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悪役令嬢は薬草採取に向かうそうです

…………………


 ──悪役令嬢は薬草採取に向かうそうです



 さて、私たちは帝都から馬車で薬草の採取場所にやってきた。


 正確には薬草採取地点の手前。薬草は森の中にあって、森の中を魔獣に気をつけて進み、薬草を取ってくるのがお仕事である。


「じゃあ、いつも通りだ。私が先頭、ペトラは中央、エルネスタは後方」


「学生はあたしと一緒な」


 なるほど。前衛で背後と後方を固め、側面はペトラさんが監視と。


 となるとこのパーティーにはもうひとりぐらいメンバーが欲しいところだな。ペトラさんも両サイドを確認するのは大変だろうし。ツーマンセルを2組の4名編成なら、全方位を監視しながら進めていいだろう。


 まあ、このパーティーのメンバー数や戦術について私があれこれ口出しするのもなんだし、そこはリーダーのゲルトルートさんの判断に任せておこう。


「マンドレイクもどきはこの先に?」


「ああ。情報ではな。まあ、マンドレイクもどきがその群生地で突如として全て毟り取られるなんてことはないはずだから大丈夫だろう」


「前に来た冒険者の人が全部取っていくとかは?」


「それはルール違反。薬草類は非常時以外は群生地のものを全て取ることは禁止されている。暗黙の了解って奴でな。次に来る冒険者のために、そして今度来る自分たちのために群生地を根絶するようなことはしない」


 ふむふむ。冒険者さんたちは荒くれ者の集まりかと思っていたが、意外と自然保護主義的だったり、仲間意識が強かったりするんだな。


 ……いつも“冒険者ギルドが手入れしています”という場所で魔獣に出くわすのは、その群れを根絶させないでおこう精神のためじゃないだろうな……。薬草は増えて嬉しいけど、魔獣は増えると危ないぞ。


「そろそろ群生地だ。何が出てもビビるなよ」


 ペトラさんが告げるのに私は頷き、手に握っているものを確認する。


 機関銃。大口径弾を使用するこれならば、大抵の敵はどうにかなるというものである。弾も600発は準備して背嚢に入れてある。万が一の場合に備えて、ショットガンも準備している。


 超重武装だ。普通なら荷物の重さで潰れるところをブラッドマジックで筋力を増幅して維持している。最近はそういうことばかりしているせいか、体がちょっと筋肉質になってきてショックだ。


「伏せろ。何かいる」


 ゲルトルートさんがそう告げ、私たちは茂みの中に屈みこむ。


「あれは……ワイバーンか」


 ゲルトルートさんの視線の先にいたのは青い鱗をした6体の魔獣。ファンタジーではおなじみのワイバーンだ。それが6体、マンドレイクの群生地にいた。いや、ただいるのではなく、巣を作っているように見える。


「子連れのワイバーンかよ。また面倒な」


「子連れだと面倒なんですか?」


 ペトラさんが愚痴るのに私が尋ねる。


「普通のワイバーンよりも獰猛だ。子供を守るためにな。それにその子供も容赦なく襲い掛かってくる。あれぐらいのサイズになれば人ひとりは軽く殺せる。な、厄介だろ?」


「ふむ。厄介そうですね」


 大きなワイバーン2体は軽トラックサイズ、小さなワイバーン4体は自転車サイズだ。どちらも人間を殺すには十分な大きさだろう。


「じゃあ、ここはどうします?」


「さてね。どうする、ゲルトルート?」


 ペトラさんは私の質問をゲルトルートさんに投げる。


「やる。こちらは今回は魔術師がいるし、ここから別の群生地に向かうとかなり帝都から離れることになる。不要な出費は避けたい」


 ゲルトルートさんはそう告げると、背中のクレイモアを抜いた。


「エルネスタと私は前衛で敵を押さえる。その間にペトラとアストリッド君は後方から攻撃を叩き込んでくれ。丸焼きにするなり、なんなりして貰えると助かる」


「お任せあれ」


 さて、君の出番だぞ、機関銃。


「その道具、何なんだ?」


「魔術を利用した武器ですよ」


 詳細は秘密だ。


「では、行くぞ!」


 ゲルトルートさんとエルネスタさんが茂みから飛び出し、私とペトラさんも続く。


「オオオォォォ!」


 親のワイバーンは重々し咆哮を上げ、子供のワイバーンも甲高い叫びを上げる。


「エルネスタ! 親を押さえるぞ!」


「了解です、ゲルトルート!」


 ゲルトルートさんとエルネスタさんは剣を構えて、ワイバーンに切りかかる。親のワイバーンはわずかにだが血を流し、それによってワイバーンたちの注意はゲルトルートさんとエルネスタさんに向けられた。


「さあ、仕事だぞ、学生! あたしたちはチビから始末する! 準備はいいか!?」


「いつでもオーケーです!」


 私は二脚を立てて機関銃を伏せて構え、その狙いを自転車サイズの子供のワイバーンに向けた。引き金を引けばいつでも発砲可能だ。


 加えて戦闘適合化措置も実行しておく。アドレナリンを分泌させて心拍数を上げ、同時に神経系のブーストを行い、戦場の把握と判断を速やかに行えるようにした。これがあれば、狙いを外すことはあり得ない。


「それじゃ、戦闘開始だ!」


 そう告げてペトラさんは弓から2本の矢を放った。その矢は2本ともワイバーンの頭部に刺さり、1体の子供のワイバーンが呻き声と共に倒れる。


 私はそれと同時に引き金を引く。


 けたたましい銃声はブラウによって押さえられ、サプレッサーが使用されたように静かに銃弾が子供のワイバーンに叩き込まれる。子供のワイバーンの3体は機関銃の掃射によって薙ぎ払われ、彼らは地面に崩れ落ちる。


「すげえ……。なんだよ、それ……。魔術か……?」


「そんなところです」


 さて、次はゲルトルートさんとエルネスタさんの援護だ。私は親のワイバーンが側面を晒す位置へとブラッドマジックで加速して移動する。制服のまま来たけど、足は念のためにブーツにしておいて正解だった。


 ときに駆け、ときにぴょんと跳ね、私は不整地を乗り越えて側面に回り込んだ。よし、この位置なら友軍誤射の可能性はない。急にゲルトルートさんとエルネスタさんが向きを変えない限りは大丈夫だ。


「ゲルトルートさん! 援護します!」


 私はそう告げると、親のワイバーンの横腹めがけて機関銃から銃弾を叩き込む。


 無音の銃声と共に機関銃のマガジンから次々に銃弾がチャンバーに送り込まれては、魔力を注がれて放たれていく。空薬莢が気持ちよいくらいに飛び出し、私はひたすらに銃弾をワイバーンに叩き込んでいく。


「オオォォ……」


 見事に成功。私の攻撃は親のワイバーン1体に致命的な打撃を与え、親のワイバーンは真っ赤な血を流して、地面に倒れ込んだ。撃破数はこれで4体だ。残り1体を片付ければ、この群生地はクリーンに。


「オオオッ!」


 だが、そこまで簡単には行かせまいとでもいうように、親のワイバーンの旦那さんか奥さんか分からないけど、最後の1体がゲルトルートさんとエルネスタさんたちに背を向け、私に向けて突撃を始めた。


「くっ。あいつ、向きを変えやがったからこちらから撃てないぞ」


 私からワイバーンへの射線上にはゲルトルートさんとエルネスタさんがいる。今撃つとふたりに当たる可能性があった。


「位置移動して──」


 私が機関銃を抱えて、移動しようとした時だ。


「はああっ!」


「てやあっ!」


 ゲルトルートさんとエルネスタさんが自分たちに背を向けたワイバーンに向けて牙を剥いた。ワイバーンのわき腹──事典によればもっとも鱗が薄い──場所に向けて剣を突き立て、グルリと抉る。


 私に突撃しようとしていたワイバーンは、己の行動の選択を誤ったことを認めざるを得なくなった。ワイバーンは血を振りまいて倒れ、地面で痙攣するだけになり、その痙攣もやがて止まった。


「凄いな……」


 私のようにブラッドマジックで身体能力を強化しているわけでもないのに、ゲルトルートさんとエルネスタさんは的確に行動し、目標を撃破した。やはり、戦闘で必要になるのは、魔術による補助だけでなく、日ごろの鍛錬もなんだね……。


 魔術でいい気になってた私は反省するのである。


「ふうっ! 他にワイバーンはいないだろうな?」


「見て回ってくる。その間に採取しておいてくれ」


 ゲルトルートさんが告げるのに、ペトラさんが身軽な動きで周辺の索敵に向かった。


「しかし……。正直に言って君は凄まじいな、アストリッド君。子供のワイバーン3体と親のワイバーン1体を仕留めるとは。その、鉄の何かは武器だったのか?」


「そんなところです。的確に火力投射が行える優れものですよ」


 私の機関銃を初めとする銃火器がこの世界の魔術に勝っている点は、その狙いが的確であることと使用する魔力はほんの僅かだという点だ。


 この世界の戦闘魔術師がどのように戦うのかを学園のエレメンタルマジックの授業で見せて貰ったが、巨大な火球を叩き込むことがほとんどで、その狙いも毎回ずれている。想像を力にする従来の魔術では狙いを付けるのは苦労するのだ。


 その点、私の銃火器は光学照準器完備で、精密な火力投射が可能だ。


 人間を殺すには十分な火力を、自分の狙った位置に当てられるのと、人間を殺すにはオーバーな火力を、目標の周辺にとにかく降り注がせるのでは、どちらが効率がいいかは分かりきっている。


「最近の学園の生徒は進んでるんだねー。驚きだよ」


「いやあ。最近の生徒というか、私だけというか」


 エルネスタさんが感心したように告げるのに、私が頭を掻いてそう返した。


「よし。アストリッド君のおかげでワイバーンを相手にしても損害はなかった。後はマンドレイクもどきを集めて持ち帰るとしよう」


「了解!」


 私たちはゲルトルートさんの指示でマンドレイクもどきを集めることに。


 ここからは地味な仕事だ。私はゲルトルートさんにマンドレイクもどきの形状を教えて貰い、マンドレイクもどきを集めていく。このマンドレイクもどきは解熱剤や鎮痛剤として優れているらしく、需要が高いそうだ。


 ちなみにあくまでもどきなので引っこ抜いても叫び声を上げたりはしません。


「30束集まったな」


「採取完了ですね!」


 いえい! 最初のクエスト、薬草採取は成功だぞ!


「よっ! 見て回ってきたけど、ここには他にワイバーンはいないぞ。マンドレイクもどきの方は集まったか?」


「ああ。集まった。では、帰るとしよう」


 こうして私たちはクエストを終えて、冒険者ギルドに帰還した。


 ゲルトルートさんたちはマンドレイクもどきを冒険者ギルドに納め、鑑定士がオーケーを出してから、クエスト達成書が渡された。そして、私には報酬の1万2000マルクが!


「いやあ。アストリッドと一緒だと楽だったな。今度もまた頼むぜ」


「ご縁がありましたらお願いします」


 ペトラさんが上機嫌なのに、私も笑みが漏れる。


「ああ。是非とも頼む。君と組めるのを楽しみにしているよ」


「はい。ゲルトルートさん! こちらこそお願いします!」


 かくて、初の手伝い魔術師の仕事は完了。


 私は大慌てで家に帰ると、ベッドの下に空いたお菓子の箱を置き、その中に今回のクエスト報酬である1万2000マルクを隠しておいた。この箱がいっぱいになったときには、信頼できる第三国の金融機関を探して預けよう。


 ううっ。スパイアクションみたいで、今からワクワクしてきたぞ。


…………………

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