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悪役令嬢と魔術のあれこれ

本日3回目の更新です。

…………………


 ──悪役令嬢と魔術のあれこれ



 私はヴォルフ先生から渡された魔術の本でいろいろと学んだ。


 まず魔術とは想像の力であること。想像さえできるならば金だって生み出せる。


 そのせいか、この世界では金は価値がないも同然で、絶対に生み出すことのできない鉱物であるオリハルコンが硬貨として使用されている。この国の1マルクの価値のあるオリハルコンは4.8グラム。ほぼ100円玉と同じ程度の重さだ。


 という雑談は置いておいて、学んだことを記そう。


 ちょっとした火をつけたい場合には火打石の火花を想像すること。……これはマッチの炎を想像するに改変していいかな。


 ちょっとした水を出したい場合には水差しから水を注ぐイメージ。さらに言えば、水の温度は自在に調整可能なそうな。まあ、でも水を使った兵器は思いつかない。だが、ちょっとばかりこの温度を操れるというのが役に立ちそうな兵器を知っている。


 炎についても熱量は想像で調整できる。超高温の炎を生み出すには、その炎を想像すればいいだけだ。だが、ヴォルフ先生から渡された本をどう読んでも粘着質な炎の生み出し方は書いてなかった。火炎放射器やナパーム弾はそう簡単には作れないか……。


 最後に魔力は使いすぎると、命にかかわるということ。魔力切れになると体力が著しく低下し、最悪の場合死に至るそうな。


 この点に関してはよく理解しておかねば。私は潜在的な魔力が非常に高いとは言えど、無限ではない。いずれ、このプルーセン帝国と事を構えることになったら、あまたの兵士と戦わねばならないだろう。その時には魔力管理をしなければ。


 魔力の残量は誕生石を身に着けておけば分かるそうだ。魔力が失われていくごとに、誕生石から輝きが失われ、ゼロになると割れてしまう。そうはなりたくないものだが。


 さて! 予習もばっちりなのでヴォルフ先生と今日の授業だ!


「も、もう全部読まれたのですか?」


 私がヴォルフ先生から借りていた本を返すと、先生は目を丸くした。


「はい! 基礎的なことが分かりやすく書いてあったのですらすら読めました!」


 ヴォルフ先生の本は魔術初心者の私でもスムーズに頭に入ってくるものだった。最初の授業で習ったことのおさらいにもなり、私の魔術への知識はより深まった。流石はヴォルフ先生だ。博士号を持っているだけはある。本のチョイスは最適だ。


「ううん。アストリッド様は聡明なのですね。それで勉強熱心でもあられる。これは将来は私と同じように聖サタナキア魔道学園で博士号を取られるかもしれませんな」


 ヴォルフ先生は心なしか嬉しそうだった。後輩ができそうで嬉しいのだろう。


「では、アストリッド様。今日の授業に移りましょう。この本で魔術札のことは読まれましたね?」


「はい。いつでも想像なしで魔術を発動できる道具ですね」


 この世界では魔術師は戦う。それも矢が飛び交い、投石器が石を投げ、剣を持った兵士たちが押し寄せてくる中で戦うのだ。


 そんなときにいちいち想像なんてしてたら矢を受けて死ぬか、投石器の放り投げてきた石でぺちゃんこにされるか、剣でばっさり切り裂かれて死ぬのが落ちである。


 というわけで、過酷な戦場で戦う戦闘魔術師の皆さんたちはいちいち想像せずに魔術を行使する術を生み出した。


 それが魔術札だ。


「魔術札はいちど記憶させた魔術を、想像なしで行使できるようにします。ですが、魔術札そのものは使い捨てで一回使えば燃え尽きてしまいます。それでも大量に準備しておけば、想像なしで魔術を連続行使可能です」


 そう、魔術札は使い捨てなのだ。


 戦闘魔術師の皆さんは戦闘前はせっせと魔術札を作りだす作業を行っているのだろうな。地味だが、それのおかげで弓や剣に負けないレスポンスの速さを確保できているのだから馬鹿にはできない。


「では、実際に魔術札を作ってみましょうか」


「はい!」


 ということで、私とヴォルフ先生は再び野外へ。


 私の魔術の威力が凄まじいことが分かったので、家の中庭ではなく、家から少し離れた牧場の空き地で訓練だ。


「では、まずは魔術札の作り方をお教えしておきましょう。魔術札の材料となるのは処女の髪を混ぜた紙です。これを素材にして魔術札を作ります」


 この世界には既に製紙技術があって、そのおかげで本は読みやすい紙製だ。


「ここに素材を準備しておきましたので、1枚とってください」

「失礼します」


 親切なヴォルフ先生は私の授業のためにただではないだろう、魔術札の材料となる紙を用意してくれていた。ありがたい限りです。


「では、その札を持って何か魔術を行使してください。水、火、風、地。いずれのエレメンタルマジックでも構いませんよ」


「では、火を」


 私はやはり火力に目を引かれる、


 私は火を想像する。あまり派手なものではなく、暖炉の炎程度のものだ。


 そして、目の前に燃え盛る炎が現れた。ちょうどいい火力だ。


「それでは魔術札を見てみてください」


「ええっと」


 私が魔術札を見るとまっさらだったそこには、ルーン文字が刻まれていた。


「これで完成ですか?」


「はい。完成です。次は魔術札を使ってみましょう」


 偉く簡単だな。もうちょっと儀式めいたことをやるものだとばかり思っていたが。


「魔術札を握って、魔力を注いでください。できますか?」


「魔力を注ぐですか?」


 魔力を注ぐってどうやるんだ。あの本にも書いてなかったぞ。


「心の中から力を籠めればいいのです。そう力む必要はありません。軽く、心の中から液体を注ぐ感覚で魔術札を握ってください」


「心から液体を注ぐ感覚……」


 私はヴォルフ先生の言うがままに魔力を注ぐイメージを行う。


 すると魔術札が燃え尽き、目の前には先ほど発生させた炎が。


 これが魔術札か! 便利だ!


「ちなみに魔術札は手に握っていなくとも発動させることができます。もう一度魔術札を作ってそれを遠くに置いてきてください」


 私はヴォルフ先生に言われるままに再度炎を想像して魔術札を作り、それを500メートルほど離れた場所に置いてきた。


「では、先ほどのように魔力を注いでください。ただし、今度は遠くに注ぐことをイメージして」


 私はさっきの要領で遠くの魔術札に魔力を注ぐことをイメージする。


 遠くに、遠くに。500メートル先にある魔術札に注ぐ感覚を想像する。


 すると、遠くでぼうっと炎の燃える音が響き、前方を見れば遠くにおいた魔術札が先ほど想像した炎と共に燃えていた。


「わあっ! できましたよ!」


「ええ。上出来です。後は魔力を注ぐ速度を速めれば、完璧ですね。これほど飲み込みが早いのかと驚かされるばかりです。今までの教え子でもここまでの才能の子はいません」


 わー! べた褒めだ! やったぜ!


 ところで本によると他人の魔術札を起動させることは不可能らしい。それができたらおちおち魔術札は使えないしな。


「ところでヴォルフ先生。試してみたいことがあるので試してみていいですか?」


「ええ。本日の授業である魔術札を作るのは予想外に早く終わりましたから」


 よし。先生の許可を得たならばやってみよう。


 私は想像する。自動小銃の薬莢に詰まった火薬が炸裂する際の爆発を。小規模ながら力強い爆発をイメージする。想像は難しいが、グアムの射撃場で撃ちまくった日のことを思い起こして、想像する。


 すると、パンと大きな炸裂音が響き、目の前で小規模な爆発が起きた。


「ほう。火の精霊に爆発の魔術を実行させましたか。小さな爆発ですが、よく爆発のイメージをお持ちでしたね。日常生活では目にしないでしょう」


「ええっと。夢で見たんです!」


 夢で見た戦法はどこまで通じるだろうか。


「それからもうちょっと試したいんですけど、魔術札をお借りしていいですか」


「どうぞ。あなたの学習のために準備したのですから」


 ヴォルフ先生は気前がいいな。いい先生だ。


「さて、と」


 私は魔術札に爆発のイメージを組み込むと、それをひとまず横に置く。


 それから土の精霊に鉛とプラスチックでできたあるもののイメージを送り込み、細かな修正は任せながら、それを生み出す。


 そしてできたのは──。


「それは何ですか?」


「12ゲージのスラッグ弾です。狩猟につかうものですよ」


 人間にも使うけれどね。


 さて、スラッグ弾というのは一般的に散弾を飛ばすイメージのショットガンにおいて一発だけの銃弾を放つという代物だ。軍隊では扉の鍵をぶち抜いて、内部に突入していくことに使われる。


「そして、この完成したスラッグ弾の薬莢部に先ほどの魔術札を詰め込んで……」


 私はうきうきしながら作業を進める。


「できた!」


 そして、この世界で初めててだろう銃弾が完成した。


「それは……どう使うのですか?」


「こうやって使うのです」


 ヴォルフ先生が怪訝そうに尋ねてくるのに私はここまで背負ってきたショットガンに銃弾を装填した。装填するところからわくわくする。そして、それを的になりそうな木の板に向けて、引き金を引くと同時に魔力を注ぐ。


 再びズドンという鼓膜を揺さぶる音がして、ショットガンはスラッグ弾を放つ。そして12ゲージの鉛玉を受けた木の板が揺さぶられて、大穴が開いた。


 そして、私はショットガンの反動に耐えられず、ひっくり返りそうになっていた。


「おお……。これは新しい……」


 ヴォルフ先生は撃ち抜かれた木の板を眺めて、感心する。


「う、腕と肩に来た……」


 私はと言えば明らかに4歳児の使うものではないものを扱って、ショットガンの衝撃に肩をひりひりと痛めていた。


「だけど、やったぞ! 成功だ!」


 私はちょっとの魔力で、普通に魔術を放つよりも効率のいいものを生み出した。


 そう効率がいいのだ。普通に巨大な火の玉など作っていては魔術札を作るのにも苦労するし、コントロールが難しい。その点をこのショットガンは克服している。必要なのは僅かな力で生み出せる魔術札と銃弾だけなのだから。


「それがそのショットガンというものの使い方なのですか?」

「はい。まだ私では十二分に扱いこなせ──」


 いや、待てよ。4歳児でもショットガンを自在に操る術はあるぞ。


「ヴォルフ先生! ブラッドマジックについて教えてください!」


 そう、ブラッドマジックで身体能力をブーストすれば反動は抑え込める!


「ブラッドマジックですか……。私の専門分野ではありますが、使うのにはそれなりのリスクがあることをご理解していただけますか?」


「もちろんです!」


 誰が文句を言うものか。私は好き勝手に銃が撃ちたいんだ。


 ……あれ? 私の目的は銃を撃ちまくることだったっけ?


「では、ブラッドマジックについてお教えしましょう」


 ヴォルフ先生は今までにない真剣な表情で、そう告げる。


「まずは簡単な身体能力の強化から行いましょう」


 ヴォルフ先生はそう告げると、地面に転がっていた石を拾った。


「まず基本はエレメンタルマジックと同じです。ですが、ここで無理な想像をしてはいけません。体に魔術で無茶をさせると反動が生じますから」


 なるほど。無理な想像はダメ、と。


「手の筋力を増強したければ、手に力が満ちていることを想像し、それから体に魔力を巡らせるようにイメージを浮かべてください。これは魔術札にやったのと同じ要領です。魔術札の代わりに自分の肉体に魔力を巡らせる」


 ヴォルフ先生はそう告げると、手を握り締めた。


「おおっ!」


 ヴォルフ先生に握られた石は粉々になっていた。


「やってみますか?」


「もちろんです!」


 よーし。私も今日から超人だ。


「では、アストリッド様の場合は脚部を強化してみましょうか。走る速度が上がれば、ブラッドマジックの効果が実感できるでしょうから」


「はい!」


 私としてはまずは上半身を強化したかったが、素人はプロのいうことを聞くのが一番いいのである。というわけでレッツチャレンジ!


 私は脚部に力が満ちている様子を想像する。


 馬のような筋肉。陸上選手の筋肉ごつごつの足。空を駆けるようなダッシュ。


 そして、魔力を脚部に循環させる。魔力を操る術については魔術札で理解したので、さして難しいことではない。私は下半身に魔力を循環させていき、下半身が魔力で満ちていくのを感じる。


「準備はできましたか?」


「ばっちりです!」


 今の私はホップ、ステップ、カールルイスだ!


「では、あの柵まで走ってみましょう。どれだけ身体能力が向上したか確認するためにいつものと同じように走ってみてください。それから無理な想像はしていませんね?」


「人間ならばできるだけの範囲のことしか想像していません!」


 さあ、ダッシュだ、ダッシュ。ブラッドマジックとやらの威力を見せて貰おう。


「では、走ってみてください」


「はい!」


 私は走る。


 体が軽い。宙に浮いているように軽い。足が信じられないほど力強く地面を蹴っているのが分かる。そして、気付けばあんなに遠くにあった柵が目の前にあるじゃないか。信じられないくらい速く走れたぞ!


「ヴォルフ先生! 成功ですか!」


「だ、大丈夫ですか? 体に異常はありませんか?」


 私がうきうきして尋ねるのに、ヴォルフ先生は大慌てだった。


「異常はないですよ? どこも痛くないですし?」


「一応、私のブラッドマジックで体の検査をしておきましょう。まさか私も最初のチャレンジでこれほどまでの力を発揮するのは完全に予想外でしたので。いや、これまでのアストリッド様であれば、これぐらいのことはあり得たのでしょう。迂闊でした」


 ヴォルフ先生は私の手に触れると、顔を青ざめさせながらそう告げた。


 あれ? 何か私やらかしちゃった?


「筋肉などの肉体面に異常なし。それから体内魔力についても正常に排出されている。ふう……。異常はないようで安心しました。ですが、気をつけてください。ブラッドマジックは薬にもなり、毒にもなるのですから」


「すみません……」


 ヴォルフ先生をこんなに心配させてしまった。反省。


「ヴォルフ先生。ところで次は上半身の──」


「ブラッドマジックは魔力の調節ができてからにしましょう。それまではエレメンタルマジックの方を勉強していきましょうね」


 くっ。ブラッドマジックはお預けか。これじゃせっかくのショットガンが撃てない。


「どうしてもダメですか?」


「ダメです。下手に魔力の調節を間違うと、筋肉が引き千切れますよ?」


 うわっ! それはちょっと怖いかも……。


「エレメンタルマジックで魔力の調節を覚えたらブラッドマジックに再挑戦しましょう。時間はあります。こつこつとやっていきましょう」


「はい、ヴォルフ先生」


 そうだね。何事も飛躍しすぎてはいけないよね。


「では、明日は魔力調節の授業を。ブラッドマジックに関心があるようでしたら、この本を読んでおいてください。初歩的なブラッドマジックについて記されています。少し難しいかもしれませんが、アストリッド様なら読み解けるかもしれません」


「頑張って読んでみます」


 こうして本日の授業は終わった。


 初めて作った武器の試射ができたり、ブラッドマジックについて知れたり、実りのある授業だった。いずれは私もショットガンぐらい片手で撃てるようなブラッドマジックを習得してみたいものだ。


…………………

次話を本日22時頃投稿予定です。

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