剣
剣
誠一郎はこの時素直に相手のことを怖いなと思った。城の外の草原に一陣の風が吹いたかと思うと、その瞬間に相手の剣先が横一閃にひらめいて誠一郎の胴を真っ二つに切り裂いたかに見えた。
誠一郎はしかし胴を左右によじりながら相手の剣先をすんでの所でかわすと剣を上段に縦にかまえて相手の目をキッと睨みつけ口をキリと結んだ。
誠一郎の後ろで一つ結びにした長い髪が強風にあおられ誠一郎の顔にかかりそうになるのを相手は見逃さなかった。下段に相手の剣が真横に伸びてきた。誠一郎はそれを両足跳びで間一髪避けるとそのまままるで空中で向きを変えるかのように相手の眉間へ縦一文字に振りおろしたが相手は上半身をのけぞらせ間一髪でそれを避け再び青眼に構えた。
2人はこの闘いが容易には決着の着かぬことをこの時悟った。2人の実力は伯仲している。そうなると当然動いた方が負けになる、ここから2人の命を懸けた長期戦が始まった。
夕刻になっても2人はまだ一瞬の猶予もなくお互いの隙をうかがい続けていたが先にしびれを切らした方が負けになることは当然の理であったのでいつまでも構えを崩すことなく相手が先に動くのをジッと待っていた。
冬の寒い月が草原の斜め20%程の位置に昇り夜の更ける様相を見せると戦いは心理戦に持ち込まれていった。
誠一郎は「このままだと寒くなるな」と思い相手が寒さで身の動かなくなることを予測した。誠一郎は脚絆の下に暖かい絹織物を身に付けていたので有利だと思った。本日の戦いを予測してのことであった。相手は当然先に動いてくるものと予測して、誠一郎は相手の出方を目を凝らしてうかがっていると目の中に入ってきたものがあった。キツネである。月光に照らされた白銀に見える白いキツネが一匹、相手方の草叢から顔をのぞかせている。誠一郎はとっさにこの状況がどちらに有利に働くか計算しようとしたが、キツネはまた顔を隠してしまった。
それきりキツネの再び出てくることはなかったものの、戦いの最中に出てこられては命取りになりかねない。誠一郎は相手の目をキリリとした涼しいまなざしでジッと見つめたまま一歩一歩体を左へ動かし、キツネが相手に不利に働くような位置へと全身を持っていった。
誠一郎が動いたので相手は今かとばかりにジリジリと間を詰めてきた。いよいよ闘いの火ぶたが切って落とされた。負けた方が絶命である。誠一郎は覚悟を決めると死を決意した。
相手は誠一郎までわずか体二つ半ほどのところまで体を移動させてきた。よく見ると色の白い誠一郎の細めの眉とはちがう濃い太い眉の印象的な感じの武士であった。
誠一郎はいよいよ覚悟を決めて剣を中段に構え膝をおおきく前後に開くと剣を後ろへ思い切り引き絞り、突きの構えのまま仁王立ちとなった。相手の剣はその瞬間に誠一郎の喉元めがけてエイヤとばかり突き出され、誠一郎はそれを斜に切り上げたがもの凄い衝撃である。誠一郎は相手方の豪剣にその場尻モチ突く形で倒されてしまった。相手は上段に構え、誠一郎はは尻モチ、絶体絶命であった。誠一郎は命を捨てる覚悟をしたが、何か肉を切り、骨を断つ方法はないものかと思い先程のキツネを思って誠一郎はキツネのいた方角に向かって「あ」と短い奇声を発したその時一瞬相手の目がチラと動いた隙に誠一郎の脚が相手の手の甲をしたたかに蹴り上げ相手の手から剣が勢いよく飛び宙に月光で反射しながらキラキラと舞い上がった。
誠一郎はスクと立ち上がって脇差を抜き相手の喉元に突きつけた。勝負あったである。
相手は誠一郎の方を優しそうに一目見てこう言った。「お前の勝ちだ。殺すがよい。誠一郎は一呼吸おいて鬼の目つきとなった。
その時誠一郎の眼にとまったものがある。例の白銀のキツネであった。
誠一郎はキツネを見て相手にもそのキツネを見るように促した。
「今回勝てたのはあのキツネのおかげぞ。あのキツネこそ
いなければ私は勝ててはいなかったやもしれぬ。キツネに救われたと思うが良い。」




