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悪役令嬢、水族館に行く

…………………


 ──悪役令嬢、水族館に行く



 夏休みは続くよー。


 2日目は水族館!


 いやあ。この世界にも水族館があるって聞いて割と楽しみにしていたのだ。水族館ってロマンティックだし、私としましては夏休みをエンジョイするのにこの上ない場所だと思うのです。


「では、各自自由に見て回ってきてー。お昼には集合ねー」


「はい、アストリッド様」


 私の指示にミーネ君たちが頷く。


 当然のことながらミーネ君はアドルフと、ロッテ君はシルヴィオ、ブリギッテ君はゾルタン様、サンドラ君はパトリック君、イリスはヴェルナー君、エルザ君はフリードリヒという組み合わせになった。まあ、カップルだしね。そうなりますわ。


「では、ボッチ諸君!」


「アストリッド先輩。そのボッチというのは止めませんか?」


 残るは私、ベス、ディートリヒ君、ベルンハルト先生だ。


「ボッチはボッチだからしょうがないじゃないか、ディートリヒ君。君も早く彼女作らなきゃダメだぞ。なんならベスとカップルになる?」


「冗談はやめてください、アストリッド先輩」


 真っ向から否定された。ベスがショックを受けていないといいのだが。


「まあまあ。少年よ。ベスも結構優良物件だよ? ドナースマルク侯爵家の子女だし、ブラッドマジックは得意だし、こうしてみると可愛いし!」


 そう告げて私はベスの頬を掴んでニコリと微笑ませる。


「アストリッドさん。怒りますよ?」


「ごめんなさい」


 防壁にガリガリと攻撃が来た。マジでベスが怒っている。


「まあ、青春を無駄にしたものたちとして、一緒に思い出を刻もうじゃないか。この水族館って魔獣も展示してあるらしいから楽しみだよね!」


「俺は青春を無駄にしたつもりはないんだが」


 私が告げるのにベルンハルト先生が突っ込んだ。


「えー。先生って今も彼女いないから青春は無駄にしてたんじゃないんですか?」


「お前って奴は微妙に人が気にしていることをずけずけと……。一応、学生時代には彼女はいたぞ。いろいろとトラブってゴールインできなかっただけでな。青春はそれなりに充実していた」


「ほうほう。ちなみにどんな青春でした?」


「そうだな。金はあまりなかったからこうして豪遊して回るのは無理だったが、友達の家に集まって一緒にカードゲームで賭けをしたり、テニスの試合に励んだり、領地で狩りをしたりして過ごしてたな」


「おおーっ。そういえば先生もテニス部だったんですね」


「そうだぞ。意外か?」


 意外ではないかな。ベルンハルト先生ってテニス似合いそうだし、今もスポーツしてますって感じの体形してるから。そこまで筋肉質ではないけれど、たるんでもいない。ちょうど良い感じです。


「それで、それで。その彼女さんってどんな人だったんですか?」


「そうだな。エリザベート嬢にそっくりだ」


「え?」


 え? え? え?


「ベス。どういうこと?」


「……ベルンハルトが学生の時代にも潜入捜査をやっていまして、その過程で知り合っただけです。彼の言うトラブルとは私が年齢を偽っており、かつローゼンクロイツ協会の執行官だったということでしょう」


 小声で私がベスに尋ねるのに、ベスが視線を逸らしながらそう告げた。


「でも、ベルンハルト先生は彼女だって!」


「そのように偽装しただけです。行動は制限されますが、詮索はされなくて済むので」


「つまりベスはベルンハルト先生を利用するだけ利用して捨てたんだね」


「その言い方は間違いを呼びかねないのでやめてください」


 何が間違っているっていうんだ! ベスがそんな悪女だったとは幻滅だよ!


「でも、ベルンハルト先生! その元カノがベスにそっくりだったなら、巨乳じゃないじゃないですか! ベスってせいぜいBカップぐらいですよ! 私とどっこいどっこいの勝負ですよ!」


「いやな。その時のトラウマが原因で貧乳を受け付けなくなったんだ」


「なにそれー!」


 ベスのせいじゃん! ベスは私に謝って! 滅茶苦茶謝って!


「この話はそろそろやめないか。いろいろと傷が広がるだけだ」


「そうです。可及的速やかにやめるべきです」


 ベルンハルト先生が申し訳なさそうに、ベスがちょっと必死にそう告げる。


「今は関係してないんですよね?」


「当たり前だ。誰がこんな化け物染みた若作り──ではなく、とっくの昔の女にこだわるものか」


「誰が若作りですか。これでも苦労しているのですよ」


 ベルンハルト先生が唸るのに、ベスまで唸り始めた。君らは犬か。


「アストリッド先輩。ベルンハルト先生とエリザベート先輩は何を……?」


「ベ、ベルンハルト先生が昔の彼女の面影をベスに感じるんだってさ!」


 なんで私がフォローする羽目になってるのさ! 勘弁してよ!


 はっ! よく考えたらこの話始めたの私だった。てへ♪


「まあまあ。ベスもベルンハルト先生もそこら辺で。ディートリヒ君が思いっ切り引いてますから」


「ああ。分かった、分かった。この話は二度としないぞ」


 まあ、ベスもベルンハルト先生も大人なので理解は早い。


「でも、ベスみたいな子が好みなら私とか滅茶苦茶好みじゃないですか?」


「どうしてそう思った?」


 だって、ベスだって凄腕の魔術師だし、人には言えない秘密持ちだし、なんだかんだでローゼンクロイツ協会って繋がりがあるし。


「お前とエリザベート嬢じゃ似ても似つかんぞ」


「えーっ! 似てますよ! ほら、そっくり!」


「似てない」


 私がベスと共に手を組んで並んで見せるのに、ベルンハルト先生がはっきりと首を横に振った。


 ひでえや。


「この話は終わりにするのでしょう。終わりにしましょう」


「ぶーっ」


 なんだか納得いかないぞ!


「さあ、昼までには見て回るんだろう。ここは広いから急がないと見損ねるぞ」


「そうですね。では、ボッチ組レッツゴー!」


「そのボッチっていうのマジでやめろ」


 私が号令をかけるのにベルンハルト先生が突っ込んだ。


 何はともあれ、私たちは水族館見学に出発した!


「ふむふむ。回遊水槽。知ってました? 魚の中には泳ぎ続けないと死んじゃう奴もいるんですよ」


「ああ。知ってる。呼吸ができなくなるんだろう?」


「ありゃ、知ってましたか」


 私の雑学を披露しようと思ったのにー。


「アストリッド先輩。こっちにベビー・シーサーペントが展示されてますよ」


「おお。これがシーサーペントに育つのかな?」


「いや。この種はこのサイズで成魚だそうです。シーサーペントになるのは、また違う種のようです」


「そうか。このサイズならかば焼きにすると美味しそうだね!」


「か、かば焼きですか」


 いけないけない。ついつい食べることを考えてしまった。


 ちなみにこの世界にもウナギのかば焼きはあります。醤油はないですけど、魚醤を使って香ばしく焼いたのをがぶがぶといただくのである。あれを食べると白いご飯が欲しくなるから困る。


 しかし、このベビー・シーサーペントは本当にかば焼きにできそうだな……。


「アストリッドさん。あなたは魚市に来たのですか、それとも水族館に来たのですか」


「す、水族館だよ、ベス!」


 私が食欲的な視線をベビー・シーサーペントに向けているのにベスに突っ込まれた。


「シーサーペントの味は薄味でそこまで美味いものじゃないぞ。その小さいのは知らないけどな」


「え? ベルンハルト先生、シーサーペント食べたことあるんです?」


「金がない時に冒険者と一緒に、な」


 そういえばベルンハルト先生も手伝い魔術師をしてたんだった。子爵家の次男ってのはそこまでお金がないものなんだろうか。


「こっちにあるのは……クラーケン!?」


 とはいっても、あの巨大で狂暴だったクラーケンの姿はそこになく、あるのはちょっと大きいイカだけである。そりゃあれだけ大きな魔獣を展示することはできませんよね。


「これって大きくなったら展示できませんよね? どうするんでしょう?」


「食べるんじゃないですか? クラーケンは美味しいですから」


 私が首を傾げるのにディートリヒ君がそう告げる。


「そうだね。あのサイズなら刺身にしてもいけるかも」


「さしみ?」


「ああ。生のままスライスして醤油でいただくの」


「生で食べると危ないですよ」


 まあ、保存技術やらなにやらが発展していないこの世界ではお刺身も満足に食べられないのだ。剣と魔法のファンタジーワールドに刺身があるのもどうかと思うけど、既にハンバーガーが存在するからな……。


「揚げたら美味そうだな」


「あなたたちは魚市にいったほうがいいのでは?」


 ベルンハルト先生もクラーケンを眺めて告げるのにベスが冷ややかに肩を竦めた。


「で、サメだー! サメー!」


 サメ! でかい! 説明不要!


「異世界のサメだからもっと変わったものかと思ったけど普通のサメだね。とっても大きいけれど。頭が5つあるわけでもないし、タコと合体してるわけでもないし。でも、トルネードが来たらやっぱり陸地でも襲われるのかな」


「……頭大丈夫か、アストリッド嬢」


 私が異世界のサメに絶大な期待を託しているのにベルンハルト先生が冷たい。


「ベルンハルト先生。サメが海だけでしか襲い掛かってこないと思ったら大間違いなんですよ。サメたちはあの手この手で人間を襲うんですから!」


「いや、どうやって陸地でサメに襲われるんだよ」


 空を飛んだりして!


「うわあ。アストリッド先輩。メガロドンですよ。本当に大きい」


「おおっ。これがサメ世界のレジェンド!」


 この世界ではメガロドンは絶滅していない! とてつもなく大きなサメがゆっくりと水槽の中を泳いでいるのに私たちは大興奮だ。


「あっ。10時半からシャチのショーがあるんだった! 急ごう! 見損ねる!」


「はいはい」


 この水族館を選んだのは他でもない。シャチのショーがあるからだ。


 日本でもシャチのショーが見れる水族館とかすっごく限られてたから、前世では私は生のシャチを拝んだことがないのだ。これを機会に生のシャチを見るぞ!


「ああ。アストリッド。あなたたちもシャチのショーを見に?」


「え、ええ。そうです、殿下」


 と思ったらフリードリヒに待ち伏せされていた。なんたる迂闊!


「楽しみですね、殿下!」


「ええ。シャチはとても賢い生き物だそうなので、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか。楽しみです」」


 まあ、今のフリードリヒにはエルザ君がいるから安全だ。


「会場にお越しの皆さまー。このショーは大変パワフルなショーとなっていまして、前列から5列目までの観客の皆さまには水がかかる恐れがあります。濡れても大丈夫な服装か、傘をさすようにお願いいたします」


 と、水族館の職員の方からアナウンス。


「よし。4列目で見ましょう」


「俺は水を浴びたくはないんだが」


「みんなで浴びれば怖くない!」


「訳が分からん」


 結局のところベルンハルト先生とベスに反対されて5列目より後ろの席になった。私とディートリヒ君は悔しさを共有した。


「では、シャチのショーをご覧ください!」


 繰り広げられるのはパワフルなシャチのジャンプや人間とのコンビネーション。そしてシャチが知的だと感じさせられる様々な芸。本当に5列目まではシャチのジャンプの時にはねた水でずぶぬれだ。


「楽しかったですね、ベルンハルト先生!」


「ああ。こういうのは初めて見た」


 ああ。ベルンハルト先生と私の間で思い出が刻まれていく。


「アストリッド様! 楽しかったですね!」


「そうだね、ミーネ。アドルフ様との関係は進んだかい?」


「じ、実は先ほどプロポーズを受けまして……」


「何っ!?」


 そこまで親密になってたの君たち! でも、素直に祝わせて貰うよ!


「ロッテはどうだった?」


「それが、その、シルヴィオ様から告白を……」


 ……君もなのか、ロッテ君。別に私は反対しないけどさ。むしろどんどんやって欲しいところである。


「ブリギッテは楽しめた?」


「はい。ゾルタン様と一緒にとても楽しめましたわ」


 君はもうゾルタン様をゲットしてるから言うことないね。


「サンドラはどうだった?」


「パトリック君が意外に大人びていて、これはいいのかもしれないと思ってき始めたところです。流石は学者様の子息なのか、魔獣の生態系についても非常に詳しく、いろいろなことを教わりましたわ」


 サンドラ君もパトリック君をゲットか。


「イリス、楽しかった?」


「はい。シャチのショーは最前列で見たのですが、とても迫力がありました。途中、ちょっと怖いシーンもあったのですが、その時はヴェルナー様が手を握ってくださっていましたから」


 イリスとヴェルナー君は問題なくラブラブ、と。


「エルザ君! 今日の感想は!」


「大変充実した時間でした。フリードリヒ殿下は魚類の生態系について非常にお詳しく、無知な私に懇切丁寧に説明してくださいましたし、水族館で過ごすというのは非常にロマンティックだということが分かりました」


 おおー。エルザ君ももうフリードリヒを落としてるな。


「では、ボッチ諸君。水族館は楽しかったかー!」


「まあ、楽しめましたよ」


「悪くはなかった」


「もっといろいろと見て回りたかったですね。ここには数百種類の魚がいるそうなので、それを全部見るにはとても時間が足りないです」


 ベスとベルンハルト先生の感想はたんぱくだが、ディートリヒ君は水族館を満喫したようだ。何より何より。


「この後のお昼は水族館内のシャチを眺めながら食べられるレストランね! シーフード料理がお勧めらしいよ! では行ってみよー!」


「わー!」


 というわけで私たちは夏休みを思う存分堪能したのだった。


 この後は狩りにいったり、スイーツ巡りをしたりしたけれど、どれも大切な思い出だ。卒業したらミーネ君たちとも疎遠になるだろうし、今のうちに思い出をたくさん作っておきたい。


 そして、恐らく結ばれることのないベルンハルト先生とも……。


…………………

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