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Fox Tail ‼ ー綴樹秋斗の他愛のない日常ー  作者: 三原色みたらし団子
第一幕
6/38

六日目 魅惑の白銀

 身体が怠いです。なんでしょう、日頃の疲れですかね

 半ば反射的に振り返った視線の先にいたのは、腕を組んで戸口に寄り掛かった黒い着物姿の女性。彼女はまるで最初からいたかのように、ごく自然にそこにいた。


「そろそろ来るとは思っていたが……意外に早かったな」


 時間が止まった。そう感じるほどに、彼女のその美貌は僕の目と心を奪っていった。

 腰まで伸びた流水のような銀髪に、長く尖った狐耳。黒白の和服に包まれた肢体は、その上からでも分かるほどメリハリがあり、どちらかといえばスレンダーな芒とは対照的だ。雪白の肌に映える深紅の釣り目が愉しげな微笑で彩られている。

 まだあどけない印象の芒とは異なり、妖艶な大人の雰囲気を纏った狐娘がそこにはいた。

 しかし、そんな蠱惑的(こわくてき)な外見に目を奪われていたのはほんの数瞬。僕の視線はいつの間にか、彼女の背後でゆらゆら揺蕩う八本の尻尾に注がれていた。


 ――あの尻尾に包まれたなら、それはどんなに幸せなことだろうか。


 不意に、周りのことがどうでもよく感じた。目の前の尻尾をモフりたい。僕の頭の中を、その欲求が支配する。思考と共に視界が霞み始め、僕の眼にはもう白銀の尻尾しか映らなくなった。……さあ、手を伸ばそう。桃源郷(とうげんきょう)はすぐそこで待っているんだ――


「――師匠! お久し振りです、お変わりないようで何よりですよ!」


 すぐ側で聞こえた芒の声に、ふっと我に返った。僕は今、何をしようとしていたのか。初対面の相手の尻尾をいきなりモフるなんて、失礼にも程があるだろう。セクハラや痴漢と大差ないじゃないか。誘惑に弱いという自覚はあるが、僕はそこまで節操なしじゃない。


「ああ、お前も息災なようだね。ん? 君は……」


 「師匠」の視線がこちらに向けられる。


「あ、どうも初めまして。僕は――」

「ああそうか。こうして顔を合わせるのは初めてだったね、綴樹秋斗。私は〝さかき〟という。この神社を棲家にしている狐の妖だよ」

「え? どうして師匠が秋斗さんの名前を……?」


 芒は驚いている様子だったが、僕はその答えに見当がついていた。しかし「師匠」改め榊さんは意味ありげな微笑を(たた)えたままで、その問いに答えようとはしない。



「まあ楽にしていると良い。茶でも淹れよう」

「いえそんな、わたしがやりますから……」

「いいから座っていろ。今日のお前は客人なのだ。もてなしを受けることも礼儀だぞ?」


 そう言われては仕方がない。芒はおとなしく腰を下ろすと、扉の向こうへ消えていく榊さんの姿を見送った。僕も彼女の横に正座して、小声で話しかける。


「キレイな人……じゃないか、狐さんだね」

「ふふっ、そうですね。わたしも憧れているんですよ。いつかあんな風に恰好良い狐になりたいです」


 まるで自分が誉められたかのように、少し恥ずかしそうに微笑む芒。その表情や言葉からは、榊さんに対する心からの敬愛が感じられた。それにしても……


「……良い尻尾だったなぁ」

「あ・き・と・さん? ダメですからね?」


 心の声が口に出ていたらしい。頼むから犯罪者を見るような目で僕を見るのはやめてくれないか。地味に傷つくから。


「ところで、どうして師匠は秋斗さんの名前をご存知だったのでしょうか。何か心当たりとか、ありますか?」

「あーうん、それはその……」


 正直に言って、心当たりはある。ありまくる。しかしどう説明したものかと口籠っていると、榊さんが奥からお盆を持って出てきた。話を中断して居住まいを正す。

 榊さんは、緑茶と思しき薄緑色の液体が注がれた湯呑を僕と芒に配ると、自分もその場に座った。そしておもむろに口を開く。


「さて、私を訪ねてきた理由はおおよそ見当がついているが……ふむ。その様子だと、無事に転移できたようだね」

「ということは……やっぱり師匠の仕業だったんですね」

「ああ。お前が寝入るのを見計らって少年の家に運んだ」


 責めるようなニュアンスの入った芒の言葉にも悪びれず答える榊さん。


「説明して、いただけますよね?」

「勿論だ。……とは言っても、これは少年の口から語った方が良いのではないかな?」


 深紅の双眸(そうぼう)がこちらに向けられる。どうやら逃げは許されないようだ。

 仕方がない、と僕はこっそり溜息をつく。今ここで誤魔化したとしても、遅かれ早かれ話さなければいけないことなのだ。ならいっそのこと、早く楽になってしまおう(一瞬で楽にしてやる的な意味で)。


「まず、僕が狐っ娘萌えだということは知ってるよね?」

「あ、はい、尻尾が好きだっていうのは昨夜お聞きしましたけど……」


 それとこれとどんな関係があるのだろう、といった感じで首をかしげる芒。昨晩の事を思い出したのか、やや顔が赤い気もする。

 やれやれ、女の子に自分の性癖のルーツを語るなんて、どんな公開処刑だ。とはいえこれは自分でまいた種。やはり自分で責任を負うべきだろう。


「全部話すと長くなるんだけどね――」


 少し目を瞑っただけでも寝落ちしそうです。誰かメ○シャキ買ってきてくれませんか

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