悪役令嬢、新型装備を装備する
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──悪役令嬢、新型装備を装備する
晴れてロストマジックを継承する魔女協会の一員になった私。
はてさて。最初は何を学ぼうか?
「どのようなものに興味がある? 空間操作ならヴァレンティーネに、ブラッドマジックなら私に訊くといい。さあ、最初は何を知りたい?」
セラフィーネさん。私よりちょっと年上ぐらいのはずなのに凄く態度が大きい。
まあ、先輩だしね。敬っておこう。
「えーっと。空間操作に興味あります」
「では、ヴァレンティーネに訊け。ブラッドマジックに興味がでたなら私に話しかけるといい。面白い魔術を知っているぞ。例えば妖精の目を借りることなどな」
「ええっ!? そんな魔術が!?」
うわー! 凄い興味あるー!
けど、最初は空間操作だ。私はちょっと思いついたことがあって試してみたいのだ。
「ヴァレンティーネさん! 空間操作について教えてください!」
「ああ。空間操作か」
私が告げるのに、ヴァレンティーネさんが気だるげに返事を返した。
「空間操作、は従来の魔術しか知らなければ全くの初めてだろう。やれることを教えておいてやらないといけないな」
ヴァレンティーネさんはそう告げると、ポケットから小さなボールを取り出した。
「まず、空間を開くということ。これは空間の隙間に自分だけの空間を生み出すことのできるものだ。一度空間を開けば、次からは自由にそこに行き来できる。新しい空間を作ることもできるが、まあ最初に作れるのはひとつだけだな」
なるほど。どこかの猫型ロボットのポケットみたいなものか?
「この空間を開くことにはいくつかの決まりがある。まず魂を持ったものの体を切り開くことはできないということ。空間を開く技術で、人体を切り刻むのは不可能だってことだ。自分の体でも無理だぞ?」
「分かりました」
ふむふむ。ここまでは私の理想とすることに問題はなさそうだ。
「次に空間を開くのにはそれなりの魔力を消費するということ。開きっぱなしにしてると魔力枯渇で死ぬことになるぞ。注意しろ」
「うわー……。それは危ない」
魔力枯渇による死はびっくりするほど恐ろしい。今は魔力の残量を知らせる誕生石を身に着けているけれど、これが割れたら私の死だ。
「そして、空間の隙間内での経過時間と外での経過時間は同じだということ。空間の隙間にいると時間が止まっているように感じるが、実際には時が流れている。故に注意しろ。空間の隙間で過ごしすぎて、ミイラになる奴もいるからな」
時間は普通に過ぎる。これは常識だよな。
「最後は空間を開く技術で、空間の隙間内の物質は自由に取り出したり、仕舞ったりできるということ。後で教えるが、ちょっとした空間操作術で物質を僅かにだが動かせる。その魔術も有効だ」
「おおっ? それ、具体的に教えていただけます?」
おっと。私が探し求めたものが見つかったぞ。
「まずは空間操作について覚えないとな。空間操作には特殊な感覚が必要になってくる。方法を見せるから、見て覚えてみるといい。まずは空間操作のカギとなるものを見つける。自分の右手か、左手か。物でもいいが、手の方が安全だな」
「じゃあ、左手で!」
「左手か。悪くない。あたしとお揃いだ」
ヴァレンティーネさんが私の言葉に頷いて見せる。
「じゃあ、やってみせるから、あたしに魔力を注ぎ込んで、その動きを見定めてみてくれ。一瞬たりとも見逃すんじゃないぞ?」
「了解です」
私は言われたとおりにヴァレンティーネさんの右腕を掴んで、魔力を流す。
「やるぞ」
ヴァレンティーネさんがそう告げたとき、注いでいる魔力が反応した。
……確かにこれまで教わってきたエレメンタルマジックやブラッドマジックとは大きく異なる感触だ。なんだろう。何もない空間そのものにただ大量の魔力を流しこんで、その魔力で抉じ開ける感触だ。こんなことは普通はしないな。
エレメンタルマジックのように精霊に呼びかけるわけでもなく、ブラッドマジックのように血に魔力を注ぐわけでもなく、ただただ空間に魔力を注ぐ。
すると──。
「おおっ? 開けました?」
「ああ。これが私の空間の隙間だ。ここにはいろいろと隠してある。お気に入りの魔術に関する本や、人には言えないようなものまでな」
そう告げるヴァレンティーネさんの前には私たちが入ってきたのと同じ、黒い空間の亀裂が生じていた。ヴァレンティーネさんはそこに手を突っ込むと、一冊の書籍を取り出して見せた。
「試してみていいですか?」
「ああ。やってみな」
感覚を覚えた私は早速空間操作にチャレンジ!
「魔力を空間に注いで、抉る……」
私はヴァレンティーネさんがやったように、空間の隙間を作るべく、空間に魔力を注ぎ、抉るような感触を以てして空間を──。
「開けた!」
私は人ひとり入れるサイズの空間の隙間を作ることに成功した!
「ほう。覚えがいいな。最初はもうちょっと苦戦するものなんだが」
「えへへ」
照れる。
「じゃあ、次に進んでみるか?」
「はいっ!」
私は次のステップに。
「次は物質の動きの操作だ。魔力を手のごとく使って、軽くものを動かす。さ、さっきやったみたいにあたしに魔力を流して観察してみるといい」
「アイ、マム!」
私は再びヴァレンティーネさんに魔力を流す。
「じゃあ、行くぞ」
ヴァレンティーネさんがそう告げ、魔力を再び虚空に向けて注ぎ始める。そして、その魔力をゆっくりと動かしていき、手に持っていた本にぶつけた。
そして、トンという音で、本が地面に落ちた。
「まあ、こんなところだ。あまり役に立つ魔術じゃない。よほど集中力がなければ矢を落とすこともできないし、ものを動かすのにもそれなり以上の魔力がいる。使い勝手の悪い魔術だよ」
「それでもできることはあるかもしれませんよ?」
ヴァレンティーネさんが笑うのに、私も二ッと笑った。
さて、試してみようじゃないか。
「まずはこの魔術札で──」
私は炎竜討伐では大活躍した口径120ミリライフル砲の砲弾を生成するために必要な魔術札だ。それを使って砲弾を生成する。
「続いて──」
「ん?」
私が口径120ミリライフル砲そのものを生成するのに、ヴァレンティーネさんが僅かに驚いたような反応を示した。
まあ、驚くだろう。地球の人が見ても驚くだろう代物だし。
「では、まずはこの砲弾を空間の隙間にしまって、と」
私は空間の隙間を僅かに開き、そこに砲弾を突っ込む。ただし、次の空間の隙間を開いたときには砲弾の頭が前に出るようにして。
ここまでくれば私が何をするつもりなのかは分かるだろう。
「さて、では試してみよー!」
私は口径120ミリライフル砲の砲身を下げる。
そして、空間の隙間をシリンダー内で開き、物質移動の魔術で砲弾を押し出して装填する。この際、装薬となる魔術札が暴発しないように、慎重に魔力量を調節した。ここで暴発とかシャレにならない。
「できた!」
私はいちいちシリンダーを外して装填する必要のなくなった07式口径120ミリライフル砲・改を手にして勝利を宣言した。
「ああ。そういう使い方か。だが、そんなことをしなくても、その物体を斜めに格納できる棚を内部に作っておいて、空間の隙間を開けば自動的に流れ込むようにしておいた方がよくないか?」
「言われてみるとそうですね……。魔力で物質を動かすと暴発する危険もありますし。今度、棚を作ってみます」
本当に役に立たないな物質移動の魔術。
「しかし、そのでか物を使って炎竜を仕留めたのか?」
「そんなところです。他にもいろいろと使いましたけど」
これからはわざわざ使い捨て榴弾砲を設置しなくても、口径120ミリライフル砲だけで事足りるな。実に結構なことだ。あれって意外に疲れるから……。
しかし、空間の亀裂を利用すれば使い捨て榴弾砲が使い捨てじゃなくなるな……。空間の隙間を精密に操作できるなら、榴弾砲に次々に砲弾を送り込んで点火することも不可能ではないような。
むしろ、口径120ミリライフル砲にもリボルバーはいらないのでは……。いやいや、ここまで考えて作ったものを無に帰してはならない。それに、いちいち空間の隙間で装填するよりも、リボルバー方式の方が速射性は高いはずである。きっとそうだ。
「よしよし。これからも役に立ってくれよ、ライフル砲」
私の愛用武器となるであろう口径120ミリライフル砲をなでなでする。
「さて、空間操作は主にこれぐらいだ。後は複数の空間の隙間を確保することぐらいだな。それは追々やっていくとしよう。あんまり一度に詰め込みすぎても、覚えずらいだろうからな」
「助かります!」
なんだか魔術の発展のためには手段を選ばないって人たちだったらしいけど、親切だし、そんなに危険な場所じゃないのかも。
「ちなみにこの空間操作技術を利用して監獄も作れる。むしろ、昔はそっちの方がメインだったんだよな。実験動物や人体実験用の人材を確保しておくのに使ってたな。逃げようにも、空間操作で生み出された空間の隙間からは、それを作った人間じゃないと開けないし、どこまでも続いているから逃げても飢え死にするだけだ」
わー……。やっぱりちょっと危ない人たちの集まりだったー……。
まあ、それはともあれ給弾もスムーズに行えるようになった新兵器で武装した私を止められるものはもはや存在しない!
ここまで来たら次は“あれ”にチャレンジしようかな。難易度的にはそこまで難しいものではないし、それでいて威力は強大だしな。ただし、狙いを定めるのが数学が苦手な私には問題だけれどねー。
ふふふ。待ってろ、運命。貴様が八つ裂きにされる日は近いぞ。
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