元悪役令嬢さんちの子供たちとサロン
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──元悪役令嬢さんちの子供たちとサロン
「さろん?」
私はエリザベス・ルイーゼ・フォン・ブラウンシュヴァイク。ママが言うにはピッカピカの1年生らしい。なにがピッカピカなのかいまいち分からないけれど。
それで、今、私の“こいびと”──大人っぽくてカッコいい!──であるハインリヒから話を聞いているところ。
「知ってるよ。冥府の橋渡しをする人でしょ?」
「それはカロンだよ」
「えーっと。お菓子の一種!」
「それはサブレ」
うーん。"さろん”が何なのかいまいち分からないや。
「その“さろん”ってなーに?」
「身分の高い貴族の子息子女が集まってお茶とかする場所だよ。エリーも誘われているから、そ、その、一緒に行かないかな?」
ふむ。身分が高い男の子や女の子が集まる場なのか。
うちって身分高いのかな? よく分からないや!
「釣りとか狩りとかキャンプには行ったりしないの?」
「う、うーん。どうだろう。ひょとするとそういうイベントもあるかもしれないね」
「わあい!」
私、釣りとか狩りとかキャンプとか大好き!
フェンリルがいろいろ教えてくれるし、外でママの作るご飯は美味しいし、とっても楽しいから! なんで、他の人はあんまりキャンプとかしないのかなー?
「なら、行く行く! お兄ちゃんも一緒でいい?」
「う、うん。マンフレートも呼ばれているからね」
生まれた時間とかは一緒なんだけど、マンフレートが私のお兄ちゃん。けど、お兄ちゃんらしいことはあんまりしてくれない。狩りのときも獲物を横取りするし、釣りをしてても糸を絡ませるし、キャンプで先に寝た方が負けってゲームでも負けてくれないし。
けど、お兄ちゃんのことは嫌いじゃないよ! お兄ちゃんもフェンリルもパパとママもみんな仲良しだからね!
「それじゃ、お兄ちゃん呼んでくるね。ちょっと待ってて!」
私はブラッドマジックで加速すると、お兄ちゃんを探して学園を駆ける。
おっと。いたいた! やっぱりここにいた!
「お兄ちゃん!」
「何、エリー?」
お兄ちゃんがいるのは中庭の池。そこに飼ってある魚を狙って、お兄ちゃんはよく釣りに挑んでいるのだ。
中庭の池は学園の上流から水が流れてきていて、魚も一緒に流れてくる。それを釣り上げるのがお兄ちゃんの趣味なのだ。学園の先生からは本当はダメって言われているんだけど、気付かれなければいいよね!
「ハインリヒが“さろん”にいこーって! 一緒に行こう?」
「“さろん”って何?」
「分かんない!」
分からないものは正直に分からないと言いなさいってベスおばさんも言ってた!
「面倒くさいなあ。ママは何か言ってったっけ?」
「うーん。学園では行儀よくしなさいってくらい?」
「なら、行儀よくしないとな。ベスおばさんに怒られるから」
ベスおばさんは怖いのだ。
何か私たちが悪戯をすると真っ先に見つけてお説教をするのだ。叩いたりはしないけれど、お説教は厳しいからなるべくなら怒られたくないかな。なので、ママとパパ、ベスおばさんの言うことはちゃんと聞いておくに限るよ!
「で、その“さろん”ってどこにあるの?」
「ハインリヒが知ってるから一緒に行こう!」
ハインリヒは私たちの最初の友達!
ハインリヒは何か他の子たちと違って、恥ずかしがり屋なの。それからとってもこーきな(?)血筋の子だから、他の子は遠慮しなくちゃいけないんだって。そういう風にママとパパ、ベスおばさんが言ってた。
だけれど、友達になったんだから遠慮しなくてもいいよね!
友達とは分け隔てなく付き合いなさいってママも言ってたし!
「それじゃあ、今日はこれぐらいで切り上げるか」
お兄ちゃんは釣り具を仕舞うと、私と一緒に歩き始めた。釣り具はこっそりと荷物に紛れさせて持ち込んだレアなものなのだ。ママとパパも学園じゃ、釣りとか狩りとかしちゃダメって言うから。
ママとパパはなんでもダメダメで禁止するから困るよ!
「“さろん”って何だろうね?」
「何かな? 妖精さんは知ってるかな?」
そう、妖精さん! この間、トールベルクの森で契約した妖精さんが胸ポケットにはいるのだ。お菓子が大好物で、ママの作ったクッキーや買ってきたケーキなんかを美味しそうに食べている。そういうのを見ると心が安らぐよね!
よくわかんないけど!
「妖精さん、妖精さん。“さろん”ってなあに?」
「ふえっ? “さろん”? 新しいお菓子じゃないの?」
「ハインリヒはお菓子じゃないって」
「うーん。なら、分からない!」
「分からないかー」
妖精さんも分からないことがあるんだね。
「ハインリヒー! お兄ちゃんを連れてきたよー!」
「あ、ああ。なら、一緒に行こうか」
ハインリヒは親切な子だ。勝手にひとりでいったりしない。必ず待っていてくれる。
「それで“さろん”って何?」
「う、うーん。お菓子とか食べる場所かな?」
「お菓子!」
お菓子があるならいかないわけにはいかない。私の妖精であるフェイもお菓子が大好きなのだ。いつもはママにお菓子ばかり食べさせちゃダメって言われてるけど、お菓子を食べる場所なら、いくらお菓子を食べさせてもいいよね!
「行こう、行こう! お菓子食べに行こう!」
「い、いや、別にお菓子ばかり食べる場所じゃあ……」
「行こう!」
ハインリヒは何か言いたげだったけれど、私とお兄ちゃんがせがむのにその“さろん”に向けて進み始めた。
“さろん”は学校の中にあった。学校でお菓子食べてもいいんだ。
「じゃ、じゃあ、先輩たちもいるから、礼儀正しくね」
「分かった!」
いつだって私たちは礼儀正しいよ!
「し、失礼します」
ハインリヒが扉を開けるのに、私たちが扉の中を覗き込んだ。
「いらっしゃい!」
私たちが入ると年上の学生の人が出迎えてくれた。
「私はクリスティーネ・ヘルガ・フォン・シュレースヴィヒ。あなたたちの先輩よ」
「初めまして、クリスティーネ先輩!」
目の前の学生が告げるのに、私たちは元気よく挨拶。君たちは挨拶の元気だけはいいよねってママにも褒められているのだ!
「まずは会長に挨拶しないとね。ヒルトブルク先輩! 1年生の子たちが来てます!」
「まあ、通して、通して」
私たちがよく分からない間に私たちはヒルトブルク先輩なる人物のところに連れていかれた。しかし、このクリスティーネ先輩にはどこか見覚えがある気がする。
「ほら、こちらはヒルトブルク・イルゼ・フォン・ハルデンベルク先輩。さっきみたいにご挨拶して?」
「初めまして、ヒルトブルク先輩!」
この人は本当に初めて会う人だ。とっても上の学年の人。優し気な表情をしている。
「この子たち、私たちの母たちがそれぞれ友達なんですよ。ね、マンフレート君、エリザベスちゃん?」
「ああ。思い出した!」
そうだ! ママに前に連れていってもらった“こんしんかい”とかいう場所でクリスティーネ先輩には会ってるや! 私ってば、すっかり忘れてた! でも、随分前の話だから仕方ないよね?
「マンフレート君にエリザベスちゃんって言うのね。とっても可愛いわ」
「エリーって呼んでください! みんなそう呼びますから!」
「そう? なら、エリーちゃん、よろしくね」
そうだ、そうだ。ハインリヒのことも紹介しないと。
「こっちはハインリヒ! 私の友達です!」
「よ、よろしくお願いします……」
ハインリヒの挨拶はいまちい元気がないや。それでいいのかな?
「まあ、ハインリヒ殿下。ようこそ、精霊の円卓へ」
いいらしい。流石は“こーき”な血筋の子だ。特別なんだね!
「すみません! この“さろん”って何する場所なんですか?」
「ここはね。身分が高すぎて普通の友達とは付き合うのが難しい人が集まる場所なんだよ。あなたのお母様もこの円卓の出身の方なの。私の母もね!」
「へー。でも、私たち友達普通にいるよ?」
クラスの子、みんな私とマンフレートの友達!
「うーん。じゃあ、円卓でもっと友達増やそうか?」
「うん! 増やします!」
友達は多ければ多いほどいいってママも言ってたしね!
「では、今日は歓迎のお茶会ね。ささ、テーブルについて」
「はい!」
「妖精も一緒でいいですか?」
ヒルトブルク先輩が告げるのに私が尋ねる。
フェイも一緒じゃないとやだなー。
「妖精も一緒でいいわよ。さあ、一緒にお茶とお菓子にしましょう」
「わあい!」
それから私たちはお茶とお菓子でこの円卓に来たことを歓迎された。
ハインリヒは照れてるのか、あんまり喋らない。私にだけは話しかけてくれるけど。もっとみんなと喋らないと友達できないよ?
そして、とっても楽しかった時間はおしまい!
フェイもお菓子をいっぱい食べれて満足してたから、今日は100点満点!
ママにその日のことを話したら「そっかー。君たちも円卓に加わるのか。歴史はこうして積み重ねられていくんだね」とどこか懐かしそうに語っていた。
歴史はよく分からないけど、楽しいことが増えたから満足です。
これでハインリヒとももっと仲良くなれるかな? 私の“こいびと”だからもっと仲良くしないとね! ママとパパみたいに!
これからの学園生活、楽しいことがいっぱいありそうでワクワクする!
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