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悪役令嬢ですが、ドレスを選びます

…………………


 ──悪役令嬢ですが、ドレスを選びます



 私たちはロッテ君お勧めのコンディトライ・ザマーで昼食を取った。


 私は甘い菓子パンに紅茶を昼食とし、デザートにチーズケーキをいただいた。実に美味でありました。お値段はそれなり以上。こういうときに上流階級であることの幸せを噛みしめるのである。だから、破滅は避けたいです。


「美味しいですね、お姉様」


「美味しいね、イリス。私のチーズケーキちょっと分けてあげようか?」


 イリスが幸せそうにチョコレートケーキを頬張っているのを見て、私は私のチーズケーキをちょっと分けてあげた。


「いいんですか?」


「いいの。いいの。イリスが食べているところ見ているだけで私は幸せだから」


 イリスの笑顔が可愛いのでもっと笑って欲しい。イリスには実に癒される。普段の地雷とのマインスイーパー対決も忘れて、のんびりと過ごせるのはいいものだ。


 そう、私の学園生活はマインスイーパーだ。フリードリヒ、アドルフ、シルヴィオという危険な地雷を相手に日々、神経をすり減らして対応しているのだ。迂闊に行動して破滅フラグを立てないようにそれはもう必死に……。


 なのに、あの地雷どもと来たら大人しく地面に埋まっておらず、地面の中を高速で移動して、私に踏まれようとするのだ。本当に勘弁して貰いたいものである。


「アストリッド」


 そうそう、こうやって話しかけてきて、いつも私の胃袋を……。


「えっ? フリードリヒ殿下?」


 店を出た私たちの後ろに立っていたのは、フリードリヒその人だった。その上取り巻きアドルフとシルヴィオまでいる。地雷が勢揃いだ。


 な、なんでお前たちはここにいるー! 私のせっかくの休日に!


「アストリッドたちもテストの打ち上げに?」


「そ、そんなところです」


「奇遇ですね」


 嫌な奇遇だな。私は偶然を司る神を恨むぞ。


「せっかくなので一緒に過ごしませんか? 人数は多ければ多いほどいいでしょう?」


「えっと。これからミーネのドレスを選ぶところなので、殿方は退屈──」


 と、ここまで言いかけて私の頭にひらめきが浮かんだ。


「アドルフ様。ミーネのドレス選びを手伝ってくれませんか? 殿方の意見もお聞きしたいところなのです」


 アドルフとミーネ君を引っ付けるにはいい機会だ。シルヴィオもあわよくばロッテ君とくっつけてしまおう。最近、シルヴィオにないがしろにされていると、ロッテ君も嘆いていたからな。


 問題はフリードリヒの相手は私がしなければいけないということだ……。


「では、向かいましょう。私の知っているいいドレスを扱っている店があるので、そこまでご案内しますよ」


 お前はナチュラルに贅沢を満喫するから、私はミーネ君が萎縮しないか心配だよ。


 ともあれ、断ることもできない。私たちはフリードリヒについていって、件のドレスを扱っている店へと向かった。


「……アストリッド様。こういうびっくりは教えておいてくださいよ」


「びっくりって、私もびっくりしてるんだけど」


 ミーネ君が囁くようにして私に告げるのに、私は何を言っているのだろうと怪訝な表情を浮かべる。


「え、アストリッド様がここでフリードリヒ殿下とお会いするようにしていたのではないのですか?」


「そこまで私はフリードリヒ殿下とは親しくないよ……」


 ミーネ君は私とフリードリヒをどう思っているんだ。


「けど、アドルフ様にドレスを選んで貰えるなんて嬉しいです。ありがとうございます、アストリッド様」


「よかったね。でも、君もぐいぐいいくぐらいじゃないとアドルフ様取られちゃうかもよ」


 ヒロインのエルザには警戒しないとな。エルザにはフリードリヒという核地雷を撤去するという役割があるのだから。アドルフとシルヴィオには、ミーネ君とロッテ君を上手い具合に落として貰わなければ。


「ここがその店だよ」


 わー。見事にブルジョワジーのための豪華なお店だ。いかにも高級店ですって言う感じのお店である。ミーネ君も絶句している。


「こ、ここは私が奢るから安心して!」


「そ、そんな恐れ多い……」


 フリードリヒめ! 皇族気分で店を選ぶんじゃない!


「私が支払いはしますので、遠慮せずに選んでください」


 おい、フリードリヒ。そんなことをしたらミーネ君が自由にドレスを選べなくなるだろうが! 皇族に奢って貰うだなんて、恐れ多すぎるんだよ!


「で、では、失礼して」


 私たちはフリードリヒのデリカシーのない強引さで店内へ。


「いらっしゃいませ」


 店内に並ぶのはそれは豪華なドレスばかり。


 最近流行の背中を出すタイプのドレスから、壮麗なフリルとレースで飾られた基本的なドレスまで、品ぞろえは大変豊富だ。流石は皇族お勧めの店である。


「アドルフ様。ミーネにはどのようなドレスが似合うと思いますか?」


「そういわれてもな。俺は女の服装には詳しくないんだ」


 私がミーネ君とアドルフをくっつけようと企んでいるのに、その努力をこの男は無駄なものに変えてしまう。なんて野郎だ。


「だが、このドレスは似合いそうだぞ?」


 アドルフが選んだのは、肌の露出少な目のドレスだ。腰のコルセットでスタイルにメリハリを出す、いつまでも愛されているタイプのドレスである。まあ、8歳児が着てもメリハリは若干にしかでませんがね。


「ミーネはどう思う?」


「これにします! アドルフ様に選んでいただけたのですから!」


 ミーネ君はアドルフのことで大興奮だ。


 そして、アドルフは恥ずかしそうに頬を赤らめて、視線を逸らしていた。おやおや初々しい反応だな。これは脈ありだぞ。頑張れ、ミーネ君。私の破滅フラグ回避には君の努力が必要とされているのだ。


「せっかくなのでロッテもシルヴィオ様にドレスを選んで貰ったら?」


「え? いいのですか?」


 いいよ、いいよ。フリードリヒの財布から金を放出してプルーセン帝国経済を循環させていこうじゃないか。


「シルヴィオ様。私に似合うドレスはあるでしょうか?」


「そうですね。この朱色のドレスなどあなたにはお似合いですよ。色鮮やかで、リボンのアクセントも可愛らしい。背中が開けているタイプのドレスが最近の流行ですので、流行に遅れずに済むかと思います」


 シルヴィオは相変わらず、凄い説明口調で喋る。


 だが、今日のシルヴィオは以前の──テスト前のシルヴィオとは大きく異なる。疲れてはいるようだが、あのような必死なところはない。


「シルヴィオ様がお選びになったならいいものですね」


「……いえ。僕にできることなど大したことはありませんよ」


 って、またネガティブモードに入っているよ。そんなに父親との仲がこじれているのか。ゲームだとこれからプチ反抗期に入って、面倒くさくなるんだよなー。


 ロッテ君には取り扱えるだろうか。


 仕方ない。ちょっと私が手伝ってやるか。


「シルヴィオ様。もっと自分に自信を持ってください。あなたのお父上がどのような宰相かは私には分かりませんが、あなたはきっといい宰相になるはずですよ。あなたは宰相の在り方について真剣に考えておられるのですから」


「ですが、僕には……」


「宰相が皇帝を押さえるストッパーならば、宰相の暴走を止めるのは自分の役割だと考えていませんか? シルヴィオ様はまだ8歳です。そのような責任を負う必要はないのです。今は勉学に励み、将来あなたの理想とする宰相になるべきです」


 私はなよなよ男子は嫌いなんだ。しっかりしてくれ。


「分かりました。今はそう考えおきます」


 シルヴィオはやや笑顔を浮かべたが、完全に納得したわけでもなさそうだ。


「アストリッドはドレスは選ばないのですか?」


「わ、私は今のところドレスを着る機会はありませんから」


 フリードリヒが尋ねてくるのに私はそう返す。


 8歳児というのはあっという間に成長する。今ドレスを買ってもすぐに着れなくなる。それにフリードリヒの奢りとか破滅フラグが立ちそうな予感がしてお断りだ。


「このドレスはアストリッドに似合うと思うのですが」


 そう告げてフリードリヒが指し示すのは、近年流行のドレス。色は藍色と白だ。


 まあ、悪くはないが、用もない。


「アストリッド様。よろしければ私の父の誕生日を祝う晩餐会に参加していただけませんか? そのドレスを纏ってきてくださると華があっていいのですが」


「いや。ミーネのお父さんの誕生日なんだから私が目立っちゃダメだよ」


 ミーネ君はしきりに私をフリードリヒとくっつけようとしてくる。根はいい子だけに困る話である。


「とにかく、ドレスは今は結構です。もし、必要になったらこのドレスに似たものを選びますから」


「そうですか。それは残念です……」


 フリードリヒがしょげた。けど、同情はしない。君はヒロインのエルザ君とくっつく定めにあるのだからな。


「イリスは欲しいドレスはある?」


「あのドレスが可愛くてよさそうです」


 イリスが指さすのはお子様向けの腰にリボンが付いた藍色のドレスだった。君もフリードリヒと同じ色を選ぶのか……。


「分かった。じゃあ、買ってあげるね」


 イリスの分のドレス代までフリードリヒに奢らせるわけにはいかない。イリスはフリードリヒを嫌っているのだから。


「ありがとうございます、お姉様」


「気にしないで」


 こうして私はイリスにドレスを買ってやり、ミーネ君とロッテ君はそれぞれアドルフとシルヴィオが選んだドレスをフリードリヒに買って貰った。相当の額になったはずだが、フリードリヒは平然としている。


 かくて、私たちのテストの打ち上げは予想外の乱入者4名がありながらも、平穏無事に終わったのだった。


「普段着としてドレスを買いませんか?」


「いえ。間に合ってます」


 フリードリヒは最後まで私にドレスを買ってやろうとしたが、私は懇切丁寧にその申し出を断り続けたのだった。


 ……フリードリヒ、怒ってないよね?


…………………

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