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元悪役令嬢と子供たちのお誕生日会

…………………


 ──元悪役令嬢と子供たちのお誕生日会



 日が経つのも早いもので、我が子たちも7歳になりました。


「ベルンハルト。誕生日プレゼントは何にしましょう?」


「んー。エリーにはぬいぐるみ。マンフレートにはブリキの兵隊人形でいいんじゃないか? 前々から欲しがっていただろう。……クロスボウの次くらいに」


「教育間違えましたね……」


 どういうわけかワイルドな趣味をしている我が子たちはクロスボウやらなにやらを欲しがるのである。それから私の使っている銃火器も密かに狙っているのは知っているからね? それは君たちにもこの世界にも早すぎる代物なんだよ?


「まあ、フェンリルがいるからなあ。あれに一部でも教育を任せたのがダメだった」


「子供のころに犬を飼うと情操教育にいいと聞いたのですが……」


「あれは犬か?」


「……神獣です」


 地球にいたころ、子供のころに私は犬を飼いたくて親にねだったのだが、結局飼わせてはくれなかった。子供たちには寂しい思いをさせまい! とも思ったが、フェンリルがいたので任せてしまった。それが失敗である。


「でも、教育のためには絵本とかどうです? きっと勉強になりますよ?」


「ふうむ。一理あるな。考えておいてもいいアイディアかもしれない」


「学校の先生としてはどうです?」


「最近の親はなんでも学校にやらせようとするから自主学習してくれるのは大助かりだ。昔はもっとこう学校は社交の場って割り切っている親の方が多かったんだがな」


「サロンとかありましたしね」


 円卓のことは今でも覚えている。


「ところで、エリーとマンフレートはサロンでちゃんとやれてます?」


「今のところ苦情はないぞ」


「……いや、苦情の有無ではなく、社交的にやれているかという話でして」


「そういうお前はちゃんとやれてたのか?」


「やれてましたよー。多分……」


 今は全て終わって一段落だが、私が学園にいたころには地雷どもが地雷だったのだ。多少の挙動不審なところはあったかもしれない。多少は。あくまで多少は。


 円卓の行事にはちゃんと出席してたし、今でも円卓の先輩方とは交流あるし。


「エリーがハインリヒ殿下と婚約するとか言っているのはともかくとして、マンフレートたちには円卓でいい人を見つけてほしいですね。私のように卒業間際に大慌てしなくて済むように」


「その大騒ぎのおかげで俺は今、幸せなんだがな」


「もー。ベルンハルトってばー」


 私は頬が紅潮するのが分かって恥ずかしくなった。


「将来の結婚相手は重要ですよ? 家柄とかはお父様たちが文句を言ってきますし、私としては頭脳が冴えた子がいいですね。それからあの野生児たちを相手にしても平気でいられるタフネスがあれば文句なしです」


「俺は家柄はどうこう言えんな。俺自身、そもそもそんな高貴な生まれじゃない。だが、確かに頭脳明晰であることは教師として重要だと考える。これからは貴族の領地も相続やらなにやらで減っていくだろうし、頭脳で食っていけるようにならないとな。医者なんていいんじゃないか?」


「お医者さんですか。いいですね、いいですね」


「それか弁護士。法律関係の仕事は職にあぶれないぞ」


「おー。マンフレートにはいつもの言い訳を発展させて弁護士になってもらいたいものです。そうすれば私たちとしても安心できます」


「まあ、何はともあれ、いい子が結婚相手になってくれるといいな」


「ですねー」


 とは言え、野生児ふたりのことだ。医者や弁護士にはまず興味を示すまい。


 将来の夢を今度聞いてみようかな?


 ……動物博士とか言われても、お母さんは応援するからね!


…………………


…………………


 誕生日会前日。


「ママ。お友達も呼んでいい?」


「呼んでいい?」


 前日になってこういうことを言い出すのが我が子たちです。


「いいけど……。そんなに大勢じゃないよね?」


「円卓の人全員!」


「はい、無理です」


 円卓の人全員を招待できるほどに仲良くなれたのは評価するけど、円卓の子たちって上級貴族の子女だから、もてなす側も気を使うのだ。公爵家や侯爵家に失礼はできない。私たちも一応はそれ相応の貴族だけれど、まあ紆余曲折あったので。


「なら、何人ならいいの?」


「いいの?」


 うーん。うちのダイニングが最大で10名程度。料理は当日料理人さんを雇う予定だし、食材も買い足しがきく。となると私、ベルンハルト、ベス、エリー、マンフレートで残り5名といったところか。


「5人くらいまでならいいよ」


「5人ー……?」


 そうねだるような顔をしてもいきなりダイニングは大きくできません。


「ハインリヒは呼んでいいよね?」


「う、うーん。そこはハインリヒ殿下と交渉してきて……」


 皇太子を招待するのはうちのセキュリティーで本当に大丈夫なのか不安になるよ! エルザ君たちともいつか折を見て話しておかなければいけないな……。


「他に誰を呼ぼう」


「じゃんけんで決める?」


 子供たちは自分たちの誕生パーティーを目前に湧き立っている。


 こういうところは本当に子供らしくていいよなあと思う私であった。


 私が子供のころはちょっとすれてたからね……。まあ、転生してたのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど。


 それでもミーネ君やロッテ君は大人びていなかったか?


 私の子供たちはちょっと子供らしすぎるのでは?


 私は訝しんだ。


 教育が悪かったわけじゃないよね……? ちゃんと教育は施したつもりだ。ベスもいたし、ベルンハルトもいたし、フェンリルもいたし……。いや、ちょっとまていたら不味いものが混ざらなかったか?


 まあ、いいか。親にとっては子供たちが楽しそうなのが一番だ。


 私のように破滅フラグに怯えるような人生は送ってもらいたくないものだ。


 さてさて、人数が増えた分の準備をしておかないとね!


…………………


…………………


 誕生日会当日。


 円卓の会長は百歩譲っていいとして、本当にハインリヒ殿下が来た……。


「お、お邪魔します」


「上がって、上がって!」


 私は周囲を見渡すがおつきの騎士とか使用人とかいないぞ。


 エルザ君ー! 庶民感覚なのは気さくで親近感が湧くけど、息子さんの護衛はちゃんとしてあげてー! またオストライヒ帝国の残党とかに襲撃されたら大変だよー!


「ど、どうぞ、ハインリヒ殿下……」


「あの、これはエリーさんとマンフレートさんに」


「ああ。それは直接渡してあげて。その方が喜んでくれるから」


「わ、分かりました」


 ううむ。エルザ君のあの大胆な性格は本当にハインリヒ殿下には受け継がれなかったんだな。あの子、接客中に教科書読んでたぞ。大胆というか、肝が据わっているというか、なんというか……。


「それでは今日は私たちの誕生日会を楽しんでいってね!」


 エリーがそう開会を宣言する。


 それからはわいわいとした楽しい時間が過ぎた。ハインリヒ殿下にうちの食事が合うかは疑問だったが、別段苦情はない。宮廷の料理と違って、華々しさこそないものの、味についてはこの私も美味しいと確かめているのだから文句はないはずだ。


 そう、わたしもこう見て公爵家令嬢なんですよ!


「エリー、マンフレート。こ、これ、誕生日プレゼント」


「わあ! ありがとう、ハインリヒ!」


 エリーはプレゼントを受け取ると、ハインリヒの頬にキスをする。


「よ、よ、よ、喜んでもらえて嬉しいよ!」


 ハインリヒ殿下、喜びすぎです。


「プレゼントは何かな、何かな?」


「釣り竿だー!」


 おお。そう来たかー!


「ふたりともそういうの好きでしょう? だ、ダメだったかな?」


「そんなことないよ! ルアーまでついてて! 今度一緒に釣りに行こうね!」


「うん!」


 さりげなくデートの約束まで取り付けるとは恐るべし。


「エリーさん、マンフレートさん。私からプレゼントです」


「……ベスおばさん。それなに?」


「開けてみてください」


 子供たちはベスには物凄く警戒している。


「な、なにこれ……?」


「鈍器?」


 包装を破って出てきたのは辞書だった。


「辞書です。それを使って、しっかり勉強してください」


「はーい……」


 子供たちはベスには逆らえないのだ。


「さて、ママとパパからもプレゼントだよ」


「何々?」


 エリーとマンフレートがトトトと駆け寄ってくる。


「オオカミのぬいぐるみとブリキの兵隊だよ」


「わあい! やったあ!」


 本当はクマのぬいぐるみを買うつもりだったのだが、オオカミの方が可愛かったのでこちらにしてしまった。フェンリルが好きなエリーだから喜んでくれるとは思っていたよ! これぞできる母親!


「フェンリルにあげよう」


「いやいやいや。これはエリーへのプレゼントなの。フェンリルにはフェンリルの誕生日にまた別に買って上げるからね?」


「そうなんだ。フェンリルは何歳なの?」


「う、うーん。10歳くらいかな?」


 10歳ではないだろうな。


「マンフレート。ブリキの兵隊はお誕生日やクリスマスの度に買ってやるからな。そのうち軍隊ができるぞ。だから、大切にしておくんだぞ?」


「はーい!」


 ベルンハルトはセットのブリキの兵隊ではなく個別売りのブリキの兵隊を買ってあげることにしていた。その方が子供たちの成長が分かるし、ブリキの兵隊を卒業したら大人の証ということらしい。流石は私の旦那様だ。考えてる。


「それじゃあ、誕生日ケーキの時間だよ!」


 今日は大張りきりして、ケーキを準備したのだ。


「大きい!」


「食べていい? 食べていい?」


 子供たちは見たこともないような大きなケーキに感動している。


「その前にろうそくを消してね!」


「これを消すの?」


「一息で消せると幸運なことがあるらしいから、ふたりで一緒に頑張って」


「了解!」


 エリーとマンフレートがケーキの前に立つ。


「ふーっ!」


「ふーっ!」


 ふたり一緒に息を吹きかけ、ろうそくの炎はきれいに消えた。


「おめでとう。また来年を楽しみにね」


「うん!」


 こうして子供たちも大人になっていくのだろうな。


 子供たちの前途を祝して私も今日はお祝いだ!


…………………

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