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悪役令嬢は人体実験をする

…………………


 ──悪役令嬢は人体実験をする



 惚れ薬を作った後日。


 ミーネ君たちは笑顔で私に成果を報告してくれた。みんな上手く行ったようである。よかった、よかった。


 肝心の私は不発でしたけどね!


「では、これで私たちは人間の好ましいという感覚を意図的に操作できることを証明したわけだ。ならば、私は次のステップに進まなければなるまい」


「次のステップと言いますと?」


「良心の除去だ!」


 そう、私が前々から求めていた戦闘最適化措置に付け加えたい能力として、良心の除去があった。


 人間は同族を殺すことにストレスを覚える。それがどのようなものによって引き起こされるかは具体的には分かっていないが、あえて言うならば良心というものだろう。


 その良心も教育の過程で生まれた後天的な良心と、人類が人として持っている先天的な良心のふたつがあるはずだ。人間が良心を持って産まれるかどうかは分からないが、人間の多くが殺人に忌避感を抱く以上は、教育で獲得するもの以外の良心もあるはずだ。


 無論、この戦闘時における良心はブラッドマジックを使わなくとも除去することは不可能ではない。地球の軍隊が殺し合っていることからもそれは分かるはずだ。


 ブラッドマジックを使わない方法は、殺す相手を徹底的に非人間化して、同族殺しだと思わせないこと。あるいは、全ての行動を反射的に行うように訓練して、敵が見えたら良心の出る隙もなく引き金を引くようにすること。


 だが、私は根本的に人殺しのストレスをなくしてしまいたい。


 目指すはスマートキラー。人の心を消し去って、目標を完璧に仕留める殺人機械。物騒に聞こえるかもしれないけれど、この手の研究は地球でも行われているのだ。


 兵士は戦うことが使命。戦って敵を殺すことが使命。ならば。事務員がパソコンで経理処理をするように、滑らかに人殺しを行えるようにしなければならない。兵士が人殺しを躊躇うのは軍の戦力低下を意味する。


 そして、この私も運命との対決の日には躊躇なく人殺しができなければならない。相手が悪の親玉ヴィルヘルム3世とフリードリヒに指揮される軍勢だろうと、容赦なく敵を挽き肉に変えてやらなければ。


 というわけで良心の除去を目指します!


 とはいっても、私はお猿のピンク君の頭を定規でぱちぱちしてもまるで良心が芽生えてこなかったので、ここはひとつ作戦を用意してある。


「今回は被験者を応募であつめます。無論、人が来やすいように研究に参加してくれた方には報酬を支払います。研究に参加するとひとり5万マルク!」


「5、5万マルクですか? ちょっと多すぎませんか?」


 む。それもそうだ。この世界の労働者層の平均月収は8万マルクだったか。


「じゃあ、1万マルク程度にしよう。簡単な実験だから簡単にお小遣いが稼げるとなれば、応募者は殺到するに違いない」


「それでも多い気がしますが……」


 確実に応募者を集めるためにも、報酬は弾んでおきたい。


「では早速応募のチラシを張ってくる! 来たれ応募者!」


 私は手作りした広告をぱちぱちと、あちこちに貼りだした。


 学園の正面玄関。初等部の校舎。中等部の校舎。高等部の校舎。食堂にも張った。人目に付きそうな場所にはあらかた貼った。


「おい。アストリッド嬢。苦情か来てるから広告を貼りまくるのはもうやめろ」


「すいません……」


 あまりに手あたり次第にはったので、苦情が来た。とほほ。


 だが、効果はあった。


「すみません。広告にあった実験について聞きたいんですけど」


 やってきたのは中等部の生徒。よしよしいいぞいいぞ。


「まず、最初に実験も目的について説明します。これはストレス下での人間の脳の動きをモニターするための実験です。何かしらのブラッドマジックを使ったりはしません。あなたの判断において行動してください」


 私は実験の意義について完結に説明する。


「では、実験の手順を説明します。ここにとある機械があります」


 そう言って取り出したのは45口径弾を使用する自動拳銃だ。


 最近製造したもので、大口径弾好きの私には素晴らしい品だ。


「この機械の引き金を引くと──」


 乾いた銃声が響いて、用意しておいたメロンに向けて発砲された銃弾はメロンを粉砕して、周囲に果汁が飛び散った。


「こうなります」


 被験者1号君は絶句している。


「え? え?」


「被験者さんにはこの機械を使って、モルモットを撃ち抜いて貰います」


「え?」


 さっきからえ? が多いな、被験者1号君。


「ここにモルモットがいるので、さあやってみてください」


「ほ、本当にですか?」


「本当です」


 私がモルモットを取り出して、台に固定するのに、被験者1号君はびくびくしながらその様子をを眺めている。


「では、早速やってみましょう。狙いを定めて、引き金を引くだけです」


 そう言いながら私は被験者1号君の脳の反応をモニターする。


 浮かんでいるの驚きの反応といくつかの雑多な反応。


「ほ、本当にやるんですか?」


「本当にやるんです」


 複雑な反応だ。良心とは別の反応も起きているのだろう。


「やらないと研究参加費は貰えませんよ?」


「……分かりました。やります」


 被験者1号君が自動拳銃の狙いをモルモットに定める。


 そして、彼が引き金を引くと──。


「あれ?」


 何も起きない。


 当たり前なのだ。この自動拳銃には銃弾は1発しか装填されていないし、撃鉄に流してある魔力も1発分だけ。被験者1号君が引き金を引いても何も起きはしないのである。


「ご苦労様でした。こちらが今回の参加報酬となります。この実験のことは誰にも言ってはいけませんよ?」


「は、はい」


 私が1万マルクの現金を手渡すと、被験者1号君が頷いて去っていった。


 まあ、実験の方はこんな感じで進められる。


 まず私がモルモットを殺傷する威力のある自動拳銃の威力を被験者に示し、その上でモルモットに対して引き金を引くように被験者に促す。だが、実際には弾は発射されず、モルモットが死ぬことはない。


 私はその過程の脳の動きをモニターし続けて、良心の反応を探し出す。


 被験者1号君から出ていってから、続けざまに被験者2号君、3号君、4号君が次々に実験に訪れるがやることは同じだ。


 より強い良心の反応を引き出すためにお猿のピンク君を的などにしてみたが、反応はあまり変わらない。皆が一概に驚愕の反応を示し、それから複雑なニューロンの反応を示す。だが、パターンは見えてきた。


 被験者が18号君にまで達するときには私は異なる実験を試してみた。


「これからあなたにひとつのブラッドマジックをかけます。これは自動的に消滅する術式なので安心してください」


「は、はい」


 私が18個目のメロンを粉みじんにしたときに、被験者18号君が頷く。ちなみにメロンは賞味期限切れのを格安で大量に購入してあります。


「では、ブラッドマジックを行使します」


 私はとあるブラッドマジックを被験者18号君に行使する。


「それじゃ、この武器であそこにいるお猿さんを撃ってください」


「はい」


 驚くほど素直に被験者18号君は引き金を引き──何も起きない。


「あれ?」


「実験へのご参加、ありがとうございます。これが今回の参加報酬となります」


 被験者18号君は自分が引き金を引いたことよりも、弾が出なかったことの方が不思議であるかのように首を傾げ、私はブラッドマジックを解除すると、参加報酬を手渡して被験者18号君を見送った。


 大成功だ。完璧な成功だ。


 被験者18号君にはこれまでモニターした中で共通する脳の反応を抑制するブラッドマジックを行使していた。その結果、被験者18号君は何のためらいもなく、お猿のピンク君に向けて引き金を引いたのだ。


 恐らく私は良心というものをついに掴んだのだろう。そうでなければ先ほどの被験者18号君の反応は理解できない。


 それから私は応募人員の30名まで実験を繰り返し、この反応が万人共通のものであることを確認した。誰も彼もが私がある脳の反応を抑制すると引き金を簡単に引き、そうでないと引き金を引くのを躊躇うのだ。


 やった! やったぞ!


 これを私に適応させれば、戦闘最適化措置は完成だ!


 だが、良心とは必要であるから存在するわけで、安易に止めていいものではない。


 というわけで、私は戦闘適合化措置を3段階に分けることにした。


 第1種戦闘適合化措置──軽度の身体強化と良心の抑制はなし。


 第2種戦闘適合化措置──高度な身体強化と軽度の良心の抑制。


 第3種戦闘適合化措置──極限の身体強化と高度な良心の抑制。


 これら3種をブラッドマジックの術式として登録しておく。


 魔獣を相手にするときなどは第2種戦闘適合化措置で済ませ、人間の軍隊を相手にするときは第3種戦闘適合化措置を実行する。


 まあ、登録しておくのがこれだけの話で、実際は柔軟に運用することになるだろう。対魔獣戦闘においてもフェンリルや炎竜のように高い身体能力が求められる場合は、良心をそのままに身体能力だけを第3種戦闘適合化措置に移行させるなど。


 まあ、何はともあれ私は人間相手だろうと容赦なく引き金を引けるようになった。


 いや、待てよ。人間と実験動物では反応に差異があるのではないだろうか。となると、人間を的にして実験した方がよかったのかも。


 だが、既に我が部の実験費用は私の実験で底を突いている……。お小遣いは貯蓄に回しつつあるから私財をなげうって実験をするというのも不可能だ。


 まあ、お猿のピンク君を容赦なく射殺できるようになれば、見ず知らずの兵隊さんなど軽く殺せるだろう。まして相手が自分を殺そうとして襲い掛かってくるなら、なおさらのこと容易に引き金は引けるはずだ。


 良心という脳の複雑なモジュールの停止。


 それを実現した私はかくてまた一歩勝利へと踏み出したのだった。


 これで顔見知りのフリードリヒやアドルフ、シルヴィオを殺せるよ。やったね。


 そう、我が道を邪魔するものは火力を以て粉砕するのだっ!


…………………

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