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悪役令嬢、勝利の宴

…………………


 ──悪役令嬢、勝利の宴



 シレジア戦争、完勝!


 来た、撃った、勝った!


 私の中ではパーフェクトヴィクトリーに終わったシレジア戦争ですが、その戦勝祝いが行われることになりました。


 シレジアの防衛のみならず、オストライヒ帝国を事実上崩壊させた私の功績を思う存分に讃えるといいでしょう! さあ、讃えて、讃えて! 崇め奉って!


「聖女様に乾杯!」


「我らが戦場の天使に!」


 と、讃えられるのはエルザ君である。


 おい。私はどうした、私は。私の功績は大きいだろうが。


「エルザ嬢のおかげで生きて祖国に帰ることができた。腹に矢を受けたときにはどうなることかと思ったが、今やぴんぴんに生きている。これもエルザ嬢のおかげだ。あの人は本当に聖女だ」


「まさか切り落とされた腕が元通りになるとは思わなかった。これで終わりかと思ったが、こうしていられるのは聖女様のおかげだ」


 エルザ君は私が見てない場所で秘かに大活躍していたようで大絶賛である。


 一方の私は……。


「聞いたか、赤の悪魔の話は?」


「ああ。なんでもひとりで数万のオストライヒ帝国軍を屠ったらしいな。敵兵の返り血で真っ赤に染まっているから赤の悪魔っていうらしい。戦場じゃあ、出会いたくない相手だよな」


「赤の悪魔は前に竜も殺したらしい。ほら、炎竜騒ぎがあっただろう。あれを仕留めたのが赤の悪魔らしいぞ」


「ひえー。そりゃあ、もう本当の化け物だな」


 ……これですよ。


 おい! 私は友軍だろうが! なんで友軍まで悪魔呼ばわりなんだ! 納得いかない! 私だって戦乙女とか呼ばれてちやほやされったっていいだろう! なんなんだ、この国の軍隊はっ!


「もう、やってられないよ! ミーネ、ビールお替わり!」


「最初からビールは飲んでませんわ。紅茶をどうぞ」


 祝いの席だというのに私たちは未成年なので、お酒は飲めないのですよ。もはややけ酒したい気分だったのに。やけ酒したことないけど。


「それにしてもあんまりだと思わない、ミーネ? みんなで私のことを悪魔、悪魔って呼ぶんだよ。私としては赤の戦乙女呼びを流行らせたいのにさ。どーして、エルザ君が聖女で私が悪魔なんだい!」


「ええ。ごもっともですわ。でも、アストリッド様は実際のところ悪魔のごとき戦いぶりでしたけれど」


「君まで裏切るのか!」


 ミーネ君まで私のことを悪魔呼ばわりだよ! がっかりだよ!


「だって、アストリッド様と来たら、危ないというのにほぼ毎日出撃されて、挙句には勝手にオストライヒ帝国本土に攻め入っていかれるだなんて。どうなることかと心配していましたわ」


 うっ……。


「だけれど、私は戦果を上げたよ! フリードリヒ殿下が心臓を射抜かれたり、アドルフ様が腕を切り落とされたり、シルヴィオ様が落馬して頭を打ったりしなかったのは私のおかげなんだからね!」


「まあ、確かにアストリッド様は戦争をサクサクと終わらせてしまわれましたね」


「だろうだろう。私のことは赤の戦乙女と呼んでくれたまえ」


 戦争を終わらせたのは私だぞ! 褒めたたえろ!


「しかし、竜殺しの魔女というのはどこから来たのでしょうか? 竜にまつわる部隊と戦われたりしましたか?」


「ど、どーだろーねー」


 くそう。赤の悪魔といい竜殺しの魔女といい、余計な二つ名ばかりが広がる!


「アストリッド。今回は凄まじい活躍でしたね……」


 私がそんなことを愚痴っていたら、フリードリヒがやってきた。いつの間にか現れたアドルフとシルヴィオも一緒だ。アドルフとシルヴィオはどこで何してたの? どんな顔して戦勝祝いに参加してるわけ?


「赤の悪魔とは誰のことかと思ったが、お前のことだったのか、アストリッド嬢」


「赤の戦乙女です、アドルフ様」


 お前まで悪魔呼ばわりすんじゃない、戦場ニート1号。


「まさかオストライヒ帝国が滅んでしまうとは思いませんでした。いや、滅んだとは言えないのですが、事実上あの帝国は崩壊してしまっていますから。歴史が転換した瞬間に居合わせた気分です」


「そうですか」


 お前は散々軍拡に反対してたのになんだよ、それは。軍隊が全然足りないから私がバリバリ頑張る羽目になったんだぞ。分かってるのか。おかげで私は悪魔呼ばわりなんだぞ。私の中ではお前が阿呆だと判明した瞬間に居合わせた気分だ。


「ですが、アストリッド。いくらなんでも宮殿を瓦礫にしたのはやりすぎですよ。あれでオストライヒ皇帝が死んでしまったのですから」


「向こうから仕掛けてきたのが悪いのです」


 そうなのだ。私が宮殿を吹き飛ばしたのに巻き込まれてオストライヒ皇帝は死んでしまったのだ。まあ、シレジアを盗み取ろうとしたシレジア泥棒なので、死んでもどうでもいいですけどね。


「はあ。あなたが赤の悪魔と呼ばれるのも分かる気がします」


 うるせーっ! 私が活躍してなかったら、お前は心臓に矢を受けて矢リードリヒになってたんだからな! 感謝しろよ!


「しかし、あなたは敵を倒した。プルーセン帝国の危機を救った。それを悪魔と呼ぶべきではないでしょう。プルーセン帝国にとってはあなたは救いの女神だ。それを否定するものはいないでしょう」


 ん? 何かと思えばなかなかいいこというな、フリードリヒ。そうだぞ。私は女神様だぞ。崇め奉るがいいであろう。


「ミーネ嬢も後方支援、お疲れさまでした。あなたの救護で救われた人もいるし、あなたの作る食事は好評でしたよ」


「もったいないお言葉、感謝の極みです、殿下」


 ミーネ君も後方支援を頑張ってたんだよな。戦場ニート1号と戦場ニート2号はどこで何をしてたんだろう、本当に。


「アドルフ様方はどこで何を?」


「俺たちは予備部隊に編入されていた。戦況が悪化したら投入される予定だったが、その前にアストリッド嬢が戦争を終わらせてしまったからな」


 なんだ。やっぱり戦場ニートだったのか。


「そういえばエルザ嬢が偉く活躍したそうだが、知っているか?」


「そーですねー。聖女とか呼ばれているそうですよー」


 けっ。どいつもこいつもエルザ君、エルザ君と。すねるぞ。


「エルザ嬢の活躍は大変目覚ましかったそうですよ。多くの負傷兵がもう助からないだろうという状況で助かったそうですから。彼女には本当にブラッドマジックの才能があるようです」


 うむ。まあ、これでフリードリヒの好感度は上がったっぽいのでよしとしよう。


 本来なら矢リードリヒになったところを治療されてもっと好感度があがるはずだったのだが、私が矢リードリヒになる前に戦争を終わらせてしまったからな……。


「アストリッド様! フリードリヒ殿下たちも!」


 そんなことを話していたら向こうからエルザ君がやってきた。元気いいな、君。


「やあ、エルザ君。大活躍だったみたいだね。救護所は血の海だったってミーネに聞いたけど君は大丈夫だったのかい?」


「はい。最初は驚きましたが、目の前に助けなければならない人がいると思うと、怯えてなんていられないなって。だから、気にはならなかったです」


 これが聖女か。確かに聖女だな。


 私は血の海から人を救い出すのではなく、血の海を作る方だったからなー。


「しかし、君って本当にブラッドマジックの才能があるんだね。どうやって助かりそうにない人を治療したの?」


「生物の時間に教わったように、体の中の体液が抜けすぎないようにし、傷口を癒すと共に汚れないように気をつけてやりました。傷口を洗うには強い度数のアルコールがいいと軍医さんが言っていたので言われたとおりに」


 文明レベルがちぐはぐで分かりにくいんだよな、この世界。殺菌消毒の概念があるのかないのかいまいち分からない。エルザ君の言う感じでは、経験則的にそういう知識があるって感じだけど。


「よくやった、エルザ君! エルザ君に乾杯!」


「紅茶では乾杯しませんよ、アストリッド様」


 エルザ君までそこ突っ込むの……。


「エルザ嬢。素晴らしい働きでした。プルーセン帝国とプルーセン帝国軍の将兵はあなたにとても感謝しています。私個人としてもひとりでも多くの兵士が無事に家に帰ることができてよかったと思っています」


「も、もったいないお言葉、ありがとうございます!」


 フリードリヒは私の時と違って素直にエルザ君を褒めている。ちょっと偉そうで、嫌味な感じがするが、まあ好感度がそれだけ高いということで良しとしておこう。


「アストリッド様も大活躍だったと聞きましたよ。なんでも赤の悪魔と敵に恐れられていたとか!」


「そのあだ名は止めて欲しいかな……」


 エルザ君にまで悪魔呼ばわりされたら泣くよ。私は恋のキューピッドなのに。


「い、いえいえ。アストリッド様が悪魔だと言いたいのではなく、アストリッド様の活躍で敵の兵隊さんが怯えるほどに凄かったというのを伝えたかったんです!」


「うんうん。でも、赤の悪魔は禁止ね」


 エルザ君が必死に弁解するのに私がそう言っておく。本当に嫌だからね。


 しかし、どこかの戦場ニートと違ってエルザ君は活躍したな。これで学園におけるエルザ君の立場もよくなるといいんだけどな。新聞とかで取り上げてくれないかな。


「ミーネ。やっぱりエルザ君はただの平民じゃなかったでしょう?」


「そうですわね……。私も救護には携わったのですが、やはりひどい傷を見てしまうと失神してしまいそうになりましたから。そういう点は平民の方の方が慣れておられるようでしたわ」


 そーいう方向に行くのか、ミーネ君……。素直にエルザ君よくやったって褒めようよ。別にアドルフの治療したわけじゃないんだからさ。


「では、皆さんお疲れ様でした! 学園に戻ったらまたご一緒しましょう!」


「ええ。そうしましょう」


 エルザ君はそろそろ帰りなのか、荷物を持って出ていった。


「フリードリヒ殿下。やはりエルザ君は特別な人なのでは?」


「そうですね……。今の彼女は国民にも愛される気質があります。もしかすると……」


 おお。いけちゃう、いけちゃう? 勇気出せよ、フリードリヒ!


「このことは新聞にどでかく載せましょうね! エルザ君の活躍を宣伝して、戦争で憂鬱な気分になっていた帝国臣民の気を晴らさなくては!」


「ええ。是非ともそうしたいところです」


 そうしたいところじゃなくてするんだよ! いつまで頭の花に養分吸われてるんだ、この皇子は! 恋人をゲットするまたとないチャンスだぞ! 頑張れよ!


 ……後日、新聞に無事エルザ君の活躍が掲載されたのだが、私の赤の悪魔としての扱いの方が大きかった。だから、頑張れって言ったのに……。アホードリヒめ……。


…………………

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