元悪役令嬢、計画外のおめでた
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──元悪役令嬢、計画外のおめでた
最近、なんか調子が変だなと思いブラッドマジックで身体検査をしたところ──。
「……できちまったか」
「……できちまいました」
おめでたである。
いや、子供はふたりで十分だと思っていたんだけど、夫婦の営みがあり、そしてこの世界にはいろいろと足りない物がある以上、いつかはこうなるのではないかとは思っていたのですが。
「よし。めでたいことだ。だが、これでますます忙しくなるな……」
「大丈夫じゃないですか? エリーとマンフレートも手がかからなくなってきてますし。ただ、子供部屋の数を増やさないといけないですね……」
「手がかからなくなったわけじゃないぞ。好き勝手やってるだけだぞ」
「え」
最近、野生児染みた行動も収まってきて安心安心と思っていたのだが……。
「フェンリル、あれが山に子供たちを連れだしてる。それで狩りだのなんだの教えている。何もしてないって顔してるがこの間、確認した」
「ええー!?」
「子供も大きくなって知恵が回るようになったからな。嘘はつくし、証拠隠滅はするし、でもそれでいて成績はいいんだから、まあいいのか悪いのか……」
「成績がいいのはベスのおかげだと思う次第です。絶対にフェンリルのおかげじゃないです。そのはずです」
ベスは子供たちの家庭教師役を引き受けてくれている。
子供たちは勉強よりもアウトドアな活動的というか落ち着きのない子たちだが、最近では勉強に興味を持ってくれているとベスも語っていた。
し、しかし、それが証拠隠滅のためだったとは……。
「あれ以上野生児になったらお婿さんもお嫁さんもできませんよー。円卓では上手くやってるんですか?」
「ああ。意外とコミュニケーション能力は高くてな。同世代からも上級生からも可愛がられている。特に上級生は猫かわいがりしているぞ」
「それでは私のようにはならなくて済みそうですね!」
「まあ、可愛がりと言ってもペットを可愛がるようなものだが」
「ダメじゃないですかー! やだー!」
結婚相手で苦労しまくった私としてはエリーとマンフレートには苦労してほしくなかった。しかし、エリーは本気でハインリヒ殿下と結婚するつもりなのだろうか……? そうなったら我が家が大変なことになるのだが……。
悪役令嬢を引退してスローライフとはいかなそうだぜ。
「しかし、おめでたとなると皆に知らせておかなければな。エリーとマンフレートも弟か妹ができるとなると大人しくなるかもしれないぞ?」
「どうでしょうねー?」
あまり期待はできない。
「とりあえず、身内には知らせておきます」
「こっちも身内には知らせておく」
そうやってあたふたと新しい子供の誕生を各方面に知らせ回った私たちであった。
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妊娠も2回目となると楽!
……ごめんなさい。嘘つきました。めっちゃきついです。
あれから各方面に連絡したところ、お父様たちは新しく孫ができるのを歓迎していた。うちはお母様が妊娠しにくい体質だったらしく、私を妊娠するのにもいろいろと試したらしい。それから随分と間が空いて弟ができたわけですが。
うちの野生児2名にも弟か妹ができるわけですが、どんな気分かなと聞いてみた。
「妹がいい! 仲良くするから!」
「弟がいい! 子分にするから!」
エリーとマンフレートがそれぞれそう告げる。
「君たちはお兄ちゃんとお姉ちゃんになるんだよ。立派にしてなきゃダメだからね。先達としてお手本を見せるんだよ」
などと話していてから、10月あまり。
無事出産しました。
女の子です!
「疲れたー……」
「ご苦労様。可愛いぞ。抱いてみるか?」
「是非是非」
ちなみにこの世界の乳児死亡率はかなり低い。ブラッドマジックの恩恵だな。
「エリーとマンフレートより大きいですね」
「あの子たちは双子だったからな。ふたりでひとりの体にいたんだ」
「そっかー。君はお母さんを独り占めできたんだぞー。嬉しいかー?」
赤ん坊はきゃっきゃっと笑っている。
「エリーとマンフレートもお見舞いに来ているぞ」
「呼んでください。ただし、赤ん坊を抱かせるのはなしですよ」
「分かってる」
やがて、我が子たちが入ってきた。
「わー! 赤ちゃんだー!」
「もうお喋りできる?」
エリーとマンフレートはトトトやってきて、ベビーベッドを覗き込む。
「まだお喋りはできないよ。君たちも小さいときはこんな感じだったんだよ?」
「そうなんだ。あんまり覚えてないや」
「まあ、そうだろうね」
私に至ってはこの体で生まれた覚えすらない。いきなりこの体だったのだ。
「お姉さま。出産おめでとうございます」
「イリス! ありがとう!」
それからお見舞いのお客さんがひっきりなしにやってきた。
……カミラさんがやってきたときはまたベスと一発触発の状態になったけど。
「きっといい魔女になりますよ」
「なーりーまーせーんー」
帰った、帰った!
「新しい命の誕生ですね」
「うん。ベスの子供だと思ってね」
「ええ。そう思わせてもらいます」
そして、私たちは新しい家族を迎えて前に進んでいく。
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