表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
How much is your blood?  作者: 霧村トナミ
2/3

今、何とおっしゃいまして?

差し出された茶封筒から、明らかに札であろう紙の束が見える。

ぎゅうぎゅうに詰め込まれた紙は、多分…諭吉だろう。

諭吉の団体さんがそこにいる。はい、売人確定。

でも何で?!俺、誰かの恨みでもかったか?!

記憶に無いんですけど!!!

頭の中の機械全てが煙を上げ、爆発した。真っ白ってやつだ。

口から煙を上げそうな程、ポカンとしている灰人の顔に彼女は首を傾げる。

「たりないか?」

「そういうんじゃなくて!!」

灰人は思わず、机をバンッと叩いた。

机上のカップが小さく飛び上がり、店中に響き渡った。

店中の視線が灰人に集まる。

その視線に気まずそうに肩を竦め、声を落として口を開いた。

「何で俺を買うんだ?!何かしたのか?俺!」

「金…欲しくないのか?」

「欲しくない人はいませんよ」

「なら受け取れ」

「受け取ったら、俺買われるでしょうが!」

「説明がたりなかったな。私が欲しいのは、お前の血だ」

彼女に若干、顔を近づけながら抑え気味に叫ぶも、彼女の表情は一切変わらず淡々と言っている。

しかも、初対面でお前呼ばわり、全て上から…何か腹立ってきた。

「血って、臓器売買じゃねえか!」

「まあ落ち着け」

「これが落ち着いていられるか!」

彼女は、一つ溜め息をつきカップを口に運ぶと、

「最初から話さねばならないか…」

少し面倒そうに言った。

「当たり前だ」

灰人は、腕組みをして椅子の背もたれに身体を預けた。

彼女は小さく息を吐いてから説明を始めた。


彼女曰く…

私の名は赤月永遠〈あかつきとわ〉

お前の血が、私達ヴァンパイアが求めてやまない珍味だと判明した。

だから、私はお前の血を買う事にした。お前の一生分の血を。


「以上だ」

灰人は椅子から転げ落ちたい気分だった。

話がぶっ飛びすぎてて、まったく腹に落ちてこない。

しかもあまりにサラサラと話すし。

この子、大丈夫か?

「えーっと、まず質問が。君はヴァンパイアなの?」

「そうだ」

「何歳?」

「忘れたが…400年は過ぎたと思う」

あー…関わったらダメなやつだ。

灰人は、項垂れながら頭を垂れた。

「赤月さんだっけ?」

「永遠でいい」

「じゃあ永遠。俺の血が欲しいってマジで言ってんの?」

「嘘を言ってどうする」

「病院行った?」

「ヴァンパイアに病は無い。ああ、血液の事か?さすがに盗む事はしない」

「買えば?その金で」

「それをやったら、犯罪だろ」

俺のは犯罪ではないと?!

どうしたもんかな…

「そんな事より、この大金はどうしたの?」

「私のだ」

「子供銀行か何か?」

「それは何だ?」

灰人は、置かれた茶封筒に手を伸ばし、そっと中を見てみた。

中には本物の諭吉ご一行が、そこにいらっしゃった。

思わず、置いてあった場所に戻す。

「本物じゃねえか!」

「だからそう言ってるだろ」

金は本物。

堂々たる口振り。

先程からチラチラ見える彼女の口元の牙。

まさか、本当に彼女はヴァンパイアなんだろうか。

「…もし、承諾したとして俺は一体どうなんの?」

「お前が生きているかぎり、私にその血を捧げ続ける」

「下僕にでもなるわけ?」

「下僕ではない。エサだ」

エサかよ!とはいえ、まあエサか。

「それは言い過ぎだな。パートナーと言った所だな」

「パートナーね…俺はこの金額って事か」

「違うぞ」

灰人が呟いた言葉に、永遠がきっぱりと言い放った。

「その額を毎月、お前に死ぬまで渡すと言ってるんだ」

「はあっ?!」

二度目の灰人の大声に、周囲の眼が今度は弾丸のように灰人の身体を撃ち抜いた。

次やったら、追い出されるな。

灰人は、先程よりも肩を竦ませて、永遠を見る。

「この額を毎月って…これ数百は入ってんだろ。アンタ、頭おかしいのか?!」

「家に腐る程ある」

腐る…程…。

この世に生きる一般人が一度は言ってみたい台詞だろう。

どんだけお嬢なんだ、この人。いや待て‥彼女が本当にヴァンパイアならば、何かしらの力で幻覚を

見せられてるって場合もある。

よくよく見たら葉っぱだったって事ないか?…それは狸か?狐か?

それはどうでもいい!!

「どうだ?私に買われないか?」

そう言われて「はい、よろしくお願い致します」なんて言えるか!

「無理だ」

金は欲しい、欲しいが命まで賭けてほしくはない。

生きて働いていれば、微々たるもんでも金は入る。

「そうか…」

残念そうに永遠は俯いた。

物分かりはいいようだ。

「じゃあ、そういうことで」

と席を立とうとした刹那、

「それでは、困ったな」

「えっ?」

「お前の住んでいたハムスターのような家は引き払ってしまった」

今…何とおっしゃいまして?

仕事帰りにはキツい上り坂、コンビニから何から何まで坂を下りねばならない立地条件の悪さ。

にしてはデザイナーズマンションのごとき外観、1DK、家賃8万5千円。

住んでかれこれ3年。

灰人の小さな城は、いつの間にか攻略されて、爆破されていた。

「俺の家!!」

灰人は、永遠の肩を掴んだ。

「返せ!!」

「無理だ。お前の家の物は全て我が家に運んでいる」

「不法侵入だろうが!」

「大家には了承を得た」

あのくそ親父…毎年、中元•歳暮はかかさず、家賃だって1度も滞った事のない優良入居者を…。

簡単に手放しやがって。

灰人は、ガックリと肩を落とした。

「どうすんだよ、俺」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ