十九日目 ぐるり渦巻き、空回り
いやー、なんか凄い雪ですねー! 誰だよ暖冬とか言ったやつ。
やっぱり雪景色は良いですね。雪化粧とはよく言ったもんですよ。
でも寒いので、みなさん風邪やインフルエンザには十分注意、ですよ! テンション上がっても歌いだすと咳が出るし、奇声を発そうにも声がかすれて不完全燃焼……なんてのは嫌でしょう?
秋斗
「―――あの子、人間じゃないわよ」
「………えっ?」
待て、この人今なんて言った? もしかして、芒のことを「人間じゃない」って言ったのか? ……いやいやいや、早とちりは良くない。確認してみよう。
「ええと……今なんと? いやごめん、もう一回言ってくれるかな」
「だから、人間――少なくともあなたや私と同じ存在じゃないのよ、あなたが一緒にいた子は」
オーケイ、聞き間違いじゃなかったようだ。だとすれば……
だとすれば、どうして芒が妖だと知っている?
あの日の行動を思い浮かべる。ボロが出るような場面があっただろうか? 当然尻尾は隠していた、というか衣服に変化していたはずだ。耳は……まあ出てはいたがそれだけで断定できるはずもない。いや、久城さんが思い込みの激しいタイプという可能性もなくはないが。
むう、情報が少なすぎる。ここはもう少し探りを入れるか。
「えっとー、どういう意味かな。すす……あの子が、人間とは違うってのは」
「言葉通りの意味よ。あの女の子は人ならざる者―――有り体に言えば、“妖怪”ってところね。………まあ、いきなりこんなこと言われても戸惑うわよね。ご要望通り順当に説明してあげるわ。まず、実は私――」
―――きーんこーんかーんこーん
と、そこで無常に鳴り響くチャイムの調べ。ああくそ、今いいとこなのに。
「っと、もうこんな時間ね。放課後時間空いてる? 昇降口で落ち合いましょう」
「あ、ああ、うん……」
颯爽と去っていくポニテの後姿を、ゆるゆると手を振りながら見送る。さて、僕も教室に戻らないと。久城さんの話も気になるが、どうせ分からないことを考えても仕方がない。今は学生らしく、学業に励むとしましょう。
で。
昼休みのことで頭がいっぱいになり、授業もまともに入って来ないまま放課後を迎えた。いや、だってそうなるだろう。人間じゃない上に妖怪だってところまで看破されたんだから。これは納得いくまで話を聞くしかない。
「おう秋斗。結局なんだったんだ?」
「へ、何が?」
帰り支度を普段の二割増しに急いでしていると、何故かニヤニヤ厭な笑みをたたえながら(そんな表情も何故か様になっている)春仁が話しかけてきた。
「何って、昼休みのことに決まってんだろ。何の用事だったんだよ?」
「ああ、えーと、ちょっと仕事の手伝いを頼まれてね」
「ほう。何やってたんだ?」
「えーと……記録の整理とか?」
「二人きりでか?」
「え、うん、まあ」
「ほうほう……なるほどねぇ」
「……一体何を考えているのかね春仁くん」
「いやぁ別に? ただ、久城は風紀委員の割に結構人気あるからな……」
何が言いたいんだこいつは。僕と久城さんは今日初めて言葉を交わしたばかりだというのに。
「ハルー、部活行くよー」
と、そこで廊下から親しげな声。見れば華道部の先輩らしき女生徒が窓から覗いていた。
「あ、はい! すぐ行きます! ……まあ、背後には気を付けろってことだ。じゃあな!」
そんな物騒な捨て台詞と共に親友は姿を消した。なんで僕が背中から刺されないといけないんだ。中には誰もいませんよ。
さて、待ち合わせは昇降口だったか。お待たせしないように僕も行くとしますかね。
昇降口。靴を履き替えて玄関を出ると、久城さんが壁に寄り掛かって空を見上げていた。釣られて僕も視線を上げると、かたつむりみたいな雲がのんびり漂っている。うーん、のどかだねぇ。僕の胸中なんかおかまいなしってわけだ。
「……あ。来たわね。それじゃ行きましょう」
「うん……ってどこに?」
「ここで立ち話ってわけにもいかないでしょう。どこか落ち着いて話ができるところ……そうね、あなたの家はここから近かったかしら?」
「ここからだと……まあ歩いて三十分てところかな。って、え、うちに来る気?」
「えぇ。駄目だった? 私の家でもいいんだけど、あなたの家の方が近そうだから」
まずい。クラスメイトの女の子を家に上げることが、ではない。何がまずいって、家にはこの話題の中心である狐っ娘がお留守番しているのだ。となると、なるべく道中に話を聞いて彼女の目的を知らねばなるまい。
「それで、なんだっけ。何であの子が人間じゃないって思ったの?」
「そうそう、そんな話だったわね。まず前提条件として知ってもらいたいんだけど。実は私――というか私の家系が、昔からそういうものを取り扱ってた家柄なの。 “陰陽寮”って知ってる?」
陰陽寮――平安時代辺りの朝廷において、風水や陰陽道を用いて暦や天文分野を担当していた機関だ。安部晴明や芦屋道満などが有名どころだろう。
「そうそれ。それで、うちの先祖がそこの職員――つまり陰陽師だったらしいの。まあもちろん今は活動してないんだけどね。
で、ここからが本題なんだけど……血筋の影響か、私の家系って結構見えるのよ」
見える――何が、と聞くまでもなく「人ならざる者」だろう。
「特に私はその『力』が強いみたいで、色々と分かるのよね。その所為で子供の頃は―――ってこの話はいいか。まあ、とにかくそういうこと。納得、した?」
陰陽師の末裔というわけか。うーむ、まさかそんな漫画みたいなことがあるとはねぇ。まあ森の神社に妖狐が棲み付いて、家には狐っ娘がいる時点でもうなんでもありなので今更驚きはしないが。ふむ。しかしそうなると、気になることがある。
「一つだけ質問、いいかな」
「えぇ。答えられる範囲ならね」
「じゃあ遠慮なく……あのさ、巫女服って、着るの?」
「……………はい?」
「いや、前に読んだ漫画で陰陽術を使う巫女さんが出てたから、久城さんも巫女服着ないのかなーって……」
「いやいやいやいや、おかしいでしょ! 今の話を聞いて出てくる疑問がそれって!? 着ないわよ! うち神社じゃないし!」
そうか、着ないのか。ちょっと残念。じゃあ今度芒に着てもらうとしよう。
「そんなこと言われても……実に納得のいく説明だったよ、ありがとうとしか」
「だってあなた、いきなりこんな話されてすんなり信じるなんて……」
「え、疑った方が良かった? 証拠を見せろとか言えばよかったのかな」
「そりゃ信じてもらうに越したことはないけど……~~~~~ッ、調子狂うなあ、もうっ!」
ぼやきながら頭をがりがり。信じてもらえなかった場合に備えて何か準備していたのだろうか。しかし残念、僕クラスになるとこの程度のことはあっさり信じてしまうのだ。だって、陰陽師の血筋とかカッコいいじゃん?
ラブコメにおける風紀委員の「お前が風紀乱してる」率は異常だと思うのですが、どうなんでしょうね。私は本物を見たことが無いのでよくわかりませんが。




