表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

目覚め、そして出会い2

突然に動き出した彼女のほうはというと未だに辺りの状況を見渡している。

「あっあの、体調のほうは大丈夫ですか?」

私はとりあえず当たり障りのなさそうな内容でコンタクトを試みる。

「…………」

しかし、彼女からは何のリアクションも出ない。

「あのっ!きこえてます?」

私は聞こえてないのかともう一度彼女に声をかけるが、やはり彼女は何も言わなかった。

その代わりに彼女は少し落ち着いてから、まさに困惑といった表情を浮かべて俯いてしまった。

「あの……大丈夫?」

私の三度目の問いかけでやっと此方に気を傾けてくれた彼女。ただ、何も答えない。

「えっと……」

気まずい空気に耐えられない私はとりあえずの話題を考える。そして、振り絞るように話題を振ろうとした私の声を彼女の声が上書きした。

「わっ……たし……は…………」

彼女は上手く喋れないのか、ひどくしどろもどろでそう紡いだ。

「貴方は森で倒れていたのよ。私とミル……私の使用人が貴方を見つけてここに連れて来たの。何か憶えていない?」

「わったしは……」

彼女に状況を説明するが、あまり憶えてないようだ。

彼女は困惑の表情を少しずつ緩め、悲壮な表情へと変わる。

「私はこの屋敷に家族と住んでるモルディーノ家の次女、フラニー・オグ・モルディーノよ。そうね、ずっと貴方と呼ぶのも忍びないわ。貴方のお名前を教えてもらえないかしら?」

私は少しでも気分が良くなるようにと話題を変える。

「わたし……なっにも……わからっ……ない……」

「えっ……」

ゆっくりと紡がれる彼女の言葉に私は驚く。

この事実に正直、私はなんと声をかければいいのか一瞬分からなくなる。

「そんな……貴方、記憶を失っているのね」

私の言葉に彼女は否定も肯定もしない。

彼女は今もベッドの上で俯きながら毛布を握る自身の手を眺めていた。

私は居た堪れず、話を切り出す。

「ねえ。貴方さえ良ければなのだけれども、貴方が記憶を取り戻すまでの間、私が貴方のことを責任もって面倒を見ます。その間、代わりの名前で呼ぶのはどうかしら?」

「………………」コクッ

少し長い間が空いて彼女は首を小さい縦に振った。

「よかったわ。なら早速、貴方の名前を考えなくちゃね」

彼女の同意も得たことだ。

私は彼女に合う名前を少し考えてみる。

彼女の長い銀色の髪と綺麗な薄い青の瞳。それに予想どおりの可愛いらし顔。

それらに合う名前。うん。これだ。

「えっと、そうね。スーイってのはどうかしら?スーイという名前はね。有名なお伽話に出てくる魔法が使える主人公の少女の親友の名前なの」

このお伽話は有名で、主人公の少女は強大な魔法の力を世界のため、役立てるために世界を旅する。そのなかで少女と出会い、彼女自身に力を使う事も大切なのだと知り、最後には感動の結末が待っているという私も幼い時からとても好きな物語だった。

「どう……?」

「……」コクッ

先ほどより短い間の後に彼女は首を小さく縦に振った。私は自分でも気づかないうちに少し笑顔になっていた。

「気に入ってもらえてよかったわ!ふふっ、これからよろしくね、スーイ」

「……よろ……しく」

「ええ、よろしくね」

彼女は喜ぶ私を少し戸惑いの表情を浮かべながら小さくそう言った。

きっと何故私が喜んでいるのかわからないからだろう。

そんなスーイに私は優しく微笑みかけるのだった。




私が意識を覚醒させると私は見たことのない家屋の中に運び入れられていた。

ここまで来た記憶がない。

隣で私のことをみる女性は誰だろう。

彼女は黄金色のストレートの髪を片方にまとめて結んでいた。優しそうな大きい碧色の瞳が私を映している。

何もわからない私はとにかく状況確認をする。しかし、わかることなどなにもない。

意識を覚醒させてからあらゆる新たな思考が私の中を駆け巡る。

私は自身にかけられた布を自然と強く握る。そこでようやく隣にいる彼女の声に気づく。

彼女が話すには彼女が私をここに連れて来たらしい。次に彼女は彼女自身の名前を教えてくれた。フラニーというらしい。

私にも名前を尋ねるが私は上手く答えられない。

私の返答に彼女は私が記憶を失っていると推測したようだが、それは正確ではないと私は推測する。私は元からなにも知らないのだ。

次にフラニーは私に名前をつけることと、面倒を見ることを提案してきた。

私はそれを受け入れた。彼女から情報が聞き出せることを期待して。

暫しの間、私の中の私が言いようのない思考に陥った。しかし、私の承諾を聞いた彼女が何かとても喜ばしいようだったので問題ないと結論付けた。




ーー彼女との出会いは物語として運命的だっただろう。

私は今だからこそその時に抱いた思考がなんだったのか理解できる。

私が人と初めて触れ、その時に生まれた感情の意味を。


今回はここまでです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ