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悪役令嬢ですが、これはタイタニック号ですか?

連載中の別作品と入れ替わっておりました。

訂正しましたのでお手数ですが改めてご覧ください。

…………………


 ──悪役令嬢ですが、これはタイタニック号ですか?



 叔母様とお母様に挨拶を済ませた私たちは使用人にボートを出して貰って、水遊びをすることにした。しかし、子供たちだけでは危ないと、うちの騎士のエアハルトさんが一緒に来ることになった。


 エアハルトさんは騎士だが、今日は甲冑は身に着けておらず軍服姿だ。湖で私たちが溺れたとき、甲冑じゃ助けにくいからね。


 ちなみにうちにはエアハルトさんの他に兵隊さんが4000名いる。現代の一個連隊よりちょっと多い規模の戦力だ。連隊長はお父様。


 プルーセン帝国ではこういう大貴族が自前の軍隊を有し、有事の際には皇帝の下で戦うというのが常だった。あるいは傭兵を諸侯や皇帝が雇い入れるか、だ。国家による常備軍はようやく兵隊王ヴィルヘルム3世の下で組織されつつあり、その規模もまた馬鹿にはできないものになりつつある。


 なので、私がお家取り潰しになった場合、私はその新設された常備軍、傭兵団、諸侯軍と戦わなければならないわけだ。


 ……今の火力ではちょっと厳しいな。もっと火力が必要だ。敵に衝撃と畏怖を与えるほどの膨大で抗うことのできない火力が。


「お姉様?」


「ああ。ごめん、イリス。ちょっと考え事してた」


 せっかく、可愛い従妹と湖でボートに乗っているのだから、余計なことは考えないようにしなければ。戦うにしてもまだ先の話だろう。この世界があのゲームの世界のように進むのならば。


「いつきても綺麗な湖だね。今日はちょっと霧がかかっているのが幻想的」


「そうですね。御伽噺の世界みたいです」


 ボートはゆっくりと湖畔の付近を回っていく。


 景色は綺麗だ。湖畔には鬱蒼とした森が広がり、湖は透明感がある。ときどき、魚影がボートの下を通り過ぎていくのがまた幻想的だ。


「お姉様。私はお姉様みたいに魔術について勉強してないんですが、学園でもやっていけるでしょうか?」


「大丈夫だよ。先生たちがみっちり教えてくれるから。それに、イリスなら精霊の円卓に招かれるだろうから、分からないことがあったらそこで私が教えてあげる」


 ブラウンシュヴァイク公爵家ならば、間違いなく精霊の円卓にお呼ばれするだろう。


「精霊の円卓って何ですか?」


「高級貴族子息子女のサロン、かな。実際はさぼり場みたいになってるけど」


 円卓は優雅にお茶をしながらお喋りする貴族子女や、学校内でのゴシップに花を咲かせる貴族子息子女のたまり場というのが、私の円卓の認識。ヴァーリア先輩がいうように勉学とか、人脈とか、義務とかはどうでもいいらしい。


 でも、最近は勉強していると成績のいい先輩がアドバイスしてくれたり、将来シュレースヴィヒ公爵家に嫁入りすることが決まっているヴァーリア先輩を初めとする高級貴族たちの間に交流ができた。


 これは将来、私が運命と対決するうえで役に立つだろう。


 ふふふ。見てろよ、運命。私は貴様をぼろ雑巾に変えてやるぞ。


「そこにいけば学園でもお姉様に会えるんですか?」


「うん。会えるよ。私は今は不定期に通ってるけど、イリスがお呼ばれしたら毎日通ってあげるからね」


 正直、鬱陶しいことこの上ない円卓だったが、可愛い従妹が入れば話は変わる。私の癒しの空間になってくれるだろう。上手く行けばフリードリヒガードにもイリスはなってくれるはずだ。


「学園が楽しみになってきました! 少し、他の人たちと仲良くできるかどうか不安なところがあったんですけど、お姉様がいらっしゃるなら安心です」


「私が友達になれそうな子を探してあげるね」


 イリスは結構人見知りするもんな。私にはなついているけど、これが見知らぬ人だとすぐにどこかに隠れてしまう。


 そんなイリスも円卓に入れば人慣れするだろう。従妹がボッチとか私が許しません。


「ふふ。お姉様のおかげで学園が本当に楽しみになってきました」


「それはよかった。2年後には学園生活を一緒に楽しみましょう」


 うんうん。私もイリスが入学してくるのが楽しみでならないよ。もう、いっそイリスと結婚したい。それぐらい可愛い。でも、私の本命はベルンハルト先生なんだ。叶わぬ恋だとしてもベルンハルト先生が好きなんだ。


「お姉様? あそこに馬がいませんか?」


「え?」


 私が驚いたのはイリスが湖畔の方ではなく、湖の方を指さしていたからだ。


 湖の上に馬?


「いけません! あれはケルピーです!」


 エアハルトさんが叫ぶ。


 ケルピーって何だっけ。あ、湖に出る馬と魚のキメラみたいな奴だ。なんでも背に乗ると、水底に引きずり込んで食べてしまう魔獣だったな。背中に乗らなくても、お腹が空いていたら襲って来るらしいけど、まさか今空腹というわけが……。


 と思ったら、ケルピーは凄い速度で私たちのボートに迫ってきたっ!


「向かってきたー!」


 こういう時に何故空腹なんだ君は!


「エアハルトおじさん、イリスを守って! 私は奴を仕留める!」


「え? それはどういう……」


 私は背中に背負っていたショットガンを握り、安全装置を外すと、狙いを迫りくるケルピーに向けた。よほどお腹が空いているのか、猫まっしぐらならぬケルピーまっしぐらである。


「可愛い従妹に手は出させないから!」


 ブラッドマジックで筋力を増幅し、私はケルピーに向けて引き金を引く。同時にブラウが胸ポケットから飛び出て、ショットガンの銃声を消音する。


 放たれたスラッグ弾はケルピーをかすめただけで、そのまま後方に飛び去ってしまった。くうっ、ボートが揺れるから狙いづらい……!


 だが、ケルピーも相手が未知の武器で武装しているということに気付いたのか、用心するように周囲を旋回し始めた。チャンスだ。


 私はハンドグリップを動かして次弾を装填し、ケルピーに向けて第二撃を叩き込む。次の銃弾はケルピーの腹部に命中し、ケルピーが苦痛に悶えるように暴れまわる。


 そして、ケルピーは大きく嘶くと決着を付けようとでもいうようにジグザグに私たちの方に向かって突っ込んできた。


 3発目、外れ。4発目、外れ。残り1発……!


「この馬刺し野郎! 大人しくくたばりやがれー!」


 私は心の底から叫び、ケルピーの頭部にめがけて引き金を引いた。


 5発目、命中!


 スラッグ弾はケルピーの頭部を抉り、脳漿をまき散らす。そして、ケルピーは痙攣しながら、湖底へとゆっくり沈んでいった。


「ふう。危なかった」


 私はそう言いながら、素早くショットガンにまた5発のスラッグ弾を装填する。第2のケルピーが現れるかもしれないからね。油断は禁物。


「お姉様、凄いです! あれは魔術ですか!?」


 すると、イリスが歓声を上げる。


「そう、魔術だよ。私特製のね。こればかりはとても危険だからイリスにも教えてあげられない」


「ええ! そんな!」


 ごめんね、イリス。ノームのおじさんと約束してるんだ。


「エアハルトおじさん。この湖ってケルピーなんて出る場所だったっけ?」


「いえ。確認されたのは初めてです。どこかで追われたものが、迷い込んできたのかもしれません。この付近には湖が4ヵ所ありますから」


 野良ケルピーか。迷惑な。どこから迷い込んできたやら。


「しかし、お嬢様がケルピーを倒されるとは……。ケルピー退治は冒険者ギルドでも、それなりに高難易度のクエストに指定されているのですが……」


「ビギナーズラックって奴だよ。危うく本当に食い殺されるところだったし……」


 最後の1発が命中してなかったら、私もイリスもエアハルトおじさんも食べられてたと思うと恐ろしい限りだ。初めて戦闘で恐怖を覚えたよ。人って守るものがあると、大変なんだな。


「じゃあ、他にもケルピーがいるかもしれないから、一旦別荘に戻ろう」


「そうですね。この霧ではよく敵が把握できませんから」


 というわけで、私たちのボート遊びはここで終わりになってしまった。本当は適当な湖畔でサンドイッチでも一緒に食べようとと思っていたのに。おのれ、ケルピーめ。私の従妹と過ごす時間を削りおって。


「ケルピーが出た、だと!?」


 別荘に帰ってエアハルトおじさんがそう報告するとお父様が叫んだ。


「はっ。よその湖からやってきたのかもしれません。ここは一度冒険者ギルドに湖の捜索を行わせるべきかと思います」


「そうだな。せっかくの別荘だというのに湖にケルピーなどが出没するのでは、おちおちと休暇も楽しめん。この後、釣りにでも行こうかとディートハルトと話しておったのに、釣りはお預けだな」


 お父様もせっかくの休みをケルピーに邪魔されそうになってご立腹だ。


 ちなみに、ディートハルトというのはイリスのお父さん。


「それで、そのケルピーは今どこに?」


「お嬢様が倒されまして、湖底に沈みました」


 げっ。素直に報告しちゃったよ、エアハルトおじさん。


「アストリッドが? アストリッド、お前はいつのまにケルピーが倒せるほどの魔術を学んだというのだ? そもそもどうやってケルピーを倒したのだ?」


「え、ええっと。火のエレメンタルで湖の水を加熱し、それで熱湯を浴びせて倒しました。いやあ、危ないところでした」


「え? お嬢様はあの奇妙な武器で……」


「しーっ! しーっ!」


 実際に熱湯を浴びせてケルピーが倒せるかは疑問だ。


「ふうむ。危ないことはするなと言いたいところだが、よくケルピーから身を守ったな。それにイリスのこともよく守った。無事で何よりだ」


 ふう。お父様は私とイリスが無事だったことで安心していて、私を追求しようとはしなかった。助かったあー。追及されてたらどう言い訳したらいいものか。


「アストリッドお姉様、凄く格好良かったです! 私もあんな風になりたいです!」


「学園に入れば魔術が習えるから、それをしっかり頑張るといいよ」


「いえ! お父様に頼んで今日から家庭教師を付けて貰います!」


 おおう……。私のせいで魔術オタク予備軍が生まれてしまった……。


 すみません、イリスのお父さんお母さん……。


 けど、イリスは真面目だからきっと勉強も頑張ると思いますよ。将来有望な魔術師になることでしょう。それは損ではないはずです。


 多分、恐らく、メイビー。


 と、とにかくケルピーが倒されて一段落したので別荘でイリスと遊ぼう!


「イリス、次は何がしたい?」


「いつもの丘の上でお弁当を食べたいです」


 ああ。イリスのお気に入りの丘か。あそこは見晴らしがいいから私も好きだ。よく、前進観測員ごっこをしていたな。ひとりで。弾着、今!


「じゃあ、丘の上に行こうか!」


「はい、お姉様!」


 私たちはこうして夏休みを満喫していったのだった。


…………………

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