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Fox Tail ‼ ー綴樹秋斗の他愛のない日常ー  作者: 三原色みたらし団子
第一幕
20/38

?日目 人と獣と

お正月編といいつつこんなに遅れてしまうとは……まあでも10日まではお正月のうちですよね(暴論)

繰り返しになりますが、特別篇のエピソードは本編と異なる分岐ルートとお考えください。今回は特に言っておきます。何故って、ちょっと作者が暴走したもので…まあ選択肢によってはこんなルートもあるよ、ということで。

それではお楽しみくーださい

 それから十分少々太陽が昇るのを見届けた後、僕たちは森を出た。浮舟神社を覗いてみたが、榊さんの姿は見当たらなかった。芒によると、妖の新年会のようなものがあるらしい。榊さんへのご挨拶は明日と決めて、家路についた。何より、寒さが限界だったのだ。新年早々風邪なんて勘弁である。



「おかえりー。二人とも、あけましておめでとうねー」


 我が家に着くと既に母さんが起きており、朝ごはんの準備をしているところだった。暖房と料理の暖気に包まれ、ほっと一息つく。


「あー、あったかい……あ、うん、おめでとう」

「おめでとうございます。今年もお世話になります」

「はいはいー。あ、寒かったでしょー? お風呂、沸いてるよ。ご飯前だけど入ってきたら?」

「おー、それじゃ――」


 いただいてこようか、と言いかけたところでふと気づく。芒の白い頬とほっそりした手指が、いつもよりほんのり赤みを帯びているのだ。どうやら真冬の早朝の寒気は、もふもふした狐っ娘をもってしてもつらいものだったらしい。


「―――芒、お先にどうぞ」


 ここは僕が紳士的に、一番風呂を譲るとしよう。ところで、レディファーストって元々は「この先に罠が無いかどうか、先に女性を行かせて確かめる」っていう意味合いだったらしいね。というわけで芒にはお湯加減を見てもらうとしよう。

 と、思ったのだが。


「いえ、私は後からで……秋斗さんが先に入ってください」


 うーむ、譲り合いになってしまった。僕がさっき「寒い」だの「帰りたい」だの言っていたせいだろうか。しかし、僕もここで引き下がるわけにはいかない。


「いやいや、そんな遠慮しなくていいから」

「秋斗さんこそ、わたしはいいですから、気にしないでください」

「いやでも……」


 しばらく押し問答。と、ここで思わぬところから爆弾が投下された。


「もー、だったら一緒に入ったらいいじゃない?」

「「!?」」


 お汁の味見しながら何てこと言ってるんですかね母さん(このひと)? そんなことしたら風呂が真っ赤に染まることになるぜ(僕の鼻血で)?


「懐かしいわぁ、私も昔はよく雪文くんと一緒に入ったのよねー」

「それは交際から新婚時代までの話だろ!? 僕たちそう言う関係じゃないから!」


 ほら、芒からも何か言ってよ! と隣に視線を向けると、彼女も憤慨した様子……ではない? なんか考え込んでる感じで、寧ろ「その手があったか……」みたいな表情してるのは何故? 種族の差ってやつ? 越えられない意識の差なの?

 やがて。芒は意を決して、首を縦に振った。


「いっ、行きましょう、秋斗さん!」

「えぇえ!? ちょい待ち、いいのかそれで! 芒的にはアリなの!?」

「つべこべ言わないでください、女々しいですよ!」

「君、なんか今日はやけに辛辣だね!? ってちょ、あ~れぇええええええ……」


 芒に袖をぐいっと掴まれ、廊下に強制連行される。扉が閉まる寸前、母さんが「若いっていいわよねー♪」とか呟いた気がした。あんたは一人息子にどう育って欲しいんだ。


 そして数分後。芒は「準備して来るので先に入っていてください」と一方的に部屋に入ってしまい、一人残された僕はこうして身体を洗っているのだった。それならいっそ別々に入ってもよかったじゃないかとも思うんだが、互いに譲れないものがあったのだから仕方がない。


『お、お待たせしました』


 やがて、すりガラスに白っぽい影が浮かんだかと思うと、カラカラと扉が開かれた。


「あ……おぅ」


 現れた黒狐は、湯帷子(ゆかたびら)というんだったか、白く薄い着物を纏っていた。漫画とかで巫女さんが身を清める時に着るようなやつだ。いきなり全裸で入ってこられたらどうしようかと思ったが、まあこれなら大丈夫そうだ。ちなみに、尻尾は邪魔だと判断したのか仕舞いこまれている。ちょっと残念。

 腰まで伸びる髪が今は頭の上に纏められており、普段とは随分違う印象だ。しかし、一番の問題はそこではない。なんと彼女は、タオルで顔の上半分を覆い、目隠しをしていたのだ。


「えぇと……そのタオルは一体?」

「はい、わたしも考えたんです。こうすれば見えないので大丈夫です! あ、周りの様子は感じ取れるので危険はないですよ」

「そ、そう……ちなみにその服はどうしたの?」

「あ、これは師匠から頂いた中に入っていたので……」


 榊さん、まさかこうなることを想定して……? だとしたらとんでもない策士だ。先見の明があり過ぎである。



 そして。僕はどういうわけか芒に背中を洗われていた。なんでも、芒曰く「こういう時はこうするもの」なんだそうだ。確かに男子的には憧れるシチュエーションだが、一体誰に教わったのやら。


「力加減とか、大丈夫ですか?」

「んぁ? あぁうん、大丈夫。気持ち良いよ」


 背中を擦られるのがこんなにリラックスするとは。朝が早かったこともあり、うっかり寝落ちするところだった。


「良かった……お流ししますね」


 後ろから手が延ばされ、シャワーを手に取って蛇口をひねる。温かい雨に打たれ、疲労感と共に泡が流れ落ちていった。


「さ、入りましょう」

「うん―――っ⁉」

 声に振り向いた視線の先、思わず凍り付く。

「? 秋斗さん、どうかしました?」


 ――――服が濡れて、透けている。


 水気を含んだ白布は華奢な肢体にぴったりと張り付き、その輪郭を露わにする。火照ってほんのりと色づいた柔肌。襟元の皺の隙間から微かに浮かぶ桜色は、もしかして―――


「あの、秋斗、さん………?」


 僕が黙っていることに不安を感じたのか、自らの胸元を抱き弱々しい声を上げる芒。

 その表情、その仕草に、ドクン、と僕の中で何かが外れる感覚がした。

 ゆっくりと、手を伸ばす。肩に? 顔に? それとも胸に? 気取られぬよう、震える手を抑えながら。今ほど目隠しの存在に感謝したことはない。きっと今の僕は、とても見せられるような表情をしていない。

 もはや理性なんてものは意味が無かった。彼女が現れた夜が頭に浮かぶ。シーツに横たわる生まれたままの姿が、尻尾をまさぐられ身をよじる姿が、次々と脳裏に貼り付いていく。

 もう少しで、あと数センチで、僕はもう戻れなくなる――――


『お二人さーん、お湯加減はどうかなー?』

「――――――ッ」


 慌てて芒から離れる。僕は今、「何」をしようとした? 体温が急速に冷めていくのを感じる。


「だ、大丈夫、丁度良いよ。それよりどうかしたの、母さん?」

『うん、そろそろごはんの準備が出来るよー』

「わ、わかった、もうちょっとで上がるよ」

『待ってるよー』


 声が震えているのが気付かれなかったことを祈る。ぱたぱたとスリッパの音が遠ざかっていくのを確かめて、溜めていた息を吐き出す。


「秋斗さん、もしかして体調が優れないんですか? 先程からなんだか……」

「い、いや、大丈夫、大丈夫だから。ほら、早く入ってしまわないとお雑煮が冷めちゃうよ」

「なら良いんですけど……そうですね、入りましょう」


 そうして何事もなかったかのように湯船の中へ。背中合わせで肩まで浸かる。

父さんの要望で大きめに作られた浴槽は、二人で入っても窮屈(きゅうくつ)さを感じることはなかった。そういえば、父さんたちも一緒に入ったって言ってたっけ。……うん、あまり考えないようにしよう。


「ふぅー……癒されますねぇ……」

「疲れた身体に染みるねぇー」


 背中越しに気持ち良さそうな吐息を感じる。それにつられて、僕も力を緩め温水に身体を任せた。


「あ。……すみません、今思えば結構強引に連れ出しちゃいましたね」

「ん? いやいや、寧ろ感謝してるよ。芒が誘ってくれなかったらあんな景色は見られなかったから。………僕の方こそ、ごめん」

「それなら良かったです! ……なんで秋斗さんが謝るんです? 朝の事なら、わたし怒ってませんよ」

「ああいや、なんでもないよ。それにしても、本当に気持ちいいねー。あ、そうだ、今度入浴剤入れてみようか? シュワシュワするやつ」

「そ、そんなものがあるのですか!? 興味深いですね……!」


 近くて、でも決して線は越えず、取り留めもない話をしながら時間を過ごす。これでいいのだ、僕たちの関係は。これ以上は望まない、望んではいけない。きっと、このぬるま湯のような空間は簡単に壊れてしまうだろうから。

 とりあえず、今年の抱負は「煩悩を減らす」かな。すっかり明るくなった青空をガラス越しに見上げながら、ぼんやりと思うのだった。


まあなんですかね、「男はみんなヒトの皮を被ったケダモノなのよ!」ということで。皆さんも気を付けましょう。やらかしてからでは遅いのです……!

というわけで、一応今回の特別篇はこれにて終了となります。また何か行事の時にやるかもしれません。

次回は本編の次話となります。くれぐれも特別篇と混同しないように! お兄さんとの約束だぞっ♪

本年も皆様に良い事が訪れますように―――

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