悪役令嬢、新入生オリエンテーションへ
遅くなりましたが本日2回目の更新です。
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──悪役令嬢、新入生オリエンテーションへ
来るべき日が来た。
聖サタナキア魔道学園入学の新入生オリエンテーションの日だ。
私が予想したように貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんたちは使用人をわらわらと連れている。かくいう私も、気が利いて、親切で、厳しいメイドさん方を引き連れてきているので、人のことをとやかくは言えない。
ここで私はチラリとフリードリヒの方を向く。
フリードリヒは級友のアドルフとシルヴィオと談笑中だ。やはり連中もそれなり以上の数の使用人を連れてる。特にフリードリヒの使用人勢は護衛を兼ねる騎士の姿まで見える。過保護だなー。
「はい、ではクラスごとに集まってください」
あの厳つい精鋭たるゲーリゲ先生の代わりにそう告げるのは、教育実習生のベルンハルト先生だ。教育実習生に全クラスの相手させるなよ。そこは年長者が取り仕切りなよ。この学園はブラック学園だな。ここには勤めたくない。
私は言われるがままに1年A組のクラスの場所に集まる。
すると、何故かフリードリヒがこっちに接近してきたアドルフとシルヴィオを引き連れて。何故こっちに来る。まさかヒロインも出ないうちから、お家取り潰しの悲劇を起こすつもりなのかっ!
「アストリッド。同じクラスの級友として仲良くやっていきましょう。私としてはこれを機にあなたと親交を深められればいいなと思っています」
「は、はい。私もそう思います」
クソ。相手が皇子だから下手な対応はできない。だが、私は貴様らと親しくするつもりはないぞ。どうせお前たちはヒロインちゃんによしよしして貰わなければならない、ベイビーボーイズなんだからなっ!
「では、あなたに私の友人を紹介させてください。こちらはアドルフ、そしてこちらはシルヴィオです」
「アドルフだ。よろしく頼む」
「シルヴィオです。アストリッド嬢は若くして非常に高い魔術の才能があられるとか。授業で分からない箇所があったらお聞きしていいですか?」
別に紹介して貰わなくても知ってるけど、設定上は私たちは初対面。
「はい。こちらこそどうぞよろしくお願いします。魔術の才能があるかは分かりませんが、お力になれれば幸いです」
早くどっか行って! 早くどっか行って! 遠くに行って、遠くに!
「私たちはプルーセン帝国の明日を支えることになる人材。切磋琢磨してお互いを磨いていきましょう、アストリッド」
「ええ。ライバルであり、友人であり、そしてプルーセン帝国の貴族として、日々怠らずに勉学に励みましょう」
けっ。私は私で道を切り開くから結構です。
「はい。では、新入生オリエンテーションを開始します」
って、結局フリードリヒたちは私の傍から離れずに、オリエンテーションが始まってしまったぞ! こ、こんな地雷原に囲まれてオリエンテーションの説明を受けるのか……。生きた心地がしないです。
早く終わらないかな。この地獄のオリエンテーション。
帰ってゆっくり次に作る武器の設計図を準備したいよー。
そして、完成した武器でフリードリヒも、アドルフも、シルヴィオも皆殺しに。
クククッ。せいぜいのほほんとしているがいい。私は私の力で運命という名のそびえたつクソを丸焼きにしてやるからな……!
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で、オリエンテーションが始まったわけだが。
オリエンテーションはオリエンテーションだった。初等部で学ぶことについての簡単な説明があり、学園での過ごし方などについて説明であった。退屈でした。
それからは先生方による魔術の実演。
若い女の先生は水を操って空中噴水を行ったり、ゲーリゲ先生が炎の玉を出現させて空で爆発させたり、中年の男の先生は土を操って黄金を生み出したりしていた。
なかなか壮大で凝っているが、私の魔術には及ばないな。私の現代兵器があれば、相手が魔術師だろうと鏖殺できる。運命としてこの国の魔術師たちと戦うことになっても、そうそう苦労はしないだろう。
だが、学生たちは目をキラキラさせて先生方の魔術を眺めている。まあ、魔術に触れるのが初めての子なら、この魔術にも驚くかな。
と、方向が破滅へと進む傲慢さは抑えなければ。あの先生たちも学生に魔術の壮大さを教え込み、この学園で学ぶことでそれが得られるのだと思っているのだ。狙ったサイズの噴水や火の玉を作るには魔力の調節が必要。それをこなせる能力のある教師陣が揃っているのだと思う。そして、彼らから学べることは全て学び取ろう。
「壮麗でしたね、アストリッド」
「そうですね、フリードリヒ殿下。あれをコントロールするのは中々難しいことなのですよ。失敗するとお化け水玉に襲われることになりますからね」
「お、お化け水玉……?」
おっと、いけない。なるべくフリードリヒには接触しないようにしないと。いつ破滅の運命が襲い掛かってくるか分からない。ヒロインはまだ登場していないが、もしものことがある。地雷原は慎重に進むか、捕虜を一列に並べて除去すべし。
「こちらの話です。私も魔力制御には苦戦しましたから、あの技術の素晴らしさはよく分かります」
「アストリッド嬢もああいうことできるのか?」
私が告げるのに、アドルフがそう告げてきた。
ふん。何だか挑戦的だな。俺様系のキャラクターとは知っているが、私の好みに合わないから不満だ。
「できますよ、ほら」
私は手の平サイズの噴水を作って見せる。
流れ出る水は虚無を想像して消していき、新しく水を生み出す。ちょっとした宴会芸のようでありながら、実際はかなり高度な技である。
「ほう。凄いものですね。こんな風に小さな噴水を作れるなど。アストリッド嬢のように魔力の大きな方は魔力制御は非常に困難だと聞いていましたが、完璧に制御されているのですね」
「でも、なんか地味だぞ」
シルヴィオが感心するのに、アドルフが退屈そうに告げる。
精々馬鹿にしているといい。実際にこの噴水を作ることになったら相当苦労することになるぞ。水の精霊に働きかけ、魔力とイメージを調節して、それでいて溢れ出る水をピンポイントで消していくのは。
「では、次は自由時間です。18時になったら屋外でバーベキューとなりますので、それまでにはお集まりください」
またしてもベルンハルト先生が司会を務めて、オリエンテーションは一段落ついた。
だが、これからどうなるのだろうか。
私は本当に運命をぶち壊せるのだろうか?
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新入生オリエンテーションで安息の地がようやく得られた。
それは自室!
オリエンテーションには集団生活での素養を学ぶためにも、4人1組で部屋割りがなされている。私の部屋にも3名の級友たちがいる。
「アストリッド様」
ふと、フリードリヒのいない安息の地で寝そべっていると、他のベットの子が話しかけてきた。面識はまるでないが、どこの誰だろうか?
「どなた様で?」
「失礼。私はミーネ・フォン・モールです。モール伯爵家の次女です」
モール家か聞いたことがあるような、ないような。
「アストリッド様は先ほどフリードリヒ殿下と親しくお話しされていましたが、お二人の関係はどのようなもので?」
「地雷──ではなく、お慕いしているだけですよ」
ミーネが尋ねてくるのに、私は軽い調子でそう返した。
まさか、地雷原としても、個人の性格としても、大いに忌み嫌っている相手とは言えないだろう。そんなことを言ったら不敬罪によってバッドエンドである。バッドエンド、超怖い。
「そうですか? 非常に親しくされていましたが、将来をお約束されているとかそういうことではないのですか?」
「ま、まさか、そんなおぞま──恐れ多いことはありませんよ」
なんという恐ろしい想像をするんだ、この子は!
あんなのと将来を約束するだけでもおぞましいのに、あれと将来約束してたら私はバッドエンドへレッツゴー! だからな。いくらなんでも、あれと将来を約束するようなことはしたくないものである。
「ですが、私、アストリッド様とフリードリヒ殿下はお似合いだと思いますわ。なんでもアストリッド様は魔術の才能に極めて優れているとかお聞きしましたし。フリードリヒ殿下とご一緒になられるのはアストリッド様以外に相応しい方はいないと思いますわ」
「いやいやいやいや。それはないです。絶対にないです」
ええい。ゲームのアストリッドをけしかけたのも君だろう、ミーネ君。誰があんなナヨナヨ男子に惹かれるものか。お断りだ。
「では、アストリッド様は他に意中のお相手がいらっしゃるとか」
「ふうむ。家庭教師の先生が好きだったな」
「その方とお付き合いを?」
「いや、流石に年齢差が21歳もあるとちょっと……」
ヴォルフ先生大好きだけど、結婚とかそういうのを考える相手ではないな。
「では、意中のお相手はいらっしゃらないとのことなのですね。それならフリードリヒ殿下を是非とも射止められるべきですわ。私、お二人が一緒になられたらとてもいい夫婦になられると思いますの」
「夫婦になる前に破滅がやってくるから……」
ミーネ君はしつこいな。
私が仮にフリードリヒと恋仲になったところで、当て馬に過ぎない私はヒロインの登場によってフリードリヒの恋人の座を奪われるのだ。そして、挙句の果てにはお家取り潰しである。誰がそんな嫌な未来を夢見るものか。
「ミ、ミーネさんは意中の相手とかいらっしゃるのですか」
「はわっ! わ、私ですか? 恐れ多いことにアドルフ様をお慕いしております。私の兄が騎士団におりまして、そこで知り合ったのですが、大変気さくな方で将来の騎士団長は間違いないと思うのです」
反応が初々しいな、ミーネ君。
だが、アドルフはまあ悪くない人材だと思うぞ。あいつの悩みを解決するのは割と楽だし、悩みさえ解決してやればぐいぐい行ってくれるからな。
「では、私はその恋を応援させていただきます」
「そ、そんな! アストリッド様に応援していただけるなんて恐れ多いです……」
うーん。公爵家令嬢ってそんなに威光があるのかな?
「まあ、せっかく話しかけてくれたわけだし、お友達になりましょう、ミーネさん。私のことはアストリッドと呼んで構わないなから」
「い、いえ! そのような恐れ多いことはできません! アストリッド様と呼ばせてください! それからお友達の件は本当によろしければお受けされていただきます。不束者ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく!」
見合いに行くみたいだな、ミーネ君。それと私は別に君を取って食べたりしないから普通に接してくれるとありがたいのだけれど。
「まあ、ミーネさん、アストリッド様とご友人に!?」
「わ、私もアストリッド様と親しくしたいですわ……」
と、ミーネ君と友達宣言したところ部屋にいた他の2名も相次いでそう告げてくる。
「いいよ、いいよ。みんなでお友達になりましょう。私のことは気軽にアストリッドって呼んでいいから」
「そんな不敬なことはできませんわ!」
「アストリッド様と呼ばせてください!」
なんか意外にみんなよそよそしいな。これから私には名前で呼び合う友達ができるんだろうか。新入生オリエンテーションのその日から心配になってきたぞ……。
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本日の更新はこれで終了です。