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元悪役令嬢と懇親会

…………………


 ──元悪役令嬢と懇親会



 お腹が大きくなってきた今日この頃。


 私とベルンハルトの子供がなんと双子だと分かった時には嬉しい驚きがあった。周囲の人々は喜びと同時に双子の出産は難しいんではないかと不安に思っているようだ。


 だが、大丈夫! 私は体力には自信がありますから!


 そんなこんなで数ヶ月経ったのだが、やはりふたり分となるとお腹が重い……。ブラッドマジックを乱用すると胎児によくない影響が出ると聞いたので、今は私の地力の体力でどうにかするしかない。


 それにしてもきつい……。これが、これ以上大きくなるって言うんだから、世界中のママさんは大変だな、お母様も私やエーリッヒを出産したときには苦労したのだろう。


 まあ、そういう話は置いておいて。


 今年も円卓の懇親会の日がやって参りました!


 学生自体はコネ作りしか目的のない面倒な場所だと思っていたけれど、卒業してみると学生時代が懐かしくなって、出席するのが今から楽しみですよ。今年はイリスたちが主催者だし、なんとしても出席するぞ!


「その腹で出かけて大丈夫なのか?」


「まあ、ちょっと心配でありますけど、そのためのベルンハルトですよ!」


 お腹が大きくなってきた私では出席は危ぶまれたが、これぐらいならいける!


 ……万が一のことがあるから、みんなは妊婦さんには優しくしようね。


「そりゃまた大役だな。俺は円卓とは関係ないけど出席していいのか?」


「大丈夫ですよ。ベルンハルトは私のパートナーですから!」


 そうなのだ。これまでは不本意な相手だったり、お父様だったりにエスコートされてきた私だが、今年の懇親会からはベルンハルトにエスコートしてもらえるのだ。ふふふ、今年の私は一味違うぞ。


 きっと今年の懇親会にはアドルフがミーネ君、シルヴィオがロッテ君を連れてくるはずだ。ふたりにもベルンハルトとのラブラブっぷりを見せつけてやろう。


「というわけで、今年はマタニティードレスで颯爽と出席しますよ、ベルンハルト! ドレス作りに行きましょう!」


「はいはい。そう焦るなよ。お腹の子供のことを労わってやれ」


 私がベルンハルトを急かすのに、ベルンハルトがため息交じりに立ち上がった。


「それで、ドレスの当てはあるのか?」


「ええ。なじみの店があります。そこでちょっくら調達しましょう」


 そう告げて私はなじみの店──ダニエラさんの店に向かったのだった。


…………………


…………………


 懇親会当日!


 私はダニエラさんの店で買ったマタニティードレスを装備し、ベルンハルトを従えて決戦の場へと前進した。


 ダニエラさんから購入したのは色っぽさは控えめで、動きやすいドレス。万が一のことがあって躓いたりして、おなかの赤ちゃんに影響が出たりしてはたまったものではないので、実用性重視だ。


 それに私は相変わらずのペタン族ですからね。けっ。


「それじゃあ、行きましょうか、ベルンハルト」


「ああ。行こうか、アストリッド」


 いざ、懇親会の場へ!


 うーん。相変わらずの大盛況。毎年人が増えている気がする。


 私は学生向けのノンアルコール飲料を手に、ベルンハルトと知った顔を探す。


「あっ。ヴァーリア先輩!」


 私がきょろきょろと招待客を探っていたら、懐かしのヴァーリア先輩を発見!


「あら、アストリッドさん。お久しぶりね。それにそのお腹は……」


「いやあ。実は私も結婚したんですよ、このベルンハルトと!」


 ヴァーリア先輩が私のお腹を見て驚いたような視線で私の方を見るのに、私がベルンハルトの手を引いた。


「まあ、確か高等部の?」


「ええ。私の担任だった人ですよ!」


 そして、私の自慢の夫である!


「教師と生徒なんてなんだかインモラルね」


「ヴァ、ヴァーリア先輩までそんなこと言って……」


「冗談よ、冗談。結婚おめでとう」


 ヴァーリア先輩が悪戯気に笑って私たちのことを祝福してくれる。


「では、そちらの子を紹介してもらったから、私たちの子も紹介しないとね」


 そう告げるとヴァーリア先輩が背後に手招きした。


 すると、現れたのは6歳ほどの女の子。


「あれ? クリスティーネちゃんですか?」


「そう。クリスティーネ。今年から学園に通っているのよ」


 クリスティーネちゃんはヴァーリア先輩のお子さんだ。ヴァーリア先輩にそっくりの可愛らしいお嬢さんで、もう学園の学生である。時間が経つって言うのは本当に早いものだなーと実感する次第。この間までもっと小さい女の子だったのに。


「お久しぶりです、アストリッド様。アストリッド様のお子さんは男の子ですか、女の子ですか?」


「実は男の子と女の子の双子なんだよ、クリスティーネちゃん!」


「双子ですか!」


 私が告げるのにクリスティーネちゃんがびっくりして見せた。


「羨ましいです。私は弟が欲しいのですが、お母様たちはまだ弟をくれないんです。アストリッド様のお子さんは幸せ者ですね」


「い、いや。ヴァーリア先輩にもいろいろと事情があるんだと思うよ、うん」


 オイゲン様と上手く行っていないとことはなさそうだけどなー。


「夫がここ数年、爵位を引き継ぐことになって忙しいのよ。時間があれば、ちゃんと弟をプレゼントしてあげるから待ってなさい」


「はーい、お母様」


 ああ。爵位の継承か。あの気のいい小父さんだったシュレースヴィヒ公爵閣下もとうとう亡くなられたんだな。本当に時間が経つのは早いものだ。


「では、無事に出産できることを祈ってるわ。お幸せにね」


「ありがとうございます、ヴァーリア先輩」


 私の子も残り6ヵ月と6年で学生だ。ふたりとも成績は心配しなくて大丈夫かな?


「アストリッドさん?」


「あ。ローラ先輩!」


 私がそんなことを考えながらベルンハルトと会場を歩いていたらローラ先輩が。


 今年もローラ先輩はミヒャエル様と一緒か。


「アストリッドさん。あなたもついに身ごもったのね!」


「ええ! 新婚旅行中に! 双子です!」


「まあ、手の早いこと」


 ローラ先輩には手紙で結婚のことを知らせていたので既に把握済みだ。


「いやあ。子供は早い方がいいじゃないですか。ちなみにローラ先輩は?」


「ふふっ。実を言うと3歳になる男の子がいるの。名前はラツヴァイト。人見知りする子だから今日は留守番しているけどとっても可愛いわよ」


「おおっ! ローラ先輩もやりますねえ」


 ローラ先輩もお子さんが。3歳とか可愛い盛りではなかろうか。


「アストリッドさんが結婚せずに学士課程に進んでいたら、ラツヴァイトの家庭教師をお願いしようかってミヒャエルと話していたのよ。アストリッドさんの魔術の才能は素晴らしいものだから」


「いやいや。私なんかの学力ではとてもとても」


 私は正直に言ってあまり教えるのは得意じゃない。


「そんなに謙遜しないで。あなたの子供もきっと素晴らしい魔術師になるわよ」


「そうだといいですねー」


 少なくとも私の理系ダメダメ遺伝子は遺伝しないで欲しいかな……。


「じゃあ、出産頑張ってね。双子の出産は大変だと聞いているわ」


「頑張りますよ!」


 ローラ先輩からの激励を受けて私がガッツポーズを。


「お前、本当に知り合いが多いんだな」


「まあ、円卓にいましたから。これでも少ない方ですよ?」


 私が円卓で反皇室同盟を結成しようとしていたのはベルンハルトには内緒だ。


「しかし、まあ円卓も貴族の中の貴族が集まっているから肩身が狭いな」


「そんなことありませんよ。ベルンハルトだって今は立派な大貴族ですし、そんじょそこらの貴族なんかより、ベルンハルトの方がよっぽど立派です!」


「そう言ってくれるのは嬉しいな」


 へへっ。私の自慢の旦那さんの悪口は言わせないぜ!


「おっと。あそこにいるのは……」


「知った顔だな」


 見つけましたよ、ミーネ君たちを連れたアドルフたちを!


「ミーネ! ロッテ! 元気にしてた!」


「はい、アストリッド様。アストリッド様はお腹が大きくなられて……」


「双子だよ、双子。ふたりの命が宿ってるんだからね」


 ミーネ君たちは手紙で近況を知らせていただが、実際に大きくなったお腹を見るのは初めてで驚いているようだった。


「ミーネたちは子供はまだ?」


「まだですわ。早くアドルフ様との子供を成したいのですが……」


 そう告げてミーネ君がアドルフの方を見る。


「い、いや。子供はまだ早いだろう? 俺もまだ騎士になったばかりだし、もうちょっと待ってくれないか。実家の世話になってばかりでは、信頼を損なってしまう」


「理解していますわ、アドルフ様」


 アドルフは相変わらず肝心の部分でヘタレだな。騎士団の騎士になり立てだと言っても帝国最大の騎士団なんだから結構な給料をもらっているはずだぞ。さては父親になるのが怖いんだな。このヘタレ野郎めっ!


「ロッテはどう?」


「頑張っているところですわ。シルヴィオ様も学業の方がお忙しいので」


 そう告げてロッテ君がシルヴィオの方を向く。


「必ず子供は作りますよ。子供を作ってこそ成長するものです。ですが、今はまだ待ってください。あなたの子育てを手伝える時間が作れるようになるまでは」


「はい、シルヴィオ様」


 こいつもヘタレかと思ったが理由は学士課程に進んでいる今ではロッテ君の子育てを手伝えないからか。ちゃんと子育てを手伝う意欲があるだけ褒めてやろう。今日の私は寛大だぞ、元プチ反抗期よ。


「ふたりも元気な子を作りなよ! 私も頑張るからね!」


「はい、アストリッド様!」


 出産とか子育てとか人生の中では逃げ出したくなるぐらい大変なことだと思うけど、それもまた幸せな思い出になるのだ。


「やあ、アストリッド。お久しぶりです」


「え?」


 私が聞き覚えのある声に振り返ると──。


「こ、これはフリードリヒ殿下! お、おひしゃしぶりです」


 びっくりして思わず舌を噛んでしまった。


 こいつがもう核地雷ではないと分かっていても、10年間地雷であり続けた相手というのはびっくりするものだ。こ、この野郎。お腹の中の赤ちゃんたちまでびっくりしたらどうするんだ! 責任とれるのか!


「アストリッド。めでたい知らせのようですね」


「え、ええ。めでたいですね、はい」


 エルザ君! エルザ君はどこに!? この皇太子を止めて!


「フリードリヒ殿下、そこにおられたのですね」


 きたー! エルザ君、登場!


「失礼。懐かしい顔ぶれを見たら自然と足が急いてしまい」


「いえいえ。私こそクラーケン料理に夢中になっていて」


 え? 今年の懇親会、クラーケン料理がでてるの? 食べなきゃ!


「おふたりはまだお子さんは?」


 私はクラーケン料理に急ぎたい気分を押さえながら、一応フリードリヒとエルザ君に尋ねておく。ふたりだけに尋ねないと不自然だからね。


「実を言うと妊娠していて……。まだアストリッド様のようにお腹は大きくなっていませんが……」


「おおっ! おめでたじゃないですか!」


 エルザ君がいとおしそうにお腹を撫でる。


「はい。でも、万が一のことがあってはいけませんから、今は伏せてあるのです。無事にエルザが出産できれば帝国中にこの事実を知らせますよ」


「何も起きないといいですけどね」


 フリードリヒがそう告げるのに、エルザ君が頷く。


「何も起きませんよ! きっと!」


 もうセラフィーネさんもエルザ君を襲撃するつもりはないって言ってたしな!


 だが、ちょっと待てよ。ちょっと不安なことがあるぞ。


「で、では、私たちはここら辺で。皆さん、お幸せに!」


「ええ。アストリッドもいい知らせが入るのを期待していますよ」


 私は颯爽とフリードリヒたちに別れを告げると会場の隅に向かう。


「ベス。ベス。いるんでしょ?」


「はいはい。なんですか、アストリッドさん」


 私が呼ぶと小皿を手にしたベスが。


「あー! クラーケン料理!」


「ええ。これもあなたの監視任務の上での役得ですね」


 ベスは素知らぬ顔でクラーケン料理をもぐもぐしている。私もまだ食べてないのに!


「それより聞きたいんだけど、エルザ君って普通に出産できる?」


「ああ。その心配ですか」


 私の質問にベスは納得したように頷いた。


「大丈夫ですよ。ホムンクルスは生まれこそ人間とは異なれど、人間と子を成せます。病弱であるとか、奇形であるとかそういう問題もありません。ローゼンクロイツ協会も、エルザ殿下がフリードリヒ殿下と結婚するときに調査しましたから」


「なーんだ。しっかりしてるね、ローゼンクロイツ協会!」


 私はエルザ君はホムンクルスだから正常に赤ちゃんが生まれてこないのではと心配したが、余計な心配だったようだ。


「話は済んだか? クラーケン料理、なくなりそうだぞ」


「うわー! 急がないと!」


「走るな、走るな。今は身重の身なんだからな」


 私はクラーケン料理に走って向かいたかったが、ベルンハルトがそれを阻止。


「俺が取ってきてやるからここで待ってろ。妊婦を人込みに入らせるわけにもいかん」


「すみません。お願いします」


 ベルンハルトはやっぱり優しいなー。


「アストリッドさん。あれからセラフィーネとは接触していませんね?」


「新婚旅行であったのが最後だけど?」


「ならいいのですが。アストリッドさんの子供までエルザ殿下のようにホムンクルスに変えかねませんからね、あの魔女は」


「何それ怖い」


 お、お腹の子を守らなくては!


「まあ、アストリッドさんは我々が監視しているので迂闊な真似はできないんでしょう。安心してください」


「だといいけどねー」


 今の私はライフル砲を振り回すこともできない貧弱令嬢なのだ。


 それはそうとベルンハルトが取ってきてくれたクラーケン料理はとても美味でした。一番おいしかったのはシーフードカレー!


 ……この世界のカレーが日本式なのには誰も突っ込まないんだな。


…………………

コミカライズ企画、進行中です!

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