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悪役令嬢とホワイトデー

…………………


 ──悪役令嬢とホワイトデー



 バレンタインデーから1ヵ月後のこと。


 ホワイトデーだ!


 いや、お返しとかは特に期待してないんだけど、バレンタインデーのことを思い出してくれると嬉しいなって。あれから特にベルンハルト先生から返事はないんだけれど、これを機に思い出してくれるといいなー。


「ミーネたちはお返し貰った?」


 私は真・魔術研究部の部室でミーネたちにそう尋ねる。


「それがまだですわ。それにお返しを期待してお渡ししたわけではありませんし」


「私もまだですわ」


 うーん。アドルフとシルヴィオはいつか締め上げてやるべきだと感じてきた。


「ブリギッテは?」


「今度の週末にハーフェル中央劇場で開かれる劇のチケットをいただきましたわ」


「おー! やるじゃん!」


 ゾルタン様は流石だな。どこぞの童貞ムーブかましてた連中とは違うぜ。


「サンドラは誰にあげたんだっけ?」


「そ、それは申し上げられませんが、お返しはいただきましたわ」


 ははあん。さてはラインヒルデ君にあげたな。サンドラ君も一ファンとしてラインヒルデ君を応援しているわけだ。けど、ラインヒルデ君はお返し返すの大変そうだな……。あれは相当貰ってるぞ。


「アストリッド様は?」


「うーん。ホワイトデーの存在を知っているかどうかすら怪しい」


「最低ですわ! どこの男ですの!」


「いやいや。落ち着いて。多忙な人だからね」


 ベルンハルト先生、バレンタインデーすらも忘却してたからなー。ホワイトデーの存在を把握してるかどうかも怪しんだよなー。


「ああ。そうですわね。フリードリヒ殿下はお忙しいですものね」


「今度その名前を出したら怒るよ?」


 フリードリヒに挑んだのはエルザ君だから! 私じゃないから!


「ミーネたちもお返し貰えるといいねー。期待して待ってよう!」


「いや、私たちはお返しは別に……」


「そうそう遠慮せずに! 思いっ切り期待しよう!」


 これでがっかりさせたら懲罰ものだぞ、アドルフ、シルヴィオ!


「アストリッド様こそ期待されるべきでは? ホワイトデーの存在すら知らないとかありえませんから」


「私か。私もちょっと催促してみようかな」


 ベルンハルト先生も覚えててくれるといいけどな。


「では、今日は各自待機! お返しに期待しようではないか!」


「わー!」


 というわけで、私たちは男性陣からのお返しを期待してそれぞれ別れることになった。アドルフとシルヴィオは当然として、フリードリヒの動向も要監視だな。これでエルザ君にお返ししないとかだったら怒るよ。


 ベルンハルト先生? まあ、覚えているかどうかすら怪しいからね……。


…………………


…………………


 というわけで、アドルフ、シルヴィオ、フリードリヒの3名を監視中です。


 ちゃんとお返しするかな、この男どもは。


「おっと。アドルフが動いたぞ」


 アドルフが教科書を仕舞って動き出した。


 で、その足でそのまま円卓へ。おいコラ、円卓のお菓子でお返しするつもりじゃないだろうな? そんな手抜きしたら許さないぞ。


 と思ったら、なにやら包みを高等部の先輩に見せている。


 なんだなんだ? 何を見せてるんだ? ロートもうちょっと中身の見える場所に移動して! そこからじゃ何を見せてるかわからないから!


 ああ。ロートが移動する前にアドルフが包みを閉じてしまった。でもまあ、それがミーネ君へのお返しなのだろう。ちゃんと覚えていたことを褒めてやらないとな。


 だが、中身次第では懲罰である。中身、ちゃんとしてる? 適当なものじゃない?


 そう考えていたらアドルフがミーネ君を探している。


「ミーネ嬢」


「ア、アドルフ様。何かご用でしょうか?」


 バレンタインデーのアドルフの挙動不審っぷりもあれだったが、ミーネ君も他人のこと言えないな……。思いっ切り顔にお返しくださいって書いてあるよ……。まあ、期待するのも分からんでもないが。


「今日はホワイトデーだろう。前にその、熱意のこもったチョコを貰ったからな。そのお返しをさせてくれ」


「まあ、アドルフ様! 嬉しいですわ!」


 よかったな、ミーネ君。君の熱意はちゃんと伝わったようだぞ。


「これだが、受け取って貰えるか?」


 そして、アドルフが手渡したのが──。


「これはクッキーですわね」


「ああ。有名だという菓子店で買ったものだ。この手のお返しにはクッキーを渡すのが常だそうだが、流石にクッキーを手作りするのは無理だから勘弁してくれ」


「いえいえ! お気持ちだけで十分に嬉しいですわ!」


 既製品のクッキーか。まあよかろう。及第点だ。


 と、偉そうに評論してみたものの、あれって円卓でも出してる相当高い店のクッキーじゃなかったっけ?


 うむ。よく頑張ったな、アドルフ……。お小遣いが相当飛んだだろう。ヴァレンシュタイン家といってもお小遣いは無限じゃないからな……。


 私もお小遣いが足りなくて苦労してるから共感できるよ! 部費に、貯蓄にと回してたら交際費が激減しちゃうもん! もっとお小遣いプリーズ!


「さて、アドルフはこれでいいとしてシルヴィオはどーした!」


 シルヴィオは未だに教室でのそのそしている。ホワイトデーのことを忘れてはいないだろうな? 忙しいベルンハルト先生が忘れているのはしょうがないとして、学生の立場で暇であろうお前が忘れてるのは許さないよ。


 と思っていたらシルヴィオが動き出した。


 と思ったらこいつもまずは円卓へ。そして、何やら先輩方に聞いている。


 さっきのアドルフもそうだったのだが、こいつらは先輩方にお返しのアドバイスをして貰っているのだろうか。こいつら毎年相当な数のチョコを貰ってお返しは得意なはずなんだけどな……。


 いや、きっと本命からチョコが来たから焦ってるんだな。可愛い奴らめ。


 そして、ロッテ君を探し始めるシルヴィオ。いいぞ、いいぞ。


「ああ。ロッテ嬢」


「何でしょうか、シルヴィオ様」


 ロッテ君はお返しが来るのを信じていたらしく挙動不審ではない。余裕のある女って感じだ。その分、シルヴィオの顔が赤いのが気になるが。


「昨月のお返しをと思いまして。よろしければこれを受け取ってください」


「まあ、これは……」


 ロッテ君が貰った小箱を開いた先には万年筆が。


「僕が普段使っているものと同じで申し訳ないのですが、これでよろしかったでしょうか? あまり高価すぎない品をとアドバイスを受けていましたから」


「ありがたく思いますわ、シルヴィオ様! シルヴィオ様と同じ万年筆だなんて!」


 おおー! やりおるな、シルヴィオ。さりげなく自分が使っているのと同じ万年筆を贈ることで、君は特別だよ感を醸し出すとは。その高度なテクニックに満点を差し上げたいと思います! 異議なし!


 ロッテ君にシルヴィオを押し付けた時には申し訳ない気持ちだったけれど、こうして男に育ったシルヴィオを見ると結果的に良かったかなって。まあ、捕虜を並べて地雷原を行進させたわけじゃないと思えて、罪悪感はなくなります。


 さて、アドルフ、シルヴィオがちゃんとお返ししたのだから、フリードリヒがしないわけがない! どんなものをエルザ君に送るつもりだ、フリードリヒ!


 と思ったら、フリードリヒは既に動いていた。アドルフたちを監視するのに集中しすぎて見落としていた! こいつが一番見落としてはならない相手だというのに!


 だ、だが、まだ間に合う。まだ動き始めたばかりだ。エルザ君は遭遇してない。


 エルザ君はどこで何をしているのだろうか。


 って、この子もう帰り始めてるー!?


 ちょっと今日はホワイトデーだよ! バレンタインデーのお返しを貰う日だよ! 肝心の君がそれを忘れてどうするのさ! フリードリヒ以前の問題だよ!? しっかりしてよ、エルザ君!


「エルザ嬢!」


「あれ? どうされました、殿下?」


 あれ? じゃないよ! あれ? じゃ! 今日はホワイトデー!


 フリードリヒが息を荒げてようやく追いついているのには酷く同情する。流石のフリードリヒもお返しを返すつもりが、肝心のエルザ君がさっさと帰ろうとしているとは予想できなかっただろう。


「この間のバレンタインデーのお返しをと思いまして」


「えっ!? そんな、あの程度のものにお礼なんて……」


 素直に貰うんだ、エルザ君!


「いえ、そういうわけにはいきません。これを」


「これって……」


 そう告げてフリードリヒが差し出しのはネックレスだった。宝石ではなく、プラチナと思しき指輪で飾られたものだ。


 って、おい! エルザ君思いっ切り引いてるじゃん! クッキーのお返しに指輪が返ってきたら私だって引くぞ! この皇子はもうちょっと考えて行動しろよな!


「よろしいのですか?」


「はい。是非ともあなたにと」


「では、いただきます!」


 まあ、エルザ君が受け取り拒否しなかっただけよしとしよう。これで受け取り拒否されてたら目を当てられない大惨事になっていた。


「しかし、こんな高級そうな品をいただけるだなんて。なんだか悪いことをしたような気がしてきます。よろしかったのですか?」


「ええ。今はそれで」


 いずれは左手の薬指にですね。分かります。


「ありがとうございます、殿下。首に下げて見てもいいですか?」


「はい。そのためのものですから」


 ああ。エルザ君が順調にフリードリヒを攻略していってくれて助かるよ。このまま最大級の地雷を処理して貰いたい。


「似合うでしょうか?」


「似合いますよ」


 ……他人がいちゃいちゃしてるのを見てるとちょっとイライラしてきた。監視はここまででいいや。アドルフ、シルヴィオ、フリードリヒの3名がちゃんとお返しをしたのを確認しただけで十分だ!


 私は自分の恋に走らせてもらう!


「ベルンハルト先生!」


「どーした、アストリッド嬢?」


 ベルンハルト先生はいつもの場所でさぼってた。


「さて、質問です。今日は何の日でしょう!」


「今日も仕事の日」


「はあ」


 やっぱりベルンハルト先生は覚えてないのか。


「冗談だ、冗談。今日はホワイトデーだろう。ちゃんと準備してるぞ」


「おおっ! マジですか!」


 やったぜ!


「まあ、喜ぶかは知らないが、ほれ」


「これってコーヒー豆?」


 ぽいっと実に軽い感じで渡されたのはお中元とかで目にしそうなコーヒー豆の瓶だった。銘柄がちゃんと書いてあるし、高級感がある容器に収めてあるので安物ではない気がするぞ。


「俺がよく飲んでるコーヒーだ。紅茶党だったら悪かったな」


「いえ。今からコーヒー党に鞍替えします」


「そこまでして貰わなくてもいいんだが……」


 ベルンハルト先生からの初のプレゼント! 今日は記念すべき日だ!


「でも、コーヒー豆ってそのまま使えるんです?」


「焙煎しなくちゃ飲めんぞ。やり方はそっちの家のメイドが知ってるだろう。最近はコーヒーもそこまで珍しいものじゃなくなったしな」


 そう言えばこの国のカカオやコーヒー豆はどこから湧いて出ているのだろうか。


「じゃあ、帰ったら早速焙煎してみますね。コーヒーの感想は原稿用紙10枚以内で送りますから!」


「そんな感想文はいらん」


 ちっ。ベルンハルト先生距離を詰めるチャンスだと思ったのだが。


 まあ、何はともあれ、これで全員がお返しを貰ったぞ。やったね!


 その日のうちにメイドさんに焙煎して貰ったコーヒーは大人の味がした。


 ……ので、ミルクと砂糖をかなりぶち込んだ。この世界のコーヒーは私にはあまりにも苦すぎた……。うう、ベルンハルト先生に並び立つ大人の女になるのはまだ私には早かったわけである。


 無念。


…………………

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