悪役令嬢は期末テストに勝利したようです
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──悪役令嬢は期末テストに勝利したようです
期末テスト終了!
勝った! 勝った! 勝利した!
見事に全ての科目において手ごたえがあった!
苦手な理系科目もなんとか乗り越えたぞ! 水竜退治で週末は潰れたけれど、その分の埋め合わせを必死になって頑張ったおかげで、乗り切ることができた! 数学も、化学も、物理も、生物も全てクリアだ!
文系科目は言うまでもない。文系科目は私の得意分野だし、勉強するのも楽しい。魔術についても日ごろからいろいろやっているだけあって、魔術工学以外の分野に関しては楽勝だった。
「諸君! テストが終わったぞー!」
「わー!」
真・魔術研究部の部室で私が宣言するのに、ミーネ君たちが歓声を上げる。
最近の真・魔術研究部の活動は主に勉強になっている。今は大規模な実験をやるような資金的余裕がないのだ。だが、似非魔術研究部と思われないように魔術に関しては常日頃から勉強している。
「で、どうする? 遊びに行くよね?」
「行きましょう、行きましょう。でも、どこに行きましょう?」
テストが終わったらにぎやかに打ち上げをするのだ。
「ええっと。商業地区に新しい喫茶店ができたとか。とても美味しいガトーショコラが提供されるそうですよ」
「悪くないね。私は新しくできた魔術関係の書物を扱った本屋さんに行きたいかな!」
「そ、そうですわね」
ん……。どうにもミーネ君たちの反応が悪いな……。
「ミーネたちは何か新しく買いたいものとかない?」
「そうですわね。夏の臨海学校に備えて、いろいろと揃えておきたいですわ」
「あー。そっか夏には臨海学校があるんだったね」
忘れていた。夏には臨海学校があるんだった。
まあ、お貴族様の臨海学校なので実質夏のリゾートのようなものだろうが。
そもそも地球でも私は臨海学校を体験したことはない。多分、海水浴をしたりして、体を鍛えることがメインだっただろうが、花火とかして遊ぶこともあったりするのかな。肝試しとかもあったりして!
「でも、臨海学校って何を揃えればいいんだい?」
「うーん。水着はありますけど、一応新しいものを見ておきたいですわ。それから、寝間着や下着に動きやすい服を、でしょうか?」
また水着買うの? 寝間着とか下着とかも今あるのでよくない?
よくないんだろうな。お貴族様だから、いろいろと身に着けるものにもプライドがあるのだろう。それにこの間ロッテ君たちが買った水着はちょっと学園のイベントで着るには破廉恥だし。
「じゃあ、そういうのを揃えにいこうか」
「そうしましょう。楽しみですわ」
それにしても今回のテストは苦戦させられた。打ち上げは派手にやらなければ。
「では、待ち合わせはいつも通りエーペンシュタイン広場で! 何か面白そうなものがあったら教えてね! そっちに行ってもいいから!」
「了解です!」
というわけで私たちの打ち上げの予定は決まった。
本を買って、水着を買って、寝間着を買って、下着を買ってと散々に出費する羽目になるが、お小遣いはあんまり消費したくないなー……。
経済制裁は解除されているけれど、私はお小遣いを切り詰めてヘルヴェティア共和国の銀行に冒険者ギルドの報酬と一緒に送金しているのだ。いざ、お家取り潰しになっても大丈夫なように。
それなのに貴族生活をエンジョイしちゃうと、お小遣いを無駄遣いしてしまうわけである。なんという罠だろうか。公爵家令嬢のお小遣いはそれなり以上に高いのだが、だからといって無駄遣いすると減る。
この真・魔術研究部の部費も実験をするには予算が不足しているし。
でも、まあいいか! せっかくの友達との打ち上げだから、精一杯楽しまないとね!
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やってきました! エーペンシュタイン広場のちょっと思いついた人の像の前で、私はミーネ君たちを待つ。ミーネ君たちが来るのは大体10分後ぐらいだろう。待ち合わせ時間の10分前に来たからね。
「アストリッド様!」
おっと。そうこうしている間にミーネ君たちが到着した。
「やっほ。ミーネ、ロッテ、サンドラ、ブリギッテ!」
ミーネ君たちは揃ってご到着。
「じゃあ、最初はどこに行く?」
「水着などを揃えるのは時間がかかりそうなので、先にアストリッド様の本を買いに行きましょうか?」
「ありがとう!」
買いたい本が何冊かあるのだ。ブラッドマジックとエレメンタルマジックの両方についてと、それからロストマジックについて何か触れられていないか本を探していきたいところである。
ロストマジックは今のところあまり人前では使えないし、少しでもロストマジックを人前で使っても大丈夫なようにしたいのだ。そのためにはロストマジックの系譜を少しでも汲んでいる魔術がないが探す必要がある。
学園の図書館にはなかったが、この本屋にはあるだろうか。
「では、本屋にレッツゴー!」
私はミーネ君たちを率いて件の本屋に向かう。
おおっ! 私は本屋に到着したとき感嘆の声を漏らした。
「凄いね! 魔術関係の書籍がいっぱいだ!」
「そ、そうですわね。アストリッド様が買いたい本というのは?」
「今から探すんだよ!」
私は本屋に突撃し、お目当ての本を探して本棚を漁る。
ブラッドマジックとエレメンタルマジックの本。その中にロストマジックに繋がるものがないかと探しまくる。ひたすらに探す、探す、探す。
……ない。
流石は2000年前に完全消滅させられた魔術なだけあって、痕跡は欠片も残されていない。徹底的に消滅させられたようです。
ロストマジックそのものの書籍は魔女協会本部で見れるからいいものの、ロストマジックの流れを受けた魔術に関しては外には一切情報がない。
これだとロストマジックをお外で使うのは制限されたままかー……。
「アストリッド様。目的の本は手に入りましたか?」
「ううん。微妙なところだね」
ブラッドマジックとエレメンタルマジックの本は手に入れたけれど、ロストマジック関係の本は手に入らなかったからなー……。
「さて、ここには小説も置いてあるみたいだから、ミーネたちも見てきたら?」
「ええ。そうさせていただきます」
普通の本屋よりはコーナーは非常に小さい最新の少女文学の小説がおいてある。ミーネ君たちはそれを漁り、1、2冊購入していた。私もイリスが読んでいた本を買ってみた。イリス曰く、ヴェルナー君に借りたらしいが、中身を話してくれないからな……。
そうなのだ。最近、イリスがやけに恋愛の話をするので私は心配なのだ。ヴェルナー君、イリスに変な小説読ませてないよね?
「それじゃ、カフェで昼食と行こう!」
その後、私たちはカフェで昼食とデザートのケーキを味わった。パスタがメインの実に美味しい食事となった。デザートのガトーショコラはミーネ君たちがお勧めしただけはあるもので、口の中が幸せでいっぱいになった。
この幸せのまま買い物に出かけようとしたときだ。
「おや。アストリッド?」
「あ、あら。フリードリヒ殿下……?」
ここでフリードリヒが来やがった! お前は私のストーカーか!
と思ったら、微妙に違った。
アドルフ、シルヴィオのいつものメンバーに加えて、エルザ君がいるではないか!
「やあ、エルザ君! 元気にしてる?」
「は、はい」
エルザ君は戸惑い気味だ。それもそうだろう。高等部の御三家と一緒じゃ、息をするだけでも苦しいものだ。私がそうだったからよく分かる。こいつら一緒にいるだけでも面倒くさいんだよな。
「ところで、殿下たちとエルザ君は何を?」
「夏の臨海学校に備えて準備を。エルザ嬢とも途中であったので一緒にと」
こいつらも同じ目的かよ……。
というか平民のエルザ君はそんなにお金ないよ? 貴族の買い物に付き合わされたらたまったもんじゃないよ? そこのところちゃんと分かってる?
ゲームのときはデート先はあまりお金のかからないところだったり、あるいはフリードリヒたちが奢ってくれる場所になってたけど、今回の場合はどうなんだろうか。
しかし、アドルフとシルヴィオも堂々と空気を読まない奴らである。フリードリヒとエルザ君をふたりきりにしてあげるという優しさはないのか。金魚のフンのようにフリードリヒの後から付いて回って!
「アストリッド様。フリードリヒ殿下もお誘いしたらどうですか?」
「い、いや。殿下と一緒だと、ほらさ。迷惑をおかけするかもしれないじゃん?」
絶対に嫌だよっ! こんな地雷どもと一緒に買い物なんて落ち着くものも落ち着かないよ! しかも、君たちエルザ君も一緒だから絶対にへそ曲げるでしょう!
でも、ミーネ君とロッテ君はアドルフとシルヴィオと一緒に行動したいだろうしなー。私もふたりの仲を取り持つのには、やぶさかではない。上手い具合にアドルフとシルヴィオだけを誘導できないだろうか。
うん。無理だな。絶対にフリードリヒが付いてくる。
「アストリッド様。殿下をお誘いしましょうよ。是非ともそうするべきですわ」
「そ、それはどうかなー……?」
ロッテ君もシルヴィオと買い物したいのか必死だ。
畜生。フリードリヒさえいなければ!
「で、殿下。よろしければ、我々と一緒に買い物をしませんか? 私たちもちょうど臨海学校に備えて買い物をしにいくところなのです」
「ああ。そうだったのですか。ですが、私はちょっとエルザ嬢と用事がありますので、アドルフたちと一緒に行っては貰えませんか?」
あれ? フリードリヒが乗ってこない?
これはチャーンス!
「では、アドルフ様とシルヴィオ様と一緒に買い物に向かいます。ささっ、アドルフ様、シルヴィオ様。まずは水着から買いそろえようと思うのですが、お付き合いいただけますか?」
「ああ。構わないが……」
アドルフがそう告げながらも不安そうに背後を振り返って、フリードリヒを見た。
アドルフからしてもフリードリヒがエルザ君と良い感じなのには、疑問を覚えているのだろう。何せ、帝国の皇子が平民の子と恋仲にあるとか分かったら大変なことになるものな。友達として心配なんだろう。いい奴だ。
だが、安心したまえよ、アドルフ。ふたりにはグッドエンドが待っているのだ。
「では、私とエルザ嬢は失礼して」
フリードリヒはそう告げると、エルザ君と一緒に商業地区に消えていった。
「アドルフ様、フリードリヒ殿下とエルザ嬢はどのような関係にあられるのですか?」
「俺にもよく分からん。だが、悪い方向に進んでいるような気がしてならないな」
ミーネ君の問いにアドルフが首を傾げてそう返す。
おいおい。悪い方向に向かってるとか縁起の悪いこと言うなよな。私はエルザ君の恋が成就するようにお祈りしてるんだから。
「そうですわ。殿下が平民の娘と一緒に出歩かれるなんて。ことが知れたら大変なことになってしまいますわ」
「大丈夫、大丈夫。別にデートしてるわけでもないしさ」
ロッテ君が心配そうにそう告げるのに、私はぽんぽんとロッテ君の肩を叩く。
ゲームでは一切そういう問題は起きなかったから大丈夫だろう。そもそもデートもできないんじゃ乙女ゲーって言えないしさ。今回のことも偶然によって処理されて、問題にはならない……はずである。
いや。本当にそうならないと困るよ。エルザ君とデートもせずにフリードリヒの好感度があがるはずもないし、デートくらいはさせてあげて欲しいものである。
「では、アドルフ様たちは私たちと一緒に買い物へ行きましょう。ミーネたちにいい水着を選んであげてくださいね」
「あまり自信はないが頑張ろう」
さて、こうして見事私はミーネ君たちにアドルフたちを接触させて、買い物に向かうことに成功した。
もうアドルフたちは地雷じゃないかもしれない。これだけミーネ君たちとラブラブならば、エルザ君が出てくることはないだろうからな。
まあ、その反面ミーネ君たちが妙にエルザ君に敵意を示すのが地雷になったが……。
「ではでは、参りましょう。そう心配されずともエルザ君とフリードリヒ殿下なら大丈夫ですから。ほらほら、行きましょう、行きましょう」
私はフリードリヒとエルザ君のことを考えるミーネ君たちとアドルフたちを促して、水着を買いに向かった。
今回も水着はダニエラさんのところで購入。学園で使うものなので、派手すぎず、それでいて可愛いものをチョイス。ミーネ君とロッテ君はアドルフとシルヴィオに選んで貰っていた。アドルフたちの視線は水着を試着したミーネ君たちに釘付けだぞ。
次いで男性陣の水着を買いに別の衣料販売店へ。
男性陣の水着選びは簡単なもので、ぴっちりしたのがいいか、それかダボダボしたのがいいのかというところである。ミーネ君たちがぴっちりしたのがいいと主張したので、そうなったが、まあどうでもいい。
次は寝間着選び。
同じ店で私たちは寝間着を選ぶ。フリルやレースで飾られた可愛らしいものを、私たちはセレクト。この寝間着選びは男性陣は特に口出ししなかったが、ミーネ君たちはあれこれと着てきて、アドルフたちに選ばせていた。
そして、最後は下着選び。
こればかりは男子禁制である。
「ブリギッテ、ブリギッテ。これ似合いそうだよ」
「え、ええ。ですが、少し刺激が強いのでは……」
私が胸の大きな子に似合いそうな下着を勧めるのだが、ブリギッテ君は渋っている。ブリギッテ君はこの中でも一番胸の大きな子だから、こういう下着は似合いそうなんだけどなー。
「アストリッド様はこういう下着がいいですわね」
「……うん。お子様向けだね」
ペタン族の私には大人の下着は似合わないのだ。残念ながら。
「可愛らしくていいと思いますわ。アストリッド様は清楚なイメージですから」
「そ、そっかー。清楚か―」
そう言われてはしょうがない。
私はミーネ君曰く清楚な下着を購入。まあ、ペタン族には妥当なところだ。
「では、買い物は終了だねっ! いやあ、楽しかった!」
みんなと買い物するのは楽しいものである。
「では、ここで解散! ミーネとロッテはアドルフ様とシルヴィオ様にしっかりくっついていくんだよ! 手放さないようにね! しっかりやるんだよ!」
「は、はい、アストリッド様!」
せっかく捕まえたアドルフたちなので、ミーネ君たちと親交を深めるようにセッティングしてあげよう。私たちお邪魔虫は退散するのだ。
しかし、エルザ君とフリードリヒのふたりは上手い具合にやれただろうか。せっかく得たデートの機会だったのだから、がっちりと両者の間がいい感じになってくれるといいんだけどなー。
「アストリッド様。何かお考えですか?」
「いやあ。なんでもないよ」
サンドラ君が尋ねてくるのに、私がそう告げて返す。
サンドラ君たちもミーネ君たちと同じでエルザ君とフリードリヒの仲に反対しているからな。こういうことは内密にしておかなければ。
「そういえばフリードリヒ殿下はどうなさったのでしょう。アドルフ様たちと離れられてあの平民の方と一緒にどこかに向かわれたようですが」
「フリードリヒ殿下が平民の方と一緒に歩いているところなど見られたら大変ですわ」
う、うーん。これだよ。あまり触れないまま流してしまいたかったのだが。
「フリードリヒ殿下は庶民派だからね! 庶民の暮らしに興味があるんだと思うな!」
「そのようなこと下々のものに任せておられればよろしいのに……」
下々つっても、国民のことをどうこうするのは大臣とかなんだが。
「まあまあ、買い物も楽しかったし、今日は帰ろっ! ブリギットはゾルタン先輩と良い具合にやってるかい!」
「は、はい。ですが、先輩ももうそろそろ卒業されてしまうので寂しいです」
そっかー。そろそろ卒業かー。ブリギッテ君は卒業後すぐにゾルタン先輩と結ばれるコースかな? お相手がいるのは素直に羨ましいものである。
私のお相手はさっぱりなのになー……。
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