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元悪役令嬢のクリスマス

…………………


 ──元悪役令嬢のクリスマス



 今年もやって参りました、クリスマス!


 ちょっと贅沢な食事を楽しみ、プレゼントを贈るのだ。楽しみ、楽しみ!


「みんな、今年はいい子にしてた?」


「してたー!」


「してたー!」


 私が確認するのに子供たちが声を上げる。


「来年もいい子にする?」


「するー!」


「するー!」


 プレゼントが欲しいので今日は子供たちも素直である。


「じゃあ、魔術はママとパパ、そしてベスとドミニク先生が見てる場所でしか使わないこと。フェンリルはダメだよ。必ず大人が見てるところでしか使わないこと。魔術は何がどうなるか分からないんだからね?」


「分かったー!」


「分かったー!」


 本当に分かっているんだろうか……。


 この間の船の襲撃の件で、ああいう風になりたい! って子供たちが思っちゃって、ブラッドマジックを勝手に使っているところを4、5回見ている。エレメンタルマジックについても私の武器を見様見真似で作ろうとしているのが窺えた。困り者だ。


 まあ、魔術札は与えてないし、詳しい仕組みは教えてないから銃火器を再現するのは不可能だろうけど、似たようなものを作られるだけで背筋がぞっとする。子供が間違って銃火器に触れて、事故を起こした、なんてのは前世ではよくあることだったからね。


「本当に、本当に分かった? 危険なことしたらサンタさんは来ないからね?」


「うん!」


「分かってる!」


 むー。子供たちも最近は嘘を吐くことを覚えているから油断ならないのだ。この間も何もしてないよと言いながらフェンリルと一緒にウサギの丸焼き作ってたしな。私も買い食いとかはしたものだけど、獲物を狩って食うなんてことはしてないよ! というかフェンリルも子供たちを止めてよ!


「じゃあ、いい子のところにはサンタさんが来ます。ご馳走食べたら早く寝ようね」


「はーい!」


「はーい!」


 今日はご馳走である。


 というのもハーフェルまで出かけて、レストランで食事するのだ。


 あまり高価なレストランは子供たちが騒ぐと困るのでほどほどのところを予約。イリスとヴェルナー君夫婦も一緒である。新年のお祝いもイリスたちと一緒に祝う予定である。お父様お母様も孫にプレゼントをやりたいから来なさいと言われているし。


 まあ、前世では親に孫の顔も見せてやれなかった私が、ちゃんと孫の顔を見せられているだけ親孝行ものですよ。前世の私は一体どうなってるのかな? 自室で心臓発作でも起こして倒れて、腐乱死体とかになってたら嫌だよ?


「そろそろ行こうか、アストリッド。時間だ」


「ええ。行きましょう、ベルンハルト」


 前世の私がどうであれ、今の私は最高に幸せだ。愛する夫と子供たち、そしてベスとフェンリルに囲まれて過ごしているのだからね。それでいいじゃない。


 というわけで、レストランにレッツゴー!


…………………


…………………


「お姉様!」


「メリークリスマス、イリス!」


 レストランには先にイリスたちが到着していた。


「ふふ。クリスマスは明日ですよ。今日はクリスマス・イブです」


「ありゃ。そうだった」


 今日はまだクリスマス・イブだ。明日がクリスマス。


「では、ちょっと早いですけどお姉様たちに私とヴェルナー様からプレゼントです」


「私もイリスとヴェルナー君にプレゼント!」


 私とベルンハルトたちからイリスとヴェルナー君夫婦にプレゼントだ。


「これは……。揃いのブレスレットですか?」


「そう。イリスとヴェルナー君が末永く幸せでありますようにって願いを込めて。それからそれって子宝に恵まれるって噂の修道院が祝福してる品なんだよ。この間、ロマルア教皇国に行ったときに買ってきたんだ!」


 私からイリスとヴェルナー君夫婦に買ってきたのは揃いのブレスレット。この世界の貴金属の価値はいまいち低いのだが、恋愛成就とか子宝に恵まれるとか付加価値を付ければ立派なプレゼントになるのである。


 まあ、地球にいたらそんな気休めと思ったかもしれないが、ここは剣と魔法のファンタジーワールド! 不思議なことがひとつふたつあってもいいじゃない!


「ありがとうございます、お姉様。大切にしますね」


「うんうん。イリスも早く子供ができるといいね!」


 イリスとヴェルナー君の子供ならきっと美少女美少年だよ。楽しみだね。


「で、イリスたちからのプレゼントは……。わー! 子供服!」


 包みを開いたらそこには男の子向けの子供服と女の子向けの子供服が包まれていた。どっちも可愛らしい一品だ。


 子供服を買うのは結構考えるのだ。この年齢の子供はあっという間に成長してしまうので、すぐに昔の服は着れなくなってしまう。なので、可愛い服があっても買うのを躊躇ってしまうのである。


 その点、プレゼントでこうして貰うと非常にありがたい。子供たちの可愛らしさを満喫することができるからね!


 ……いや、投資のおかげで金は余るほど貯まっているのだから、子供服ぐらいいくらでも買えばいいと思うのだが、いかんせん貧乏性のために踏み切れないのだ。国外への逃走資金を蓄えていたときから染みついた精神なので仕方ない。


「ありがとう、イリス、ヴェルナー君! 子供たちもきっと喜ぶよ! ねえ、マンフレート、エリザベス?」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 うんうん。サンタさんの到来が近いので子供たちが素直だぞ。いいいことだ。


「じゃあ、クリスマスに乾杯!」


「乾杯!」


 それから私たちはレストランで素敵なディナーをいただいた。


 子供たちはやはりサンタさんの到来が近いのか好き嫌いもせずに、貴族として──ベスから──叩き込まれたテーブルマナーを守って食事している。ちょっとがっつきすぎなのが気になるところだが……。ちゃんと毎日美味しい食事を食べさせてるんだから、ちょっとお外で食事するぐらいでがっつかないで。


「ああ。そうでした。エリザベート様にもプレゼントがあるんです」


「私にですか?」


 ベスは私と一緒にブレスレットを買ったのでそれでお礼は済ませているのだが。


「これをどうぞ」


「これはブローチですね。ふむ、肖像画が入れられるようになっているようですが」


「はい。これからお姉様たちと一緒に過ごされるなら、一度肖像画を家族全員で書いていただき、そのブローチに収められてはどうでしょうか? きっといい思い出になると思いますよ」


「思い出……」


 イリスが告げるのにベスが感慨深そうにブローチを握った。


「ありがとうございます、イリスさん。お礼と言っては何ですがこれをどうぞ」


「これは?」


 ベスはポシェットを開くと、そこからふさふさの毛の束を纏めたキーホルダーを取り出した。


「バンダースナッチの体毛です。幸運を呼ぶお守りのようなものですよ。私の使い古したものですが、確かな効果があります。どうぞ受け取ってください」


「ありがとうございます!」


 へえ。バンダースナッチってのがどんな生き物なのか分からないけど、そんなものもあるのか。あれかな。ジャバウォックの髭や血液と同じタイプの代物かな?


「では、幸運を」


 ベスはそう告げてブローチを首から下げた。


 食事は子供たちもいるのでそこまで長いものにはできず、私たちは話し半ばで別れた。今度は新年のお祝いで会いましょうと約束して。


「ベス。そのプレゼント気に入ったの?」


「ええ。思い出、という言葉に惹かれました」


 ベスがブローチをじっと眺めているのに私が尋ねる。


「もう何百年も生きていますが、思い出として残したいと思ったものは僅かです。ほとんどが忘れ去りたい過去の過ちばかりでした。ですが、今こうしてあなたの隣にいることは過ちだとは思えません。これこそ残しておきたい思い出なのです」


 ベスはそう告げて優し気に微笑んだ。


「じゃあ、今度肖像画を描いて貰おうね! 家族全員で!」


「流石に家族全員の肖像画をこの小さなブローチに収めるのは難しいかと思いますが」


「そんなこと言わない、言わない! やればできる!」


 ベスも幸せになってくれてよかったな。


 さて、子供たちが寝静まったら、枕元にプレゼントを置かないとな。


…………………


…………………


 夜中。


 子供たちが寝静まった時間に私とベルンハルトがそっと子供部屋の扉を開く。


「何がいいって書いてある?」


「ええっと。読みますね」


 子供たちはサンタさんをまだ信じており、サンタさんに手紙を置いておけばその通りのプレゼントが手に入ると思っている。


 もちろん、この剣と魔法のファンタジーワールドにもサンタさんなんていない。望んだものが手に入ると思えているのは、親である私たちがクリスマス前にさりげなく、さりげなーく探りを入れているからである。


 親っていうのも苦労するよ!


「……フェンリルの赤ちゃんが欲しいそうです……」


「……こっちはフェンリルのお嫁さんだ……」


 この子たちはもー……。


「仕方ないですね。今年は妥協してもらいましょう」


「そうするしかないか」


 フェンリルの赤ちゃんもフェンリルのお嫁さんもプレゼント不可能である。あんな物騒な神獣はそうそういないのだ。


「じゃあ、これを」


 私はマンフレートの枕元に箱を置く。後は開けてのお楽しみ。


「済みました?」


「済んだぞ。行こう」


 さてさて、子供たちは私たちのプレゼントに満足してくれるかな?


 そして、翌朝。


「ママー! サンタさんが間違った!」


「ありゃ。サンタさんも間違う時があるんだね」


 やっぱり文句を言うとは思ったよ!


「でも、プレゼントは貰ったんでしょう?」


「うん! 兵隊さんの玩具!」


 私がマンフレートにプレゼントしたのはブリキでできた兵隊さん人形セットだ。プルーセン帝国近衛兵仕様。歩兵、騎兵、魔術師の3点セットである。結構高かったから大事にしてね? 私もよくよく軍事模型で遊んで壊したことあるけどさ。


「エリザベスは何を貰ったのかな?」


「犬のぬいぐるみー! それもいっぱい!」


 フェンリルは無理だから犬のぬいぐるみである。ゴールデンレトリバー、シベリアンハスキー、ジャーマンシェパードなどの様々な大型犬のぬいぐるみの詰め合わせだ。


「よかったね! それでフェンリルと遊べるかもよ!」


「フェンリルにあげたら食べられちゃう」


「う、うん。そうだったね」


 フェンリルも子供のぬいぐるみを噛み壊すほど大人げないとは思えないが。


「さあ、来年もいい子でいるんだよ! パパとママの言うことや、ベスのいうことをちゃんと聞いてね。そうしないと来年はプレゼントがないかもよ?」


「来年はサンタさんに間違えないでってお願いするー!」


「するー!」


 う、ううん。サンタさんにも限界があるからね。過剰な期待はしないでね。


「なら、朝ごはんにしようか。パパが待ってるよ」


「うん!」


 クリスマスの今日も我が家は平和です。


 この平和がいつまでも続くのが私が一番プレゼントしてもらいたいものですよ、サンタさんっ!


…………………

新作「召喚した勇者が人狼、魔女、吸血鬼、大悪魔。これは魔王よりやばいものを召喚してしまったかもしれない……。」の連載を開始しました。是非是非覗いてみてください。


コミカライズも絶賛連載中なのでよろしくお願いします!

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