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元悪役令嬢と授業参観

…………………


 ──元悪役令嬢と授業参観



「授業参観?」


 帰ってきたマンフレートが告げた言葉を私は繰り返していた。


「そう、授業参観があるんだって! 保護者の方は出席してくださいって!」


「くださいって!」


 マンフレートとエリーがそれぞれそう告げる。


「うーん。授業参観とか聞いたことないんだけどな」


「ああ。それは最近始まったからな」


 私が首を捻るのにベルンハルトがそう告げる。


「学園の透明化を図るということで、初等部2年で1回、中等部2年で1回、高等部2年で1回。計3回行われることになった。この子たちももう初等部2年だから、その時期が来たということだろう」


「時が流れるのは早いですねー」


 ついこの間入学したと思ったら、もう2年生になってる。


 それにしても学園の透明化か。誰が言い出したんだろう。それまで学園が怪しいことでもしてるって考えている人がいたのだろうか。確かに学園はちょっと閉鎖的なところがあるけどさ。それで迷惑もしたけどさ。


「ちなみに今まで行われた授業参観は好評だったぞ。子供の成長がみられるってな」


「確かに子供たちの成長を見てみたいですよね」


 子供たちの学園生活は妖精を使ってちまちまと監視しているのだが、何分学園には見える人が多いので監視はやりにくい。この子たちは本当に学園で問題を起こさず過ごしているのだろうか。


 それを確認するためにも授業参観に臨まねば!


「ベルンハルトは出席しますよね?」


「ああ。その日は休みを取る予定だ。特別教師というのは存外暇でな。好きな時に休暇が取れる。まあ、その分給料は低いし、立場も大きなものじゃないがな」


「いいじゃないですか。学園に普通に勤めてたときのベルンハルトはストレス貯め込みすぎでしたから」


「まあ、金の心配はいらんからな」


 ブラウンシュヴァイク家とオルデンブルク家からの資金援助はまだ続いている。正直なところ、投資で増やしたのでそこまで必要はないのだが、お父様たちが受け取れというので受け取っておく。子供たちのために使おう。


「ベスはどうする? 出席する?」


「私はある意味では無関係なので出席しない方がいいのでは?」


「そんなこと言わない、言わない。ベスだって大事な家族だよ。マンフレートとエリーもベスが出席した方がいいよね?」


 ベスが眉を歪めて告げるのに、私が子供たちに尋ねる。


「ベスおばさんも来てよ!」


「すっごく魔術が上手に使えるようになったんだから!」


 ほら、子供たちも大歓迎。


「はあ。では、失礼させていただくとしましょう。私も気になることがありますので」


 ベスが気になることってなんだろう?


「まあ、とにかくこれで決まり! 授業参観にはママ、パパ、ベスの3人で行くからね! ちゃんと頑張るんだぞ!」


「はーい!」


 うむうむ。いつものように返事だけは元気いっぱいだ。


 これで授業参観の日に問題行動に走った日には、他の親御さんや先生の前でどういう顔をしていいのか分からないな……。


…………………


…………………


 というわけでやってきた授業参観の日。


 今から子供たちが問題を起こさないか心配だが、私は子供たちを信じることにした。きっと可愛い我が子たちのことだから、何の問題も起こさずに親である私たちに成長した立派な姿を見せてくれるはずであるっ!


 ……というか頼むよ。お願い。問題だけは起こさないで。


 私も学生の頃は屋上から飛び降りて見たり、アーチェリー部の部室に乱入したり、教室にダイナミックエントリーしたりしたけど、まあ、それは過去のことなので。


 ……いや、問題行動を起こす遺伝子は私から引き継がれているのではなかろうかという感じがひしひしとする。学生の頃のやんちゃがこんな形で返ってこようとは! 誰が想像できただろうか! いや、誰も想像できない!


 と、とにかく、今日だけは私の問題遺伝子も鳴りを潜めて貰って、ベルンハルト由来の上品な遺伝子に覚醒してもらいたい。


 それから今日はベスについてきてもらっているから子供たちも変なことはできないだろう。ここで問題を起こせば後でベスに叱られるって分かっているからね。怖いものなしのような子供たちもベスに叱られるのは怖いのだ。


 うん! 安心!


 というわけで、授業参観に出発!


「クラスは2年A組。ここだよ」


「ふむ。妖精でいつも観察なさっていのでしょう?」


「ま、まあ、それなりには」


「ならばそこまで緊張されることはないのでは?」


「いやあ。子供たちは何するか分からないし」


 ベスが呆れたように私を見てくるのに私が後頭部を掻く。


 我が子たちながら油断ならない子供たちなのだ。普段から野生児だし、新入生オリエンテーションのときは勝手にサバイバルを始めるし、平素の授業態度も熱心すぎるというか明後日の方向に努力がすっ飛んでて、変な結果を叩き出すし。


 本当に我が子ながら油断できない!


「アストリッド。そこまで心配するな。子供たちも成長したはずだぞ。ちょっとは子供たちを信じてやれ」


「し、信じてないわけじゃないですよ! きっと子供たちも私たちの前では頑張ってくれると思うんです! でも、頑張りすぎてその努力が明後日の方向に向かわないかが心配なだけでして!」


 子供たちは頑張ると信じているけど、その頑張りのベクトルが気になるだけだ。


「まあ、見てみましょう。場合によっては今日はお仕置きです」


「た、頼むね、ベス」


 我が家の教育はベスが担っているといってもおかしくない。私はサバイバル技術を教えては野生児化を加速させている節があるし、ベルンハルトは子供たちには甘いし、フェンリルに関しては論外である。


 その点、叱ること褒めることの両方がちゃんとできて、貴族の礼儀作法にも詳しいベスは貴重な人材だ。これからも我が家の教育を支えて欲しい。


「……何を考えていらっしゃるのです、アストリッドさん?」


「いや。ベスは大事な人だなって」


「そうですか」


 ベスってばそっけないな。


「では、そろそろ教室に入りましょう。始まりますよ」


「はいはーい!」


 ベスが告げるのに私とベルンハルトたちが教室に入る。


「ママ!」


 子供たちは早速私を見つけた。


 ブラウで偵察してたから知ってたけど、マンフレートとエリーは隣同士の席なんだよね。問題児を隔離しているのかはしらないけど。


 そして、そのふたりの前にはハインリヒ君が。君は教師陣にマンフレートとエリーのストッパーとなることを求められているのかもしれないね……。


「アストリッド」


「は、はひっ!」


 いきなり背後から声がかけられてのに私がびくりとする。


「大丈夫ですか?」


「お久しぶりです、アストリッド様」


 誰かと思えばフリードリヒとエルザ君だった。皇族も授業参観には参加するのか。警備とか大変そうだけど、そりゃ我が子の成長を見守りたいよね。ちなみに、フリードリヒの父親である皇帝陛下だったら絶対こなかったと断言していいね。


「いえいえ。平素からハインリヒ殿下にはお世話になっていて、申し訳ないです」


「いや。うちの子こそ、マンフレート君とエリーちゃんから元気を貰って、友達を増やせたみたいで助かっています。帰ってきたらマンフレート君とエリーちゃんの話ばかりするのですよ。人見知りする子なのでここまで親しい友達ができてよかったです」


 エルザ君、優しい……。


 我が子たちの暴虐の餌食になっているだろうハインリヒ君をそのように評価してくれるとは、頭が下がる思いですよ。


「では、授業を始めます」


 そして、ついに授業参観が始まった。


 授業は担任の先生であるリンダ・フォン・リービッヒ先生が風のエレメンタルマジックについて教えていてた。魔力量の微妙な調節が課題で、先生が黒板に今日やるべきことを書いていく。懐かしいな。私たちも初等部の頃はこんなこと教わったよね。


「では、誰かお手本を見せてもらえますか?」


「はーい!」


 リンダ先生が告げるのにマンフレートとエリーが勢いよく手を挙げた。


 ……課題は煙を少量発生させることだけれど、大丈夫だよね?


「では、マンフレート君。お願いします」


「はいっ!」


 マンフレートがトトトと教壇に上がって、フラスコを前にする。


 あのフラスコに収まるだけの煙が作れたら成功。溢れたら失敗だ。


 やれるかな?


「はい!」


 おおっ! マンフレートが一発でフラスコの中を煙でいっぱいにした! 漏れてもいない! 大成功だぞ!


「ママ! 見てる! 凄いでしょ!」


 す、凄いけど、授業中にママに話しかけたらダメだよ。


「では、次は──」


 そんな感じで授業は進んでいき、特に我が子たちは問題も起こさずに終了した。


 ふーっ! ありがとう、マンフレート、エリー。君たちのおかげでママの体面は保たれたよ。


「どうだった、ママ! 凄いでしょう!」


「ねえ、ねえ。凄かった、パパ?」


 授業が終わるなり子供たちが駆け寄ってくる。


「よしよし。ふたりともよく頑張ったな。家庭教師のドミニク先生に教わっていたことが活かせたか?」


「うん! ドミニク先生から習ってたから余裕だったよ!」


 我が子たちの成長を前に私も涙が隠せませんよ。


「あっ! エルザ殿下!」


 そして、何故かエリーの注意がエルザ君に向かう。


「ふつつかものですが、よろしくお願いします」


「う、うん? どういうことかな?」


 いきなり何を言い出すんだ、エリー。エルザ君が意味が分からないって顔してるぞ。


「いえ。ハインリヒと結婚するのでご挨拶をと思いまして!」


「そ、そっかー。ハインリヒはもうお嫁さんができちゃったかー」


 エリー! 問題ないと思ったのに最後の最後でっ!


「こちらこそよろしくね、エリーちゃん。きっと素敵な花嫁さんになれるよ」


「はい!」


 あ、あれ? エルザ君、心なしか前向き?


「アストリッド様。これで親戚になれそうですね?」


「え、ええ。そうですね」


 え? 本気で結婚しちゃうの? 冗談とかじゃなくて?


「ハインリヒには引っ張ってくれるパートナーが必要だと思いますので、いいと思いますよ。正式な婚約は後日行いましょう」


 フリードリヒー! 逃げ場をなくす気かー!


「ま、まあ、それは追々ということで」


「ええ。着実に進めていきましょう」


 というわけで、授業参観は終わった。


 しかし、エリーが本当にハインリヒ君のお嫁さんなるのだろうか?


 まあ、子供たちの恋愛は親がいい相手を見つけられなかったら、自由にさせておいてあげようと思っていたので、別にいいのだが。


 子供たちの将来に幸がありますことを!


 こんなに成長したんだから、きっと幸せになれるよ!


 でも、我が子が巣立って行くのはちょっと寂しいかも……。


…………………

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