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悪役令嬢の最後の夏休み

…………………


 ──悪役令嬢の最後の夏休み



 今年もあっという間に期末テストやらなにやら終わって夏休みになった。


 今年の夏はしたいことがいろいろとある。


 学園最後の夏をミーネ君たちと過ごしたいし、イリスとも遊びに行きたいし、とにかく学園の最後の夏なので思い出になるようなことがしたい!


 だが、あれこれ手を出すと、どれも中途半端になってしまいそうな気がする。ここはひとつに的を絞るべきだろう。


 とりあえず、海! これは外せない。


 海沿いのホテルか別荘を借りて、友達を集めよう。


 ミーネ君たちに、イリスに、ヴェルナー君とディートリヒ君に、ベスに、ベルンハルト先生とエルザ君も呼べたら呼ぼうかな。よし、メンバーは決まったぞ。フリードリヒ? なんで奴を誘わなきゃいけないの?


 なんといっても学園最後の夏である。思い出作りに励みたい。


「よーし! じゃあ、早速招待状を書くぞー!」


 私はお目当ての海沿いのホテルを見つけると、みんなに遊びにいこうと手紙を出した。みんなから返事が来るのは数日後ぐらいだろう。


 それにしても地球と違って高等部3年になっても受験勉強で慌ただしくしなくていいのがいいものだ。まあ、その分結婚やらなにやらがうるさくなってくるのですが……。


 お父様は私がフリードリヒとの縁談を蹴ったと知らされてがっかりしていたけれど、そのうちいい相手を探しておくと言ってくれた。


 見つかるまで学士課程に進んでいいかと尋ねたら猛反対されたけどね……。日本では勉強ができるというのはステータスだったはずなんだけど、この世界ではそうでもないらしい。悲しいね。


 まあ、というわけで私の卒業後の予定は未定なわけである。


 みんなが卒業後は結婚という中、私だけが結婚してないってのもちょっと疎外感があるけれど、別に結婚願望があるわけじゃないし、運命の高等部3年を乗り切ったらのんびりと過ごしたいものである。


 しかし、お父様には年上の男性がいいと伝えてあるのだが、ちゃんと私好みの男性を見つけてきてくれるだろうか。あまり年上過ぎても困るのだが、そこら辺のことを理解して貰えているのかは謎だ。


 かといって、真逆の10歳年下とか連れて来られたらどんな顔をしていいのか分からない。10歳年下だったら初等部1年生である。犯罪臭が半端ない。


 あー。でも、ベルンハルト先生との年齢差も10歳だったなー。ベルンハルト先生もこれは犯罪だと思っているのだろうか。


 しかし、私はもう大人のレディ! 犯罪なんてことはありませんよ!


 もっとも懸念されるのは年齢差よりも、私の胸が依然としてペタン族な点だろう……。ベルンハルト先生は巨乳の子が好きとか言ってたから、ペタン族の私は眼中にない可能性が極めて高い。


 ついでに言えば身分差もあるしなー。


 やはりベルンハルト先生は諦めざるを得ないのだろうか。無念。


 学園卒業したら会う機会もなくなっちゃうし、私の初恋は露と消えたのであった。


…………………


…………………


 やって参りました、海!


 招待客は全員来てくれた。あのベルンハルト先生とエルザ君も来てくれたぞ!


 エルザ君は料金を心配していたが、全額私が負担するからと言って無理やり誘った。エルザ君と仲良くしておくと将来の皇后陛下だから、いろいろとお得な点がありそうなのだ。もちろん、友達としても大事にしているぞ!


 まあ、エルザ君を誘ったのは他でもなく、フリードリヒが男を見せて彼女と結ばれると宣言したからである。これでようやく一安心だ。エルザ君もよくフリードリヒという核地雷を解体処分してくれた。


「……で、自由に人を誘っていいとは言ったけど……」


 しかしながら、まだ問題は残っているのだ。


「迷惑だったか?」


「だ、大丈夫ですわ、アドルフ様!」


 ミーネ君がアドルフを連れてきて。


「ロッテ嬢からせっかくなのでと誘われたのですが」


「ええ。最後の夏を楽しみましょう、シルヴィオ様!」


 ロッテ君がシルヴィオを連れてきて。


「学園で過ごす最後の夏ですから思い出を作りたいですね」


「そうですね、フリードリヒ殿下」


 エルザ君がフリードリヒを連れてきた。


 じ、地雷原シリーズ勢揃い……!


 さ、幸いにしてこれは元地雷原だ。もう爆発するおそれはないはずだ。多分。そうであって欲しい。本気で。


「ブリギッテはゾルタン様と一緒だね」


「ええ。お誘いしたら快く承諾してくださいましたわ」


 ブリギッテ君は結婚する前からゾルタン様とラブラブだ。羨ましい。


「サンドラはその子がこの間話してた子?」


「はい。パトリック・フォン・ヴランゲル君ですわ」


 サンドラは縁談が纏まったのか、晴れて婚約者になった6歳年下の子を連れてきていた。まだまだ初等部4年の子ながら、凛々しい顔つきをしている。そして、やはりヴォルフ先生の面影があるな。


「初めまして、パトリック君! 私はアストリッド。君は知らないかもしれないけれど、私が小さいときには君のお父さんにお世話になったんだよ」


「ああ。父が言っていました。とても魔術の才能がある方の家庭教師をしていたと」


 おお。優等生評価。これは嬉しい。


「今、ヴォルフ先生はどんな研究をしているの?」


「心の病を癒す研究をしているそうです。戦争から帰還した兵士が患うような病の研究だと言っていました。難しいことは分かりませんが……」


 ヴォルフ先生、PTSDの治療の研究をしてるのか。この世界の精神心理学は随分と進んでるな。地球とか追い越してるんじゃないだろうか。


「じゃあ、部屋割りは適当に。カップルはカップル同士で一緒になってもいいよ?」


「ま、まだ学生だから早いですわ!」


 私が気を利かせたのにミーネ君に反対されてしまった。


「じゃあ、女子と男子で別れよっか。2名で1部屋だから……」


 というわけで、私たちはそれぞれ女子男子で部屋割りをした。


 私はエルザ君と一緒の部屋だ。エルザ君はベスになら任せられるけれど、他の子はまだ危うい。幸いにしてフリードリヒがエルザ君と結婚する気だという話は漏れていない。皇室としてもそう簡単に認めるつもりはないのだろう。


「エルザ君、エルザ君。フリードリヒ殿下とはどんな感じだい?」


 私たちは部屋に荷物を置くと、海に繰り出す前にちょっと世間話を。


「殿下とはいい関係だと思います……。その、平民の私がこんな関係になっていいのかと思うぐらいに……」


「全然いいと思うよ! フリードリヒ殿下はそういうこと気にしない方だし!」


 フリードリヒが宰相閣下を前にして踏ん張ったんだ。エルザ君も頑張ってくれ!


「本当にいいのでしょうか……。ときどきこれは夢で、いつか覚めてしまうのではないだろうかと心配になることがあります。やっぱり自分は平民ですから……」


 ううん。まあ、流石に皇太子と平民では身分差がありすぎると思うだろう。だが、君は将来の公爵家令嬢なので大丈夫なんだぞ。だから、勇気を持つんだ!


「大丈夫、大丈夫。報われない恋にならないことは私が保証するよ。私は未来のことがわかるから間違いない」


「フフッ。アストリッド様は面白い方ですね」


 笑うなやい。私は本当にエルザ君がフランケン公爵家令嬢だと知っているのだ。きっとふたりは結ばれて、ハッピーエンドを迎えるのだ。


 この調子ならば悪役令嬢の立場を脱せるかもしれない。私もハッピーエンドを迎えられるかもしれない。そうだといいなー。


「ささっ。エルザ君も水着に着替えて! フリードリヒ殿下の視線を釘付けにしちゃいなよ! きっと惚れ直しちゃうと思うよ!」


「そ、そうでしょうか?」


 エルザ君ってスタイルもいいからね! フリードリヒはいちころさ!


「さあ、急げ、急げ! 夏は短し遊べよ乙女だ!」


「お、おー!」


 というわけで私たちが水着に着替えて、海へと繰り出した!


…………………


…………………


「あ、アストリッド様。来られましたね」


「ごめんごめん。私たちが最後だった?」


 砂浜では既にミーネ君たちが集合していた。


「みんなさっき来たばかりですよ」


 どうやらそうであるらしく、まだ誰の水着も濡れていない。


「じゃあ、これから海を満喫しよー! 後でバーベキューもするから思う存分お腹を減らしてね! せっかく海に来たのに日光浴だけじゃもったいないよ!」


「わー!」


 そうである。この後はバーベキューの予定があるのだ。お肉をいっぱい食べるためにもみんなにはお腹を空かせて置いて貰いたい。私ひとりだけでいっぱい食べて騒ぐのも虚しいので。


「では、自由にとはいったものの……」


 みんなわやわやと各々で遊び始めたものの、よくよくみればカップル同士で集まっているではないか。


 ミーネ君はアドルフとロッテ君、シルヴィオと共にビーチバレーに似た競技に励んでいるし、ブリギッテ君とゾルタン様は木陰でまったりしているし、サンドラ君はパトリック君と浅瀬で魚を探しているし、イリスはヴェルナー君から泳ぎを教わっているし、エルザ君はフリードリヒと波打ち際を散歩している。


「さて、お相手のいないボッチ諸君!」


「誰がボッチだ」


 残されたのは私とベスとディートリヒ君、そしてベルンハルト先生だ。


「あまりもの同士仲良く遊ぼう! ベスは泳げる?」


「ええ。それなりには泳げますよ」


「じゃあ、競争だ! 目標はあそこの小島!」


 私は沖合100メートル付近に位置する小島を指さす。


「おいおい。俺たちも強制参加か?」


「別にすることないでしょ、先生?」


「一応保護者のつもりで来たんだがな」


「まあまあそうおっしゃられず」


 ベルンハルト先生もせっかく海に来たのだから遊ぼうよ!


「じゃあ、位置についてー!」


 私が告げるのに、ベルンハルト先生たちが渋々というように位置に着く。


「よーい、ドン!」


 ふふふっ! 自分で号令をかけるのだから、私が一番早くスタートできるに決まっているではないか! 私ってば凄腕の戦略家だな!


「って、みんな速いっ!」


 ディートリヒ君とベルンハルト先生が速いのはある程度予想してたけど、ベスまで凄く速いぞ! 吸血鬼は流水がダメとかいうお約束は通じないの!? 私がビリになりそうなんだけどっ!


 ええいっ! こうなればブラッドマジックを容赦なくフルに使って、最大戦速だ! うおおっ! 今の私は人間魚雷だっ! 敵艦めがけて突撃するのだーっ!


 そう言えば、イタリアには人間魚雷部隊という名の特殊部隊が存在したそうな。日本の人間魚雷と違ってちゃんと帰還してくる部隊である。その名もXMAS戦隊。別にメリークリスマスな部隊ではないよ? ちなみに大戦末期には陸戦部隊になったとか。


 まあ、そんな雑学は置いておいて、今は私も人間魚雷のごとく突き進むのである! 待ってろ戦艦クイーン・エリザベス! 撃沈してやるからな!


 おおっと。私が加速してるのにベルンハルト先生も速度を上げてきた。ディートリヒ君も心なしか速度が上がっている。ベスは依然として黙々と速い。


 負けてたまるかー! 私が一番になるんだー!


 元々陸の生き物で海では生息に適さない私であるが、この時ばかりはそのしがらみを脱ぎ捨てて、海の生き物になるのだ! 私は魚、私は魚、私は魚……。


「ゴール!」


 そして、沖合の小島に到着! 順位は……。


「遅かったな、アストリッド嬢」


「うへえ。ベルンハルト先生には流石に勝てませんか」


「こう見えても学生の頃はテニス部だ。肺活量には自信がある」


 ベルンハルト先生が1位。


「はあ、はあ。アストリッド先輩、速いですね……」


「飛ばしすぎです」


 僅かに遅れてディートリヒ君とベスがほぼ同着。


「ヘヘッ! 私が2位でビリがベスね!」


「好きにしてください」


 ベスはちょっと悔しいのかそっぽを向いてしまった。


「それにしてもやっぱり泳ぐのはいいねー。山登りも好きだけど、泳ぐのも嫌いじゃないや。学園にももっと大きなプールとかあればいいのに」


「学園にプール作るくらいなら教職員の給与上げてくれ」


 私が小島に腰かけて足をパタパタさせるのに、ベルンハルト先生が突っ込んだ。


「それにしても水着ですよ、水着。この水着、結構可愛いでしょう? ベルンハルト先生、ちょっとはドキッてしました?」


 私はいつぞやの日に買ったタンクトップとスパッツ型の水着を見せびらかす。ちなみにベスはワンピース型の水着だ。色は黒でベスによく似合ってると思うけど、やっぱり水着も黒なのか。


「まあ、悪くはないんじゃないか? だが、向こうの連中は随分と冒険してるぞ?」


 そう告げてベルンハルト先生はロッテ君たちの方を指さした。


 あちらはあちらでビキニに挑戦している猛者たちだ。スタイルに自信がある人は羨ましいなー。私のようなペタン族にはああいうのは似合わないからなー。


「あっ。でも、先生。私って胸、大きくできますよ?」


「……魔女絡みの話はごめんだぞ」


 ばれてーら。ロストマジック式豊胸術を使えば、私もスタイル抜群になれるのに。


「それじゃ、今度は岸に向けて競争しましょう! 1位の人はビリの人に命令できるということで! よーい、ドン!」


「あっ、こら、アストリッド嬢! そんな話は聞いてないぞ!」


 で、今度は小島から岸までレースしたわけですが、1位はやっぱりベルンハルト先生だったです。フライングスタートしても勝てないとは……。


 最終的にビリだったディートリヒ君がベルンハルト先生のためにビールを取りに行くことになり、私たちは全力だしすぎてくたびれ、その後はのんびりとアイスを食べたりして過ごしました。


 その後はバーベキューでお腹をめいっぱい減らした私が思う存分肉を貪ったのは言うまでもない。


 栄養が胸に行くといいなー。


…………………

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