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悪役令嬢、都市を蹂躙する

…………………


 ──悪役令嬢、都市を蹂躙する



 プルーセン帝国軍による、オストライヒ帝国軍をシレジアから駆逐し、同時にオストライヒ帝国本土に侵攻する作戦に先駆けて、私はオストライヒ帝国本土に攻め込んだ。


 最初は何をしようかと思ったが、最初の都市が見えるにしたがってやるべきことは分かってきた。都市は城壁に囲まれ、外敵の侵入を防いでいる。こいつは侵攻軍にとっては邪魔になるな。


 よし、壊そう!


「ライフル砲!」


 私は毎度おなじみの口径120ミリライフル砲を取り出して構えると、対戦車榴弾を装填して砲口を城壁に向ける。


「てーっ!」


 放たれた砲弾は城壁へと飛翔し、城壁を吹っ飛ばす。私は念入りに念入りに城壁に砲弾を浴びせかけて、完全な更地になるまで砲撃を続けた。


 途中、砲撃によって飛散した瓦礫が城壁内の家屋に衝突して家屋が崩壊するとかいうトラブルもあったが、それを除けば万事順調に私は城壁を叩きのめしてやった。


 ご覧ください。あの城壁で息苦しく狭苦しかった都市が、城壁がなくなったことによって、見事な開放感を得ました! これぞ匠の技というものでしょう!


 ん? 私がリフォームしてやった都市からクロスボウを持った連中が出てくる。あれか、ここは軍事基地なんだな。そうなのだな。都市に偽装しているオストライヒ帝国軍の駐屯地なのだな。


 ならば、城壁だけでは済ますまい。完膚なきまでに都市を消し飛ばしてやる。


「多連装ロケット砲!」


 毎度おなじみの多連装ロケット砲を展開すると、砲口を都市の内部に向ける。


「民間人に被害が出るかもしれないけど、それはコラテラルダメージに過ぎない」


 都市部に多連装ロケット砲をぶち込むという鬼畜の所業を行う前に、私はそのように宣言しておく。私は悪くない。都市部に兵力を配置した君たちが悪いのだよ。


「てーっ!」


 情け無用、ファイアー!


 多連装ロケット砲から次々に放たれるロケット弾が都市部を吹っ飛ばしていく。


 安心したまえよ。殺傷力の低い通常弾だ。クラスター弾や焼夷弾、地雷を使用しないだけありがたいと思って貰わなくては。


 吹っ飛べー。吹っ飛べ―。悪い敵兵はいねえがー。


 うむ。悪い敵兵は軒並み消し炭になったようだ。もう兵士が出てくる様子はない。敵兵がいなければこれ以上攻撃を続ける意味もないだろう。ここは私の温情によって見逃してやろう。ありがたく思うんだぞ。


 とはいえ、これから全ての都市でこれだけの破壊を繰り広げるとなると、カルマが悪の方向に向けて転がり落ちてしまいそうだ。軍事的にやむを得ないとはいえど、あまり民間人を殺しすぎるのもよろしくないだろう。


「でもなー。どうせ本土侵攻するとなったら略奪祭りだし、私が自重してもあんまり意味はないのかもなー」


 この世界の軍隊の兵站は基本的に現地調達である。シレジアでの戦いは自国領ということもあり、対価を支払って食料などを購入していたが、敵国であるオストライヒ帝国本土となったらそんな面倒くさいことをするとは思えない。ひゃっはー! 略奪だー! になりそうな気がしてならない。


「まあ、私ばかり手を汚すのもなんだから、我らがプルーセン帝国軍の人たちにも仕事して貰うとしよう。略奪祭りが起きようと、私は知らなーい」


 戦争の業は一介の学生が負うには大きすぎる。みんなで分け合おう。略奪も虐殺もみんなでやれば怖くない。いざとなったら戦争犯罪の責任は全てフリードリヒか皇帝陛下に擦り付けてしまおう。そうしよう。


 というわけで、私は適度に都市を破壊しながら前進することにした。


 最低限、都市の城壁は破壊する。敵兵の姿が見えたら可能な限り排除する。


 このメソッドで私は前進を続ける。


 吹っ飛べ―! 吹っ飛べ―! 吹っ飛べ―!


 城壁を吹き飛ばし、敵兵を吹き飛ばし、途中で休憩したりしながら私は前進。お弁当のサンドイッチは質素だけどおいしかったです。


 そんなこんなで私が我らがプルーセン帝国軍の進撃路を確保してやっているのに、我らがプルーセン帝国軍はちっとも姿を見せない。私の進軍速度が速すぎるせいだろうかとちょっと途中でお茶をしたりして休憩したりもしたのだが、待てど暮らせど来やしない。


 おかしいだろ! さっさと来いよ! 城壁修理されるぞ!


 どうにもこうにもおかしいので私は一旦シレジア方面に戻ってどういうことか確かめることに。


「ミーネ! プルーセン帝国軍がちっとも前進してこないんだけど!」


「わっ! い、いきなりですわね、アルトリッド様」


 よくよく見たらミーネ君がいる後方支援部隊の拠点もちっとも動いてない! どーいうわけだい、これは!


「私がオストライヒ帝国本土で敵を削っているのに、ちっともプルーセン帝国軍が前進してこないんだよ! ここもそのままだし! こんなのおかしいよ!」


「私に言われても分かりませんわ……。補給将校の方が来られているのでその方に聞いてみてはいかがでしょうか?」


 そうだな。ミーネ君に文句を言ってもしょうがない。文句はプルーセン帝国軍の偉い人に言おう。


「ちょっと! そこの将校さん! なんで前進してないんです!?」


「わっ! い、いきなりだな、君」


 私が件の補給将校を捕まえて肩をゆするのに、補給将校の人が目を丸くする。


「前進というとシレジアに残っている敵のことかい? まだ残党は残っているそうだよ。掃討するのにはまだまだ時間がかかるだろう」


「えーっ!? この間、私が壊滅寸前まで追い込んでいたのにまだーっ!?」


 ちょっと待てやい! シレジアに攻め込んできたオストライヒ帝国軍は私がけっちょんけっちょんのぼろ雑巾にしてやっただろう! それなのに何でまだシレジアのオストライヒ帝国軍の相手してんのさ!


「なんでもオストライヒ帝国軍に次々と援軍というか、流れ着いたものたちが集まっているようでしてね。捕虜を尋問したら、都市が赤の悪魔に滅ぼされて、仕方なく逃げてきたとかいうそうだよ」


 ……つまりはこういうことかい。


 私がオストライヒ帝国本土をガリガリと叩いていたら、そこから逃げ出した兵士がどんどん帝都ヴィーンに向けて進む私から逃れるべく、逆方向のシレジアに向かい、結果としてシレジアのオストライヒ帝国軍が増大。


 んな馬鹿な! そんな馬鹿な話があってたまるか!


 そもそもオストライヒ帝国との国境に配置されているプルーセン帝国軍はどーした! 連中はシレジアの敵に構わないでいいから、順調に前進できるはずだろっ! 責任者出てこい、こらーっ!


 というわけで、私は司令部へ!


「よっと!」


「ああ、オルデンブルク公爵家のアストリッド殿。どうされました?」


 すっかり歩哨さんとも顔なじみである。


「大将閣下! 大将閣下を呼んでください! 戦争がおかしなことになってます!」


「はあ。ちょっとお待ちください」


 歩哨さんは渋々というように司令部に向かった。


「何だね、アストリッド君。戦争がおかしいとは?」


「どうもこうも戦争がおかしいんですよ! 逃亡兵で強化される軍隊とか聞いたことないですよ! どこの懲罰部隊ですか!」


 大将閣下が煩わしそうに顔を出すのに、私が告げる。


「ああ。シレジアの残党か。あれは今は壊滅寸前だったのが持ち直して、また我が軍と張り合い始めているからな。だが、君がオストライヒ帝国本土を荒らし回ってくれているおかげで他の地域から援軍を得ることができたぞ」


「おかしいよ! その援軍をオストライヒ帝国本土侵攻に当ててくださいよ!」


 オストライヒ帝国本土が壊滅したらシレジアに残っているオストライヒ帝国軍も降伏するでしょう! 優先順位がおかいしいよ!


「それがフリードリヒ殿下がオストライヒ帝国本土への侵攻に難色を示しておられててな。皇帝陛下と話し合われているところなのだ」


 フリードリヒー! てめえの仕業かー! 矢リードリヒにしてやろうかっ!


「フリードリヒ殿下に会わせてください! 一言言ってやりますから!」


「ま、待ちたまえよ、アストリッド君!」


 もう激おこだよ! なよードリヒのせいで私の苦労が台無しになるなんて!


「たのもー!」


 私は司令部に踏み込んだ。


「アストリッド。どうしてここに?」


「その理由はご自分が一番よくお知りになっているのでは!」


 この腑抜け皇子め!


「……オストライヒ帝国本土侵攻について、ですか。あれは民間人の避難を促すために警告を発してからということになりそうです。それならば犠牲は最小限で済むでしょう」


「遅いですよ! もう民間人とか死にまくってますから! 私が都市をいくつ潰してきたと思ってるんですか!」


「なっ……」


 そんなに驚いた顔しても許さないよ! お前のせいで全部台無しなんだからな!


「直ちに軍をオストライヒ帝国本土に向けてください。既に進撃路は確保してあります。もし、進軍が行われないようでしたら、私が単独で帝都ヴィーンを火の海にしてきますからね」


「それは……」


 さっさと答えろ、この間抜け!


「分かりました。進軍を開始に同意しましょう。ですが、民間人の犠牲は最小限に」


「補給はどうなさるおつもりですか? 現地調達となりますよ?」


「……それはきちんと対価を支払ってから行います」


 はあー……。帝都ヴィーンに到達するのが先か、それともプルーセン帝国が財政破綻するのが先かだな。


「殿下。お言葉ですが傭兵たちがその指示に従うとは思えません。諸侯軍ですら怪しいでしょう。我々は“敵”を倒すのです。友達を傷つけるわけではありません。“敵”はあらゆる手段を使って我々の進軍を妨害します。それでも犠牲は最小限と?」


「……そうですね。私の考えが甘かったようです。どうにも戦争というものには私の考えと合わない部分が多すぎる。口出ししない方がいいのでしょう。ですが、やるとなれば責任は負うつもりです。どんな非道の結果でも、私が責任を負いましょう」


「それでよろしいかと。ですが、責任を感じられる必要はありませんよ。これは敵が仕掛けてきた戦争です。我々は正義を為すのですから」


 そうだぞ。正義は我らにあり。シレジアを盗み取ろうとしたオストライヒ帝国が全て悪いのだ。我々は全く悪くない。


 まあ、でも責任取ってくれるらしいし、私の都市破壊行為の責任はフリードリヒに押し付けるとしよう。ありがとう、フリードリヒ! 思う存分戦争犯罪の責任を被ってくれたまえ!


「では、私は前進を続けますね。殿下の派遣される軍が追い付かない場合は単独で帝都ヴィーンを瓦礫の山にするので。そういうことで」


「え? そ、それは約束が……」


「ではっ!」


 まあ、間違いなくフリードリヒの軍隊は私には追い付けまい。私が帝都ヴィーンを火の海にするのは確定だ。責任はフリードリヒが取ってくれるって言ってたし、後から追いつてきたプルーセン帝国軍が占領できれば勝利だ。


 というわけで、再度出撃!


「ア、アストリッド! 民間人の犠牲は最小限で頼みますよ! 攻撃は軍事施設に限定してください!」


 あーあ。聞こえなーい。


…………………

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