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元悪役令嬢と意外な訪問者

…………………


 ──元悪役令嬢と意外な訪問者



 今日も今日とて平和だ。


 子供たちは裏庭でフェンリルと戯れている。フェンリルの方も子供たちと遊ぶのが楽しいのか、なかなか大人な対応で子供たちをあやしてくれている。ベルンハルトとベスは未だにフェンリルと遊ばせるのはちょっと……って感じだが、この風景を見ていると安心してもいい気がするのである。


 まあ、確かにフェンリルが子供たちにいろいろと狩りを教えて野生児化が加速するのは困るけどね! ウサギを罠で取ってくるのは驚かなくなったけど、即席で弓矢を作ってシカを仕留めてきたときには絶句したよ!


 流石にこのまま野生児化を進めるのは困るので、フェンリルには子供たちにあまり過激なことを教えないように頼んでおいた。だが、今度はベルンハルトがせっかくだからと釣りに連れていくそうだ。ベルンハルトは狩りより釣りが趣味らしい。


 もー! 子供たちが自給自足で生活する野生児になりそうだから、もっと教養的なことを教えてあげてー!


 まあ、かくいう私も子供たちに学生時代の武勇伝を語って聞かせているのですがね。だって、子供たちがこの間の竜殺しの魔女の一件で私の過去に興味持っちゃったんだもん。何度も聞かせて聞かせてというからご褒美にって言ったら、本当にご褒美貰えるくらいの成績をはじき出しちゃうんだからもー……。


 というわけで、子供たちには竜殺しの魔女の異名を賜わった炎竜2頭との一戦や、フェンリルとの一戦、ジャバウォックとの一戦、水竜との一戦、クラーケンとの一戦などなどの各種魔獣との一戦について話して聞かせた。


 子供たちは自分たちも同じことがしたいと案の定言い出し、私に機関銃やライフル砲を作る方法をせがんできた……。


 ただでさえ危なっかしい君たちに銃火器なんて持たせられるはずないでしょ! 君たちが博士課程まで卒業して自分たちで仕組みが理解できるようになったら、こっそり教えてあげるよっ!


 そういうことで今は平和だ。


 ああ。平和、平和。


 ついこの間まで帝国内戦だー! とか国外逃亡だー! とかやっていたのが懐かしい。もう私はいさかい事とは遠く離れた場所にいるわけだ。地雷を気にしなくともいいし、気楽な人生だぜっ!


『おい。我が主人。客だ』


 私がそんなことを考えていたら、フェンリルから念話が飛んできた。


「え? 誰、誰? 君が見えても大丈夫な人?」


『大丈夫だろう。何せ相手は──』


 私がフェンリルと視界を共有するとそこには──。


「セラフィーネさんっ!?」


 私は2階の窓から飛び降りて、子供たちの下にダッシュした。


「久しぶりだな、アストリッド。久しい再会なのにそんな顔をするな」


「しますー! 何しに来たんですかっ! 場合によっては相手になりますよ!」


 涼しい顔をして我が家の裏庭に立つセラフィーネさんに、私が唸るようにしてそう告げる。既に口径120ミリライフル砲は準備済みだ。いつでもぶちかませる。


「ママ。知り合いの人なの?」


「そ、そうだよ。とっても危険な人だからフェンリルの影にいてね」


 知り合いだけど、今は敵なのだ。


「で、何の用なんです、セラフィーネさん!」


「何。子供たちの成長を見に来ただけだ」


「それだけ?」


「それだけだ」


 意外なほどあっさりしてるな……。これはよからぬことを企んでいるのでは?


「ここまで押しかけてくるとはいい度胸ですね、“鮮血のセラフィーネ”」


「ベス!」


 私がセラフィーネさんと睨み合っていたら、裏口からベスが出てきた。


「ここに住んでいるのか、吸血鬼。呪われたエンゲルハルト。子供たちに悪影響がでるのではないか、アストリッド?」


「あなたよりマシだと思いますよ」


 ロストマジックという魔術の暗黒面にいるのはお互い様だ。だが、私は子供たちにまで両手を血で汚させたいとは思わない。


「まあ、そう邪険にするな。何も子供たちを取って食おうというわけではない。どれほど成長したのか見に来ただけだ」


「成長してると何かいいことでもあるんです?」


「ロストマジックの後継者になれる」


「げーっ!」


 そういえば妊娠が発覚したときにそんな話してたよなー! 私の子供たちにロストマジックを継承させたいって!


「い、いやですよ! 子供たちまで魔女になったらたまったもんじゃありません!」


「自分はロストマジックで散々得をしておいてそれはないだろう?」


「た、確かにそうですけどー……」


 私も学生時代にはロストマジックにお世話になったしなー。


 でも、結局のところ、私がロストマジックを習得せざるを得ない状況を作り出したのはエルザ君をホムンクルスにしたセラフィーネさんじゃん! 酷いマッチポンプじゃん! そんなの認められないよ!


「子供たち──マンフレートとエリザベスと言ったか。お前たちの母がフェンリルすらも従えた魔術を知りたくはないか?」


「ええっ!?」


「知りたい! 知りたい!」


 マンフレートー! エリザベスー! そう簡単に誘惑に乗るんじゃないー!


 確かにいろいろと私の武勇伝を聞かせて、その気にさせたかもしれないけどさー! だからって、簡単に乗りすぎだよー! ちょっとはこらえてー!


「ちょっと! 子供たちへのダイレクトアタックは卑怯ですよ!」


「決めるのは子供たちだ。そうだろう? お前はロストマジックを習得するのに親の許可を取ったか?」


「ま、まあ、取ってませんけど……」


 だからって、子供たちを直接誘惑するのは卑怯だ! そうだ!


「おばちゃんはどんな魔術が使えるの?」


「おばちゃんも凄い魔術師なの?」


 子供たちはセラフィーネさんに興味津々だ。困った……。


「ああ。凄い魔女だぞ。これを見るといい」


「おおっ!」


 セラフィーネさんが空間の隙間を開き、そこから出て来たのはケルベロス! 全滅したはずじゃあっ!?


「あれで全部だとでも思ったか? 生憎、ケルベロスの替えなどいくらでもある。どれも1000年越えの怪物たちだ。これが全て私のしもべだ」


「凄い!」


「ママ―! 私もわんわん欲しい!」


 もー……。セラフィーネさんは子供心を刺激するが得意すぎだよ……。


「ダメです。あれは学んじゃダメな魔術です。ああいうのを習う子のところにはサンタさんは来ませんよ?」


「サンタさんよりあれがいいー!」


 こ、この間、クリスマスが過ぎたからって、子供たちの変節っぷりが酷い!


「見たところお前たちは母を超える魔力を有しているようだな。それならば、ロストマジックを継承するに相応しい。いずれは不老不死の魔女となり、強力な使い魔を従え、魔術の可能性を追求し続けるのだ」


「カッコいい!」


「魔女になるー!」


 ……我が子たちながら、簡単に転びすぎじゃなかろうか。もっと、こう、怪しい人の言うことには警戒して欲しいんだけどなー……。


「とにかくダメ。魔女になると人を殺すことになるかもしれないんだよ? そんなとっても悪いことをした人は牢屋に入れられちゃうんだからね?」


「ええー……」


「牢屋はヤダー……」


 いつも御伽噺で悲惨な牢獄生活を送る罪人の話をしておいたおかげで、悪いことをするととっても酷い牢屋に入れられるよ! ということだけは徹底している。この点は子供の素直さに感謝だ。


「なあに、ロストマジックがあれば牢獄など打ち破れる。何人たりとも抵抗できぬ魔術を振るって、牢獄も監守も消し去ることが可能だ」


「カッコいい!」


「魔女になるー!」


 も、もー……。セラフィーネさんはさあー……。この人、本当に子供の成長に悪影響だよ。生きる有害因子だよ。私は早々にセラフィーネさんと手を切ってよかった!


「ロストマジックなんて習うとベスに怒られるよ?」


「ええー……」


「ベスおばさん怖いー……」


 牢屋がダメでもベスが怒るというと素直に言うことを聞いてくれる。ベスが若干額に青筋を浮かべているがこの際、気にしない。


「そのような貧弱な吸血鬼に怯える必要などない。ここで証明して見せようか?」


「相手になりますよ」


 一瞬でスイッチが入ったかのようにセラフィーネさんとベスが戦闘態勢に移行する。


「ストップ、ストップ! ここは私の家の裏庭だよ! 子供たちもいるんだし! 喧嘩は他所でやって! 他所で!」


 ふたりにブラッドマジックなんて撒き散らされた日には子供たちを裏庭で遊ばせられなくなるよ!


「案ずるな、我が主人。一瞬で食い殺してやる」


「もー! 君までやる気にならないの、フェンリル!」


 どさくさに紛れてフェンリルまで! 全く!


「とにかく! 無知な子供たちに付け込んで、ロストマジックを継承させようとするのはなしですよ、セラフィーネさん! ちゃんと物事の分別が付く大人になってからにしてください!」


「理解した。勧誘はまだ先にしよう」


 おや。案外、あっさりと折れてくれた。


 っていうか、大人になってから勧誘するつもりなの? 自分で言っておいてなんだけど、それはそれで困るんだけど!


「では、また大人になってからな、アストリッドの子らよ。いずれ、お前たちも世界を揺るがす人間になれるぞ」


「また今度ね、おばさん!」


 そして、空間の隙間に消えるセラフィーネさんに暢気に手を振る子供たちである。今度から悪い魔女が出てくる童話をもっと読み聞かせてやらなくては。それこそトラウマになるくらいに!


「これでよかったのですか、アストリッドさん?」


「まあ、子供たちも大人になればロストマジックの危険性を理解するだろうし、大丈夫じゃないかな? 私だって区別は付けたし」


 私は生贄を捧げて本物の“魔女”にはなってないからね。


「ママ。さっきの人、今度はいつ来るの?」


「君たちが大人になってからだからずーっと先。それまでは大人しくしててね」


 本当に子供のころからロストマジックを継承するとかダメだよ?


 というわけで、我が家の平和は保たれた。


 さて、今度ベルンハルトが釣りに出かけるから、その準備をしておかないとね。ロストマジックを継承して魔女になるより、野生児になってくれた方がいいというものだ!


…………………

新連載「うちの娘は少しおかしい【連載版】」を連載開始しました。

URL:https://ncode.syosetu.com/n2485fu/

よろしければ覗いてみてください。コメディです。

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新連載連載中です! 「西海岸の犬ども ~テンプレ失敗から始まるマフィアとの生活~」 応援よろしくおねがいします!
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