る。アストリッドはペトラを任せていいか?」


「ええ。構いませんよ」


 私は足元のおぼつかないペトラさんを背負うと、ゲルトルートさんエルネスタさんを背負った。


 帰りは馬車なので、ふたりが酔っ払っていても問題はない。


 こうして山賊討伐は終わり、私たちはギルドで報酬を受け取った。


 流石に難易度としては武装した人間相手ということで高く、私の取り分は10万マルクだった。やったぜ。


 それに第3種戦闘最適化措置の実験もできたし。うはうはですな。


「じゃあ、アストリッド。またな」


「はい、ゲルトルートさんまた」


 私は酔っぱらって爆睡しているペトラさんとエルネスタさんをゲルトルートさんに任せて冒険者ギルドを去った。


 しかし、ペトラさん相当酒臭かったけど、制服に臭い移ってないよね?


…………………

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