目覚め、そして出会い1
私はまた未知の体験をしているようだ。
廃棄されてから幾度となく続く私の知らない現象。
きっとバグがたくさん生まれているのだろう。
そうでなければ、いったいこれはなんなのだろう。
私は理解できないことで埋め尽くされたこの感覚があの時に似ていると結論付けた。そう、あの廃品の中で感じた消えたくないという思いに。
私はあの時感じた追いやられるような思考に囚われる。
それが危険だと私は理解している。
私は直ぐにこの状況から抜け出さなければならないと目を覚まし、一瞬にして意識が覚醒した。
私はミルチェとともに森で見つけた少女を屋敷へと運び、客室のベッドへと寝かせた。
ここまで運ぶ間、街の人たちに会うこともほとんどなく、特に奇妙な目で見られることもなかった。
さすがに屋敷に入ると他の使用人から事情を尋ねられるようなことが度々おきた。そして、その度にミルチェが事情を説明してくれた。
ミルチェから事情を聞いた他の使用人は嫌な顔もせずに、私やミルチェが何かを頼む前から自分にできることを率先してやってくれた。
この屋敷の使用人の優しさ、人格は常に共にいる私がよく知っている。ほんとによくできた使用人が多い。これもお父様の方針らしい。
「服を着せて早く寝かせましょう。私は水とタオルを用意してきます。あと、どなたかに医者の用意しを頼まないと……。ちょっと行ってくるわ!」
私はミルチェに彼女の着替えを頼む。
「あっ!お嬢様……」
何か、ミルチェから私の行動についに戸惑うような声が聞こえたような気がするけど無視をする。
私は屋敷の廊下を走って水汲み場へと向かう。
その途中で私やミルチェから事情を聞いて様子を見に来る途中だった他の使用人に、医者の用意を頼むことも忘れない。
私が少女を拾ったことは瞬く間に屋敷中に広まっていたようで、私が急いで水を汲んだり、タオルを用意することを止めたりする者はいなかった。
昔からの付き合いの長い使用人の多いこの屋敷では私という人を皆よく知っている。こういう時私の行動を身分で止めるのは無駄なのだ。
私は水を桶に持って先ほどの客室へと戻る。
彼女は寝間着に着替えさせられ、ベッドで寝ていた。
私は桶を机に置きタオルを浸すと絞って、看病のために置いた椅子に腰掛けているミルチェのそばへと向かった。
寝ている少女のおでこに乗せる。
本当は体を拭いてあげたいが今は寝かせることが第一だ。
何の気なしに彼女の寝間着を見ると私はそこである事に気がつく。
「彼女が着ているのって……」
私は見覚えがある寝間着に気づき、つい声を出す。
「申し訳ありませんが、この屋敷に彼女に合う服がありませんでしたのでお嬢様のお召し物をお借りしました」
「言われてみれば、確かに」
どうやらそういう問題があったようだ。
私としても別に嫌な訳でもないので特に咎めるつもりもないし、こういう時は仕方ない。
「仕方ないわよ。彼女くらいの背丈の人、この屋敷には私しかいないもの。ただ……なんだか気恥ずかしいわね」
私の答えにミルチェは優しく微笑みで返した。
「では、私はお食事の準備を確認に行きますので少しの間、彼女のことをお頼みします」
「分かったわ」
ミルチェが客室を後にすると、しばらくして医者を連れた別の使用人が客室へと入ってきた。
医者は素早く診察を終えて病状を伝える。
「重度の疲労からくる発熱と思われます。しっかり寝て、食事を摂れば良くなるかと思われます」
少し歳を召した医者はそう診断した。
「ありがとうございます。お代の方は使用人から受け取ってくださいな。レイ、お医者様の見送りをお願いします」
私は医者に一言礼を言うと見送りを医者と一緒に客室へ来た使用人のレイに任せる。
私は彼女の側に戻り椅子に腰掛けて彼女の顔を覗き込む。
屋敷へと連れて来た時よりはだいぶ良くなったと思う。
銀色の少しウェーブのかかった長髪の私と同い年くらいの少女はきっと目を覚ませば可愛いらしいのではないかと私は思っている。
医者も大丈夫だと言っている。
このままもう少し寝かせておけばそのうち意識は戻るだろうか。
しかし、私の予想の片方は外れたようだ。当然後者だ。
私が彼女の顔を見ていると彼女の瞼が動くのに気がついた。
そしてものすごい勢いで、ベッドの上で姿勢を起こして周りをキョロキョロと見渡す彼女。
私はそれに驚いて思わず「ひっ!」っと小さな声を上げながら、椅子の背もたれのほうへと仰け反っていた。
調整の関係で短めです。