悪役令嬢は旅に出る
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──悪役令嬢は旅に出る
私がロストマジック──というか世間的には奇妙な魔術を使うことは公になってしまった。世間的にはあの認識障害の魔術の混乱で本気にはされていないものの、今は結婚どころの騒ぎではない。ほとぼりが冷めるまで逃走生活を余儀なくされることになってしまった。
旅に出るのは早朝。お父様たちもまだ起きていない時間帯。
旅に出るのはお父様には内緒である。お父様は魔女の疑惑があっても、守るから大丈夫だと告げてくれていたが、やはり無理があると思う。
それにセラフィーネさんがいつ襲撃してくるのか分からないのに暢気に暮らしているわけにはいかない。この間の戦いでは乱闘騒ぎで重軽傷者500名だったが、これが他の場所ではどうなるのか分かったものではない。
というわけで、私はしばらくの間旅に出ることにしました。
どうせ、お父様も結婚相手を見つけてきてくれていないし、結婚の心配をする必要もない。むしろ、旅先で出会った人と結婚するのもいいかもしれないな。
「で、旅に出るというわけですか」
「そ。周りに迷惑かけたくないからね」
もし、イリスと遊んでいるときにセラフィーネさんが乱入してきたら大惨事だ。
「生活の面は大丈夫なのですか?」
「再起のために蓄えておいた資金もあるし、冒険者ギルドで稼ぐって手もあるし、特に問題もなく大丈夫だよ。自分の面倒は自分で見れるだけの生活スキルもあるからね!」
「そうですか」
私が自慢げに告げるのに、ベスが無感情に頷いて返した。
「では、私も旅をしなければいけないようですね。私はあなたの監視役。あなたが旅をするなら私も旅をしなければなりません。そういうものです」
「わ、悪いね、ベス。私のわがままに付き合わせちゃって」
ベスが一緒なのは心強い限りだ。
「ちょっと待て。誰か忘れていないか?」
私とベスが馬車に乗り込んだとき、不意に声がかけられた。
「ベルンハルト先生!? どうしてここに!?」
「いろいろとあってな。まあ、短くまとめるとブラウンシュヴァイク公爵家の養子になって、お前と婚約することになった、アストリッド嬢」
ええー! 先生と結婚できるのー!
「そ、それ、マジですか?」
「マジだよ。冗談でこういうことを言う気にはならないな」
おおっ! 流石はお父様! 私の幸せを考えていてくれたんだ! 頼りになる!
「だが、これは本人の承諾あってのことだ。どうだ、アストリッド嬢。俺と結婚してくれるか?」
ベルンハルト先生は真剣な表情で私の前に跪いてそう尋ねる。
「そんなの答えるまでもないですよ。もちろんです!」
というわけで私はベルンハルト先生と結婚できるようになった。いえーい!
はあ、私の地雷処理ライフは終わり、感動のエンディングだぜ!
本当に苦労した10年間だった……。
アドルフ、シルヴィオ、フリードリヒの3名の地雷を除去して、第三国への逃亡のために資金を貯めに貯めて、魔術の腕前を磨き続けて、戦争を経験して、挙句にはセラフィーネさんと戦って……。
「なら、先に式を挙げてから旅に出ようか、旅先で結婚しようか……」
「旅先がいいだろう。俺たちの結婚式まで魔女に乱入されたくない」
ベルンハルト先生はそう告げて場所に御者席に座った。
「改めてよろしく頼むぞ、アストリッド嬢」
「はい。ベルンハルト先生!」
私たちはこうして旅に出た。
旅先では式を挙げたり、危険な魔獣と戦ったり、ミーネ君たちに手紙を書いたりと充実した生活が送れた。それぞれの地方の特産品を味わうのも実に楽しかったことは言うまでもない。
その後、私とベルンハルト先生との間には私の願い通り、女の子と男の子がひとりずつ生まれた。女の子は私似で男の子はベルンハルト先生似だ。きっと将来は美少女と美少年に育つぞ。
ひたすらな地雷処置と鉄と炎の時代を乗り切った私たちはこうして──時々セラフィーネさんの襲撃を受けながら──平和に暮らしましたとさ。
どうしても破滅したくない悪役令嬢が現代兵器を手にした結果、私は幸せを手に入れたのであった。
本編はこれにて完結です! ここまでお付き合いただきありがとうございました!
これから番外編(本編後の様子)などをちょいちょいと不定期に更新していく予定です。
また新連載など始めております。
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よろしければ覗いてみてください。