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悪役令嬢と使い魔

…………………


 ──悪役令嬢と使い魔



「使い魔、ですか?」


 場所は魔女協会本部。


 そこで私はぽかんとした表情でセラフィーネさんが告げた言葉に首を傾げていた。


「まだ教えていなかったか? 魔女はかつては使い魔を使役していた。術者の身を守り、術者の目となり、術者のよきパートナーとなる獣だ」


「それって妖精じゃないですか? 私も妖精ならいますよ?」


 そう告げて私はポンポンと胸ポケットを叩く。するとブラウが嫌そうな表情を浮かべてのそのそと胸ポケットから這い出てきた。


「マスター……。ここは嫌な場所です……。ここには風はないし、死の臭いが立ち込めています……」


「またまた。本の臭いしかしないよ、ブラウ」


 風が吹かないことは確かだけど、死体の臭いなんてしないよ。


「おや。鼻の利く妖精だな。かつて、ここで大虐殺があったことを知っているのか?」


「えっ? それも初耳なんですけど……」


「何。1500年も昔の話だ。魔女協会を叩こうとした愚かな騎士たちが死体の山を積み上げた。それだけの話。あの時は楽しかったな。また機会があったら、人間相手に派手に遊びまわりたいものだ」


 え? え? 何をサラッと1500年前の戦闘に参加してるんです?


「えーっと。セラフィーネさんはおいくつで?」


「女の歳は秘密だ」


 これが世にいうロリババアって奴か……。


「それで話を戻すが、使い魔というのはそんな妖精風情じゃない。妖精はそれなりに役には立つが、主人の身を守るには不相応だ」


「はあ。ブラウは結構頑張ってくれますけど」


 セラフィーネさんが呆れたように肩を竦めるのに、私はそう返すしかない。


「私の使い魔を見せてやろう」


 セラフィーネさんはそう告げて怪し気に笑うと空間操作魔術で隙間を開いた。


「うわっ! ケルベロスッ!?」


 空間の隙間から現れたのは、3つ首の魔獣ケルベロスだ!


「ほう」

「貴女がマスターが話していた」

「新しい魔女か」


 ケルベロスは隙間から這い出ると、3つの首がそれぞれ喋った。


 で、でかい。ちょっとしたトラックほどはある。ここが本棚がない区画でよかった。


「そうだ。こいつが新しい魔女だ。まだ使い魔も持っておらぬがな」


「は、初めまして」


 ケルベロスはセラフィーネさんに従順なのか、大人しくしている。


 野生のケルベロスは炎竜並みに危険な魔獣だと聞いている。なんでも魔術を行使し、闇に潜んでは人間を貪るのだとか。ケルベロスによって都市がひとつ壊滅したという事例すらあると聞いている。


 どこまでが本当の話で、どこからが創作なのかは分からないが危ない魔獣であることは間違いない。だって、こんなにでかいんだもの。


「これって、どうやってるんです?」


「使い魔として血で結ばれている。ロストマジックのひとつだ。強いて分類するならばブラッドマジックだな。妖精ともつなげるが、妖精と繋がるより、魔獣と繋がった方が方が役に立つぞ」


「然り」


 セラフィーネさんがケルベロスの頭を撫でながら告げるのに、ケルベロスが頷いた。


「ほへー。じゃあ、私とブラウも結べるんですか?」


「そのちゃちな妖精にその気があればな。使い魔の契約は相互の同意を以てなされる。一方的に使い魔の契約を結ぶことは出来ん」


 ほうほう。一方的に結べたら、奴隷にされちゃうよね。


「ちなみにセラフィーネさんはどうやってケルベロスを使い魔に?」


「半死半生の状況に追い込んで助かりたければ契約しろと命じた」


「……相互の同意って何なんだろうなー……」


 どうみても強制です。ありがとうございました。


「まあ、貴様もまずはその妖精で試してみたらどうだ? やれるかもしれないぞ?」


「ブラウ、私と契約してくれる?」


 私は胸ポケットのブラウに話しかける。


「マスターがどうしてもというならいいです……」


「どうしても」


「なんだか軽いです……」


 ブラウはわがままだな……。


「じゃあ、契約しよ、契約」


「分かったです。でも、ロストマジックって不気味です……」


 ブラウはそう言いながらもふよふよと胸ポケットから出てきた。


「では、どうすればいいんです、セラフィーネさん?」


「まずは互いの血を交わらせることだ。やってみろ」


「血ですか……」


 私は痛覚遮断して人差し指をチョイとナイフで切る。


「ブラウ、妖精って血があるの?」


「あるですよ。けど、痛いのは──みぎゃー!」


 私はブラウの人差し指を軽くグサリ。


「マ、マスター! 酷いです!」


「ごめん、ごめん。でも、血を交わらせなければならないんだから、ね?」


「うう……」


 ブラウが文句を言うのに私は笑ってごまかした。


「それじゃ、血を交わらせるよ」


「はいです」


 ブラウの人差し指と私の人差し指が接する。


「よし。次は魔力を妖精に注げ」


「了解」


 セラフィーネさんの言う通りにブラウに私は魔力を注ぐ。


「そして、次にこう唱えろ。“我ら、血によって結ばれ、血によって染まり、血によって互いを共有せん”と」


 うむ。これぞ魔術っていう詠唱だ。


「ブラウ。行くよ。“我ら、血によって結ばれ、血によって染まり、血によって互いを共有せん”」


「あっ……」


 私の詠唱にブラウの感覚が私に流れ込んできた。


「上手く行ったようだな。早速、いろいろと試してみるといい。その妖精の視野を共有するぐらいのことはできるだろう?」


「視野を共有する」


 ブラウから手を放しても、ブラウの感覚が残っている。


 そして──。


「おうっ!? ブラウの感触が伝わってくる! ブラウの見ているものが見えるよ! 私の顔がブラウの視野から見ることができる!?」


 私の視野にはウィンドウの様なものが現れ、そこにブラウが見ているであろう自分の顔が表示されていた。なんということだろうか。これが使い魔の契約というものなのか!


「凄いですね、これ! これが使い魔ってものなんですね!」


「それぐらいで驚くな。妖精のやれることは限られている。せいぜい偵察にしか使えない。その点魔獣はその魔獣を使役し、盾として、剣とすることができる。魔女ならば使い魔の一匹、二匹は飼っておかなければな」


 そう言えば魔女と言えば使い魔ですよね。地球では黒猫が定番っぽかったけど、この世界ではケルベロスとかの魔獣なのか。私的にはもっと可愛い生き物がいいのだが、可愛い魔獣なんていないしな。


「使い魔に何を選ぶか迷っているな?」


「はい。ちょっと……」


 セラフィーネさんが告げるのに、私が困った表情を浮かべた。


 セラフィーネさんに可愛い魔獣っていますって聞いても、馬鹿かって言われるだけな気がするのでここは黙っておく。


「ならば、これから冒険者ギルドに貼りだされるロートスの実の採取クエストを受けて見ろ。そうすればいい魔獣が手に入るだろう。そいつを半死半生に追い込み、契約を強制すればいい。絶対にロートスの実の採取クエストを受けるんだぞ?」


「ロートスの実の採取ですね。分かりました!」


 どんな使い魔となる魔獣が待っているのだろう。


 グリフォンとか、ワイバーンなら背中に乗せて貰って飛び回ることもできるよね。まあ、私の作った04式飛行ユニットには及ばないでしょうけど!


 それでも視野を共有して航空偵察が行えるのは便利だ。それにいざという時は私を守ってくれる存在になるというのだから、これは逃す手はない。私は運命という最低最悪の屑を始末するのにあらゆる力を必要としているのだから。


 さあ、ペトラさんたちも遠征から帰っているころだし、ロートスの実の採取クエストを受けるように勧めよう!


 ああ、ワクワクするな―!


…………………

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