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悪役令嬢はエスコートされたい

…………………


 ──悪役令嬢はエスコートされたい



 時は流れるのは早いもので、私たちは毎年恒例になった懇親会の日を迎えた。


 懇親会……。今年は誰にエスコートを頼めばいいんだろうか……。


 この間のドラゴン退治で大儲けすると共に冒険者の皆さんからの好感を得たものの、私の恋はさっぱり進んでおりません。


「イリスは今年もエスコートはお父さんに?」


「いいえ。ヴェルナー様がエスコートを申し出てくださいました」


 え? イリスは婚約者と一緒に懇親会に? 私負けてる?


「そ、そっかー。それはよかったね」


「はい。ヴェルナー様にエスコートして貰うのは楽しみです」


 ううっ……。姉の私に浮いた話が一切ないのに、イリスは婚約者をゲットしてラブラブとは……。虚しい……。


「アストリッド。エスコートのパートナー探しに迷っているのですか?」


 げっ。ここでフリードリヒだよ……。


「ちょっとだけです。ちょっとだけ苦労しているだけです」


「それなら私がパートナーを引き受けましょうか?」


 何その最悪の提案。


「い、いえ、結構です。そのような恐れ多いことは頼めません。まして、殿下は会長のヴァルトルート先輩とパートナーになられるはずですし」


「無理にヴァルトルート先輩と組む必要もないのです。よろしければ、という話でして。だからあなたをエスコートしても構わないのです」


 いや、構えよ。お前はヴァルトルート先輩と一緒って決まってるんだ。皇子がそこら辺の適当な相手を組んだら、懇親会にくる人たちが困惑するだろう。


「いえいえ。それでも恐れ多いので……」


「そうですか……。残念です」


 まじで勘弁して欲しい。フリードリヒと下手にくっつくと破滅フラグが……。


 いや、でも、エルザ君が来た時に速やかに身を引けばダメージは少ないのでは?


 ……ないな。私はフリードリヒが個人的に嫌いだし、公爵家令嬢と皇子が付き合えば絶対に噂になる。ミーネ君辺りがこぞって後には引けない環境を作りだしてしまうだろう。そうなるとやはり破滅フラグがズドンッ! だ。


 この皇子様も父親のヴィルヘルム3世みたいにガッツのある男だったらちょっとは私もなびいたんだけどねー。なよなよした脳内お花畑の平和主義者は私の好みじゃないのですよー。


 さて、フリードリヒは却下として誰にエスコートして貰おうか。


 流石に中等部に入ってお父様にエスコートして貰うわけにはいかない。初等部のイリスですらヴェルナー君という相手がいるというのに。姉の私がお父様にエスコートされてたら、幻滅されてしまう。


 アドルフとシルヴィオはミーネ君とロッテ君に申し訳ないので選べない。最近のアドルフは割といい感じなのだが、その分だけミーネ君ともよくよく逢瀬を重ねているみたいだしな。


 え、シルヴィオ? プチ反抗期が治ったらね。


 うーむ。同学年で候補はいないな。


 ここは先輩方に手を伸ばしてみようか? でも、この間は先輩方に頼もうとしてお断りの嵐だったんだよなー……。


 はあ。冒険者ギルドじゃ今や姫扱いの私ですが、円卓ではどうにもなりません。


「はあ……」


「お姉様。あまりため息をつかれない方がいいそうですよ。ため息が多いと幸福が逃げてしまうそうです」


「元から私に幸福なんてないよ……」


 はあ。破滅フラグに周囲を包囲され、恋は遠い。はあ、としか言えないよ。


「私も婚約者とかいればなー」


「お姉様もきっといい殿方がみつかりますよ」


 どうせ自由恋愛ができないなら、お父様には早急に婚約者を見つけてきて欲しい。年上で、ぐいぐい来る人ならもう年齢差が20歳くらいあってもいいよ。でも、なるべくならイケメンがいいかな。


「アストリッド先輩」


「あれ? ディートリヒ君、どうしたの?」


 私は憂鬱な気分になっているときに、話しかけてきたのはディートリヒ君だ。


「あ、ディートリヒ君は懇親会のパートナーいる? それとも私と一緒でボッチ?」


「ボ、ボッチというか相手はいません」


 おお。ボッチ仲間がここにいるよ。いえい!


「それでよろしければ私がその、アストリッド先輩を……」


「えっ!? ひょっとしてエスコートしてくれるの!?」


 うわー! 驚きです!


 初等部にはイリスほどではないにせよ、可愛い女の子が揃っているし、いつもディートリヒ君はそんな女の子たちに囲まれているのに、このがさつな魔術馬鹿を選んでくれるとはっ!


「いいの? 私でいいの?」


「は、はい。是非ともエスコートさせてください」


 むう……。この間のブラッドマジックの実験やイリスとヴァーリア先輩の話もあったけれど、本当にディートリヒ君は私のことが好きなのだろうか?


 ディートリヒ君はまだまだ子供で可愛いと思うけれど、4歳年下だしな。私の趣味とはちょっと外れる。それに君が大人になるときは私はおばさんだよ?


 でも、こうやって向こうから誘ってくれるのはいいかな。それは私の趣味っぽい!


 フリードリヒ? あいつの誘いは悪魔のささやきだ。


「じゃあ、お願いしようかな。でも、本当に私でいいの? 初等部の子から誘われてないのかな?」


「はい。是非ともアストリッド先輩を」


 可愛いと凛々しいが合体しておられる。


「じゃあ、懇親会の日はよろしくね」


「ええ! お任せください!」


 ディートリヒ君は嬉しそうに笑うと、離れていった。


「お姉様。やっぱりディートリヒ様はお姉様のことを思っておられますよ」


「そ、そうかな?」


「この間、ディートリヒ様がフリードリヒ殿下に大人の余裕を持つにはどうしたらいいか聞いていたそうなのです。お姉様のタイプに合わせるためではありませんか?」


「おう……。そんなことを……」


 ディートリヒ君には年下でも年上の余裕と積極性があればいいよって言ってたもんなー。まさか本当にその道を極めるつもりだったとは知らなかったけど。


「けど、ディートリヒ君には悪いよ。ディートリヒ君って可愛いし、魔術の才能もあるみたいだし、私なんかじゃ釣り合わないと思うな」


「お姉様は自己評価が低すぎますよ。お姉様は十分に魅力的です。少なくとも私にとってお姉様は憧れの女性です。私もお姉様みたいになりたいです」


 うーん。自己評価低いのかな……。いつも天狗になってる気がするんだけど。この間の炎竜討伐とかまさに調子に乗りまくってたけどなー……。調子に乗るのと自己評価は別の問題なのかな?


「アストリッド嬢」


 などと、私が考えていたら目の前にいつの間にかアドルフが。


「エスコートの相手は決まってるのか?」


「はい。ディートリヒ君にエスコートして貰うことになりました」


 この間は世話になったな、アドルフ。今度は君の弟を借りるよ。


「ディートリヒと、か?」


「そうですけど……。なにか問題があったでしょうか?」


「いや。何でもない。愚弟の面倒を見てやってくれ」


 愚弟って。まあ、謙遜なのは分かるけど。


 それに多分、私が面倒見て貰う側になるんじゃないかな……。


「アドルフ様とディートリヒ様は本当に会話をなさりませんね……」


「そうだね。お互いに避けてる感じ。仲が悪いのかな……?」


 うーん。分からない。


 ゲームにはイリスも、ディートリヒ君も、ヴェルナー君も登場してなかったし、彼らが主要人物とどのような関係にあるのか不明なのだ。下手につつくと破滅フラグが待っているかもしれないから追及は避けたいが、姿の見えない地雷というのも面倒だ……。


 ゲーム作った人! 教えて!


 私は心の中でそう叫んだが、反応はなかった。ひでえや。


 しかし、今の私は着実に破滅の運命を吹き飛ばせる火力を整えている。この間の炎竜討伐で実戦経験を積んだし、国外に持ち出すための資金も確実に増えている。


 なので、破滅フラグが立っても怖くなんてないぞ!


 嘘です。やっぱり怖いです。勘弁して欲しいです。


 ああ。私はこんなにも純粋に生きているというのに、なんで悪役令嬢なんてやらされているのだろうか。


「お姉様。何かお悩みですか?」


「大丈夫。ちょっとしたことだから」


 けど、悪役令嬢になったおかげで可愛いイリスの姉になれたのは嬉しいかな。


 まあ、メリットとデメリットのつり合いが取れていないのは確かですが……。


…………………

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