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悪役令嬢と冬休み

…………………


 ──悪役令嬢と冬休み



 今年も文化祭が終わり、円卓の懇親会も終わり、冬休みがやってきた。


 円卓の懇親会では懐かしのヴァーリア先輩がお子さん連れでやってきていた。ヴァーリア先輩に似た可愛い女の子だ。まだまだ小さいながら見様見真似で挨拶するのが実に可愛らしかった。


 ローラ先輩はお子さんはまだだけど、ミヒャエル様とは仲が良さそうで、実に羨ましい。ヴァルトルート先輩も結婚してから少し落ち着いた感じがした。結婚すると人間は変わるんだなーと実感。


 また懇親会では私は将来の帝国内戦に備えるべく、貴族方に挨拶して回り、先輩方とのコネクションの維持に努めた。将来はいろいろな家がオルデンブルク公爵家に味方してくれるはずだ。多分。


 しかし、皆をして心配しているのは高等部の学生を有事の際に動員するという帝国政府の方針だった。ヴァーリア先輩は戦争にならないといいわねと言ってたが、イベント的に来年はシレジア戦争の開戦だ。


 ライヒの主導権をかけた重要な戦いなのだが、このゲームは乙女ゲーであって戦争がメインのウォーシミュレーションじゃないので3ヵ月で終結する。呆気ない。


 エルザ君も動員されて衛生兵として駆け巡りながら、攻略対象の男子を助けたり、助けられたりするのである。


 私としては帝国内戦に備えた予行練習のようなものだ。オストライヒ帝国を叩き潰して、メリャリア帝国を威圧したら、心置きなく帝国内戦が行えるというものである。下手に海外勢力が存在すると、帝国が分割されてしまいそうだし。


 ライヒはひとつ! プルーセン帝国がライヒを統一するのである!


 とまあ、それはどうでもいい。私の生活を保障してくれるプルーセン帝国さえそのまま存在すれば、ライヒが3、4個になっても構わない。私はドイツが好きなのでふたつあると嬉しいですねとフランス人も言っていた。


 しかし、今年の冬休みは予定がない。退屈だ。


 そもそもライヒの冬というのは九州育ちの私には厳しすぎるのだ。


 寒い! とにかく寒い! 雪とかどっさり積もる! どうかしてる!


 冬休みはこのクソみたいなライヒを飛び出して、南国のロマルア教皇国などでバカンスと行きたいところだが、残念なことにそんなスケジュールはない。


 はあ……。今年も憂鬱な冬だぜ……。


「アストリッド様、公爵閣下がお呼びです」


「はーい」


 我が家も雪に閉ざされかけて静かになってる。我が家の領地はどこも雪でいっぱいなことだろう。室内は結構効果的な暖房のおかげで暖かいのがせめてもの救いだ。


「お父様。お呼びですか?」


「ああ。先ほどブラウンシュヴァイク家から使いが来てな。今年の冬はブラウンシュヴァイク家の別荘で過ごさないかということだった」


「ブラウンシュヴァイク家に!?」


 おお。冬休みの間は会えないかと思ったけど、これならイリスに会えるじゃないか!


「私は今は仕事が忙しいので帝都を離れられんが、お前とルイーゼは大丈夫だろう。招待を受けるか?」


 お父様は仕事がお忙しいのか。


 まあ、シレジアで戦争が起きそうだもんな。それは大臣としては忙しいか。


「是非ともお受けします。ブラウンシュヴァイク公爵閣下にご挨拶してきますね」


「うむ。任せたぞ」


 やったぜ! 今年の冬休みはちっとはマシなものになりそうだ!


 しかし、この冬の中でイリスと何して遊ぼうか。雪合戦とか付き合ってくれるかな?


…………………


…………………


 やって参りました、ブラウンシュヴァイク公爵家の別荘!


 おーっ! 別荘というより立派なお屋敷が小高い丘の上に立っているのだが、そこからは湖が見渡せて絶景である。冬の季節は湖面は凍っており、スケートとかできそうである。危なそうではあるけど。


「お姉様!」


「イリス!」


 玄関ではイリスがお出迎え。


「お姉様。お待ちしていました。お父様とお母様もお待ちですよ」


「それじゃあ、イリスのお父様とお母様に挨拶してくるね」


 ブラウンシュヴァイク公爵閣下はいざ帝国内戦となったときには必ずこちら側に立っていて貰わなくては。ここでオルデンブルク公爵家との仲を取り持つのだ。両家には引き離してはならない姉妹がいるのだと!


「こんにちは。お邪魔しますわ、ブラウンシュヴァイク公爵閣下」


「ああ。ようこそ、ルイーゼ。それにアストリッドもよく来てくれたね。イリスがとても喜んでいたよ」


 ブラウンシュヴァイク公爵閣下は身長190センチはあって、お父様と違い髭は蓄えておられない。どうにもプルーセン帝国では海外風に髭をもっさりと伸ばす派と、綺麗に剃る派で別れているらしい。まあ、清潔感があるから私は髭はなくてもいいかな。


「この度はお招きいただきありがとうございます、閣下」


「いやいや。こちらこそこの雪の中来てもらって感謝しているよ。イリスがどうしても君と過ごしたいと言ってね。あの子も兄弟姉妹がいればよかったのだろうが、ひとりっ子だからどうしても君に甘えてしまうようだ」


「それはそれは」


 イリスも私もひとりっ子だもんねー。まだイリスの方は将来的に家族が増える可能性はあるけど、私の方は家族はもう増えないかな?


「学園でも君によくよくお世話になっているようで助かっているよ。あの子はとても人見知りの激しい子だったのに、君のアドバイスで演劇部に入って、文化祭では見事な演技を披露してくれた。親としてこれほど嬉しいことはない」


「それはイリスに才能があったからですよ、閣下」


 ふむふむ。ブラウンシュヴァイク公爵閣下もイリスが演劇部で活躍してることを知っているわけだ。それを勧めたのは私であるからにして、私がイリスの人見知りを治したことになっていたり? まあ、リップサービスだろう。


「これからもイリスのことをお願いしてもいいかね、アストリッド?」


「もちろんです。私の妹のような存在ですから」


 私がイリスを見放すなんてありえないよ!


「しかし、パウロは公務か。シレジアがきな臭くなってきたから、郵政大臣まで忙しくなっているとはな。機密文書の郵送などの手続きが忙しいのは分かるが。休暇も取れないとは。私は官職を授からなくてよかったよ」


 そうなのです。シレジアがきな臭いのでお父様たち大臣方は帝都で大忙しなのだ。郵政大臣と言っても国内の通信網を管理する仕事だから、いざシレジアにオストライヒ帝国が攻め込んで来たら、通信網は重要なものとなる。


「ブラウンシュヴァイク公爵閣下は何故官職をお受けにならなかったのですか?」


「私にはそういう仕事は向いていないと思ってね。領地でひっそりと生活している方が性に合っている。それに娘のイリスと一緒で私も人が大勢いる場所はあまり好きではないからね」


 イリスの人見知り遺伝子はブラウンシュヴァイク公爵閣下由来なの?


「まあ、これから1週間は仕事のことも学園のことも忘れて、ゆっくりと別荘での生活を楽しんでいってくれたまえ。とはいっても、高等部の学生だから、勉学はやらなければならないかな?」


「いいえ。大丈夫です。期末テストも乗り切りましたので」


 2学期の期末テストもなかなかいい成績をはじき出せた。苦手な理系科目も暗記と応用を駆使することで何とか乗り切れている。高等部2年になったら戦争が始まって学業どころじゃなくなるので、今のうちに勉強しておく必要はあるけれど。


「それではイリスと遊んでやってくれるか? あの子もひとりでは寂しいだろうから」


「はい!」


 よおし! オルデンブルク公爵家とブラウンシュヴァイク公爵家の絆を確かめたことだし、後は思いっ切りイリスと遊ぼう!


「イリスは何して遊びたい?」


「雪で遊びたいです。雪だるまとか作りたいですね」


 雪だるまか。イリスらしいな。


「よし! じゃあ、最初は雪だるまを作ろうか! その次はかまくらだ!」


「かまくら……?」


 流石のイリスもかまくらはしらないか。後で作り方を教えてあげよう。とはいっても、私も東北育ちの子に教わっただけでうろ覚えなんだが。


「……雪だるまってどう作るんだっけ?」


「私は知ってますよ、お姉様! まずは水のエレメンタルマジックで雪の塊を作って、それを転がしていって大きくするんです」


「ふむふむ。なるほど」


 イリスの言葉に私はエレメンタルマジックで雪が作れることを思い出した。雪が作れるなら、雪だるまを作るのも簡単だな!


「最初の雪の玉はこれぐらいでいいかな?」


「はい。それぐらいです」


 私が水のエレメンタルマジックで雪の玉を作るのに、イリスがコクコクと頷いた。


「あとは転がして大きくしましょう!」


「よし! 私は胴体を作るね! イリスは頭をお願い!」


「はい!」


 私たちは雪の玉をゴロゴロと転がして大きくしていく。私は容赦なくブラッドマジックを使っているので、雪の玉が大きくなるのもあっという間だ。私は雪のある限りという具合に雪玉を大きくしていく。


「お、お姉様。それは大きすぎです。頭のバランスが合わなくなってしまいますよ」


「ありゃ」


 ちょっと調子に乗りすぎた。少し削って小さくしよう。ゴリゴリ。


「これでいいかな?」


「ええ。お姉様の胴体に私の頭を合わせましょう」


 私がある程度削った雪玉を運んでくるのにイリスが雪だるまの頭を抱えて、ぽんと私の作った雪だるまの胴体に乗せた。


「後は手と顔を付けて……」


 私たちは茂みに落ちている枝や松ぼっくりを拾うと、私たちの作った雪だるまに手と顔を装備させた。


「完成!」


「可愛くできましたね!」


 私とイリスの共同作業で、ちょっと胴体が大きい雪だるまは完成した。これはなかなかチャーミングな出来である。


「しかし、水のエレメンタルマジックで雪が作れるってことは氷の彫像とかも作れたりするのかな。札幌雪祭りみたいにさ」


「さっぽろ……? どうでしょう。ユリカさんに聞いてみます」


 イリスはそう告げるとイリスが契約しているユリカを呼んだ。ユリカは私がお土産に持ってきたクッキーをブラウたちと食べているところであった。しかし、妖精というのはよくよくお菓子ばかり食べるな……。


「なんですか、マスター?」


「ユリカさん。水のエレメンタルマジックで氷の彫像って作れますか?」


「作れますよ。ユリカに任せてください!」


 おおっ。氷の彫像がお手軽に作れるのか。楽しみだな。


「じゃあ、行きますねー!」


 ユリカは水のエレメンタルマジックで水を生成すると、それを凍らせていき、水の形を変えながら、みるみるうちに氷の彫像を作っていく。流石の私でもこんな変態じみた芸当は不可能だ。私って美的センスないし。


「できました!」


 本当にあっという間に氷の彫像は完成した。


「ああっ! これ私ですか!?」


「そうです! マスターを作ってみました!」


 おおー。ユリカが作ったのは見事なイリスの彫像だった。まるで3Dプリンターだな。イリスのニコニコの表情までしっかりと再現されている。流石は水のエレメンタルと親しい妖精だ。


 ……私もゲルプに頼めば土で私の彫像が作れたりするんだろうか。試してみたい気もするが、私なんぞの彫像を作ってもしょうがない気がする。


「じゃあ、次はかまくらを作ろっか! 作り方はお姉ちゃんが教えてあげよう!」


「はいっ!」


 私たちは次にかまくら作りに取り掛かった。


「まずは雪を積み上げて山を作るんだよー」


「こうですか?」


「そうそう。この調子!」


 かまくら作りは東北出身の子に聞いただけだが、なかなか順調に進んでいる。


 まずは雪の山を作って、そこに穴を開けてかまくらにするのだ。確かこれでよかったはず。ブロック型とかいう高度な術もあるそうだが、初心者には難しそうなので簡単そうな方を選んで置く。


「そして、完成!」


 見事、かまくらが完成した! ちょっと形がいびつだけど壊れたりする様子はない。


「イリス、イリス。入ってみよう」


 私はイリスを誘ってかまくらの中に入ってみる。


「静かですね……。それに風が当たらなくて少し暖かいです」


「ここに炬燵を持ち込んでぬくもったりできるらしいよ。浪漫があるよね」


「こたつ?」


 そうか。この世界には炬燵はなかったか。もっぱら暖炉頼りだもんな。


「炬燵を再現してみたいけど、難しいな……」


 熱源を安全に確保するにはどうしたらいいんだろうね?


「イリス。今日は楽しかった?」


「はい。お姉様と一緒だととても楽しいです」


 うむうむ。イリスが楽しんでくれたようで何よりだよ。


「明日は雪合戦しようか。楽しいよ」


「ゆきがっせん、ですか? 楽しそうですね!」


 外で動けば体力も付くだろう。イリスはまだまだ小さいからお姉ちゃんは心配だよ。


「それにしてもミカンと炬燵が欲しいかなー」


 私はこうしてブラウンシュヴァイク公爵家の別荘で1週間を過ごした。


 雪合戦をしたり、雪だるまを増やしたり、本を読んだりしながら、まったりとした時が過ぎるのを私はじっくりと楽しんだのだった。


 もちろんブラウンシュヴァイク公爵閣下にそれをアピールすることも忘れない。イリスと仲良しで、引き裂いてはいけない仲なのだとアピール、アピール。


 それにしても憂鬱な冬もイリスと一緒だと楽しいね!


 今年はいい冬休みになりそうだ!


…………………

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