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Fox Tail ‼ ー綴樹秋斗の他愛のない日常ー  作者: 三原色みたらし団子
第一幕
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四日目 朝の匂い

狐っ娘は良妻属性説、あると思います

一家に一匹欲しいですね。美少女ならなおさら。


翌朝。

カーテンの隙間から差し込む秋の穏やかな陽光が、僕の身体を目覚めさせた。

昨夜は眠れそうにないと思っていたが、一人悶々としているうちにいつの間にか意識が落ちていたらしい。

僕は体温で程よく温められた布団の誘惑をどうにか振り払い、寝起きの胡乱(うろん)な頭で部屋を出た。芒はもう起きているだろうか。

 廊下に出ると、何やら魚を焼くような香ばしい匂いが鼻孔をくすぐった。僕は顔を洗って頭を覚醒させると、その匂いに誘われるようにキッチンへ向かう。



「芒? おはよう、何してるの?」

「あ、おはようございます、秋斗さん。昨日のお礼に朝食のご用意をと思って……冷蔵庫にあった材料、勝手に使わせていただきました」

「そんな、お礼なんていいのに」

「いえ、それではわたしの気が済みませんから……それとも、ご迷惑でしたか?」


 途端に申し訳なさそうな表情になり、狐耳をへにょらせる芒。


「あーいや、そういう意味で言ったわけじゃないんだ。ありがたく頂くよ」

「良かった……」


 僕が慌てて否定すると、芒はホッと胸を撫で下ろし、笑顔になった。本当に表情が豊かな子だ。



 それから数分後、諸々の支度を終えた僕は、芒に呼ばれ食卓に着いた。目の前には、ごはん、味噌汁、焼き魚におひたしと実に日本らしい品々が並んでいる。


「それじゃ、いただきます」

「ど、どうぞ!」


 不安と期待の入り混じった視線を浴びながら、魚に箸をつける。


「どう、ですか? お口に合うといいんですけど……」

「うん、美味しい! 美味しいよ!」

「本当ですか? 良かった!」


 味噌汁も辛すぎず薄すぎず、素朴な味わいだ。所謂「おふくろの味」というやつなのかな。母親の料理なんてしばらく食べてないから分からないけど。


「本当に美味しいよ。芒は良いお嫁さんになるね」

「へ……っ!? お、およめさん……って、いきなりそんなことを言われましても、その、心の準備がまだ……っ」


 突然、芒は何故か真っ赤になって咳き込み始めた。どうしたんだろう。喉に小骨でも引っ掛かったのかな。


「それにしても、料理なんて誰に習ったの? 何処かで働いてたとか?」

「いえ、師匠が教えてくれたんですよ」

「師匠?」

「はい! 白船神社にかなり昔から住んでおられる妖怪狐なんですけど、一時期人間として生活してたらしくて、色々と教えてくださるんです」

「へー……神様の遣いだったりするの?」

「うーん……そういった話は聞いたことないですね。ただ、人間たちの中には師匠のことを神様だと思ってる人もいるみたいですよ。すごい術とかいっぱい使えますし、尻尾も八本もあって……」

「ほう」


 尻尾が八本もある……つまりそれは、芒以上のもふもふということじゃないか!


「しかも師匠は……って、秋斗さん? どうしたんですか?」

「こうしている暇はない! さっさと支度をして出掛けようじゃないか!」

「え、ちょっと秋斗さん!? 言っておきますけど、師匠に昨晩みたいなことしちゃダメですからね! ちょっと聞いてますか⁉ ねぇ!」


* * *


 食事を終えて一旦部屋に戻って支度を済ませた僕は、玄関口で芒が出てくるのを待っていた。待ち合わせ場所で彼女を待つ彼氏の気分だ。もっとも、僕にそんな経験は無いから正確にはラノベやアニメの主人公の気分と言うべきか。


「お待たせしました。行きましょうか」

「うん……ってあれ? 芒、その服どうしたの? それに尻尾もなくなってるし」


 いそいそと姿を現した芒は、先程までの裸ワイシャツではなかった。濃紺のブレザーに、青いチェック柄のプリーツスカート。胸元の赤いリボンタイが可愛らしい。それは紛れもなく、僕の通う白檀びゃくだん高校の女子用制服だった。

流石にあの恰好のまま出歩かせると国家権力のお世話になるから僕のジャージ上下を貸そうと言ったのだが、「わたしなら大丈夫ですから!」と言って部屋に引っ込んでしまったのが数分前。どうするつもりかと思っていたが、なるほど、こういうことか。


「術で尻尾を変化させたんですよ。言ったでしょう? わたしだって万全ならこのくらいできるんです! とりあえず秋斗さんの部屋に掛けてあった服を元にアレンジしてみたんですけど、どうですか? 似合ってます?」


 ふふん、と得意げな表情の芒。細部の違いはあれど、今の彼女はどこからどう見ても我が高校の生徒だ。


「ほへー……うん、よく似合ってると思う。可愛いよ」

「か、かわ……っ!? あ、ありがとうございます……! えへへ……」


 これまで狐っ娘であることに気を取られて気に留めていなかったが、芒はかなりの美少女だ。きっと本来の狐の姿でも、愛くるしい風貌をしているに違いない。

 そんな美少女とこれから連れ立って歩くということを改めて意識したら、こころなしか緊張してきた。


「秋斗さん? どうかしましたか? なんだか顔が赤いですけど……」

「い、いや、大丈夫大丈夫! なんともないよ。それじゃあ行こうか」

「?」


 僕は顔が熱くなっていくのを誤魔化すように、速足で歩き出した。


 まあでも、生気吸われたり、悪戯されそうな気もしますね

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