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フラニーと私1

私がスーイと名付けられ少し経つ。

やはり時間という概念の認識が、とてもはっきりとしている。

私は上半身だけを起こして、ただ静かに黙っていた。

私の側にいるフラニーという少女と私の二人しか居ないこの空間。なんだがとても不思議な感覚だった。そして、私がその感覚を認識し始めた時からか、私の身体がドクドクと強い音を上げ始める。

私は何度も確認した自分の体を確認した。


(なんなのだろう。この煩い振動は。早く止めないと)


私は自分の内から突然鳴り出したこの音を必死で止めようとする。隣にいる少女に悟られないように。

私はその音が誰かに悟られてはいけないような気がしたから。

よかった。まだ彼女は気づいていない。

今、フラニーは手に四角い板のような物をもって、それに目を落としていた。


(早く鎮めないと……)


私は必死にこの振動を止めた。

止めようとすればするほどそれは強くなるような気がする。

これでは駄目だと知った私は、何か別の方法を考える。この振動と音に集中するのが悪いのであれば、他のことに集中すればいいのではと思いついた。私はなにか他のことに気を散らすことにした。

「それは、なに?」

私はフラニーに声をかけることにした。

他に意識を集中できる物がわからない私は、結局、隣にいる少女へ質問することくらいしか思いつかなかった。

「これ?これは本よ。いろいろなお話や知らないことが記されているの」

どうやら本とは情報媒体のことのようだ。

「本……。それは、いい?」

私はまた質問をした。

「いいとは、おもしろいかってこと?」

「…………」コクッ

「ええ、とてもおもしろいわよ。私、昔から本って好きなの。私の知らないことがたくさん載ってるのだもの。読んでいるとワクワクするわ」

彼女は私の質問に楽しそうに答えていた。私の名前を付けた時と同じ表情をしている。

「そう……。ねぇ、ワクワク……なに?」

私はさらに質問を続けた。

彼女は本というものを閉じて膝に置き、私の質問に真剣な眼差しで答えてくれた。

「ワクワクというのは楽しいとか、面白いとか感じたときに胸が高鳴ることよ。この辺りの音がとても大きくなるわ」

「……そう」

彼女は自らの胸に手を当てながらそう言った。

彼女の言う胸の高鳴りとは私の先ほど感じていた振動のような音の正体なのだろうか。今の私には判断できないが、可能性はありそうだ。

私はふっと自然と息を吐いていた。鼓動はだいぶ落ち着きを取り戻している。

「スーイも本読んでみる?」

そんなことを考えていると突然、彼女のほうから質問された。

「私は……いい」

「ふふっ、読みたくなったら、私に言ってね」

私が少し驚きながら答えているのが彼女には可笑しかったのか、フラニーは口元に手を当てながら小さく笑っていた。

「体のほうはもう大丈夫?辛いのなら寝ててもいいのよ」

今度は彼女が続けざまに私に訊いてくる。

「もう、だいじょうぶ」

「そう、よかったわ。今、ミルチェが食事を用意しているわ。少しでも食べれるといいのだけど」

彼女が心底安心した様に言った。

その様子はまるで自分のことの様な感じだった。

私には彼女のわかりやすい思考の変化が様々な面で疑問だった。

「そろそろ、来ると思うのだけれど……」

彼女が小さくそう言うと、コンコンと私の前方から音がした。

「ふふっ、ほらね。……どうぞ」

彼女は私に笑いかける。

その後、少し大きな声で何処と無くそう言った。

「失礼します。遅くなり申し訳ございません。朝食のほうできましたのでお呼びに……」

扉を開けながらそう断りを入れる女性が私に気づいたのか、そこで言葉を止めた。

入って来た彼女は少し変わった服を着ている。

「お目覚めになられたのですね。体調のほうは?」

「大丈夫そうよ」

私の代わりにフラニーが私の体調を答える。

「左様ですか。よかったです」

目の前の女性が表情を変えずに言った。

「ミルチェ、朝食はここで摂るわ。持って来てもらえるかしら。彼女の分もね」

先ほど名前の出て来たミルチェとは、彼女のことらしい。

「承諾致しました。では、お持ちしますので少々お待ちください」

「わかったわ」

フラニーにミルチェと呼ばれた彼女はそう言うと入って来た扉から部屋を出るために踵を返した。

それを見計らった様にフラニーが私に身を寄せて来る。

黄金色の髪が目の前で舞う。瞬間、私の胸の音が大きくなったような気がした。

次の時には元に戻っていたので本当に気のせいかもしれない。

彼女が私の顔を見る。

「あれでもね、貴方のこと本当に心配していたのよ。顔には出さないけどね」

私の側で小さく笑ってそう呟く。

その声はミルチェにも聞こえていたようで、部屋から出ようとしたミルチェの動きが止まる。少しして、また動き出し部屋から出て行った。

扉が閉まる時、一瞬だが彼女の顔が赤かった様に見えたが、気のせいだろうか。

私はフラニーを見る。

身を乗り出すように私に私へ寄っていた体勢から元に戻るかたちで椅子に座った。

そんな彼女は先とは違う少し悪戯な笑みをして私に笑いかけていた。

前話に少々大きな改稿があります。

よろしくお願いします。


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