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元悪役令嬢さんの従妹と結婚式

…………………


 ──元悪役令嬢さんの従妹と結婚式



 私はイリス・マリア・フォン・ブラウンシュヴァイク。アストリッドお姉様の従妹です。


 お姉様たちが卒業してから早くも2ヶ月。時が経つのはとても早いです。


 今年で私たちも高等部2年。卒業まであと2年となりました。


 それで、この間ロマルア教皇国で開かれたお姉様の結婚式を見てきたのですが、とても素敵でした……。荘厳な聖堂でアストリッドお姉様とベルンハルト先生──今は私のお兄様なのですが、なんだか変な感じです──が誓いの言葉を述べられてから、その、熱い接吻を交わされる様子は幸せそうでなによりでした。


「イリス! 来てくれてありがとうね!」


 お姉様はいつものように元気満点で私とヴェルナー様を出迎えてくださいました。


「はい。お姉様が幸せになる瞬間に立ち会えてよかったです」


「うんうん。今の私はとっても幸せだよ。憧れのベルンハルト先生と……。イリスも後4年したらヴェルナー君とゴールインだからね。その時はお姉ちゃんも呼んでね。その、また魔女と休戦できたら必ず行くから!」


「ええ。お姉様をお呼びしないなどありえませんから」


 お姉様は困ったことに悪い魔女に狙われているのです。


 その魔女はフリードリヒ殿下とエルザ殿下の結婚式も襲撃したそうで、お姉様とエリザベート様がそれをなんとか退けたと聞きました。


 そう、あの平民だと思われていたエルザ殿下は実はフランケン公爵家のご令嬢だったのです。今、帝国ではそのことについていくつもの劇が作られ、連日ハーフェル中央劇場で演じられています。


 でも、お姉様は前からこのことを知っていたように思えます。


 エルザ殿下が学園にいるときにはお姉様が一番親切でしたし、私にもエルザ殿下からあまり距離を取ってはいけないと教えてくださいましたから。


「お姉様はひょっとして未来が分かるのですか?」


「え? い、い、いや、全然分からないよ? 実際にこれからどうなるのかも分からないしね。あー。これからどうなるのかなー」


 お姉様は嘘を吐くと顔に出やすい方です。やっぱりお姉様は未来を知っていたに違いありません。そうするとお姉様は御伽噺に出て来るような本物の魔女のようで憧れます。


「アストリッドさん」


 私とお姉様がそんな話をしていたとき、なんだか怪し気な黒ローブの方がやってきました。お姉様はあっという顔をされていたので、知り合いの方だとは思うのですが。


「お久しぶりです、アストリッドさん。セラフィーネが迷惑をおかけしているようで」


「そうですよ! 滅茶苦茶迷惑してますよ! 何とか言ってください、カミラさん!」


 おふたりはお知り合いのようですが、どこで出会われたのでしょうか?


 お姉様は私と違って交友関係がとても広い方なので、いつの間にか知らない人と知り合いになられています。そういうところはお姉様は凄いなあと私は前々から思っていました。私なんてまだ円卓の方々やヴェラさんたち、それに演劇部の一部の方々としかお知り合いの方はいないのに。


「あの子は言って聞くような子ではありませんから。ですが、いずれ飽きますよ。あの子はああ見えて飽きっぽいのです。このまま勝てないようなら、諦めて、別のことを始めるでしょう」


「そーだといいんですけどね。本当に迷惑してるんですから。けど、結婚式の停戦の証ってカミラさんのことだったんですか?」


「はい。私がいればセラフィーネが襲撃してこないと分かるでしょう?」


 お姉様は本当にお知り合いが多いようです。何の話か私にはさっぱりわかりません。


「カミラ。“毒の女王カミラ”。あなたが魔女協会の長であることは分かっています。大人しくここで拘束されてください」


「あら、ローゼンクロイツ協会の犬も来ているのですね。ですが、私も魔女協会の最年長者。そう簡単には捕縛できませんよ?」


 エリザベート様が何だかとても怒った様子でカミラさんを睨みます。


「せ、せっかくのお姉様を祝福する場なんですから、喧嘩はやめましょう……? お姉様の思い出となる場所なのですから……」


 私がおずおずと告げるのに、エリザベート様とカミラさんがこちらを振り返った。


「まあいいでしょう。今日は互いに休戦です。ですが、次に姿が見えたときは一切容赦しませんよ、“毒の女王カミラ”」


「ローゼンクロイツ協会程度を我々が脅威に感じるとでも? ですが、この場は確かに休戦です。アストリッドさんの新しい門出を祝いましょう」


 なんとか収まってもらいましたが、なんだかやっぱりおふたりは仲が悪そうです。


「ごめんね、イリス。気を遣わせちゃって」


「いえ。これもお姉様のためですから。お姉様もこれまで私のことを助けてきてくださいましたし」


「イリス……」


 お姉様にはこれまで助けられてばかりでした。少しはお礼ができればいいなと思っています。これから私も大きくなったらお姉様みたいな女性になって、お姉様や私の友人の方々を助けていきたいです。


「お姉ちゃん、涙が出てきちゃったよ。本当に嬉しい」


「泣かないでください、お姉様。祝いの場ですよ」


 お姉様がハンカチで目頭を押さえられる。


「アストリッド。そこにいたのか。探したぞ」


 私たちがそんな話をしているとベルンハルト先生が姿を見せられました。


「ベルンハルト先生! 今、従妹の成長に感涙してたところです」


「そうかそうか。だが、そのベルンハルト先生ってのはそろそろやめないか?」


 お姉様の肩にベルンハルト先生が手を回されると、また情熱的な接吻を……。私にはちょっと刺激が強すぎるのかもしれません。頭がぽかぽかします。


「じゃあ、ベルンハルト?」


「そう、それでいい。夫婦になったんだし、俺はもう教師じゃないしな」


「そうですね、ベルンハルト! これからもよろしくお願いします!」


 お姉様はとても幸せそうです。


「ヴェルナー様。私たちもお姉様たちみたいになれるといいですね」


「きっとなれますよ。僕はイリス先輩を2年お待たせすることになりますが、その分の埋め合わせは必ずしますから」


 そう告げてヴェルナー様は私の手を握ってくださいました。


「はい。楽しみに待っています、ヴェルナー様。私たちも一緒に結ばれたら、ここで結婚式を挙げましょうね。私もお姉様と一緒の場所で式を挙げたいです」


「ええ。そうしましょう。楽しみですね」


 私とヴェルナー様もここで式を挙げたら幸せになれそうな気がします。


 なんといってもお姉様がベルンハルト先生と幸せになった場所なのですから。


「あれ? ディートリヒ様?」


 私はヴェルナー様とそんな約束をしていたら、ディートリヒ様が考え込むように式場の隅に立っておられることに気が付きました。


「ディートリヒ様。どうなさったのですか?」


「いえ。アストリッド様もついに結ばれてしまったのだなと。私にはついにアストリッド様を振り向かせることができませんでした」


 ああ。そうでした。ディートリヒ様はお姉様と結婚されたかったのです。


 私もその恋をいろいろと応援したのですが、残念なことに実りませんでした。これも仕方がないと言えば仕方がないことなのですが、ディートリヒ様の心中を思うと私まで悲しくなってきます。


「ディートリヒ様、そう気を落とされずに。きっと新しい恋が見つかりますから。お姉様も最初はベルンハルト先生と結ばれるなどとは思ってもみなかったのですから」


「そうであることを願いたいですね。新しい恋……」


「円卓の仲間として私とヴェルナー様もディートリヒ様を応援しますよ」


 ディートリヒ様は円卓の仲間です。私の友達でもあられます。そんな方の恋ならばいくら応援してもいいものだと思います。


「僕も手を貸すよ、ディートリヒ」


「ああ。助かる、ヴェルナー」


 一時期はヴェルナー様と喧嘩されていたディートリヒ様ですが、今はすっかり親友になられているのですから。おふたりが友達になられてとてもよかったと思います。


「あれ? あれは……」


 私がヴェルナー様がディートリヒ様を励ましておられるのを見ていたところ、式の奥の方に見知った顔を見つけました。


「エルザ殿下?」


 あれはエルザ殿下であったように思われます。ですが、皇太子妃が近衛兵も連れずに異国の地に来てもいいのでしょうか? 見間違いでしょうか?


「ああ。ベルンハルト。俺はそろそろ失礼するぞ。殿下が帰られる」


「分かった。そっちも達者でな、兄貴」


 ベルンハルト先生とそう話されるのはベルンハルト先生のお兄様という方でした。その方はベルンハルト先生の肩を叩かれると、聖堂の出口に走っていかれました。


「お姉様。ベルンハルト先生のお兄様は何をなさっているのですか?」


「んー。近衛兵だよ。騎兵って聞いたかな」


 ああ。そういうことだったのですね。


 エルザ殿下の護衛はベルンハルト先生のお兄様だったのでしょう。そのお兄様もご友人をたくさん連れて来られていましたから、その中には近衛兵の方が大勢いる。だからエルザ殿下は異国の地に来られたのですね。


 お忍びという奴でしょうか。ロマンティックで憧れます。


「そうそう! ブーケトスしなくちゃ! って言ってもみんな結婚してるけどさ」


 お姉様が何か思い出したようにそう告げられました。


 ブーケトスというのは、そのブーケをキャッチすると次に結婚する女性になれるそうです。ですが、お姉様のご親友は皆さん既に結婚なさっている方が多くて、お姉様も忘れていらっしゃったようですね。


「なら、ブーケトスせずにまだ結婚してない子に直接渡したらどうだ?」


「そうですね。そうしましょう。となると、サンドラかイリスになるかな?」


 ベルンハルト先生がそう告げられますのに、お姉様が首を傾げます。


「イリス。ブーケ、いる?」


「はい! 是非とも欲しいです!」


 お姉様のブーケならきっと幸せな結婚が待っていますから。


「じゃあ、イリスにパス! ヴェルナー君と幸せになるんだよ!」


「はい! お姉様!」


 お姉様がポンとブーケを私の方に投げられるのに私はそれをキャッチしました。


「ふふ。ヴェルナー様、これで次は私たちが結婚ですよ」


「ええ。楽しみです、イリス先輩」


 幸せに満ちた結婚式。


 私が式を挙げるときにもこんなに幸せな結婚式が挙げられるといいなと思いました。


「では、部外者はさっさと立ち去ってくれませんか、カミラ」


「あなたこそ部外者では、エンゲルハルト。アストリッドさんとの付き合いは私たちの方が長いのですよ?」


「何を言いますやら。長年生きすぎてとうとうぼけましたか?」


 ……きっと幸せな結婚式です。


…………………

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