悪役令嬢、新兵器開発
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──悪役令嬢、新兵器開発
私の兵器開発計画は着実に進行しつつある。
今、開発中なのは機関銃だ。
7.62x51ミリNATO弾を使用する機関銃だ。この7.62ミリ弾は比較的大口径で、かつては私が自動小銃に使っている5.56ミリ弾の代わりに使われていたものだ。
なんで、軍隊の偉い人が口径を小さくしようと考えたのかは、口径が大きい分弾薬が重くなってかさばり、かつ速射性に問題があって火力が発揮しにくかったからである。それでも完全に消え去ったわけではなく、一部の機関銃や狙撃銃には今も使われている。
──と軍事雑誌で読んだ。
私がこの問題ありそうな大口径弾を使用する機関銃を作ろうとしているのは、浪漫だからである。大口径弾は浪漫。それ以外の理由は特にない。
ブラッドマジックを使えば大口径弾の抱えている問題は解決できるし、ここはにわかミリオタの浪漫を優先したっていいよね?
しかし、この機関銃開発には問題がある。
これまでの銃火器では連続して発射する銃弾は最大でも30発程度だった。それをいきなり50発とか100発とか連射する機関銃に変えるとなると、撃針の魔力問題が生じてくるわけである。
あまり撃針に魔力を込めすぎると金属を伝って、装填中の銃弾やマガジン内の銃弾を暴発させてしまう。かといって撃針にあまり魔力を込めないと、撃針の魔力が尽きて連射が不可能になる。
私はまだ魔術素人なので、撃針の魔力が尽きてからすぐさま次の魔力を込めるとかいう器用なことはできない。魔力を込めるのは数秒かかる。その数秒が命取りになるかもしれないのだから、なるべく撃針の魔力が尽きないようにしたい。
そこで私は技術的ブレイクスルーを求められた。
「ノームのおじさん。撃針にこの金属を使えるかな?」
「ふむ。これは宝石の色を変えている金属じゃな。なじみ深い素材じゃ。だが、これだけでは些か強度に不安が残るの」
私が提示するのは、ヴォルフ先生から渡された物質の魔力制御の容易な金属だ。これを使えば総魔力量の50分の1の魔力を制御できるようになるらしい。そうなれば撃針に魔力を集中させ続けることができる。
だが、ノームのおじさんは渋い顔をする。
「じゃあ、合金とかにして」
銃は純粋な鉄だけでなく、さまざな金属をミックスした合金でできているのである。
「鉄の中にこの金属を混ぜ込む感じなら、いけないです?」
「ふうむ。不可能ではなさそうだが、よくそんなことが思いつくの」
私の知識は物理の教科書ではなく、軍事雑誌から得られているので、理系的にこの金属が混じった状況の鋼鉄の合金を説明することはできないけれどね! えへん!
「じゃあ、イメージしますんでよろしくお願いします!」
私はイメージする。軍事雑誌で見た解体図を。グアムで見せて貰った内部構造を。私が覚えている限りの機関銃の構造を。
「できたっ!」
完成だ!
見事なまでに大きな機関銃が私の目の前に二脚を立てた状態で鎮座していた。この武骨なデザインだけでもうたまらなく興奮する!
「撃針にはお前さんの言う通りにこの金属を混ぜた金属を使ってみたぞ。まあ、強度の面では問題ないだろうが、魔力制御については試してみるといい」
「ありがとう、ノームのおじさん!」
ノームのおじさんは親切だなー。私のわがままに付き合ってくれるなんて。
「では、試射と!」
私はベルト式給弾ではなく、マガジン式給弾を選んだ。ベルト式給弾だと、射撃補助の人材が必要だからね。私の運命との戦いは孤独な戦い。全てのことを自分ひとりでやれるようにしておかなければ。
射撃場はいつもの牧外れの平原。射的の的は藁人形。
私は興奮する気持ちを抑えながら、地面に伏せるとブラッドマジックで身体能力を強化し、反動に耐えられるだけの力を込める。機関銃にはちゃんと光学照準器付きで、レティクルの中心に藁人形を定める。
そして、引き金を絞る。
タタタタッと景気良く銃声が響き、藁人形が蜂の巣にされていく。この機関銃の銃声が心地いい。周りの人には騒々しいだけだろうけど、私には魂が揺さぶられるような感動的な音色だ。
そして、100連装マガジンを撃ち切ったが、途中で魔力切れになることはなかった。撃針に込めた魔力は他所に流れることなく制御され、100連発の射撃に耐えきったのだ。これは大きな一歩である。
「相変わらずうるさい代物だな。しかし、あの自動小銃と違って大量の攻撃が行えるとなると、やはりこれは──」
「世界のバランス・オブ・パワーを崩しかねない、でしょ。分かってますよ。私の将来における運命との戦いにおいて、このアドバンテージを他人に渡すなんて考えられないから、安心して」
ノームのおじさんは心配性だな。
私が武力を振るうのは恐らく運命との対決においてだけだ。鉄と炎の時代が迫っていようが関係ない。どうせ鉄と炎の時代はプルーセン帝国の勝利で終わると、ゲームにはあったのだから。
けど、実戦でのデータが取れるのはいいな……。
「何か悪いことを考えているだろう?」
「いえいえ。そんなことはなにひとつ考えておりませんよ?」
鋭いな、ノームのおじさん。
「まあ、今はその言葉を信じさせてもらおう。鉄と炎の時代は近いが、お前が無関係であるといいな」
ノームのおじさんは最後にそう告げると去っていった。
「無関係でいられるかな?」
ゲーム開始時には鉄と炎の時代はひとまずの安定を見せている。
流石のプルーセン帝国でも、小学生や中学生を動員したりはしないだろう。
その時の私はそう思っていたのであった。
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機関銃が完成すると私はこれまで作った自動小銃やショットガン、自動拳銃の撃針にも例の金属を使ったものにアップグレードした。これで長期戦になっても戦うことができるというものだ。
何度も使いグリフォンとコカトリスを仕留めたショットガンは愛着の深いものだったが、より使いやすくするには改良が必要なのだ。私は断腸の思いで、これまで作った銃火器を消し、一から作り直した。
しかし、問題はまだ残っている。
銃火器だけでは火力が足りないという問題。
そこで私はグレネードランチャーの制作に取り掛かった。
だが、グレネードランチャーを作るにはいくつかの技術的問題がある。
グレネードランチャーの発射はこれまで通り、爆発の魔術札を使うことでいいだろう。だが、肝心のグレネード弾の炸裂はどうやって制御すればいいのだろうか?
グレネード弾の信管の魔術札と魔力を注いだものを使い、衝突した衝撃によって炸裂するように調整する? それだと些か複雑すぎる上に、魔力の制御を間違うと、グレネード弾が暴発する恐れがある。
「うーん。どうしたものかなあ」
グレネードランチャーはお預けにするか?
いや、火力の向上にはグレネードランチャーは欠かせない。自動小銃と機関銃だけでは、火力が不足する。纏めて敵を薙ぎ払うには、グレネードランチャーを用意しなければ。これから先、この手の武器を作るときにも役に立つだろうし。
そこで私は考える。
信管の仕組みはちょっと理解できる。銃と同じで衝撃で撃針が動き、それによって火薬が炸裂し、最後に本体の火薬が誘爆するのだ。
これを魔術によって再現するとなると……。
衝撃で魔力を込めた撃針を準備し、それを魔力札で爆発させ……。
って、魔術札が誘爆することはないから、信管は意味がない。
衝撃で撃針が動いて、魔術札に直接魔力を流し込むのが適切かもしれない。というか、他に方法がないな。
あ、そういえば、時間で炸裂するグレネード弾は作りやすいかも。あらかじめタイマー式に撃針が動くようにセットして、それから発射。うん、微調整が必要な場面では使いやすそうだぞ。
だが、やはり問題は撃針の魔力制御なんだよなあ。
一度遠くに飛ばしたグレネード弾の魔力を制御するのは困難だし、撃針の魔力が他に流れ込んで誘爆するのも望ましくない。
でも、あの機関銃を実現した代物ならば、撃針に魔力を込めたまま、放てるかもしれない。いや、それはちょっと都合がよすぎる考えかな?
だが、思いついたら試してみるべきだ。
早速、作ってみよう!
「また妙なものを作るのだな?」
ノームのおじさんは呆れ気味にそう告げた。
「ノームのおじさん。頼みたいのだけれど、魔術札を中に入れた状況でこれって作ることができる?」
「できないことはないが、物騒な魔術札だな」
「えへへ」
「どこに褒めている要素があったと思ったのだ?」
ノームのおじさんがため息を吐くのに、私はとりあえず笑っておく。
「だが、この構造じゃと魔力の流れが不安定じゃな。いっそ、魔力の通りにくい金属を使ってみてはどうだ?」
「え!? そんな金属あるんですか!?」
初耳だ。そんな金属があるならば先に教えておいて欲しかった。
「だったら、機関銃の素材なんかもそれで……」
「生憎、オリハルコンなどと違って熱や衝撃には弱い金属なんじゃ。お前さんのいう“きかんじゅー”などには使えぬぞ。そんなものに使えば、あっという間に本体そのものが壊れてしまうからな」
がーん。まあ、そんなに都合のいい話があるわけないか。
「じゃあ、グレネード弾は撃針が例の金属で、表面はある程度強固な金属で補強し、本体はその魔力を通しにくい金属を使ってみてください」
「はいはい。やってやろうではないか」
わーい! ノームのおじさん、大好き!
「ほれ、これでいいか?」
出来上がったのは私が想像した通り、見事なリボルバー式の弾倉を備えたグレネードランチャーとグレネード弾だ。くうっ! この武骨なフォルムが心に響く! 撃って、撃ってーって私に囁いている!
「オッケー! 試し撃ちしてみるね!」
「お、おい。待たんか。もし、暴発でもしたら……」
これを目の前にして撃つなという方が不可能だ。念のため爆発の魔術札は威力が弱いものを選んでおいたし、撃つね! グレポンを楽しませて貰うね!
私はそう思って引き金を引いた。
グレネード弾は最初の放たれる際の衝撃では炸裂しない。撃針が暴発を阻止するためにロックされているからだ。そのロックはグレネードランチャーのライフリングによる遠心力で撃針が動くことで表面のキャップが外れることで解除され、撃針が露出するに至って炸裂可能な状況になる。
そして、撃針が突き出た状態でグレネード弾が着弾。
炸裂!
グレネード弾は微弱な炸裂ながら、的である藁人形の傍で炸裂した。
完璧だ! 破砕の効果も周辺藁人形に破片が突き刺さっていることから理解できる。
ふへへ。やったぞ。やったぞ。私とノームのおじさんはついにグレネードランチャーを実用化した。待ってろ、運命。今、思いっ切り殴り倒してやるからな。コテンパンにしてやるからな。
「お前さん、病気じゃの……」
ノームのおじさんがそう告げるのは聞かなかったことにする。
しかし、こうして機関銃とグレネードランチャーを実現したが、まだまだ火力が不足している。一国の軍隊を吹き飛ばすには火力不足だ。相手だって魔術で火球を飛ばしてきたりするわけだから。
となると、やはり最後は“あれ”をつくるしかないな。
その前に“あれ”を扱えるだけの体力と魔術を鍛えておかなければ。
希望の未来に向けて、レッツゴー!
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