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悪役令嬢と卒業式

…………………


 ──悪役令嬢と卒業式



 私たちは無事卒業式を迎えることになった。


 何にも問題もなく私たちは卒業した。


 で、その卒業を祝って卒業パーティーをすることになった!


「卒業パーティーってどこでやるんですか?」


「いつものようにグランドホテル・ハーフェルで行いましょう。それならば勝手を知っているだけあって問題なくやれるでしょう」


 流石はフリードリヒだ。嫌味なほどに気が回る。


「それと卒業パーティーは円卓のメンバーのみならず、他の生徒も参加していいことにしましょう。きっと、この中にも円卓の外の級友と交際を持っている人々が大勢いると思いますので」


 あっ。こいつエルザ君を参加させるためにルール曲げたな。


 まあ、いいですよ。私は寛大ですからね。


 私もミーネ君たちを誘おうっと。ミーネ君たちもアドルフたちと卒業を祝いたいだろうと思うし。私は基本的に友達思いなのですよ?


「はいはい。殿下、質問です!」


「なんですか、アストリッド」


「エルザ君とはいつ結婚なさるのですか?」


 ずっと聞こうと思っていたのだが、このなよなよ皇子はエルザ君といつ結婚するつもりなのだろうか。


 何もこれは野次馬根性で聞いているわけではない。ベスが言うにはセラフィーネさんが襲撃を仕掛けてくるならば、フリードリヒとエルザ君の結婚式の日だろうとのことだった。もっとも観衆の目が集まる日に派手にやる。それがセラフィーネさんらしい。


 なので、フリードリヒとエルザ君の結婚する日を把握するのも大切なことなのだ。


「エルザ嬢とは……卒業したらすぐにと考えています。宰相や侍従長たちはまだ早いと言っているのですが、彼女のことを思えばすぐに結婚するのが一番だと思っています。彼女はこれまで実の親とも離されて生きてきたのですから」


 ほうほう。ナヨ~ドリヒにしては気が利くじゃないか。


「ですが、宰相閣下や侍従長は何故早いと?」


「もっと相応しい結婚相手がいるのでないかと思っているようです。エルザ嬢は長らく平民の立場にあったので相応しくないと。結婚するならば、由緒正しい家系で教育を受けた貴族子女が相応しいのだと思っているようです」


 あー。まあ、エルザ君はこれまでの16年間をパン屋で過ごしてきたわけだから言わんとすることも分からんでもない。


 だけど、普通の貴族子女よりエルザ君の方がガッツがあるし、人生経験も豊富だ。なよなよの皇子には、これぐらいガッツのあるお嫁さんが必要だよ。


「あなたも候補のひとりのようですよ、アストリッド」


「げっ」


 まだ諦めてないの宰相閣下。あれだけベスと私が反対したっていうのに。


「私は正式にお断りしていますので……」


「ええ。私はちゃんとそのことを理解しています。ですが、宮廷には根強くあなたを推す声があるようです。もちろん私はそのような意見に左右されるつもりなどありません。エルザ嬢を愛すると決めたのですから」


 フリードリヒのくせに決まってるじゃん! その調子でエルザ君を守るんだぞ!


「流石です、殿下。その愛は必ず報われると思います」


「そうであることを願いたいですね」


 願うんじゃなくて、実行するんだよ!


「では、我々は詳細な計画を立てましょう、アストリッド」


「え、ええ。そうしましょう」


 なんで私が計画立てるのを手伝わなきゃならんのだ。暇そうなアドルフたちに頼めよな。アドルフはブラッドマジックが苦手なのを克服したし、シルヴィオもプチ反抗期を終わらせて次期宰相として頑張るつもりなんだから。


 しかし、まああっという間だったな。


 アドルフもシルヴィオもフリードリヒも最初は嫌な奴だと思ってたけど、こうして10年間一緒に過ごすといい奴らだったように思え……ないな、特に。


 だが、アドルフは次世代の騎士団を担うような人材に育ったし、シルヴィオもプチ反抗期を終わらせて宰相の在り方について理解してきたし、フリードリヒはついに決意した。私の地雷原生活はとうとう終わったのだ。


 ……いや、まだ終わっていないぞ。最後の地雷であるフリードリヒとエルザ君の結婚式が終わるまでは。最後の最後で最大の地雷が残っているぞ。


「それでは想定する客人の数ですが」


「うーん。卒業生プラス見送りの学生とその友人たちと考えますと……」


 そんなこんなで私はフリードリヒと一緒に卒業パーティーの計画を立てた。


 まあ、思い付きで卒業パーティーを実行したヴァルトルート先輩が上手く行ったのだから、私たちが上手く行かないってことはないだろう。気楽に行こー。


…………………


…………………


 で、卒業パーティー当日。


 これまた大勢人が集まった。円卓のメンバーに客を限定しなかったこともあって、それはもうたくさんである。まあ、一応は想定の範囲内に収まっているもののギリギリだったな。あぶねー。


「アストリッド様!」


「おお! ミーネ! そのドレス似合ってるね!」


 私はミーネ君たちを誘っておいた。真・魔術研究部の部員は勢揃いだ。


「ミーネはアドルフ様と一緒じゃないの?」


「もちろんアドルフ様がエスコートしてくださっていますわ。ただ、それぞれの友人に挨拶して回るのに一度分かれようということでして」


「ふむ」


 アドルフの野郎、ミーネ君に隠れて浮気してないだろうな?


「ミーネはさ。アドルフ様といつ式を挙げるの?」


「フリードリヒ殿下のご婚礼が終わってからと考えているところです。私たちもフリードリヒ殿下のご婚礼はお祝いしたいですからね」


 ついこの間まであの平民がー! って感じだったのにミーネ君もすっかり牙を抜かれたようである。まあ、エルザ君を祝福してくれるならそれでいいのだけれどね! 私は文句はないよ!


「ミーネの式には私も参加したいから誘ってね!」


「もちろんですわ! アストリッド様は必ずお誘いしますわ!」


 うんうん。友達の式に行くのも楽しみだね。


「ところでアストリッド様は結婚の方は……?」


「完全に未定です……」


 痛いところを突いてくれるな、ミーネ君……。私の結婚相手は未だにぐるぐると迷走しているのだ。お父様は無理をしてでもアウグスト君と結婚してみろと言い出したし、お母様はそれに反対してくれているし、他に候補は見つからないし。


 あーあ。友達の式に出るのも楽しみだけど、自分の式に友達を呼ぶのも楽しみのひとつなんだよな。私にはその楽しみがいつになったら来るのだろうかー。


「アストリッド様ならきっといいお相手が見つかりますわ。だから、気を落とされず」


「全然平気だい」


 正直、悲しいです。


「アストリッド様! そこにおられましたか!」


「おおう。ロッテ。シルヴィオ様もご一緒で」


 次にやってきたのはロッテ君とシルヴィオだった。


「これで卒業となると寂しくなりますね、アストリッド様……」


「そうだね。いろいろと思い出も作ったけど、やっぱり寂しくなるね」


 真・魔術研究部で遊んでいるときは本当に楽しかったもんなー。これからはそういうのがないと思うと寂しい限りである。いや、別に卒業してからそういう活動をしてはいけないわけじゃないが、みんな家庭とか持つと忙しくなるからね。


「シルヴィオ様も寂しくなりますね」


「ええ。あなたからはいろいろな助言を受けましたから」


 お前のプチ反抗期を終わらせるのには苦労したよ、本当に。


「ところでおふたりはいつ挙式を?」


「そ、それはアドルフが挙げてからやろうと思っています。先に殿下のご婚礼もありますし、父からそれに関係する仕事を手伝って欲しいとも言われていますので」


 おおー。この間まで親父大嫌いマンだったシルヴィオが父親の仕事を手伝うと言っている。本当にこいつは成長したな。ロッテ君に押し付けたときは、正直申し訳ない気分だったけど、ここまで育てば文句もなかろう。


「アストリッド様!」


「ブリギッテ! サンドラ!」


 ロッテ君とシルヴィオと話していたら向こうからブリギッテ君とサンドラ君がやってきた。ブリギッテ君の隣にはゾルタン様が、サンドラ君の隣にはパトリック君がいる。


「アストリッド様。これで卒業となりますが、またどこかでお会いしましょうね。必ずですよ。これで最後の別れだと思うと寂しくて……」


「大丈夫だって、ブリギッテ。また会う機会は来るから。だから、君はゾルタン様と良い感じになるんだよ? 次に会う時は子供を見せて欲しいな!」


「ええ。頑張りますわ」


 ブリギッテ君の子供はきっと可愛いぞー。


「サンドラ君もまた会おうね! 卒業しても友達だぞ!」


「はい! 私の式はまだ先ですが、式を挙げることになったら必ずアストリッド様をお呼びしますからね!」


 うんうん。一度できた人とのつながりはそう簡単には途切れないものだよ。


「ア、アストリッド様?」


「おお。エルザ君じゃないか。どうしたんだい?」


 私とサンドラ君たちが話しているのに、おずおずというようにエルザ君がやってきた。もうそんなにおずおずしなくてもいいのに。


「アストリッド様。これまでお世話になりました。私は平民だったというのに本当に親切にしてくださって感謝しています。他の方々にもいろいろとお世話になったのですが、一番お世話になったのはやはりアストリッド様です」


「気にしない、気にしない。君が入学してきた当初の様子が従妹に似てたからついついお節介を焼いちゃっただけだから。そこまで感謝されることはしてないよ」


「いえ。アストリッド様には勉強の面でも、日常の面でも、それに……恋の面でもお世話になりましたから」


 それは私の命運がかかっていましたからね。君の恋愛がスムーズにいかないと私が破滅する運命にあったのだから当然のことです。


「学園に入る当初は平民ということできつい生活になるかと思いましたけれど、アストリッド様のおかげで楽しく過ごすことができました。これからも友人でいてくれますか、アストリッド様?」


「もちろんさ。みんな友達だよ!」


 ミーネ君も、ロッテ君も、ブリギッテ君も、サンドラ君も、エルザ君もみんな私の友達である。友達は多ければ多いほどいいものだ!


「それから、その、フリードリヒ殿下と式を挙げることになるのですが、アストリッド様は来てくださいますか?」


「う、うん。行けたら行くよ」


 その話題はちょっと不味いのだ。


 私はセラフィーネさんの襲撃に備えて、周辺警備に駆り出されることになっているのだ。なので花嫁姿のエルザ君は拝めないかもしれない。とほほ。


「楽しみにしていますから! 来てくださいね!」


「わ、私も楽しみだよ!」


 私は正直怖いよ!


 相手はあのセラフィーネさんだよ!? ブラッドマジックで1000万殺す? とか軽く質問してくる人だよ!? ベスですら勝てないかもしれないって言ってるような人だよ!? 私なんかで本当に勝てるの!?


 はあ。せっかくの卒業パーティーだというのに気分が重くなってきたぜ。


「アストリッドさん」


「ああ。ベス。君も一応は卒業か」


「ええ。一応は」


 ベスは成績優秀ながら目立たないように主席での卒業は避けている。ベスが本気出せば主席だったフリードリヒなんて押しのけて主席になれたろうに。


「で、やっぱり襲撃はありそうなの?」


「可能性としては。この話をここでするのは避けましょう。どこで聞かれているか分かりませんから」


「あいあい」


 今、プルーセン帝国は皇太子と平民から公爵令嬢になったシンデレラなエルザ君の結婚話でおめでたムードだ。それが結婚式で魔女に襲撃される可能性があるなどと知れ渡ったらパニックでは済まないだろう。


「でも、エルザ君かフリードリヒにはそれとなく襲撃の可能性を知らせておいた方がよくない? いざって場合に備えてさ」


「世間では魔女協会が実在することすら隠蔽されているのです。魔女協会の存在を知っているのは政府上層部の一部のみ。いたずらにその存在を暴露して、混乱を招きたくはありません」


「うーん。確かに知られないに越したことはないけどさー……」


 本当に大丈夫なんだろうか。


「さて、私たちは今は卒業を祝っておきましょう。私や魔女たちと違ってアストリッドさんの卒業式は1回だけですからね」


「おー! 今日は騒ぐぞー!」


 不老不死とかいうチートなベスやセラフィーネさんたちと違って、私は普通の人間なのだ。学園生活を楽しむのも1度きり。精一杯楽しまなくちゃね!


「というわけで、パーティーを楽しみましょう、ベルンハルト先生!」


「お前なあ。こういうパーティーのパートナーに普通教師を選ぶか?」


 私の卒業パーティーのエスコートは何を隠そうベルンハルト先生なのだ。


「まあまあ。卒業したらこの問題児も去りますから一段落でしょう?」


「自分で問題児だと認めるのな、お前」


 ベルンハルト先生にはいろいろとお世話になったからなー。


「ちなみに結婚の方は本当にまだ迷走してるのか?」


「ミーネに言ったようにさっぱり決まっておりません。行き遅れになるかも……」


 はあ。他人の結婚式の警護してる暇があるなら自分の結婚式をどうにかしろと言う話である。


「実を言うと……いや、まだ早いな」


「え? どうかしたんですか?」


「なんでもない」


 なんだろう?


「それよりもせっかくのパーティーなので一曲踊りましょう、先生」


「お前、踊れるのか?」


「失礼な。こう見えても公爵家令嬢なのですよ?」


「分かった。ブラッドマジックは使うなよ。俺は明日も仕事なんだ」


「いえーい!」


 こうして、私とベルンハルト先生は優雅──誰が何と言おうと優雅だった──にダンスを踊って、卒業を祝った。


 後からイリスたちも到着し、卒業を祝ってくれた。お姉ちゃんは卒業するけど、イリスはこれからも学園で頑張るんだよ。いつでもなんでも相談に乗るからね。


 さて、学園生活は終わった。


 これからはまた戦争だ。


…………………

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