二十二日目 色づく黄昏、二人の道は
ついこの間まで寒い寒いと言っていたような気がしますが、もうすっかり春ですね!
日本人だからなのか、桜に弱いんですよねー、私。商品名に「桜」ってつくとつい手に取ってしまいます。いやー、我ながらいいカモですねー
しばらくの間、二人とも無言のまま歩を進める。正直、ちょっと気まずい感じだ。何か話題は……あ、そうだ。
「えっと、ちょっと気になったんだけどいいかな」
「ん、何?」
「さっき久城さん、護符? みたいなの出してたけど、あれって何なの?」
あれとはもちろん、最初に芒に向けて突き出していたあれのことだ。ちらっと見た感じ、普通に神社にありそうなお守りとはわけが違うようだったからずっと気になっていた。
「う……ヤなこと思い出させないでよね…… まあいいわ、これのことでしょ?」
渋い顔をしながら上着の懐から札を取り出し、僕に示す。万札より少し大きいくらいの紙片に、朱色で何やら記入されているのはよく見かけるそれと同様だが、このお札は一般的な白色ではなく、薄く翠がかった色合いをしていた。
「簡単に言えば、お祓いを簡略化したものよ。退魔の術式が込められた護符で力を封じようというわけ。まあ簡単なものだから一時的な効果しかないけどね」
「なるほどー……僕はてっきり、掲げたら水が迸ったり光の矢が放たれたりするのかと思ってたよ」
「どこの漫画の世界よそれ……あなたの知識はだいぶ偏ってるみたいね」
至極真面目な顔で言ったら、呆れたようなジト目で見られた。
まあそりゃ、化け狐を調べる一環でそういう類の漫画・ラノベを読み漁ったんだから当然といえば当然だ。ドハマりした結果、本棚の半分以上が妖怪モノで埋まったわけだが。この方向の知識なら校内でも頂点を目指せると自負している。
「だいたい、ああいう漫画とかアニメって陰陽師を過大評価し過ぎだと思うのよね。ちょっと調べたらすぐに分かるけど、実際の仕事は天体観測とか天気予報だったらしいわよ?」
「やめてっ、僕たちの夢を壊さないで!?」
「真実を受け入れなさい、現実なんてそんなものよ」
「なんだよぅ、この方がカッコいいじゃん……あ、待てよ? 表向きは地味な仕事だけどそれは世を忍ぶ仮の姿で、夜には人に仇なす妖退治に街を駆ける――とかいうのはどうだろう。面白くない?」
今度は深々と息を吐き出された。ため息ばかりついてると幸運が逃げますよ?
「この辺で良いわ、ありがとう」
立ち止まったのは、街道から外れた十字路。進行方向には紅く色づいた森林が広がっていた。
「そういや、久城さんのお家ってどんな感じなの? 結構歴史あるみたいだけど」
「昔ながらの和風建築よ。流石に何度かリフォームはしてるけれど」
「へぇ、良いねー」
「よく言われるけど、そんなに良いものでもないのよ? これが。特にこれからの季節は寒くって……。
あ、良かったらちょっと寄ってく? お茶ぐらい出すわ」
「あー……いや、せっかくだけど今度にさせてもらうよ。家で芒がお腹空かせてるだろうから」
そう言った矢先、僕のお腹が不満げに嘶いた。そういえば昼ごはんのおにぎり以降何も食べてないんだった。
「ぷっ……お腹を空かせてるのはどっちかしら? そういうことなら早く帰った方が良さそうね。 ……それじゃまた明日、学校で」
「うん。気を付けて」
口元を歪めながら小さく手を振って去っていく久城さん。僕も背を向けようとしたところで、声が聞こえた。
「―――気を付けなさい、あの子は純粋過ぎる。貴方が正しく導いてあげないと、きっと取り返しのつかないことになるわ」
「…………そうだね」
小さくなって次第に風景の一部となっていくポニーテールを、僕はいつまでも見つめていた。
「―――はっくしゅ! ズズ……帰ろ」
嘲るような鴉の声が頭上を通り過ぎていった。
しれっといつも通りにお送りしましたが、このたびはご心配おかけしました。
今後こういうことにならないよう、一層気を付けていきたいと思います。
※詳しくは活動報告をご参照ください




