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悪役令嬢ですが、懇親会ってどうなの?

…………………


 ──悪役令嬢ですが、懇親会ってどうなの?



「円卓の懇親会?」


 いつものように円卓で少女向け文学書を読んでいるイリスの横で、私がブラッドマジックの本を読んでいたとき、ローラ先輩が告げた言葉を聞き返す。


「そう、円卓の懇親会を開こうと思うの。どうかしら?」


「そういわれても、毎日こうして会ってるから必要ないのでは?」


 これまでは円卓は特にイベントを設けていなかった。良くも悪くも大物貴族の子息子女である私たちは家の都合で時間がなかったりして、そういうものは企画できなかったのである。


「時間もあるかどうか分かりませんし……」


「そうなのよね。そこさえ解決できればOBOGの方々も呼んで、賑やかな懇親会が開けると思うのだけれど。何かいい手段しらない?」


「生憎……。私もOBOGの方々と話せるのはいい機会だとは思いますけれど……」


 卒業していったヴァーリア先輩とはまた会いたいものだ。たまにしか学園には姿を見せてくれないし、やっぱり公爵家のお嫁さんは忙しいのだろう。


「懇親会ですか?」


 げっ。ここで何故お前が出て来る、フリードリヒ。


「私が手配してみましょうか? 言っては悪いですが、客寄せがいれば出席される方も多いのではないかと思うのですが」


「まあ、よろしいのですか、殿下?」


 むかつくものの皇子であるフリードリヒが手を回せば、大手貴族もこぞって参加することだろう。お父様がそうであるように、皇室とコネを作りたい人物は帝国には腐るほどいるからね。


「それなら見事に問題は解決しますわね。これを機に毎年懇親会が開けるようになるといいのですけれど」


「私が在学中は努力してみますので、それからは伝統になる可能性もあるでしょう」


 私はこうして精霊の円卓における懇親会の誕生する瞬間を目にした。


「さて、となると場所とかを決めなければなりませんわね。場所は学園内がいいかしら、それとも外がいいかしら?」


「せっかくなので学園の外にしてみてはどうでしょう。OBOGの方々がどれだけ出席されるか分かりませんけれど、大勢が来られると学園内の施設では収容できなくなりますし。それに、学園の方々にも迷惑をおかけするかと思いますので」


 大手貴族だけの懇親会のために、学園の施設を使うのも何だろう。学園は貴族のそれなだけあって大勢を収容できるけれど、懇親会には欠かせない料理をどう提供するかの問題もある。


「なら、何かいい場所の案はある?」


「うちの屋敷でもいいですけれど、もっといい場所がいいですよね」


 場所かー。どこなら最善なんだろうなー。


「ああ。そういえば、グランドホテル・ハーフェルがいいのでは? サービスもよく、大勢を収容した催しものもよく開かれていると聞いています」


 と、フリードリヒ。


 グランドホテル・ハーフェルって高級ホテルだったよな。スムーズにそんな高級ホテルの名前が出て来るフリードリヒは流石階級の頂点に立つ男だ。贅沢することをナチュラルにこなしてやがる。


 ちなみにハーフェルというのはこの国の首都の名前です。


「いいですわね。あそこの料理は美味しいと評判ですから」


「なら、場所はグランドホテル・ハーフェルで。日時も決めなきゃいけないし、招待状を作らなきゃいけないから準備が必要ね」


 そう告げてローラ先輩は戸棚から一冊の本を取り出した。


「それは?」


「これまでの円卓のメンバーの名前と卒業後の進路が書かれた本よ。これでOBOGもお呼びすることができるわね」


 精霊の円卓は歴史が深いのか、本はそれなりに分厚い。


「住所とか分かるんですか?」


「郵政大臣閣下の御令嬢が何を言ってるの。名前さえ分かれば、大貴族の住所なんて簡単に分かるわよ。これを使って招待状を作ってくるわ」


 そうか。大貴族はネームバリューが高いから、名前さえ分かれば後は簡単、か。


「じゃあ、招待状はよしとして、会場の確保ですね」


「ええ。グランドホテル・ハーフェルは人気の場所だからなんとかスケジュールに私たちの懇親会を捻じ込んで貰わないと」


 グランドホテル・ハーフェルは人気のホテルなだけあっていろいろと予約は殺到しているだろう。なんとかいい具合に予約が取れればいいな。


「だったら、予約できるかどうか私が見てきましょうか?」


「いいの? 助かるわ。なるべく近い日時であっても、今はから発送する招待状が届いて認識されるまでに、1ヵ月は間があると助かるわ。それなら大丈夫だと思うから」


 私はグランドホテル・ハーフェルの下見と行こう。


「でしたら、私も同行しますよ」


 げっ。なんでここでお前が出て来る、フリードリヒ……。


「そ、そんなに手間ではありませんから、私ひとりでも大丈夫ですよ?」


「アストリッドひとりだけに仕事を押し付けては申し訳ないですから。私にも少しばかり手伝わせてください」


 余計な節介、迷惑千万。


「私も行きますっ!」


 ここで声を上げたのはイリスだ。


 私の可愛いイリスは円卓のメンバーには馴染んできて、笑うことが多くなったが、私がいるときは私の傍にいる。そして、フリードリヒを警戒しているのだ。あんまりやりすぎて、フリードリヒがキレなきゃいいけど……。


「では、3人で行きましょう。連れは多い方がいいでしょうから」


 どういう理論でそうなるのかはいまいち私には分からないが、フリードリヒはとりあえずキレなかった。まあ、これで皇室とオルデンブルク公爵家とブラウンシュヴァイク公爵家が揃っていくわけだから、確かに威力は上がるだろう。


「それじゃあ、私たちは放課後にグランドホテル・ハーフェルの予約を取ってきます」


「よろしくねー」


 ということで、私たちは放課後にグランドホテル・ハーフェルに向かうことになったのだった。イリスが一緒だから、フリードリヒが地雷を踏ませようとしてくることは避けられるはずだ。多分、恐らく、メイビー。


…………………


…………………


 グランドホテル・ハーフェルはハーフェルの中心部の商業区画にあった。


 私たちが通う学園があるのはハーフェルの南で、皇室が暮らす宮城は帝都ハーフェルの中心部、それで商業区画は西にある。


 流石に歩いていくと結構な距離になる。ブラッドマジックでダッシュすればすぐにでも到着できそうだが、それだとイリスが置いてけぼりになってしまう。フリードリヒ? あれは別に置いていってもいいよ。


 ということで、私達は馬車でホテルまで向かうことになった。


 その馬車というのが、フリードリヒのです……。


「アストリッド。あなたが積極的に動いてくれるのは意外でしたよ」


「そ、そうですか?」


 畜生。話しかけてくるんじゃない。イリスが私の隣で胡乱な目で見ているのに気づいていないのか。イリスもあんまりそんな顔してないで。


「あなたは最初、円卓を忌避している感じがありましたから。最初のころは、あまり円卓に来たがらない様子でしたし、来ても図書館の本をずっと読んでいる、というのも多かったですからね」


 そりゃあね。最初は私だって円卓なんぞに連れてこられて迷惑してたよ?


 だけど、ヴァーリア先輩とかローラ先輩とかいい人もいたし、先輩方も次第に勉強の相談に乗ってくれるようになったから、円卓も悪くないかなって。


 それに人見知りのイリスに友達を作るには小さなサークルがいいかなって思ったし。


「今ではあなたは円卓になくてはならない人だ。勉学でも、スポーツでも、魔術でも、どんな場所に

おいても、あなたには人を牽引していく力がある。それが私には羨ましいのですよ……」


 そうフリードリヒが告げて遠い目をする。


 ああ。そういえばこいつ、次期皇帝が自分に務まるのかどうか疑問に感じているんだったな。何せ父親はカリスマ溢れる軍事指導者のヴィルヘルム3世と来てる。兵隊王の異名を持ち、プルーセン帝国を更なる大国に押し上げようとしている人だ。


 そんな大層な人の後任となれば、萎縮もするか。


 ちょっと可哀想だけど、そういう悩みはヒロインと話してね! 私に話さないでね!


「皇帝陛下のようになればいいのではないですか?」


 ここでイリスがそんなことを。


 わーっ! 我が妹よ! 地雷を踏もうとするなー!


「私は父上のようにはなれませんよ。父上のように強くはなれない。軍靴の音色に勇気を奮い立たせることもなければ、兵士たちの雄叫びに心揺るがされることもなく、戦場に命を懸ける勇気もない。私は父上の成りそこないなのです」


 これは相当重症だな。皇帝になる前から潰れそうになってるよ。


 高等部まで残り5年程度だからね。それまでもたせるんだぞ。そしたらヒロインがなでなでして、お悩み解決してくれるからね。


「そうなのですか。私はお姉様のようになりたいです」


 イリスはニコリと微笑んで私にそう告げる。


「イリスはイリスでいればいいんだよ。他の誰かになる必要はないんだから。イリスには私にはないイリスのいいところがある。私の可愛いイリスが私みたいになっちゃったら泣いちゃうぞ」


 イリスは本当に可愛いことを言ってくれるな。だけれど、私のような破滅フラグに囲まれた地雷原で暮らす、魔術オタクになってしまったらお姉ちゃん悲しいぞ。


「人には人のいいところがある、ですか」


 と、何を思ったのかフリードリヒが何かつぶやいている。とうとう頭をやられたか?


「やはりあなたは魅力的だ、アストリッド。これからもよろしくお願いします」


「は、はあ……」


 何かよく分からないが、フリードリヒが私に地雷を踏ませようとしていることだけは理解できた。なので、生返事して有耶無耶にしておく。お前の地雷はちょろちょろと動き回るから大変だよ。


 早くヒロイン来て! 私の精神が無事なうちに!


 けど、ヒロインが来ても私の破滅フラグは消えてなくなるわけではないのが悲しい。ヒロインは苛めないようにするけど、無事に高等部を過ごせるかなあ……。


 そんなこんなを思いながら、私たちはホテルに到着。


 グランドホテル・ハーフェルでは、フリードリヒが名前を出すなり総支配人がやってきて相手をしてくれた。


 8歳児の相手に総支配人がでるか……。流石は皇室……。


 そして、私たちは無事に懇親会の予約をして、会場を確保することに成功すると、総支配人の見送りを受けてホテルを去った。


 しかし、帰りの馬車でフリードリヒが始終ニコニコしているのが、とてつもなく不気味であった……。


…………………

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