悪役令嬢は魔術を自由に使いたい
本日4回目の更新です。
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──悪役令嬢は魔術を自由に使いたい
ヴォルフ先生との3回目の授業では魔力の調節について学んだ。
私のような魔力の大きい人は調節方法を学んでいないと、いろいろと危険だということであった。確かにお化け水玉を作ったり、渡り廊下の屋根を焦がすような火の玉を作っていれば、危険だということはよく分かる。
それ以外にも魔力暴走というものを起こして、体内の魔力が体から吹き出し、それによってバラバラ死体になってしまうこともあるとか。恐ろしい……。
そうならないためにも私は魔力の調節の勉強に勤しむ。
水を小さなコップ一杯にだけ注ぐ訓練や、紙一枚だけを燃やす炎を生み出す訓練。魔術は想像するものによって威力が異なるが、私は魔力を調節して、強力なイメージを想像しながらも、行使するのは僅かな力ということを学んだ。
そうやって魔力の加減を学んだら、次はどこまで魔力を発揮しても大丈夫かの訓練の始まりだ。これは正直どう転ぶか分からない。
私たちは私の魔力を評価するために、いつもの牧場の演習場──もとい、訓練場所から少し離れた場所にやってきた。ここならば何をしても大抵大丈夫そうだ。
「体内の各部位の監視準備は完了です。水の精霊に呼びかけてどこまでも大きな水玉を作ってください。いいですか?」
「分かりました」
私は想像する。特大の水玉を。海のような膨大な水を。あらんかぎりに膨大な水を。考えられるだけ大きな水玉を。
「まだまだいけますよ。続けてください」
私はヴォルフ先生の言葉に更に想像を重ねる。川、湖、池、貯水槽、海。
それに、あらんかぎりの魔力を注ぎ込む。体内にあるだけあっりたけの魔力を注ぐ。
「まさか、まだいけるのですか……」
ヴォルフ先生の驚く声が聞こえるのに、私は目を開く。
見ればこの間のお化け水玉とは比べ物にならない規模の、この空き地全域を覆ってなお余りある水玉が生成されていた。もはや水玉というより、大入道だ。威圧感のある水玉のお化けが私たちの前に生成されている。
「ヴォ、ヴォルフ先生。また続けた方がいいですか?」
「可能な限りの魔力を使って貰いたいのですが、流石にこれ以上は周辺に被害が及びます。ここまでにしておきましょう」
私が尋ねるのにヴォルフ先生が感嘆したような声色でそう告げた。
「では、消しますね」
私はすかさず虚無を想像してお化け水玉入道を消し去る。
「どうですか、先生。私はどこまで魔力を使って大丈夫ですか?」
「残念なことに分かりません。これだけの魔力を使える人間は初めてですね。お力になれず申し訳ない」
ごめんなさい、ヴォルフ先生。私が迷惑な体質だったばかりに。
「ひとまずのところ、今日行使した魔術に注いだ魔力程度は行使しても大丈夫だと思っておいてください。まあ、相当な規模の魔力が使えることになりますが……」
ヴォルフ先生は本当に大丈夫だろうかという顔をしている。
「加減して使うので安心してください! それより魔力の調節についてはこれでマスターできたって言えるでしょうか?」
「いえ。魔力の調節は長い訓練の末に身に着けるものです。そして、修行を続けておかないと調節する術を忘れてしまいますから。私は今でも魔力の調節は時間に余裕のあるときは行っていますよ」
うーむ。魔術を極めるのはそう簡単なことではないか。
「ところで、ヴォルフ先生。魔術札ってどこで購入できるんですか?」
「魔術器具店にいけば、大体置いてありますよ」
魔術器具店か。街に行けば売ってありそうだな。
「アストリッド様。私の監督下でなら魔術を使ってもいいと公爵閣下に言われているのですよね? ひとりで勝手に魔術は使わないと約束していたのですよね?」
ぐうっ……。鋭いなヴォルフ先生。私が魔術札を作って新たに製造した拳銃の試射を楽しもうというのがばれてしまっている。
新しく作った拳銃は女子供でも扱える小型で口径9ミリの扱いやすい奴を作ったのだが、試し撃ちは一度しかしてない。もっと試射したい。撃ちまくりたい。銃の反動を感じたい。
「ですが、アストリッド様も魔力の調節が一応できるようになったので、ちょっとした魔術なら使っても大丈夫でしょう。公爵閣下にはそのように伝えておきます」
「ありがとうございます、ヴォルフ先生! 大好き!」
やったぜ。これで心置きなく、拳銃生活が送れる。
と、私はそう思っていました。
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「ダメだ」
お父様に家でも魔術を使っていいかと尋ねた反応がこれです。
「そんな! ヴォルフ先生も大丈夫だっておっしゃられたのに!」
「ヴォルフは甘いところがある。まだ魔術の鍛錬を始めて一週間も経っていないのに、専門家の監督もなしに魔術を使ってはならん。これはお前のことを心配していってるんだからな?」
ううー……。確かに魔術はいろいろと危険がある。監督者がいなければ大変なことになるだろう。だが、どうしても私は諦めきれない!
「お父様、これも私が学校で恥をかかず、かつお父様の名声を高め、皇室との関係強化のために必要なことなのです! お願いです! どうか魔術を使わせてください! お願いします!」
私は恥も外聞も投げ捨てて土下座した。
「ダメなものはダメと……」
「あら、あなた。アストリッドと何をしているの?」
ここで救いの女神が現れた。お母様だ。
お母様の名前はルイーゼ・エリーザベト・フォン・オルデンブルク。にこやかなオリエンタルスマイルがチャームポイントの魅力的な女性だ。
「お母様! お父様が魔術を家で使ってはいけないというのです! 家庭教師のヴォルフ先生はもうひとりで使っても構わないとおっしゃれらましたのに!」
「あらまあ。そうなの?」
私の言葉にお母様の視線がお父様に向けられる。
「い、いや。だって、魔術は危険だろう? 子供ひとりだけで扱わせていいものではないはずだ。私はアストリッドのことを思ってこう言っているんだぞ?」
「ですが、家庭教師のヴォルフ先生は許可されたんでしょう。なら、いいじゃないですか。使用人を付けておけば、そこまで危険なことはしないはずよ。それにアストリッドのためを思うならば、アストリッドの成長を妨げてはいけないわ」
流石はお母様だ。ナイスアシスト。
「お前は心配ではないのか? アストリッドに万が一のことがあったら……」
「大丈夫です! 本当に基礎的なことしかしませんから!」
そう、魔術札に爆発の魔術を詰め込んで、それを弾丸に射的をするだけである。
「だがなあ……」
「魔力の調節は毎日いつでも訓練しないと身に付かないんです! だから、どうか私に魔術の訓練をさせてください! 本当、本当に危ないことはしませんから!」
渋るお父様に私はペコペコと頭を下げる。頼むからイエスと言ってくれ。
「分かった許可しよう。ただし、普段の勉学も怠らないこと。お前は魔術の勉強ばかりしていて他の勉強はしていないぞ。勉強の方の家庭教師はアストリッドは魔術のことしか考えてないと嘆いた」
「はい! 普通の勉強もがんばります!」
やったぜ。これで現代兵器で戯れられる。
「では、まずは普通の勉強とマナーが大切だということを忘れないように。それから家のものを壊したら、そこで家での魔術の訓練はお終いだ。それからお前が魔術関係で危険な目に遭ってもお終いだ。いいな?」
「了解です!」
鉄砲を撃ちまくって、人生を謳歌しよう。
そうすれば退屈な古典の読み取りも、厳しいマナーの勉強も我慢できる。
いや、ちょっと待て。私の目的は拳銃を撃ちまくることだったか?
ちがーう! 来るべき破滅の運命にでかい穴を開けてやるのが目的だ! そのためには拳銃とショットガン以外の武器も扱えるようにしておかなければ。
ひとまず今欲しいものは対戦車ロケットランチャーかな? それとももっとお手軽なグレネードランチャー?
お父様の許可も下りたことだし、精一杯現代兵器の再現に取り掛かりますか!
フフフッ。運命よ、待っていろ。今に貴様を木っ端みじんにしてやるからな。
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次話を本日23時頃投稿予定です。