悪役令嬢とバレンタインデー
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──悪役令嬢とバレンタインデー
ハッピーバレンタイン!
いや、特にハッピーなことはないのだが、この世界にもバレンタインデーというものが存在するんだ。キリスト教はないのにやりたい放題だな。
今年までは誰かに渡すつもりもなく、適当に義理チョコをばら撒いていたのだが、今年は頑張って本命に渡そうと思う。というのも学園生活でバレンタインデーを迎えるのは残り2回だからだ。今のうちにちゃんと青春しておきたい。
「ということでチョコを作るぞー!」
「わー!」
チョコを作る面子は真・魔術研究部のメンバーである。だって必要な機材が揃ってるのって料理部が使ってる調理室か、ここかしかないんだもの。家でこっそり作るって手もあるけど、寂しいし。
「私は今年はチョコケーキと行こうかと思う。ビターな大人の味わいで。ミーネたちはどうする?」
「私は食べやすいチョコトリュフにしようと思いますわ」
「私もチョコケーキで」
私たちはチョコケーキ派とチョコトリュフ派に分かれた。その中でも苦め、甘めと分かれたのでかなり人それぞれである。
「ええっと。まずメレンゲを作って……」
「泡立てるの大変ですわ……」
「そこはブラッドマジックだよ、ロッテ!」
私たちは料理研究部から借りてきたレシピ本に従ってチョコを作る。余ったらみんなで食べるつもりなので、多めに作っても大丈夫。ロッテたちもダイエットに成功してるみたいだし、今日ぐらいは羽目を外しても大丈夫だろう。
「後はこれをオーブンで焼いて……」
「私たちの部室ってなんでオーブンがあるんでしょうね?」
何故だろうね。最初からケーキ作るつもりはなかっただけど。まあ、火のエレメンタルマジックの練習にはちょうどいいかなって思う。
「ちなみに各自の判断で惚れ薬は入れたり、入れなかったりしてね。私は真っ向勝負なので入れません!」
「わ、私も入れませんわ! 自分の魅力だけで勝負しますわ!」
というわけで魔術研究部としてはあるまじきことに、惚れ薬は使わない方針になった。だって、私が渡そうとしている人って惚れ薬効かないからな。
「さて、できた!」
できたできた。見事なガトーショコラが完成した。
「後は保存のために風のエレメンタルマジックと水のエレメンタルマジックで冷風と氷を作って冷やしておこう。明日には渡すぞ!」
「おーっ!」
明日がバレンタインデー本番だ。運命の人にチョコを渡すのである。
さてさて、結果がどうなることやら。
まあ、ダメでも青春は楽しめたってことでいいとしよう!
でも、やっぱり成功して欲しいかな……。
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バレンタインデー前日。
クラスのみんなも誰にチョコをあげるかで盛り上がっている。果敢にもフリードリヒに挑むぞという子が少なからずいるのには驚かされる。あれのどこがいいんだろうか。確かにくっ付けば皇太子妃だけど、家柄とか考慮されるし、あいつそのものにそこまで魅力があるとも思えない。
まあ、個人の感想なのであれが魅力的に映る子もいるんでしょう!
というかあれが魅力的に映って貰わないと困る子がひとりいるんだ。
そう、エルザ君だ!
ヒロインであるエルザ君にも当然バレンタインイベントは準備されている。好感度に応じてフリードリヒ、アドルフ、シルヴィオ、または……ベルンハルト先生にチョコを渡すのだ。これによって好感度が非常に上昇するボーナスイベントである。
普段から菓子パンとか作っているエルザ君ならば私たちより立派なチョコレートができるはずである。ゲームでもエルザ君のチョコは大好評だったはずである。なので彼女のチョコには期待しているのだが……。
「エルザ君! チョコレート作りは進んでいるかい!」
「チョコレート、ですか?」
な、なんだそのリアクション。まさかとは思うが、この子ひょっとしてバレンタインデーのこと知らない……?
「バレンタインデーだよ、エルザ君! 女性が意中の相手にチョコレートを贈る行事! エルザ君も当然参加するよね」
「ああ。そうなんですね。そういう行事あったとは驚きです。けど、私のチョコレートなど食べてくれる人はいるでしょうか……?」
「安心してよ、エルザ君。君の料理は大変人気になると思うな!」
普段、菓子パンを作っているエルザ君ならばチョコレートひとつふたつは簡単に作れるはずである。チョコレートを扱うのも朝飯前だろう。
「なら、頑張って作ってみますね。この手の行事にうつつを抜かしているわけにはいかないとは思うのですが、こういうことも学園生活って感じですから!」
「うんうん。頑張りなよ、エルザ君!」
エルザ君が前向きにってくれて助かった。
「バレンタインデーは明日だから準備を急いでね!」
「はい! けど、チョコレートが届くかどうかが分かりません」
「なら、材料になるこの板チョコをエルザ君にプレゼントしちゃおう」
私はそんなこともあろうかと、真・魔術研究部で使って余った板チョコを保存しておいたのだ。我ながら用意周到。
「わあ。ありがとうございます、アストリッド様!」
「いいってことよ-」
エルザ君がフリードリヒの好感度を上げてくれないと困るのは私だからな。ここは何としても、エルザ君とフリードリヒがくっつくように画策しなければならない。
だが、エルザ君は本当に大丈夫だろうか?
家でも仕事しながら勉強して、出費のためにアルバイトまでして、チョコレートを作っているような暇はあるんだろうか。
いや、あるはずだ。
超人的なエルザ君ならばマルチタスクであらゆるイベントをこなしていくはずだ。だって、彼女ってばヒロインなんだもの。ヒロインにできぬことなしである。真のヒロインの姿を篤と見させてもらうとしよう。
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バレンタインデー当日。
今日はチョコを渡すのだー!
お目当てのいるロッテ君たちはともかくサンドラ君はどうするのだろうかと思ったが、サンドラ君は演劇部の王子様であるラインヒルデ君に渡しに行った。
さて、私もそろそろ出撃準備を整えるか。
その前にチョコを貰った男性陣の様子を観察!
まずはアドルフを攻略中のミーネ君から。
「アドルフ様。ちょっとよろしいでしょうか?」
「何だ? 何か用事か?」
「は、はい。そういうところです」
アドルフの野郎も今日がバレンタインデーだということを忘却してやがる。その間抜けなアドルフはミーネ君に連れられて屋上の渡り廊下に。
「それで、用事は?」
「今日バレンタインデーなので日ごろからお世話になっているアドルフ様にチョコレートを差し上げたいと思いまして」
「ああ。今日はバレンタインデーだったな。そ、その、俺が貰っていいのか?」
おっと。事情が分かったら動揺する童貞がここにいますよ。
「もちろんです! アドルフ様以外には考えられません! 是非ともこれを受け取ってください!」
ガッツを見せたなミーネ君! その調子だぞ!
「で、では、いただくとしよう。食べてみていいか?」
「はい。そのために作ったのですから」
アドルフは完全な童貞ムーブを曝している。ミーネ君はそんなアドルフの様子を馬鹿にすることもなく、受け取ってくれて嬉しいという風に微笑んでいる。内心でアドルフのきょどりっぷりを笑っているのかもしれないが。
「うん。美味いな。果物とチョコの組み合わせはばっちりだ。こ、これもミーネ嬢の愛情のおかげだな。感謝する。ホワイトデーは必ずお返させてもらうからな」
良かった、良かった。ミーネ君は成功だ。
後の問題児はシルヴィオだ。依然としてこいつはプチ反抗期なのだろうか。
「シルヴィオ様。バレンタインデーということでチョコを作ったのですが、貰ってはいただけないでしょうか?」
「ああ。それなら机の上に乗せておいてください」
シルヴィオ―! 貴様のそのリアクションは脈なしとみられるぞ!
「は、はい。机に置いてはおきますが、その、一口食べて感想を聞かせていただけないでしょうか?」
「味見ですか? 分かりました」
相変わらず嫌な奴だが、ロッテ君のチョコを味見した点は評価しよう。
「これは……濃厚なチョコレートの風味がしますね。贅沢にチョコレートを使った感じです。こういうのを食べるとコーヒーが欲しくなりますね。ですが、本当にこんな本格的なお菓子をいただいてもよろしいので?」
「もちろんです。シルヴィオ様のために作ったんですから
「ぼ、僕のためですか。それはその、そういう意味で?」
「はい。そういう意味です」
こっちも見事な童貞ムーブ。だが、ロッテ君の愛情が伝わったからよしとしよう。
「その気持ち、ありがたく思わせていただきます。僕などにこのような手の込んだチョコレートを作ってくださってくれて。ロッテ嬢。良ければこれからも親しくしてもらえるでしょうか?」
「もちろんです!」
ロッテ君も大成功。
これで地雷原二発は処理されたとみて間違いなさそうだ。
今度はエルザ君だが……。
「フリードリヒ殿下!」
「どうしました、エルザ嬢」
エルザ君が包みを持って駆け寄るのにフリードリヒが笑顔を浮かべる。
「その、アストリッド様から今日はバレンタインデーだと教えられ、その私もチョコを殿下にと思って。よろしければ受け取っていただけませんか?」
エルザ君が心配そうな表情でそう告げた
「それはありがとうございます。食べてみてもよろしいですか」
「はい。お口に合うか分かりませんから……」
フリードリヒは雑食だから何でも食べるよ!
「それでは、一個いただいて」
エルザ君が作ったのはチョコレートクッキーだ。見ているだけで涎が出て来る。
「ふむ。美味しいですね。とても優しい味をしています。チョコレートの苦みにクッキーの甘さが合わさって、実にいい味わいです。ありがとうございます、エルザ嬢」
「い、いえ。気に入っていただけならなによりです」
フリードリヒの言葉に赤面するエルザ君。こっちもなかなか順調だ。
さて、他人の恋を見届けたら次は自分の番だ!
私が渡す相手は決まっている。ベルンハルト先生だ。
私は陸上部のグラウンドに向かうと、案の定ベルンハルト先生がさぼっていた。
「ベルンハルト先生!」
「何だ、アストリッド嬢。また問題を起こしたか?」
「違いますよ! 今日が何の日か思い出してください!」
「今日も仕事の日」
ベルンハルト先生、疲れてるな……。
「違いますよ。今日はバレンタインデー! というわけで私からチョコをプレゼントしに来ました!」
「また惚れ薬入りか?」
「今回は入ってないですよ!」
うう。疑われているなー。
「なら、いただくとしよう。ほう、ちょうど一口サイズか悪くないな」
私はベルンハルト先生がグラウンドでさぼっているのを想定し、一口サイズのチョコレートケーキにしてある。これならば外でも簡単に食べられるはずだ。
「…………」
「お味はどうですか、ベルンハルト先生?」
「いや、普通に美味くて突っ込みどころがないことに困惑している」
酷い!
「しかし、これだけのケーキをたくさん作るのには苦労しただろう」
「いいえ。今回は義理はなしです。本命だけに作っています」
義理チョコとは思われたくはない。今日の私は真剣なのだ。
「あー……。またその話か。俺みたいなおっさんより相応しい相手がいるはずだぞ。そういう人間に渡した方が幸せになれるぞ」
「私が好きなのはベルンハルト先生なんです」
そーだよ! 他に好きな人なんていないよ!
「おいおい。そこまでいうか。まあ、俺が子爵家の次男でなければ喜んで受けたかもしれないけどな」
「本当ですか!?」
「まあ、俺が子爵家の次男であることは変わりないんで無理だがな」
「はは……。そうですか……」
身分差はどうしようもないからなー。
それでも私はベルンハルト先生が好きだ。彼以外は目に入っていない。
なんとかしてベルンハルト先生と結婚できないだろうかと考えたが、私の浅知恵では何も思い浮かばなかった。
無念。
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