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悪役令嬢ですが、懇親会開催です

…………………


 ──悪役令嬢ですが、懇親会開催です



 会場を確保して、招待状を配って回り、その日の予定を各々が調整し、ローラ先輩が言い出した懇親会の準備は整った。


 懇親会当日は夜会に相当するドレスということで、私はお気に入りの露出が少ない紺色のドレスに白いオペラグローブを着け、髪もいつものストレートからシニヨンに纏めて準備を整える予定。いや、整えて貰う予定。これで準備万端だ。


「円卓の夜会とはな。素晴らしいことだ。OBOGには大貴族もいる。しっかりと社交界の流儀に則って、親交を深めてくるのだぞ。フリードリヒ殿下にもこれを機にお近づきになれるといいな」


「そ、そうですね……」


 やだー! 誰があんな地雷を処理しなければならないんだー! 捕虜でも使えー!


「それで、エスコートは誰がしてくれるんだ?」


「お父様では?」


 私はこの世界に来て学んだのだが、こういうイベントでは女性は男性にエスコートされるものらしい。エスコートと聞いて、何で護衛が必要なんだろうと考えた私はだいぶ脳を軍事書籍にやられている。


 エスコートするのは付き合いの深い人物──恋人とか婚約者だ。


 だが、私はまだ8歳児である。恋人や婚約者などいようはずもない。そんな私はおませさんではないのだ。


「ふむ。参ったな。その日は午後から会議が入っていてな……」


「ええー……」


 そんなー。エスコートは別になくても懇親会には参加できるけど、いないと超浮く。あいつボッチだぜーって噂される。それはちょっと嫌だ。


「学園では誰かエスコートしてくれるような男はいないのか?」


「うーん……。あまりもの同士でくっつくというのもありかと思いますが……」


 あまりものいるかなー。みんないいとこのお坊ちゃんお嬢さんだから、何かしらのパートナーがいそうな気がする。私だけボッチかも……。虚しい……。


「仕方ない。どうにもならなければ会議は延期させよう。娘に恥をかかせてはオルデンブルク公爵家の名が廃る。だが、見つけられるのであれば、学園でパートナーを見つけてきなさい」


「はいっ!」


 ということで、私は懇親会3日前にして、パートナー探しに奔走することになる。


…………………


…………………


「先輩! 懇親会で私のパートナーになってくれませんか!」


 と、私は親しい先輩方に片っ端から声をかけた。


「ごめん。もう従妹のパートナーやることになってるから」


「うちは姉がまだ相手がいなくて……」


「あちゃー。俺は同級生の子と組むことになってるから」


 がーん。流石に3日前では遅すぎたようだ。


「お姉様。大丈夫ですか?」


「イリス。私のエスコートしてくれない?」


 私が涙目で椅子に座っているのに、イリスが心配そうに声をかけてきた。


「いいですよ! けど、お姉様にエスコートして貰いたいです!」


「いや。冗談だからね、イリス?」


 この妹、かなり本気にしてたな。


 いや、しかし、私が男装してイリスをエスコートするのも悪くないかもしれない。イリスをエスコートするのはこの私! 無事に船団をアメリカ東海岸からイギリス本土まで届けてやろう!


 って、そんな冗談を言ってる場合ではないのだ。真剣にパートナーを探さなければ。


「イリスは誰にエスコートして貰うの?」


「お父様がしてくださいます。けど、私はお姉様の方がいいです」


 イリスもやっぱり父親か。


 そうだよねー。まだ私たち小学生だもんねー。


 それと、イリス。お父さんより私の方がいいってお父さんに言ったらダメだよ? お父さん泣いちゃうからね?


「なあ、お前。エスコートの相手を探してるだって?」


 げっ。誰かと思えば地雷2号のアドルフではないか。


「そ、そうなんですよ。でも、大丈夫ですよ。いざとなればお父様がパートナーをしてくださいますから」


「そうか。なら、俺がエスコートしようか?」


 え? なんでそうなるの?


「よ、よろしいので?」


「むしろこちらから頼む案件だ。俺にエスコートさせてくれ」


 うわーっ! 今日に限ってなんでお前はそんなにぐいぐい来るのっ!?


「しかし、ミーネさんがいらっしゃるのに……」


「あ、ああ。ミーネとは親しくしているが、だがあいつは円卓のメンバーじゃないから参加しない。お前をエスコートしても悪くはないだろう?」


 ええい! お前なーっ! もう既に彼女認識してる子がいるのに、私に色目使ったらダメだろーっ! 精神的寝とられだぞ! ミーネ君泣くぞ!


「で、では、よろしくお願いします、アドルフ様」


「ああ。よろしく頼む、アストリッド嬢」


 でも、結局どこかで破滅フラグが立つのではないかと怖くて受け入れてしまう私であった……。ごめん、ミーネ君。ちょっとだけアドルフ借りるね。ちゃんと洗って返すから安心して。


「ところで、フリードリヒ殿下のお相手は?」


「ローラ先輩だ。主催者と殿下なら釣り合うだろう?」


 そっか。フリードリヒという地雷はローラ先輩が処理してくれたか。安心、安心。


「お姉様にエスコートしていただきたかったのに……」


「ごめんね、イリス。私は男の子じゃないから」


 イリスも不満そうだが、私だって満足しているわけじゃないぞ。これで地雷を踏む確率は上昇したわけだし、ミーネ君には背信行為を働くわけだし、そもそも突如としてエスコートを申し出てきたアドルフの意図が不明だし。


「波乱万丈の予感……」


 私は本当は楽しみにしていた懇親会が秘かに怖くなってきた。


…………………


…………………


 懇親会当日。


 私は準備しておいた装いを纏い、馬車でグランドホテル・ハーフェルに向かった。


 この日のためかホテル前は馬車でいっぱいだ。


 ホテルは最上階のホールフロアが貸し切りになっており、そこで懇親会が開かれることになっていた。


「来たか」


 で、その最上階のフロアではアドルフが待っていた。随分と偉そうに。


 だが、纏っているタキシードは8歳児ながら決まっている。流石は次期騎士団長って感じだ。攻略対象になるだけはあるよ、本当に。


「お待たせして申し訳ありません、アドルフ様」


「いや。女が外に出るのに時間がかかるのはよく知ってる」


 おっと。女を知った気でいますね、このおませさんは。


「もう行くか?」


「はい。参りましょう」


 私はアドルフの手に自分の手を重ねて、アドルフの誘うがままに扉の開かれたホールに足を踏み入れる。


 ホールは実に壮麗な場となっていた。


 私たちが視察に来た時にはがらんどうの何もない空間だったのが、テーブルがいくつも並べられ、そこには料理やお菓子が並べられている。見ているだけでお腹が空いてくる感じだ。


 そして、ホールの前方には楽団がよく分からないけど綺麗な曲を演奏しており、この懇親会の場を盛り上げている。


 そして、一番のメインは豪華に着飾った円卓のメンバーとOBOGたちである。どの方の格好を見ても、豪華絢爛。男性はタキシードをぴったり決めており、女性たちは色鮮やかで凝った装飾のドレスで己を飾っている。


「凄いですね……」


「そうだな。俺もここまでやるとは思ってなかった」


 私が呆気に取られるのに、アドルフもやや気圧された様子だ。


「とりあえず、ローラ先輩に挨拶に行きましょう。主催者ですから」


「そうだな。フリードリヒにも挨拶しておかなければ」


 私とアドルフはローラ先輩とフリードリヒに会うためにこの華々しい場を進む。


「ああ。あそこだ」


 ローラ先輩とフリードリヒはすぐに見つかった。


 なにせ、ふたりは大勢の客人たちに囲まれていたのだから。そりゃ、皇室とコネを作ろうって気で来てる人が大勢いるんだから、こうもなりますか。フリードリヒの自分を客寄せにする案は成功したわけだ。


「ああ。アストリッドちゃん! こっちよ、こっち!」


 ローラ先輩も私を見つけたのか、私たちに軽く手を振ってくる。


「こんばんわ、ローラ先輩。お美しいですね」


「ありがとう、アストリッドちゃん。あなたのドレスも決まってるわよ?」


 ローラ先輩はクリーム色のドレス姿だ。最近流行の奴を見事に着こなしておられます。ローラ先輩食べても太らないと思ったら、食べた分胸に行く人だったらしく、その胸は豊満であった。わ、私は8歳児だからこれからだし!


「お招きいただき感謝します、ローラ先輩」


「そんなに畏まらないで、アドルフ君。いつものようでいいのよ」


 アドルフも見事な仕草でローラ先輩に挨拶する。


 きっと騎士団長のお父さんとかに鍛えられてるんだろうなー。挨拶がびしっと決まってるよ。ミーネ君が恋するのも分かるってものだ。


「フリードリヒ殿下もご機嫌よろしゅうございます」


「ああ。アストリッド。ごきげんよう。君のパートナーはアドルフだったね」


 フリードリヒにも挨拶、挨拶。貴族ほど挨拶してる人種はいないだろう。


「そうだ。ちょっと借りを返すためにな」


「その話は聞いている。力になれなくてすまない」


「お前が謝ることじゃないよ」


 借りを返す……?


 ま、まさか、どこかで地雷踏んで気付かず爆発したのか!? ど、どこで!?


「じゃあ、懇親会楽しんでいってね」


「は、はい……」


 も、もう楽しむどころじゃないぞ。私の武装はショットガン、拳銃、自動小銃、機関銃、そしてグレネードランチャーだけだ。一国の軍隊相手に戦える火力じゃない。謀反を起こしても鎮圧されるのがオチだ。


 うわーっ! どうしよう、どうしよう!


「どうかしたのか?」


「い、いいえ。なんでもありません」


 アドルフが怪訝そうに私を見るのに、私はそう告げて返す。


 どうかしたのかって私が聞きたいよ。どういうわけで、私のエスコートを請け負ったんだい。借りを返すって、物騒な意味にしか聞こえないんだけれど。


「お姉様!」


 そう私が悶々としていたとき、元気な声が。


「イリス! 可愛いドレスね!」


「お姉様のドレスも綺麗です!」


 おお。我が癒しの妹イリスがやってきた。イリスのドレスは私とおそろいの紺色で、妖精さんたちが纏っているような大きなリボンが付いたものだ。実に可愛い。流石は私の妹だ。姉として鼻が高いよ。


「やあ。いつも娘が世話になっているようだね」


「これはブラウンシュヴァイク公爵閣下。こちらこそイリスちゃんとは親しくしていただき感謝しております」


 ここで大物登場。第12代ブラウンシュヴァイク公爵ディートハルト閣下だ。そう言えばイリスのエスコートはお父さんだったね。うちのお父様のように官職には就いていないけれど、それでも影響力は大きい方だ。


「イリスを学園に送るときには随分と心配したものだが、君のおかげでイリスは毎日笑顔で帰ってくるようになった。感謝するよ」


「いえ。それほどのことはしておりません」


 よしっ! ブラウンシュヴァイク公爵閣下の機嫌と私への印象は悪くないぞ! いざ、お家取り潰しになったら、お父様と一緒に挙兵して欲しい!


「お父様。本当はお姉様にエスコートして欲しかったんですよ……」


「ハハッ。お前は本当にアストリッド君のことが好きだな」


 イリス、だからそれをお父さんに言っちゃダメだって……。


「じゃあ、懐かしい顔ぶれも揃っていることだし失礼するよ。パウルによろしくと伝えておいてくれ」


「畏まりました、閣下」


 そう告げてブラウンシュヴァイク公爵閣下はイリスを連れて去っていた。


 イリスはブラウンシュヴァイク公爵閣下がかつての学友たちと談笑しているのに少し退屈そうだ。後で遊びに誘ってあげよう。


「アストリッドさん!」


「ヴァーリア先輩!」


 ここで懐かしい顔に。ヴァーリア先輩だ。


 ヴァーリア先輩のパートナーのシュレースヴィヒ公爵家のオイゲンさんだろう。背の高い青年だ。人が好さそうな笑みを浮かべているから、そこまで悪い人でもなさそうだ。


「アストリッドさん。学園生活はどう?」


「従妹も入学してきて、楽しい毎日ですよ。ヴァーリア先輩は結婚生活の方は?」


 ヴァーリア先輩が尋ねてくるのに私が笑みを浮かべてそう返した。


「試行錯誤の毎日、かしら。この人を満足させるのには苦労するの。ちょっと目を離すと他の女性に近づくから、私はこの人を満足させて引き付けておくのに一苦労」


「おいおい。それはないだろう。僕は君以外の女性は見ていないよ」


 おやおや。新婚カップルはいいですね。


「君がアストリッド君か。魔術の天才だと聞いているよ。もし、学士に進むのであればそのときは論文を読ませてくれ。僕もまだ魔術に興味があってね」


「この人は学士課程を首席で卒業したのよ。きっとアストリッドさんとは気が合うわ」


 ほうほう。シュレースヴィヒ公爵家は魔術に興味あり、と。


「その時になりましたら是非」


「じゃあ、君の成長を楽しみしているよ」


 私は丁重に頭を下げ、ヴァーリア先輩とオイゲンさんは去っていた。


「……アストリッド嬢。少しいいか?」


「は、はい! 何でしょう……?」


 く、来るならかかってこい! こっちはオルデンブルク公爵家とブラウンシュヴァイク公爵家と多分シュレースヴィヒ公爵家が味方だぞ!


「ここはちょっと人が多い。テラスに出よう」


 私の質問には答えずに、アドルフはホールのテラスに向かう。


「それで、何のお話でしょうか?」


 破滅フラグだったら、あらんかぎりの火力で一矢報いてやるからな。


「ブラッドマジックの件だ。あれから連絡を寄越さずに悪かった。今夜のエスコートは俺のわがままに付き合ってくれたことの礼だと思ってくれ」


 あれ? 破滅フラグじゃない?


「……俺はあれからどうにかして体に魔力を巡らせようと努力したのだが、上手く行かなくてな。それが恥ずかしくて連絡できなかったんだ。お前はブラッドマジックはまだ早いと言っていたが、その通りかもしれない」


 そうか。あれからブラッドマジックの話がなくてもやもやしてたけど、ひとりで練習してたんだ。騎士団団長の息子なだけはあるな。自己努力をかかさないとは。


「だが、俺は心配なんだ。ブラッドマジックが本当に使えるかどうか。騎士団のものは全員がブラッドマジックを使う。戦場でブラッドマジックは欠かせない。だが、俺にはどうにもブラッドマジックを使うというイメージが湧いてこない」


 アドルフはそう告げて、私の方を見る。


「お前はどうやってブラッドマジックを習得したんだ?」


「えっと。家庭教師の先生に教わって、できる限りのことをしたら習得できました」


 アドルフの問いに私がそう返す。


「そうか……。やっぱりお前は魔術の天才だな。凡人の俺には無理かもしれん……」


 え? 俺様系なのにそんなに自己評価低かったのか……?


「まだブラッドマジックが使えるか使えないかを判断するのは早いですよ。中等部で基礎を習って、高等部でようやく実践的なものを教わるのですから。今から悩みすぎてはそのせいで失敗してしまいますよ?」


 君が悩むとミーネ君も悩むんだよ。


「そうだな。まだ時間はある、か」


 アドルフはそう告げて拳を握り締めた。


「あまりひとりで悩まず、いろいろな方に相談されるのもいいですよ。ミーネさんはいいアドバイザーになると思いますし」


「ミーネか。あいつも魔術の成績はいいな」


 そうそう。ミーネ君からブラッドマジックを教わって、いちゃいちゃするんだ。


「まあ、いろいろとすまなかった。これだけは詫びさせといてくれ」


 アドルフはそう告げてニッと笑った。


 はあ。私の心境は爆発物処理班の気分です。


 さて、アドルフも立ち直ったみたいだし、懇親会を楽しむぞー!


…………………

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