二十三日目 夢か現か幻か
随分とお待たせしましてしまいましたね
最近はちょっと忙しくなって、まともに執筆できませんでした
さて、いよいよ第三章が幕を開きます。今までより、少しだけ進展がある、かも……?
気が付くと僕は、広い草原にひとり佇んでいた。
彼方に地平線が見えるほどだだっ広い野原。空を仰げば雲一つない蒼穹がどこまでも続いている。まるでサバンナのようだ。
しかし、どうして僕はこんなところにいるんだ。少なくとも海外旅行に出た覚えはないし、そもそも僕は今しがた、学校に行くために家を出たはずではなかったか。
疑問符が頭を埋め尽くす中、「とりあえず家に帰らなきゃ」という使命感めいた感覚に突き動かされ、一歩一歩足を踏み出す。何故かは分からないが、歩く方向に我が家があるという確信があった。
歩を進めるうち、視界の端にちらちらと映るものがあった。最初は気のせいかと思ったが、目を凝らしてみると、どうもそうではないらしい。僕の目が異常をきたしていなければ、だが。
思い切って振り向き、それを視界の内に収める。そこにあったモノは……
「――ッ!」
次の瞬間、僕は全力でダッシュしていた。それに背を向けて、ではなく、それに向かって、だ。
なぜなら、そこには僕の愛してやまないものが――金色に輝く、もふもふの狐の尻尾があったからだ。
尻尾はまるで僕を誘惑するかのように、中空をあっちへこっちへと踊っている。そこへ猛然と迫る僕。一呼吸のうちに彼我の距離は縮まり、伸ばした手が毛先に触れる――
「な――ッ!?」
その瞬間、尻尾がひらりと軌道を変えた。僕の腕は虚しく空を掻き抱く。
見れば、尻尾は二メートルほど先をふらふらと浮かんでいた。「ほぅら、捕まえてごらんなさい♪」と言わんばかりに。
――いいだろう。
そっちがその気ならとことんまでやるだけだ。僕の愛を舐めてもらっては困る。
こうして僕と尻尾の、長い闘いが幕を開けた。
幾度となく腕を伸ばし、飛び掛かり、そしてその全てをギリギリで躱される。
もう何時間そんなことを続けていただろう。しかし不思議と疲労感は無く、寧ろいつもより自由に動くことが出来た。なんというか、身体が軽いのだ。もう何もこわくない。
しかし、そんな愉しい追いかけっこも今、ついに終わろうとしていた。
追い続けた尻尾が、自ら僕の懐に向かって来るではないか。その艶やかな毛先からは、どこか満足そうな、あるいは僕を認めてくれたような、そんな気配を感じられた。
ゆっくりと、確実に歩み寄る尻尾を、両の腕をいっぱいに広げて迎える。
あぁ、今まさに、ふかふかの毛玉が僕の胸の中に飛び込んできて――
「――とさん。――きとさん。起きてください秋斗さん、朝ですよー! あきとさーひゃぁああああっ!?」
「あぁもふもふ! もふもふでふかふかだ! はぁーふぅー……もう思い残すことはない……!」
「ひぁ……っ、あっ、ちょっと、あきとさ……っ、もう秋斗さん! 寝ぼけてないで起きてくださーい!」
なんだよ騒がしいな、ヒトがせっかく至福に浸っているというのに。この金色の尻尾だってもっともふられたいと思って……ん? 黒い? それになんかボリュームが増えてる?
なんだか嫌な予感がする。恐る恐る視線を尻尾の先へと移動すると……
「……………っ!」
「………あら?」
果たして僕と目が合ったのは、なにやら涙目でこちらを睨みつける黒髪狐っ娘で。
段々頭がはっきりとしてくる。つまり尻尾との追走劇は夢の出来事で、僕は起きるや否や芒の尻尾をモフりだしたのだろう。それで、そもそもなんで芒が僕のベッドにいるかというと……
「えーと……おはよう芒。今朝も起こしに来てくれてありがとう」
「いえいえ、わたしのためでもありますから……って、いつまで触ってるんですか!」
「あぁごめんごめん、手が勝手に……くっ、鎮まれ僕の“純粋なる欲望の腕”ッ!」
「いいから手を離してくださいー!」
「ぶふぉ!?」
尻尾で思いっきりビンタされた。堪らずのけぞっている隙に、芒は僕の拘束を脱しベッドから飛び降りた。ところで、今のは寧ろご褒美だったりするのだが気付いているんだろうか。
ともあれ、今の一撃で完全に目が覚めた僕はベッドから起き上がると、カーテンを開け放った。眩い朝の光が部屋中に降り注ぐ。
「まったく、いきなりあんなことされたらびっくりするじゃないですか……。一体どんな夢を見てたんですか?」
「あはは、ごめんって……えっと、なんか狐の尻尾を追いかける夢だったような……目の前にあるのに、いくら追っても捕まえられなくて、最終的に向こうからこっちに飛び込んできたところで芒の声が聞こえて」
「はぁ、そういうわけですか……なんというか、秋斗さんは夢の中でも秋斗さんらしいですね……」
合点がいったというように嘆息する芒。僕らしいとはどういうことだろう。こんな夢を見たのは初めてなんだが。
「ともかく、朝食の準備はもうできてますから。早めに降りてきてくださいね」
「うん、ありがと」
階段を下りていく足音を聞きつつ、着崩れた寝間着に手を掛ける。
それにしても、良い夢を見たうえに朝から尻尾をモフれるなんてなんだか今日はツイてる気がするぞ。僕は期待に胸を振らませながら、制服のシャツに袖を通すのだった。
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自分でチェックはするんですが、いつも見落としがあるので……




